第36話 魔族、とは?
「知っています。そういえば、スライムって姿かたちを変える能力があったような……」
「そうなんです。鳥になって飛ぶとか体積の一〇倍以上の大きさになるなんてことはできませんが、外見は自由に変えられます」
まん丸だったアラガミさんの体がもごもごと動いて、可愛らしい大型の犬になった。
形だけではなく毛並みまで……あのぷるぷるが一瞬でフサフサだ。
「変身能力の部分は有名ではないですが、スライムは元の世界では空想の生き物としてめちゃくちゃ有名です。しかも、大群でいるというか……個体数が多いイメージですね」
スライムはたくさんのゲームや漫画、小説、アニメに登場するから、中には変身できる設定のキャラや神様扱いのキャラ、最強キャラもいた気はする。
でも、あの有名なゲームの有名なスライムのイメージが強すぎて、「弱くてすぐに倒せてたくさん出てくるマスコット雑魚キャラ」が一般的に浸透しているスライム像なんじゃないかな……。
「そうなんですか? 個体数が少ないマイナー種族で、親族を除くと五家族くらいしかいないんですが……」
犬の姿からぷるぷるに戻ったアラガミさんが、驚いたような声を出すけど、ぷるぷるの外見には表情がないのでイマイチ感情が掴めない。
隣でため息をつくナダールも表情は乏しい方だと思っていたけど、アラガミさんに比べたらとても表情豊かだ。
「アラガミさんが劇団に入る時の手続きも、とても大変でしたね」
「それは、数の少ない種族だから?」
「はい。スライムは魔族の国の希少保護種族に指定されていて、種の保存のために魔族の国からの制限も優遇も多いんです」
絶滅危惧種みたいな感じ?
なんとなく「魔族」って好戦的で他の種族を滅ぼすぞ! みたいなイメージがあったけど、実際はそうでもないのか。魔族同士だからなのかな……?
――ぷるん
ナダールが話している間にアラガミさんは服の中に戻って、器用に体の形を変えながら服を着た。
さっきまで半透明のぷるぷるだったりフサフサの大型犬だったりしていたとは思えない、爽やかイケメンの出来上がりだ。
「ナダールさんにはハンシェント国側の手続きを沢山助けて頂きました」
「そんなに厳しいんだ?」
「はい。本来なら一週間以上国外に出るだけでも沢山の申請書の提出に面談、国外での滞在環境の証明書が必要なのですが……長期となると更に住環境や周囲の種族のこと、健康状態の審査も厳しくて」
「アラガミさんの体に負担がかからない住環境や就労状況をきちんと整備して、その報告書を私が用意しました。また、こちらの王家に準国賓扱いにしてもらうよう働きかけ、ハンシェント王国内で偏見や危険に合わないようにも」
「……準国賓……?」
ちょっと軽い国賓の扱いってことだよね?
スライムってそこまですごい種族なんだ……?
「準国賓なんて畏れ多いんですけどね。でも、そのお陰で、魔王様にもハンシェント王国行きを許可してもらえました。劇団という仕事も良かったんです。舞台を通して国外に希少種族の存在を伝えて、種族保護について理解を得るための『希少保護種族大使』という立場をいただいて……広報活動にも従事するということで国外での就労を認めてもらっています」
「そういえば私がスライムという種族の存在を知ったのもコージ・アラガミのワンマンショーでした」
アーシャが言った言葉に、アラガミさんが嬉しそうに笑う。
ぷるぷるの時とは違って表情豊かなんだよなぁ。
「観てくださったんですね。ありがとうございます」
「たぶん一〇年くらい前でしょうか……魔族の方がギフトを使う所をちゃんと見たのも初めてだと思います。感動しました!」
「そう言ってもらえると、希少保護種族大使の価値がありますね」
一〇年前……アラガミさん、今の見た目だと二〇代の真ん中から後半くらいに見えるんだけど……見た目が自由に変えられるんだし、この人も年齢不詳だな。
それと……
「ギフト?」
「ギフトというのは種族によって異なる、固有魔法のことです。我々魔族は、種族によって一~一〇種程度の固有魔法があるんです」
魔族だけに使える魔法か。
もしかして……
ずっと気になっていたんだよね。
魔族と魔族以外の違いって何か。
猫耳のはえた獣人みたいな種族がヒューマン側なのに、ミノタウロスやケンタウロスは魔族……この違いが何か。
「ねぇ、もしかして魔族と魔族以外の違いってそこ?」
私の疑問にはアーシャが答えてくれた。
「はい、そうです。私たちヒューマンやエルフ、ドワーフ、獣人、ホビットなんかは訓練や勉強を経て魔法が使えますが、魔族は何もしなくても使える魔法がある……だから先天性魔法士種族……魔族なんです」
「魔法と言っても種族によってバラつきが激しいですけどね。俺は変身だけですけど、ノースさんは確か一〇種類くらいギフトがありましたよね?」
「超音波で会話するとかしょぼいのも入れたらね~。変身もできるけどコウモリとか一種だけだし、正直そんなに使えないからなぁ」
「空飛べるじゃないですか。アレ羨ましいですよ」
超音波、しょぼいんだ?
でも、魔族についての疑問は晴れた。
ただなんとなく分かれているんじゃなく、しっかり理由のある種族分けなんだな。
感心していると、ずっと傍観者だったラヅさんがパンと手を叩いて口を開いた。
「ま、こんな感じの個性豊かすぎるメンバーですが、みんな実力は間違いないのでどんなシナリオでも立派に演じて見せますよ。だからそろそろ本題に入りましょう?」
「あ、そうですね……!」
魔族らしい見た目のヴァンパイア、驚きのスライム、そして魔族の定義……異世界らしい驚きの連続でついつい今日の本題を忘れていた。
そうだ、今日は舞台のシナリオを見せに来たんだった。
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