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幕間 ―王家と収入の話―

本編に直接関係はない小話です


 今日は、月に一度の王様との謁見日だ。

 生活状況や活動状況を報告したり、要望があれば相談したりする。

 わざわざこんな席を設けなくても、随時欲しい物や要望は通るし、活動状況の報告もナダールと魔法士さんを通して行われているらしいけど、私の立場が「国に呼び出されて国のお金で生活している」から形だけでもこういうことが必要なのは納得できる。


「救世主様、お通しします」


 兵隊さんの声と共に、身長の五倍はありそうな扉が開いて、謁見の間に足を踏み入れる。

 一応すぐ後ろに着いてきてくれているナダールには「救世主様は他国の王族と同じ扱いになるので、あまりかしこまらずに、同じ立場で接して頂いても失礼になりませんから。ご安心ください」と言われてはいるけど……。

 ヨーロッパの有名なお城で見たのと同じ、めちゃくちゃ広くて豪華で絵に描いたようなファンタジーの王様の部屋という感じの謁見の間は、煌びやかなのに空気が重苦しくて緊張感が半端ない。

 

「お久しぶりです救世主様。ご活躍は伺っております」


 そしてこの王様だ。

 近衛兵に指示された場所で足を止めると、王座までの距離は約五メートル。

 王座は一〇段ほどの階段の上なので自然と見上げる形になるんだけど……眩しい。

 高い天井にはめ込まれた丁寧な細工のステンドグラスからキラキラと光が降り注ぎ、豪奢な椅子と頭にかぶった王冠の宝石が一層煌びやかに見える。

 王様をいい感じに見せるために計算して作られているんだろうけど、妙に神々しいんだよね、この王様の存在。


「実力を遺憾なく発揮されていること、大変喜ばしく思います」

「いえ、王様や国民の皆様のお陰です」


 ボリュームのある金髪ロングヘア―にたっぷりの髭、少し大柄で優しそうな笑顔。

 髭があるから解りにくいけど五〇代……六〇代かもしれない。

 見た目は絵本に出てくる王様みたいなんだけど、雰囲気や話し方があんまり王様っぽくないんだよね。

 むしろ、僧侶とか神官とか……。


「ご謙遜なさらないでください。わたくしも漫画を拝見いたしました。とても素晴らしい作品です。国民の喜ぶ姿が目に浮かびます」

「……あ、ありがとうございます」

「何かお困りのことはございませんか?」

「今の所、大丈夫です。充分よくしてもらっています」

「それを聞いて安心しました。魔法士から聞きましたが、帰った後の財産の心配までして頂いているとのこと、お心遣いありがとうございます」


 先日、出版社で話したことだ。

 結局、私が帰った後の財産は養護施設などへ寄付、権利関係は国と出版社で持つことになった。

 元の世界に持っていけないらしいし、妥当だと思う。

 別に高い志があってそうしたわけではない。


「お礼を言われるようなことではありませんので……」

「あぁ、なんとお優しい。こちらにいらっしゃる間は引き続き全力でサポートさせて頂きますので、何かあれば遠慮なくお申し付けくださいね」

「ありがとうございます。何かあれば相談させて頂きます」


 こんな当たり障りのない会話で精一杯。

 頭を下げて謁見を終了した。





「はぁ~~~~疲れた」


 謁見の間から徒歩十五分もかからない自分の部屋に戻ると、気合を入れて履いていった革靴を脱ぎすててソファに倒れ込む。


「お疲れ様です、ミヤコ様」

 

 アーシャがタイミングを見て用意してくれていたのか、熱いお茶を差し出してくれた。


「ありがとう。王様、良い人だと思うけどめちゃくちゃ緊張するよね~なんかオーラがあるっていうか……神々し過ぎない?」


 私の言葉にはまずナダールが緊張を解す様な大きなため息をつきながら同意してくれた。


「私のような一市民は恐れ多くてお顔も直視できません。しかし、この国の国民が緊張するのは当然ですが、異世界から来られたミヤコ様でも国王様の神々しさは感じ取れるんですね……」


