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第40話 ― 一五〇年前の救世主の話 ―




 元の世界に帰らないことを選んだ、か。


 ……なるほどね。

 なんとなく、話の流れ的にそうなのかなとは思っていた。

 元の世界とこの世界、どちらが魅力的かは難しい問題だと思う。

 家族や友達に会えない寂しさはめちゃくちゃ辛いけど、この世界なりの良い所はたくさんあるし、何より不老不死でいられるのも魅力的すぎない? 


「気持ちは解ります。今の私は『帰りたい』って気持ちが強いけど、一〇年もこの世界にいれば、こっちが気に入って『帰らない』って言い出す可能性はあるかも。この世界も素敵ですし」

「この世界を気に入って頂けるのは大変喜ばしいことですし、俺も母の気持ちは理解できます。しかし、この世界に残るには必要なことがあって……」


 ヤージさんが少しだけ考え込んでから、ゆっくりと順を追うように話し始める。


「ヤダ様を召喚した魔法は、異世界の召喚した時間、召喚した場所に必ず戻すから成り立つ魔法なんです。そうしないと異世界の秩序がおかしくなってしまいますから」


 うーん。ちょっと難しい考え方だけど、同じ時間に戻せば、元の世界的には私はずっと元の世界にいたことになって、元の世界の他のことに影響がないってこと……だよね?


「帰らないということは、帰る前提で成立している魔法が崩壊し、異世界ではいるはずの人間が一人いなくなり、並行して進んでいる時間がおかしくなるので……」

「並行して進んでいる時間?」

「この世界とヤダ様のいらした世界は並行した時間軸の別世界であり、本来ならこちらで進んだ時間は元の世界でも進んでいるということになります」


 うーん。やっぱり難しい。

 前にナダールとアーシャと魔族の国でも異世界から人を呼んでいるのでは? って話した時にも、少しだけ時間の進み方の話はしたけど……同じ時間軸って考え方なんだよね?

 じゃあ、今こうしている間にも元の世界では時間が進んでいるけど私はいないけど私は召喚された時間に戻るから影響はないってこと? でも、私はこの世界でこうやって存在するし、元の世界は今私がいないけど後で戻るって確定しているから私がいる状態で時間が進んでる……んんん?

 ちょっと待って、ややこしい。


「オリバー、その辺りの説明は話すと長くなるから……ヤダ様、魔法の理論や世界の時空と時間の概念に関することは、学生が六年かけて勉強することなので、今回は仕組みを飛ばして概要だけお話させて頂きますね?」

「あ、はい。急に理解できる気がしないし、それでお願いします」


 ラヅさんのフォローで少し気持ちが楽になった。

 その概念から理解しようと思うと、本題に入る前に頭の容量超えそうだし。


「すみません、俺の説明がややこしくて……えっと、つまり、帰らないとなると元の世界がおかしくなるので、本来なら強制的にでも条件を満たせば帰ることになります」

「でも、帰らないでいられる裏技があるってことですよね?」

「はい。それが……」


 ヤージさんがまた少し考え込んだ後、意を決したように真っすぐ私へ視線を向けた。


「身代わりを立てる、ということです」


 身代わり……深刻な雰囲気通りのなかなかにヘビーな裏技っぽいな。


「母とは違う人物が、母として元の世界に戻ることで、世界の整合性をとったのです」

「それ、身代わりになったのって……ちゃんと合意?」


 知らずに元の世界に飛ばされた人がいるなら、かわいそう過ぎるよね?

 私がこっちに来たのとは違って、元の世界の人は異世界人が来るなんて思ってもみないからフォロー体勢無いよ?


