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第34話 

 観劇から二週間後。

 イケメンをしっかり浴びて、やる気が出て、一気に書き上げたシナリオを持ってラヅさんの元を訪ねることになった。

 シナリオと言っても私は脚本のプロじゃないので、主にキャラの台詞を並べて、間にちょこちょこ状況を説明する文字が入る程度。文字で表現しにくい所やキャラの外観、行動なんかは絵を添えた。

 

「ヤダ様! ようこそいらっしゃいました!」


 ナダールとアーシャと共に馬車で四〇分ほどかけてやってきたのは、王都の郊外にある大きな体育館のような場所だった。

 郊外といっても田舎ではなくて、民家やお店、工場も多く、王都の中より少し道も建物も広いな~という程度。

 背の高いビルはないし、レンガよりも木造の建物がほとんどだ。


「こんにちは。先日はチケットありがとうございました」


 建物の大きさと比例した、やたら大きい入り口の扉から出てきたラヅさんは、ラフな作業着風のズボンにTシャツにジャケットで、その後ろにチラっと見える他の団員さんも皆似たような格好だった。


「ナダールから大変楽しんで頂けていたと伺っています。それに、シナリオもこんなに早く書いて頂けるなんて、ありがとうございます。では、立ち話もなんなので……キレイな場所ではありませんが、どうぞ」

「えっと、おじゃまします」


 土足のまま通された板張りの建物の中も体育館と似ていた。

 大きなスペースと一番奥には舞台。

 大きなスペースの部分には衣装がたくさんかかったラックや作りかけの家具のようなもの、絵を描いている途中の大きな板……舞台に使うものが沢山置いてあった。

 そう、ここはラヅさんの劇団の稽古場だ。


「奥にある事務所の応接室はキレイにしているんですが……どうしてもここを通らないと行けなくて、すみません」

「いえ、こういうのが観られるの、面白いです」


 社交辞令でなく面白い。

 あの楽しいイケメンキラキラ舞台ってこうやって作られているんだ~、っと興味が尽きない。

 ジロジロ見たくなるのを我慢してラヅさんについていき、舞台の横にあるドアとくぐると、一気に天井が低くなった。

 低いと言ってもさっきまでが高すぎただけで、普通のオフィスビルみたいな高さで、広くはない廊下といくつかのドアが並ぶ。


「キヨ、お茶お願い。コージ、みんな呼んできて」

「はーい!」

「わかりました」


 後ろについてきていた団員さんらしき人がラヅさんに返事をして、私には笑顔で会釈をして廊下の奥へと走っていく。

 一人は小柄で可愛い、もう一人は爽やかで癖のない……二人ともかなりのイケメンだった。

 多分キヨって呼ばれた人はこの前の舞台のイエロー……かな?


「ヤダ様はこちらへどうぞ。」

「あ、はい」


 ラヅさんに促されて入った部屋は、出版社の会議室と同じような大きなテーブルとイス。奥にはホワイトボードのような文字の書かれた板があった。

 出版社でもアーシャの実家のお店でも、ここでも、テーブルの奥の方に座るように促されるからこの世界にも上座と下座の概念があるのかな……?

 そんなことを考えているうちに、複数の足音が聞こえ、「失礼します」とやたらよく通る声と共に扉が開く。

 

「救世主様、ようこそいらっしゃいました」


 お。イケメンだ。


「先日は舞台を鑑賞いただき、ありがとうございます」

「僕、救世主様の御本の大ファンなんです! 後でサインしてください!」

「異世界の方にお会いできるなんて光栄です」

「へ~エキゾチックで美人っすね!」


 わ。イケメンすぎる。

 そんな素直な言葉しか出てこないくらい目の前が……うん。イケメン。


「みんな、ちゃんと並んで自己紹介が先だろ?」

「あぁ、そうですね。初めまして。先日の舞台ではブラックを演じていました。オリバー・ヤージです。この劇団の副団長を務めています」

「ブルーを演じていました。コージ・アラガミです。劇団の演出も担当しています」

「レッドを演じていました!ディーラ・マウンティアです。担当は……力仕事っすね!」

「お茶お持ちしました~……あ、キヨ・ファイヤーウォールです。先日はイエローしてました! 物づくりが得意です!」

「監督兼実務担当のアキュラキア・スリー・ノースです。僕は舞台には出ません」

「この五人と俺が中心メンバーで、制作物は提携している専門の業者がサポートスタッフとして入ってくれます」


 うっ……!

 イケメンが至近距離で、次から次に決め顔や笑顔で、私に視線を送るの……心臓に来る。

 今の私、不老不死みたいな体だからきっと大丈夫なんだと思うけど、普通だったら五秒くらい心臓止まってると思う。

 いや、でも……

 イケメンの集団に圧倒されながらも、めちゃくちゃ気になることがある。

 思ったより人数少ないとか、舞台上とは少し外見が違う様に見えるとか、そういうことも色々気にはなるけど……でも、一番思うのは……


「ノースさんってもしかして……魔族ですか?」


 初対面で尋ねることがもしかしたら失礼に当たるのかもしれないけど、あまりにも……あまりにも見た目が……ドラキュラ? ヴァンパイア? 吸血鬼? 耳が尖っていて青白い顔で牙が出ていて、黒髪のゆるいオールバックって言うのもあまりにもステレオタイプなイメージ通り。服装こそマントじゃなくてラヅさんたちと同じだけど、背中には大きなコウモリのような羽もある。あれ、服の飾りではないな……動いてるし生き物っぽい質感というか、体温がありそうな感じがする。

 名前の感じも他の人と違うし、よく見たら指の先にある爪も黒くて長い。


「あ、異世界の方にも解ります? でも僕だけじゃないんですよ~」


 見た目はあきらかにヴァンパイアなのに、声も笑顔も普通に明るかった。

 若干チャラいくらい。

 っていうか、何?

 もう一人?

 まだ魔族がいるの?


 黒髪ロングヘア―のクール美形のヤージさん?

 爽やかな正統派イケメンのアラガミさん?

 細マッチョ……よりはもう少しマッチョな男前のマウンティアさん?

 小柄でかわいいファイヤーウォールさん?


 パっと見ただけではオーガーとかゴブリンみたいな特定の種族には見えないし、耳は……尖ってないか……。

 いや、でも違和感あるんだよね……うん。

 イケメンを覚えるのは得意だから、多分あってるはず。


「……アラガミさん?」


 自信はあまりなかったけど、私が答えた瞬間ノースさんが拍手をした。


「お、よく解りましたね!」


読んで頂きありがとうございます!

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