 ナダールもアーシャからお茶を受け取って、やっと一息ついたようだ。

 そうだよね。この国で生まれ育っている人の方が、国のトップと会うのは緊張するよね。

 元の世界の私の国にも、王様に近い天皇って呼ばれる立場の方がいたけど、もしも急に会うってなったら緊張して顔が直視できなさそうだし。


「うん。神々しいって思うよ。歴代の王様みんなあんな感じなの? それとも、オーラがあるから王様に選ばれるの?」


 私の疑問には、ちゃっかり自分もお茶のカップを持ってソファに腰を下ろしたアーシャが応えてくれた。


「この国の王様は世襲制です。王家は神様の末裔なので、歴代の王様は皆さま神々しいオーラがおありですよ」

「へ~神様。そういう概念なんだ」


 王様は神様、か。

 元の世界でもそういう国はあったな。ちょっと独裁色が強い所とか、宗教と王室が結びついているところとか……。


「はい。大地の神様です」

「ん? 大地の神様?」


 あれ? なんか具体的……?

 

「この国の大地を創造し、管理してくださっている神様です」


 これは……どっち?

 そういう神話的、宗教的な考えなのか……ファンタジーな世界だし実際神様なのか。

 少し悩んでいると、やっとひと心地ついたらしいナダールが会話に入ってきた。


「正確には創造神の末裔で、大地を豊かにする力を持っていらっしゃる神官ですね」

「えーっと……実際に魔法みたいなのを使って土地にはたらきかけるってこと?」

「はい。魔法とは仕組みが異なるので、神通力と呼ばれます。国土が広いのですべてではありませんが、作物がとれやすいようにとか、災害が起こりにくいようにといった大地のメンテナンス、街づくりや道路などの都市開発が王家の主な仕事です」

「……ガチで大地の神様か……そういう能力があるから国のトップなんだ」


 そういう存在かつ血筋による能力なら他の人が王になるわけにもいかないし、なるほど。

 二人の話で納得したのに、アーシャが悩まし気に首を捻る。


「能力があるからという言い方はちょっと違いますね」

「あ、尊敬しているとか崇め奉っているとかそういうこと?」


 もっと高貴な存在? ちょっと俗物的に言い過ぎたかな……神様なのに。


「いえ、神様として信仰もしていますが……この国の土地が全て王家の持ち物なので、そこに住まわせてもらっている私たちのトップが王家なのは当然……という考え方ですね」

「持ち物? 道路とか公共の建物だけじゃなくて、個人の家とか店とかもってこと?」

「はい。街だけではなく、鉱山や田畑や川などもですね。とにかく国全部、土地は王家のものです。だって、この土地を作られた創造神ですから」

「あ、あぁ……そうか……自分で作ったなら自分のもの、か……」


 土地の所有権なんて、大昔の人が最初に開墾するか建物を建てるかして「ここウチの!」って言ったもの勝ちから始まるものと思っていたけど、大地自体を作ったなんて言われたら……持ち主として認めざるを得ないか。

 それに、聞いた時はびっくりしたけど、よくよく考えれば元の世界の社会主義の国に近い?

 すべては国の持ち物で、公共事業や街づくりは国主導でやるから進めやすくて、公平に土地や利益を分配する感じ。なるほど、この国はそういう仕組みか。


「そうです。だから毎月使用料も払います」

「使用料? 税金とは別に?」


 元の世界でも固定資産税とかはあったけど、なんかニュアンスが……?


「はい。その土地に家や店を建てて使用する使用料です。税金は国のお金、使用料は王家のお金になりますね」

 

  王家個人のお金……ということは、社会主義国っていうよりも、単に大大大大大地主さん……?


