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第25話


「そ、そうです! ピザ! 大好きです!」


 この世界にもあるとは聞いていたけど、なかなか食べる機会に恵まれなかったピザ!

 トマトソースにバジルとモッツァレラチーズが乗ったシンプルなピザはマルゲリータだよね?

 ベーコンと半熟卵、アスパラのピザは……名前付いてたよね? 確か、あれだ、ビスマルク!

 どっちも馴染みがあるし、元の世界に居た時でもピザは気分が上がるパーティー料理だった。

 これは嬉しい!

 

「普段は色々な具材で好き勝手に作るんですが、今日はサルヴァトーレに教えてもらった基本の具材で作ってみました」


 ラヅさんがテーブルの端に置いてあった取り皿にピザをひと切れずつ乗せて、ナイフとフォークとともに渡してくれた。

 ピザは手づかみのイメージが強いけど、レストランとかではナイフとフォークのことも多いよね。

 イタリアではこういう食べ方だったかも。

 あぁ、取り分けられるとチーズがとろっと零れてますますおいしそう!


「じゃあ早速、頂きます!」


 まずはマルゲリータ。

 ナイフを入れると薄い生地だけどパリパリではなく、意外としっかりした生地感で、あ、あ、あ、チーズが伸びる!

 これを巻き取りながら口へ……。


「んんん!」


 火が通ったトマトってなんでこんなにおいしいんだろう? バジルとトマトの相性ってなんでこんなにいいんだろう? この薄い生地が何でこんなにもちもちなんだろう? そしてたっぷりのチーズが、もう、もう……!

 具材全部の味が強いのに爆発的に美味しい!

 これぞピザ!

 具が盛り盛りの宅配ピザ系じゃなくて、石窯があるイタリアンレストランで食べるようなアレ!

 素朴に見えてめっちゃくちゃ美味しいアレ!

 あ~~~~~美味しい! 多分、元の世界で普通に食べれば「うん! 美味しい!」ってレベルなんだと思うけど、久しぶりのピザ! 久しぶりのガツンと濃い味イタリアン! しかもお城は厨房から部屋が離れているから焼きたてのものって少なくて……涙が出そうに美味しい。


「ちゃんと異世界の味になっていますか?」

「ん、んん! なっています! 美味しいです! 元の世界の専門店の味ですよ!」


 口の中のおいしさを逃したくなくて、しっかり飲み込んでから返事をすると、隣で食べていたアーシャもうっとりと呟いた。


「大好物なので、家で母が作ったものを食べたり、レストランで食べたりしていますが……家庭で、このようなプロ並みのサルヴァトーレが作れるんですね。おいしいー……」

「これのために良いオーブンを置いていますからね。どうぞ、遠慮なくどんどんお召し上がりください。その間に他の料理を持ってきますから。ナダール、手伝って」


 私もアーシャもとろけるような笑顔だと思うけど、ラヅさんもとても嬉しそうにナダールを連れてキッチンへ戻っていった。


「はぁ……美味しい、口が幸せ……」

「本当に美味しいですね。異世界ではこんなに美味しい物が日常的に食べられるんですね」

「毎日食べるわけではないし、ピザ……サルヴァトーレのことを元の世界ではピザって呼ぶんだけど、ピザは元の世界で私が住んでいるのとは別の国の料理なんだ。だけど、美味しいから私の国でもピザを出すお店が沢山あるし、家に届けてくれる店や、家で温め直して食べる保存がきくものも売られているよ」

「異世界の中でも特別に美味しいお料理なんですね! この国でも人気になるのが当然ですよね~」


 そんなことを話ながらも、私もアーシャももう一切れ、更にもう一切れと食べていると、ウエイターのように大きなお皿をいくつも手に乗せたラヅさんと、小さめの両手鍋を持ったナダールが戻ってきた。


「今日はおしゃべりがメインなので少しずつ摘まめる料理を用意しました。あと、お米がお好きだと伺ったので」


 そう言って目の前に置かれたのは…

 具沢山のスパニッシュオムレツ

 カルパッチョに見えるけど魚じゃなくて生肉かな?

