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第47話

「水道の料金というのは、蛇口代のことでよろしいですか?」


 シーオーイェンさんが少し困ったように首を傾げる。

 これ、もしかして……


「あの、逆にこの国って……蛇口を設置した後は、出てくる水にお金はかからないんですか?」

「えぇ、そうですわ」

「ということは、この国は蛇口さえ設置すれば水は使い放題!?」


 王家がお金持ちで公共事業がどうとか言ってたよね? 太っ腹だ……!

 と思ったけど、シーオーイェンさんがまた困ったように首を傾げてしまう。


「使い放題というのは語弊がありますわ。蛇口に使用している魔法石が水を転移できる量は限られていますので。魔法石の大きさなどにもよりますが……こちらのお部屋のシャワーでしたら五〇万リットル分。二~三人が毎日シャワーを浴びて一〇年くらい使える計算ですね」

「あ……じゃあ、蛇口代に水のお金も入っている、ってことですか?」

「そう考えて頂くのが自然ですわ。蛇口やプレートなどの設置、販売、交換の利益で浄水場を運営しておりますので」

 

 魔法石が高価っていうけど、水代が入っているから高価なんじゃ……?

 でも、元の世界と違って配水管やポンプの設備がいらないなら、浄水場や水道の運営にお金ってあまりかからないのかな……? 公共事業だから儲けなくてもいいんだろうけど。

 

「ヤダ様の世界では違いますの?」


 私が首を捻っていると、シーオーイェンさんがメモ帳とペンを構えて尋ねてくる。

 水道料金の仕組みか……


「違いますね。元の世界では、蛇口は蛇口を作る会社が製造や販売、工務店や建築業者……家を建てたり内装をしたりする会社が設置をします。水道代は、使った分……公共のパイプから自分の家のパイプに引き込んだ水の量で料金が決まります……えーっと……」


 水道メーターって言葉は覚えている。

 メーターを回すって言い方も。

 でも、仕組みが……


「各家庭のパイプの入り口にメーターっていう機械があって……確か回る羽みたいな……この国、水車ありますよね? アレみたいに水の流れで回るものが入っていて、それと連動して数字の書かれたカウンターが回って、どれだけの量の水がそこを流れたか記録されます。そして、流れた水一リットルにつき何円みたいな感じで決まっているので、月ごとに計算して水道局に支払う……という感じですね」


 説明できてる?

 あってる?

 水道料金は毎月ちゃんと払っていたし、毎日水道を使っていたのに、正確で詳細な仕組みって言われると焦る。

 料金の仕組みも、もっと色々あったような気もするんだけど……これが限界。

 

「使った量が記録されて、使った分だけ月ごとに払うということですのね?」

「はい」


 一応、根本的な仕組みは伝わったみたいだからいいか。

 他に何か聞かれるのか身構えていると、シーオーイェンさんがメモと万年筆をテーブルに置いて頭を下げた。


「ありがとうございます。とても勉強になりましたわ。漫画で拝見した水道はこの国と同じ仕組みに見えましたのに……まさかここまで違う仕組みだったなんて」

「勉強なんてそんな。私からすれば、この国の水道の仕組みの方が便利そうにも見えますよ」


 元の世界の私がいた国は災害大国だったから、地下に埋まった水道管が災害で壊れて断水なんてこともあったし、劣化して交換するのも大変だと聞いた。それに比べればこの国の水道の方が設置が楽そうだし災害にも強そう。……魔法石が高価というネックはあるのかもしれないけど。

 ただ……。

 自分勝手なことを言うと、この世界の水道がもっと整っていなくて、私のこの知識で水道設備を整えられたらな~……かなりの功績じゃない? 国民に喜んでもらえたよね? インフラは命に係わるし。

 ちょっとゲスいことを考えていると、シーオーイェンさんが大きなため息をついた。


「お褒めにあずかり光栄ですわ。確かにこの国の上下水道は便利にできていると思っておりますもの。でも……魔法石が年々高額化しているばかりか、今後枯渇するかもしれませんの。そうなったときにこのシステムをいつまで続けられるか……」

「えっと、枯渇するから高額になっていっているってことですか?」


 元の世界の宝石や化石燃料、レアメタルを思い浮かべる。

 石油に代わる燃料がどうとか、ニュースでよく見ていたな。あれに近い話だよね?


「枯渇も一因でございますが、それに加えてハンシェント硬貨が年々安くなっているので輸入額がじわじわと上がっておりますの」


 ハンシェント硬貨はこの国の金貨や銀貨のことだよね?

 それが安いって言うのは、他の国の硬貨の方が高いっていう……元の世界のニュースの最後に出てくる円安ドル高とかレートがどうとかの話か。


「魔法石は輸入するしかないんですか?」

「えぇ。魔族の国の一部地域でしか採掘できませんし、魔族の一部の種族が加工しないと私共には扱えませんの」

「そうなんですね……」


 魔法石が高価で希少とは聞いていたけど、そういう理由か。

 それはどうしようもなさそうだよね。


「利便性や衛生面を考えると、家の中でも街中でも、もっと蛇口を付けたいのですが……ヤダ様の漫画だと、主人公のお家は一般家庭のように見えますのに、洗面所がありますし、トイレにも手洗い場があります。とても羨ましいですわ」

「そうか……この部屋に洗面台が無いのは小さい部屋だからだと思っていたけど、違うんですね?」

「専用の洗面台があるお家はとても少ないと思いますわ。庶民はもちろん、お金持ちや高貴な方でもキッチンやシャワーで顔を洗うのが一般的ですわ」


 この部屋に来てすぐの時、ミニキッチンの水道のところに鏡や洗顔石鹸、保湿クリームが置かれたから、自然とミニキッチンの水道で身支度を整えた。すぐ横に調味料や調理器具が置いてあるからちょっと違和感はあったけど、小さい客室だからだと勝手に納得していた。


「でも、トイレの手洗い場は……アーシャのお店はあったよね?」

「はい。服飾店なので衛生上付けています。その代わり、お客様用トイレがあるのは二フロアだけです」

「街中の飲食店では、石鹸水で濡らしたミニタオルを置いておいて、それで手を拭いてからトイレを出てもらう店もありますわね」


 手洗いが大切という衛生意識はきちんとあるんだ。

 それなのに蛇口が増やせないのは辛いだろうな。

 何かアドバイスできることって……。


「トイレの手洗い場と言えば……ヤダ様の世界では色々な位置に蛇口がついていますのね」


 シーオーイェンさんがしおりを挟んでいたいくつかのページを開く。

 まずは、主人公と女友達が鏡の前で髪の毛を結びなおすシーン。学校のトイレで、蛇口が三つ並んだ手洗い場だ。そして……


「あ! そうだ、これなら……!」

読んで頂きありがとうございます!

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