#11 日米領土戦開始
「いよいよ明日だねえ……さあ、今日はあたしからの奢りだ! たあんと食いな!」
「ああ、ありがとうママ!」
アメリカとの、あの森周辺区域を巡る領土戦前夜。
私たち六人は以前にも来た酒場――あのママさんがいる所にやって来たわ。
景気付けにって、たくさん料理や酒――あ、勿論ノンアルコールよ?――を出してくれたわ。
「なあ……ちょっと待ってくれよなあママ。」
「おや……どうしたんだい、あんたたち?」
と、そこへ。
私たちとは離れたテーブル席の男性客が、声をかけて来たわ。
……いえ、声をかけて来たというよりは。
「お前ら、魔砲少女――流刑になった奴らなんだろ? それがこんなところで堂々と飲み食いしやがって、いいご身分だよなあ!」
因縁をつけて来た、といった方が正しいかしらね。
「流人は流人らしく、もっと奉仕しなくちゃなあ! ほら、こいつのグラス空いてるぜ! てめえらで酌しろ!」
「はーい♪」
……って!
ちょっと火南香乃音、何嬉々として応じてんのよ!
「止めな、火南! ……お言葉だけど、お客さん方。あたしらもあくまで客だよ? お酌ならママに頼んでくれるかい? そもそも……客が客に奉仕するんなら、セルフサービスでもいいんじゃないかい?」
「ああ、その通りだぜ利澤!」
あ、あらあら先輩たち!
け、結構言いますね……
「ええ、そうですね先輩たち! 私たちが流人なら、この人たちは強制労働者でしょうか? 自分たちより下を見つけて安心したいだけなんて、かわいそうなほどレベルが低いです!」
「こ、鉱美!」
て、あんたもなの鉱美!
「はあ? ……ふざけんじゃねえよ、魔砲少女ごときがっ!」
ひいっ!
男性客が、テーブルをぶって威嚇してきた!
「ははは、魔砲少女ごとき? ……いい威勢だねえ、あんたこそ鉱夫ごときがっ!」
「ああ、その通りだな!」
「ええ、まったくです!」
「こ、鉱美!」
だけど……
利澤先輩に風間先輩、鉱美は負けじと言い返したわ!
ち、ちょっと皆さん……
「……ま、待てよ! そ、そんな言い方はねえだろ!」
「え? ……あっ! あれは、この前の。」
――けっ、やい魔砲少女共! 精々俺たちをちゃんと守ってくれよ?
――ああそうだな! てめえらはそのぐらいしか世の中の役にゃ立たねえんだから!
――がははは!
私たちが鉱物輸送護衛任務に当たっていた時の、あの鉱夫たちだわ。
「おうおう、あんたらもそう思うよな? なら言ってやってくれよ、この魔砲少女たちに!」
あーあ、まさかの敵援軍ですか……
「ああ、何でも来な! だけど……この前あたしたちが守ってやってこの仕打ちとは悲しいねえ!」
利澤先輩、もういいです。
この人たちには、何を言っても無駄ですから……
「いや、誤解を与えたならすまん! ……お前ら、皆失礼だぞ! その娘の言う通りだ、俺たちを守ってくれる魔砲少女の娘たちになんて言い草を!」
「あはは、そうだ……って!? な、何だと!」
……え?
と、思いきや。
何と、敵援軍と思わせて助け舟だった!
「すまん、君たち! 俺たち、ずっと言いたかったんだけど」
「皆さん……」
「おい! ふざけんなよ……てめえら! 俺たちがこんなクズ共にヘイコラしねえといけねえのか!?」
て、ちょっと!
男性客は、私たちに味方してくれた鉱夫に掴みかかった!
「痛いな……クズはどっちだ! お前らも俺たちも、大陸の外じゃまともな職にありつけねえクズだったんだ!」
「こ、この野郎!」
「まあ待ちな、お客様方! そのまま喧嘩続けるんなら……どっちも出禁だよ?」
!? え?
その時声を上げたのは、ママだったわ。
「ま、ママさん! だけどよお」
「だけどもへったくれもあるかい! ここはあたしの店だ、あんたらじゃなくても客になってくれる人は沢山いるんだからマナーの悪い客は出禁にしたって痛くも痒くもないよ!」
「……分かったよ、ママがそう言うんなら。」
す、すごい!
あれだけ騒いでいた人たちが、あっという間に静まったわ。
「まあなんだい、そもそも客選ぶ選ばない以前にマナーの悪い客はうちのイメージに関わんのさ! そんな客でも客なんだから接待しろだなんて、腹が減ったからって毒を食うようなもんじゃないかい!」
「よっ、よく言ったママ! さすがはあたしの師匠だ!」
し、師匠ですか利澤先輩……
そう言えば、確かに先輩の話し方はママそっくりだったわ。
「わーい! 皆仲直りしてくれた!」
はあ、まったく。
相変わらずあんたは暢気ね、火南香乃音!
◆◇
「見えて来たねえ……あの森が!」
「はい……」
「いい眺めー!」
そうして、夜が明けて。
私たちは魔砲戦車搭載型装甲列車・上星号に乗り。
例の魔砲獣たちの、いいえ今は私たち人間の領土になりそうな森を目指すわ!
「まったく……あの森は、あたしたちが手に入れたようなもんだけどね。」
ええ、その通りです利澤先輩!
ですから、私たちが名実ともにあの森の主となりましょう!