 エビの天ぷら……イタリアだからフリットか

 生ハムはイタリアではプロシュートだっけ?

 トマトとモッツアレラチーズを交互に挟んだカプレーゼ

 ナダールの手に持った小鍋の中身はチーズの香るリゾット!


「おいしそう! 全部知っている料理です!」


 お城で出てくる料理も、たまに元の世界の料理名が当てはまることはあった。

 だけど、基本的には洋風の煮物やグリルが多くて、サラダやスープも季節の野菜を味付けましたって感じで、こういう解りやすい名前の付いた料理ばかりが並ぶのは珍しい。

 もちろん、毎日食べるのはそれで全然文句はないんだけど。


「懐かしいな~! カプレーゼ! カルパッチョ! フリットは私のいた国だと天ぷらとか唐揚げって料理に近くて……でもやっぱりお米! リゾットが一番嬉しいな~!」

「どれもできる限りサルヴァトーレのレシピを再現しましたから。味も近いと良いのですが」

「さっきのマルゲリータとビスマルクも完璧だったし匂いもすごく美味しそうなので絶対に大丈夫ですよ!」

「どうぞ、召し上がってください。俺も食べながら話します」


 ナダールが新しい取り皿をくれて、早速リゾットに添えられた取り分け用のスプーンを掴む。


「前菜から食べるべきなのはわかっていますが、これからいいですか?」

「どうぞどうぞ。こういう大皿料理の時は無礼講で、みんな順番なんて気にしません」

「では……うわ、これもチーズがすごい! いただきます!」


 はぁ~~~~~~~チーズとお米のとろとろ……黒コショウがちょっと利いてるのも……あぁ……美味しい。

 これは、問答無用で美味しい。


「気に入って頂けたようでよかった」


 私が食べている間にラヅさんが向かいに座り、少し遅れてキッチンからお酒の瓶とグラスを持ってきたナダールがその隣に座る。


「最高です、このリゾット! こっちに来てから食べ慣れたお米料理に飢えていて、時々カレーライスは食べに行っていたんですが……」

「ヤダ様のいらっしゃった国はサルヴァトーレの国と別なんですよね?」

「はい。サルヴァトーレさんはイタリアですよね? 私は日本……イタリア語だとジャパン? ジャポン? ジャポーネ?」

「あぁ、話していた気がします。戦争で味方だった国で、生の魚を食べる国だと」


 戦争……そうか、五〇年前の人なら何歳か知らないけど世界大戦を経験しているのかも。

 生魚って言うあたりイメージが偏っているみたいだけど、これは和食を知っている可能性が……?


「……その生魚料理ってサルヴァトーレさん作ってなかったんですか? 他の和食……ジャポーネ料理も」

「残念ながら行きたいけど行けていない国の一つだったようで、その国の料理は教えてもらっていません。彼が作るのは基本はイタリア料理で、たまに周辺の……フランス、スペイン、イギリス、ドイツ、スイス、ベルギー、トルコ……他もあったと思うのですが、イタリアから近い国に旅行に行って覚えた料理だと言っていました」

「そうですか……」


 ほとんど諦めていたけど、やっぱり無理か。

 アーシャに手伝ってもらいながら、米を炊いて、焼いた卵や焼いた魚で食べる和食風のことはこの国でもできるんだけど、醤油や味噌、鰹節や昆布の和風だしが無いのがなぁ……。


「故郷の味、恋しいですよね。サルヴァトーレもよく『アレが食べたいけどこの国では材料が手に入らない』とぼやいていました」

「救世主あるあるですよね。でも、用意して頂いた料理は私の国でも食べていた大好きな物ばかりなのでとても嬉しいです! 特にこのリゾットとさっきのマルゲリータは定期的に食べたい味です!」

