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第37話

 大きな机を挟んだ向かい側にはイケメンが六人。全員が笑顔で私をじっと見つめている。

 転生ハーレム漫画のようなシチュエーションだけど、残念ながら私の異世界召喚はそうではない。


「では、拝見させて頂きますね」


 二部しか持ってきていなかったシナリオは事務所内にある複製機ですぐに複製されて、イケメン六人全員の手元にある。

――ペラ……ペラ……

 しばらく紙を捲る音だけが室内に響く。


「ふぅー……」

 

 最初に最後のページを捲ったのはノースさんで、一つ長い息を吐いてからまた最初の方を読み返していた。

 うーん……アリ? ナシ? 漫画は慣れているし舞台鑑賞は趣味だけど、シナリオを書くのは初心者だからなぁ……。

 

「はぁ~……」

「ふむ……」

「ほぅ」


 暫くして、他の人も最後のページまで読み終えてはため息を吐く。

 どうなんだろう、この反応。


「ふぅ……みんな、読んだ?」


 最後に真ん中に座ったラヅさんがシナリオを捲り終えると、両脇のメンバーを見渡す。


「はい」

「読みました」

「えぇ」

「いやぁ、びっくりしました……」


 全員が一瞬口を閉じた後、まるで示し合わせたように叫んだ。


「「「「「「すごい!」」」」」」


 っ……!

 さすが役者のみなさん、声量が半端ない!

 そして表情も。

 全員がパァァァという効果音でも入りそうなほど期待に輝く笑顔になり、ファイヤーウォールさんなんて立ち上がって大きな身振り手振り付きで感想を高らかに話し始めた。


「す、すごいですよね! こんなにも主人公の切ない恋心が丁寧に描写されているの! 主人公がどれだけ彼女のことを好きで、好きで好きでたまらなくて……というのが文章を読むのが苦手な僕でも解りますよ!」


 ファイヤーウォールさんの言葉に他のメンバーもうんうんと強く頷く。

 今回のシナリオは、前回の漫画で主人公に振られたイケメン生徒会長が失恋を慰めてくれた通りすがりの見知らぬ女性に一目ぼれして、彼女に振り向いてもらうために猛アタックして猛アタックして猛アタックして恋愛に臆病になっている彼女の心を解かして恋を成就させる……ってだけのお話。

 元の世界では珍しい話ではないと思う。

 でも、この世界ではやっぱり斬新なのか。先に見せたアーシャやナダールも「こんなアクティブな恋愛の描き方があるなんて!」と言っていたけど……。

 ファイヤーウォールさんに続いて、監督のノースさんも早口で話し始める。


「歌で口説いたり、踊りで口説いたり、ラヅに似合う色っぽい台詞で口説いたり、不良から助けるアクションの見せ場まで!ラヅの魅力が沢山入れられるシナリオですね! 演出面でも完璧ですよ!」


 褒めてもらえるのは嬉しいんだけど……その辺りは私が「イケメンにこんなことしてもらいたい! 言ってもらいたい!」を詰め込んだだけなんだけど、まぁ、良かった。


「それもすごいけど、演出でいうなら……まさか……」


 ラヅさんがもう一度シナリオを捲りながら目をキラキラに輝かせる。

 

「まさか、恋人役の役者を立てずに、お客様を恋人として演じるなんて!」


 そう。以前出版社の社長さんも気にしていた部分「役だとしてもラヅ様が他の女の恋人になるなんて嫌!」という強火の同担拒否の対策。元の世界で私も時々楽しませてもらったシチュエーションCDや恋人設定の写真集なんかを参考にした、いわゆる「夢女子」向けの演出だ。


「今回はラヅさんのファン向けのイベントということだったので、来場者はラヅさんのファンばかりですよね? それならこういう演出もいいかなと思って」

「完璧です! これなら役者が恋愛を演じてもファンが減ることは無いでしょうし、こんな斬新な方法、故郷にもありませんでした!」


 ノースさんがかなり興奮した様子で……ヴァンパイアってもしかして興奮すると羽が広がるのかな? 元の世界の作品に出てくるヴァンパイアはこんなハイテンションで話さないから違和感しかないんだけど。

 その隣に座るアラガミさんも……イケメンの見た目のままなのに小刻みにぷるぷる震えながら口を開いた。


「相手の役者がいないと言うのは難しそうですが、ラヅさんの実力が存分に発揮できますね。いいなぁ。役者としてやりがいがありますよ。俺も演じて見たかった」


 アラガミさんが少し悔しそうに言うと、ラヅさんも真剣な顔で頷く。


「そうだよね。こんな役、今までにやったことないから……役者としての新境地って感じがする。ヤダ様、ありがとうございます。俺が新しいことに挑戦したいって言っていたのを覚えていてくれたんですね!」

「え? えぇ、まぁ」


 ……完全にイケメンとか夢とか趣味とかしか考えてなかったけど……まぁ、いいや。そういうことにしておこう。


「細かい部分はこれから詰めたり手を加えたりさせて頂いて、こちらできちんとした脚本の形にしようとは思いますが、大筋はこれで行かせてください……みんなもいいよね?」


 ラヅさんの言葉に他の団員もしっかりと頷く。

 良かった。

 シナリオのOKがでて安心した。

 ……だって、これが受け入れてもらえなかったらこの次の話もできない所だったから。


「喜んでもらえたなら良かったです。ところで……先日アーシャから衣装の話をさせてもらったと思うんですが」

「あぁ、その話は衣装担当にも話しています。登場人物が確定すればそこもぜひお話したいと」

「その衣装なんですが、シナリオがこういう形なので、お客さんの分も作りませんか?」

「お客様の分?」


 ラヅさんだけでなく、他のメンバーも首を傾げる。

 ナダールに事前に確認した時に、この世界にそういう文化が無いことは教えてもらった。

 教えてもらいながら「それはいいと思います!」と言ってもらった。


 何より私が欲しい。


「チケットと作中に出てくる衣装、小道具、応援グッズをセットにした『観劇セット』を販売しませんか?」


読んで頂きありがとうございます!!

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