「えぇ、合意です」

「そうか。異世界に興味ある人、いたんだ」


 合意なら、まぁ……そう思ったけど、ヤージさんは苦々しい笑顔を浮かべる。


「興味は……どうでしょう? 身代わりになったのは、先代のこの国付きの魔法士です」

「先代の魔法士……って確か私たちを呼ぶ魔法を作った人?」

「はい。時空を結ぶゲート魔法『扉の書物』を作り、発動させた人物です」


 その人選って、合意というよりは……。


「母が『あなたが勝手に呼んだのに、帰りたくないと言えば今度は勝手に帰すの? あなたの都合しか、この国の利益しか考えないのね! しかも、私はこの国の発展に貢献したのに、私自身は貢献した国にいられない? そんなおかしい話ある? あなたの魔法って自分勝手すぎる!』と主張し……責任を感じた魔法士が、身代わりになって戻るように魔法の書物を書き換えたんです」


 魔法士さんにとっては災難だけど……自業自得という気も……いや、魔法士さんは国を代表してやっただけで責任は国の幹部かなんか偉い人にもあるような……?

 ただ、ヤージさんのお母さんの気持ちは、同じ救世主としてわかっちゃうんだよね~。私は早く帰りたい気持ちが今のところ強いから「身代わりになれ!」とは思わないけど、もやもやはする。


「……サルヴァトーレも、この話を聞いた時に今のヤダ様と同じような複雑な顔をしていましたよ。『わかるなぁ。折角仲良くなれたこの世界の素敵な女性たちと別れるのは辛いからね』なんて言いながら」


 サルヴァトーレさんらしいな。

 でも、サルヴァトーレさんは結局……


「このことを聞いても、サルヴァトーレさんはその……身代わりを選ばなかったんですよね?」

「そうですね。サルヴァトーレは元の世界の家族や店をとても心配していましたから。戻らないという選択は無かったんだと思います。それに、どんなことになるのか解らない異世界行きを自ら受け入れる人は……申し訳ないのですが、なかなかいないですし」

「戦争が終わって一五〇年ですからね。救世主様が来てくださったお陰でこの国は平和と発展を得ることができたと解ってはいても……今の時代の国民にとっては『戦争の頃の先祖たちが作った魔法だし』という意識だと思います。先代の自分勝手を代わりに償おうと思える国民はなかなか……これも自分勝手な話ではあるのですが」


 ヤージさんとラヅさんが苦笑いを浮かべながら肩をすくませる。


「俺たちはそこそこ長寿だから、この国がもっと荒れて大変だったころも知っていますが、今の子たちは平和なこの国しかしらないので……」


 一番「責任」がある魔法士さんはもう責任をとって身代わりになっちゃったし、他に「身代わりになります!」と自分から言えるような人はいないってことか。


「……だから、身代わりをたててこの国に残るって方法があるのに、私に教えてくれなかったんだ」

「そういうことです。母が行ったことは褒められたことではありませんが、筋は通っていると思います。同じ立場にあるヤダ様も、本来は選択肢の一つとして持っておくべき権利だと俺は考えます。なのに、王家はそれを伝えず……!」


 少し語尾を荒げたヤージさんを諫めるようにラヅさんが肩を叩く。


「王家の人たちも悩んでのことだと思うよ? 国民を守る立場でもあるし」


 うーん……。

 王家もお城の人も、基本的に「急に呼んでしまって本当にごめんなさい! なんでも申し付けてください!」って低姿勢だったから多少の怒りはあっても諦めて信頼していたんだけど……。

 

 これ「ずるい! ひどい!」とまでは言わないけど、結局は自分や国民の方が大切で、異世界の人間は便利に使われるだけなのかなと思うと、ちょっと寂しくなっちゃうな……。

 これで怒って何かする気も無いし、したからと言って何かいい方向に向くとも思えないし、もういいんだけど……いいんだけど……。


 モヤモヤする!

 知りたくなかった!

 あ、やっぱ嘘。モヤモヤするけど、この情報を知りたくなかったとは思わない。


 この情報はこれからどんなことが起こるかもわからないし、選択肢の一つとして忘れずに持っておこうとは思った。


読んで頂きありがとうございます!

続きは1週間程度で更新予定です。

よろしければ、ぜひ!!

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