「本当ですか? サルヴァトーレと同じ世界の方に気に入って頂けるなんて光栄です。どうぞまた食べに来てください」


 会話をしながら手を伸ばした他の料理も、記憶の中の味とほぼ同じ。

 気分は美味しいイタリアンレストランだ。

 ナダールやアーシャも美味しそうに食べているから、「懐かしい! 食べ慣れた味!」だけでなく、ラヅさんの料理の腕が良いんだろうな。

 ナダールが注いでくれた赤ワインみたいなお酒も美味しいし、ここに来た目的を忘れそうになるほど存分に料理を味わっていると……

 

「あの……疑問に思っちゃったんですが、マルゲリータって先ほどのサルヴァトーレのことですよね? ミヤコ様の世界ではピザとおっしゃっていた……」

 

 私の隣で美味しそうに食べていたアーシャが首を傾げる。

 名前? こっちでは具によって名前を変えたりしないのか。

 

「そうだよ。私のいた世界ではピザの具によって更に料理名が決まってたんだ。トマトとバジルとモッツアレラはマルゲリータ、半熟卵とベーコンはビスマルク、とか」

「そうなんですね。こちらの世界でも具材やソースによって名前が決まっていますが、別の名前です」

「え? そうなの?」


 マルゲリータやビスマルクって人の名前が由来だから? もっとわかりやすい「トマトとチーズ」とかそんな感じになったとか? そもそも、名前が違っても翻訳魔法で調整されそうだけど……?


「あ、あー……それは……」


 今までニコニコ話を聞いていたラヅさんが、少し気まずそうに視線を逸らした。


「サルヴァトーレが新しく名前を付けたというか……名前を変えたと言うか……」


 そういうこともあるだろうけど……気まずそうだし言葉の歯切れが悪い。

 なんだろう? 名付けで気まずくなるとかある?


「その……素敵な女の子の名前を」

「素敵な女の子の……?」


 女の子の名前を料理に?

 これって……。

 私、今まで勝手にサルヴァトーレさんは恰幅の良い陽気なおじさんシェフをイメージしていたんだけど……もしかして……イタリアって……女の子って……偏見かもしれないけど……。


「サルヴァトーレは素敵な女の子を美味しい料理で口説くのが生きがいみたいな男で……」


 うん。偏見じゃないかもしれない。


「素敵な女の子が店に来るたびに『これは僕から。素敵な君のための料理だよ』と言って出していて……特にピザとパスタですね。マルゲリータはシローニャ、ビスマルクはヤーナト、ペスカトーレはニダシェリ、ボンゴレビアンコはジョガーリ……俺も覚えきれていないのでメモを見ないといけませんが、たくさんの料理にこの国の女性の名前を付けなおしています」

「……つまりサルヴァトーレさんって……」


 みんなに美味しい料理を広めたい優しいシェフでも、自分がこの世界で美味しい物を食べたくなって作った食いしん坊シェフでもなくて……


「はい、あいつはめちゃくちゃ女好きで、女性を口説いているうちにこの国に美味しい料理が沢山広まりました」


 そっちか~!!!

 確かにイタリアの男性って息をするように女性を口説くイメージがあるけど! 偏見だと思うけど!

 救世主として呼ばれるくらいだから、もっと優しい真面目な……あ……まぁ、私もそんなに品行方正ではないけど。


「女好きと言うとだらしなく聞こえるかもしれませんが、あいつは真面目な女好きで……博愛主義といいますか……慈愛に満ちた男ですよ?」


 博愛……慈愛……確かにそう言えば救世主っぽいか。

 でも、女性を口説くことで元の世界に帰れたってこと?

 女性を口説くことがメインだから二〇年もかかったの?

 それとも、愛情をもってしっかり取り組んだから二〇年で帰れたの?


 どうしよう……サルヴァトーレさんの話が、本当に参考になるか不安になってきた。


読んで頂きありがとうございます!

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続きは1週間程度で更新予定です。

読んで頂けると嬉しいです!!

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