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第51話

「えぇー……」


 ついつい大人げない微妙な声が出てしまう。

 だって……パクった建造物を作らせてくれっていうのは……。

 サンダーさんも呆れているし、スーイさんも社長さんも嫌そうな顔をしている。


「実は私、ヤダ様の御本の大ファンで……」


 ダオさんが土下座したまま革のボストンバッグから一冊の本を取り出した。

 その本はもちろん私の漫画で、ところどころしおりが挟まっていて何度も読んでいるからか角は擦り切れて全体がくたって……シーオーイェンさんの時と似ているな。


「読者カードも送らせて頂いたのですが」


 建築……読者カード……あ!


「もしかして、駅ビルのファンアートを描いて送ってくれた人!」

「はい、そうです!」


 サンダーさんも呆れた顔のまま頷いたから、あの人か。確か四十五歳の建築業の方。

 本気で私の作品が好きな人なのは嬉しいけど……。

 

「ちょうどこちらの本が出版された日から出張でハンシェント王国に来ておりまして、異世界の建築物が描かれていそうだからと気軽に手に取ったのですが……」


 ダオさんがしおりに沿って本を開く。


「これも、これも、これも! この世界では見たことが無い建築物で、最初は適当に描かれているだけだと思ったのに、よくよく観察すればとても考え抜かれた構造になっていることがわかり、感動致しました!」


 主人公の女の子が住むよくある建売住宅、近所の神社、鉄筋コンクリートの学校、ガラス張りの駅ビル、サッカースタジアム、電波塔などなど。

 脳内の記憶だけで描けるものだけを選んで描いたから、どれもそれなりに正しく描けているとは思う。


「特にこちらの駅ビルという建物は、壁が全面ガラスというありえない建築物です。しかし、私がハンシェント王国に出張してきた理由でもある、弊社の新技術『強化ステンドグラス工法』であれば、やってやれないわけではない! 弊社の技術を各方面へPRするために、弊社でこちらの漫画の権利をとって、ドワーフの国で建築したいと考えたんです!」


 土下座から、いつの間にか立ち上がって熱く語るダオさん。

 ドワーフは気難しく落ち着いたイメージだったけど、商魂たくましくて熱血漢だな。


「それは、コンテストとは別にということですよね?」

「それなんです! 数ヶ月にわたったハンシェント王国での仕事中に企画を練って、ビルの構造も私なりに考え、こちらの提案書にまとめてからドワーフの国に戻りました」


 ボストンバッグからは「弊社新商品のPRを兼ねた新ランドマーク建築企画」と一枚目に書かれた紙の束が出てきた。


「弊社の役員に、提案書とこちらの漫画を見せながら『この駅ビルというのを建てて弊社の技術PRのモデルハウス兼、漫画ファンを呼ぶ観光名所にしましょう!』と力説したんですが……」


 ここまで熱く燃えていたダオさんが肩を落としてため息をつく。


「私がいない間に受賞作が決定していた弊社主催のコンテストで全く同じものが応募、更に受賞していると言われたんです。このコンテストは、外国からの観光客が少ないドワーフの国に人を呼べるような新たな建築物を造り、ドワーフの技術を売り込みつつ人の流れを起こして地域全体の活性化につなげるための中核施設づくりがテーマでして……」


 なんか小難しいこと言っているけど、それってつまり……目の前に置かれているこの提案書の内容と同じってことだよね?


「模写をして受賞した設計士も、仕事でハンシェント王国を訪れた際にこちらの漫画を購入し、今までに見たことが無い洗練されたデザインに心奪われ……彼曰く『これ以上の建築物など考えつかなかったからそのまま描いて提出した』と……昨年建築学校を卒業したばかりで経験も実績も浅く、安直な考えに至ったようです。こんな奴がいるから最近の若いドワーフにはドワーフの意識が足りないと言われてしまうんです。はぁ……」


 横に立つサンダーさんもうんうんと険しい顔で深く頷いているけど、最後の方はただのダオさんの愚痴じゃない?


