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第50話

 私の漫画を模写してコンテストで受賞……つまりパクリ。著作権侵害。

 怒りや悔しいみたいな気持ちはもちろんあるけど、それ以上に「どこの世界でもいるんだな~」という気持ち。

 私は絵で売っている漫画家だったから、元の世界でもトレースされたり漫画の一コマだけコピペされたりは多かった。悪質な時は出版社がしかるべき手続きをとってくれたけど……スーイさんのこの感じ、この世界でもパクリは犯罪ってちゃんと認識があるんだよね?


「出版社としてはきちんと抗議して模写作品の受賞取り消しならびに権利の主張を行いたいのですが……困ったことにコンテストが行われたのが外国……ドワーフの国なんです」


 外国か……。

 この国では私の作品はそこそこ話題になっているみたいだけど、外国ではまだ出版されていない。人気の外国の作品をマネして自国の賞に応募するならちょっとバレにくいよね。ズル賢いやつだ。

 それに、外国だと法律? 外交? 物理的距離? の関係で訴訟とか難しいかもしれないよね。

 

「外国のことなので私たちが気づくのが遅れてしまい、すでに……」


 あ、もう本として出版されちゃった?

 

「すでに、工事が始まってしまっていて……」

「え?」


 えーっと……?

 工事? 建築的な?

 ごめん、ちょっと話が見えなくなってきた。


「スーイさん、ごめん、工事? えっと、模写して応募されたのって……絵本とか絵のコンテストじゃないの?」


 私の言葉にスーイさんが「あ!」と声をあげて首を振る。


「すみません! 言葉足らずでした。コンテストはドワーフの国で開催された『建築物』のコンテストなんです!」

「建築物……じゃあ、模写されたのって……」

「はい、主人公たちがデートで訪れた駅ビルという商業施設の絵です」

 

 スーイさんが机に置いてあった私の漫画本を広げて、中ほどにある主人公がイケメンのエスコートでデートするドキドキシーン……の背景の駅ビルを指差した。


「あー……これか……」


 駅ビルと言うにはちょっとコンパクトなガラス張りの建物。

 最初、東京駅の周りにあるような超高層ビルを描いていたけど「お城の窓から見る限り、こんなに高い建物無いしな~」と思いなおした後、「若い子のデートなら原宿でいいか」という単純な考えで、新しい方の原宿駅をイメージして描いたんだった。

 一回行っただけの場所だからふわっとした記憶だし、画面に映えるようにちょっと角度を付けたり縮尺を変えたりしたから、本物と見比べれば近いけど別物になっているはず。

 元ネタはあるけど、一応私のオリジナルの建物か……私のオリジナルといっても、キャラクターとかに比べると思い入れは皆無だけどね。


「建物でも権利とかちゃんと主張できるんですね」 


 思い入れが無いからといって模写、しかも受賞とか工事とかを許していいかというと話は別。

 微妙な気持ちではあるけど。


「はい、当然です! ちょうど今、別室でサンダーが……」


――コンコンコン!

「失礼します」


 スーイさんの言葉の途中、ノックと共に声が聞こえたと思うと、返事よりも早くサンダーさんが入ってきた。

 サンダーさんの後ろには、ドワーフらしきスーツ姿の青年が項垂れながらついてくる。

 これは……パクリ犯?


「こちらがヤダ様だ。ほら、説明はアンタの口から頼むぞ」

「この方がミヤコ・ヤダ様……!」


 真面目なサラリーマン風のドワーフにしては細身の人が私へと視線を向けたかと思うと、深々と頭を下げる。


「私、『チャレンジ建築コンテスト』主催のダオ建築、都市開発部観光レジャー課課長のジョード・ダオと申します。この度は、ヤダ様には大変なご迷惑をおかけし、申し訳ございません!」


 主催者の方か。

 犯人じゃなくてそっちが謝りに来るんだ?

 ……って気持ちが顔に出ちゃったかな?


「すでにヤダ様の作品を模写して応募した設計士は牢屋に入っていますので、私からの謝罪と説明となることも、重ねて陳謝いたします!」

「牢屋……?」


 刑務所的なこと? 犯罪だとは思うけど、なんか早いし重くない?

 驚いていると、サンダーさんが苦笑いを浮かべながら付け足した。


「ヤダ様、建築や物づくりが盛んなドワーフの国では模倣は重罪でして……ヒューマンの国では著作権違反は親告罪ですが、ドワーフの国では権利者の主張を待たずに刑が確定するんですわ」

「そうなんですね……厳しい……」

「それだけドワーフは自分たちの造るもんにプライドがあるっちゅーことですな。今回は特にドワーフ同士の模倣ではなく、その……ドワーフからすると、物づくりでは下に見ている他の種族から模倣したということで罪が重くなりましてなぁ。間髪入れずに投獄なんですわい」


 ドワーフが職人気質とは聞いていたけど、そういうところもしっかりしてるんだ。


「えっと、それなら、もう犯人は罰せられているんですよね? 受賞の取り消しになるなら、私はもうそれでいいんですけど……」


 主催者のダオさんだっけ? ドワーフの青年はまだ頭を下げている。


「優しいお言葉、感謝いたします! しかし……図々しいのは承知でお願いがあります!」

「はぁ……ヤダ様、戯言は無視していいですぞ」


 お願い……?

 サンダーさんは横でため息をついている。

 何? そんな呆れるようなことお願いされるの?

 

「なんですか?」


 嫌なら断れるよね?

 一応聞いておくかと先を促すと、ダオさんがずっと下げていた頭をさらに下げて、とうとう土下座になった。


「こちらの建物、造らせてください!」



読んで頂きありがとうございます!

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