「ドワーフの国にはまだこちらの漫画が流通していないとはいえ、模写作品を受賞させてしまったことは弊社のミスです。しかし、こちらの建築物は弊社に……ドワーフの国の課題解決に必要なんです! 模写した犯人の名前はプロジェクトから消し、ミヤコ・ヤダ様とのコラボレーションとして権利料も潤沢にお支払いします! 模写に対する慰謝料も弊社からお支払いします! ドワーフの国で漫画を出版される際のPRも全力でさせて頂きます! どうか、どうかよろしくお願い致します!」


 折角立ち上がっていたのに、ダオさんがまた床に頭を擦り付ける。

 これ……え……私が判断すること?

 戸惑いながらサンダーさんの方を向くと、サンダーさんは渋い顔で腕を組んだ。


「建築を許可したとしても、『受賞取り消し』には変わりないんで犯人の罪が消えることは無いそうですがな」


 裁かれるべき人はちゃんと裁かれるのか……だったら、まぁ……熱意は伝わるし許可しても良いような……?

 今度はスーイさんと社長さんの方を向くと、スーイさんが困ったように唸る。


「模写がどうということではなく、個人的な意見になりますが……ヤダ様の目的のためにも、国外ではなく、国内でもっと作品を盛り上げていくべきと考えます。作中の建物を建てるなら、国内に建てて国民に喜んで頂く方が良いと」


 スーイさん……えぇ、めちゃくちゃいい担当編集さん……!

 私の事情をしっかり考えてくれている!

 そうだよね。私はこの国の人たちに貢献して、感謝されて、元の世界に戻るために漫画を描いているってスーイさんにも言ってるもんね?

 何かあった時に作家側に立ってくれる担当さんは貴重! 信頼できる! スーイさん大好き!


「スーイさん……確かにその通りですね。ドワーフの国よりも……」


 感動でちょっと目頭が熱くなっていると、普段通り冷静な顔をしたナダールがこそっと耳打ちしてきた。


「ミヤコ様、この件は前向きに考えるべきかもしれません。少し私がお話してもよろしいでしょうか?」


 前向きに? どちらかというと断る流れの中で、執事としてわきまえているナダールがわざわざ出しゃばってくるのは何か確証があるのかも。

 すぐに頷くと、ナダールはまずスーイさんの方を向いた。


「スーイさん、ドワーフ語版の出版は半年後と伺っておりましたが変更ございますか?」

「予定通り、半年後の予定です」

「ではダオさん、駅ビル完成は?」

「すでに着工していますし、漫画の設定よりもスケールダウンしたものを建築予定ですので、半年ほどで完成の予定です」

「タイミングは良いですね」


 そうだね。漫画のPRにはなりそう。

 でも、ドワーフの国で売れる意味、あるの?

 一人でも多くの人に読んでもらうことは、作者として嬉しくないわけではないけど。


「駅ビルの中はどのように活用されるご予定ですか?」

「それはこちらの計画書に……まず、弊社の技術展示と建築相談窓口。そして、原作漫画を含む書籍やドワーフの国の土産物などを販売する売店、観光客がゆっくり休める食堂……これは漫画に登場したカフェの内装を真似る予定です」


 漫画に出てくる建物やお店を再現なんて、コラボカフェとか企画展みたい。

 私もアニメ化した時にしてもらったな。漫画に登場するメニューが食べられたり、キャラクターのお部屋をイメージした展示とグッズ販売があったり。

 作者としては嬉しいし、ファンも喜ぶとは思う。

 これがハンシェント国内なら完璧なのにな~……と思っていると、ナダールがなぜかアーシャに目配せして二人で小さく頷き合った。


「「その売店と食堂の運営をハンシェント王国の企業がすることは可能ですか?」」


読んで頂きありがとうございます!

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