「使用料は立地や使っている面積、用途によって変動します。あと、テナントビルや集合住宅だと、建物のオーナーがまとめて払いますね」

「国全体が王家の土地だから、国民はかならず何かしら土地の使用料を払うってことだよね」

「そうですね」


 この国の人口、約一億人。

 仮に、一人銅貨一枚でも、毎月一億枚……元の世界で言う一億円。

 そんなに安くないだろうし、家以外の店とか田畑とかもあるし……


「結構な額になるんじゃ……?」

「そうですよ~だからお城ってこんなに豪華だし、王家は間違いなくこの国一番のお金持ちです!」

「もちろん、国道の整備や河川工事、公園の維持などにも使われていますが……そういうことに使わないとお金が有り余りますから。それに……」


 アーシャと、会話に参戦してきたナダールが顔を見合わせ、あまり見たことのない上機嫌な笑みになる。


「「私たちのお給料もいいんですよ」」

「あ」


 そういえば二人はお城勤めのメイドと執事。

 以前「半分国家公務員、半分王家の使用人のような立場です」と聞いたことがある。

 そのお給料は、そうか……!


「もちろん、お金のためだけにメイドになったんじゃないですよ? お城にお勤めすれば最高級の衣服に携われますし、モード商も一番にお城に売りにきますし、何より人脈ができますし……でも」

「えぇ、そうです。城付きの執事は諸外国とのやりとりで人脈が広げられますし、なにより国の商売の中心である都のど真ん中で生活ができますし……ただ、やはり」


「「どこよりもお給料がいいんです!」」


「そ、そうなんだ……」


 二人の力説ぶりから言って、本当に良いんだと思う。

 でも、アーシャもナダールも実家が商売をしていてお金がありそうなのに……。


「うちのお店、初任給が高い方なんですが、お城のように金貨四〇枚も出せないです」

「私の実家の酒屋は地方の割には月給が高い方ですが……お城のように月給四ヶ月分のボーナスを年に二回なんて出せません」

「しかも副業OKなので実家の仕事もできますし」

「有給休暇は年に三〇日。普通の仕事の倍ほどですね」


 この国の物価や生活費が解らないけど、初任給四〇万円はめちゃくちゃいいのでは? しかもボーナスが月給四ヶ月分? 仮に四〇万なら×四……ボーナスだけで一六○万円×二……? それが最低ライン?

 二人は勤続数年らしいから、もっともらっているってことだよね?

 でも、今までの食べ物や買い物の感じから、金銭感覚は庶民的な気がしたけど……この二人以外の人とお金の話なんてしないからなんとも言えないけど。


「お城勤めを始めてから、服を買うペースが上がってしまって……」

「私は本ですね」

「ボーナスのたびにオーダーメードドレスも作ってしまって」

「私は先日、絶版の激レア本をオークションで落としてボーナス払いにしてもらいました」

「服用の倉庫も借りてるから毎月固定費だけでそこそこいっちゃって」

「私も書庫代わりの部屋を借りているので……都心は家賃も高いですしね」


 あ、趣味にガッツリ使うタイプか。

 そうなるとお金はいくらでも欲しいよね。わかる。

 元の世界でそこそこ稼いでいる方だったけど、ドラマやアイドルのコンサートの円盤に漫画、舞台のチケットに遠征費でどんどん使ってたから。


「好きなことをおもいきりしようと思うと、お金っていくらあっても足りませんからね!」

「えぇ。就職活動を頑張って良かったなと思いますよ」


 二人がめちゃくちゃ一生懸命仕事するのって、やりがいがどうとか、忠誠心とか、そういう精神論じゃなくて、シンプルにお給料が良いからってのもあったんだな。

 これ、大事なことだよ?

 働くってそういうことだし、精神論で働かせるのはブラック企業のやりがい搾取だし……私のために結構大変な思いもしてくれてると思うから、それに見合う対価が払われていたことに安心する。


「あ、でも、先ほども言いましたが、ここで働く理由はお金だけではないですから! 私は実家の店を通してファッション文化の発展を目指しているんです。そのためには、実家の店で働くよりもまずはここで働く方がいいと思ったんです」

「私もです。実家は最大手の造り酒屋ですが、酒の消費量は年々減っています。酒業界発展のための施策は酒屋からではなく、もっと大局を見られる場所でしなければならないと思ったので、お城勤めを決めたんです」

「そうなんだ……」

「特に今は、ミヤコ様の元でとても貴重な経験ができ、感謝しています」

「そうですよ! これはお金で換算できない価値のある経験です。仕事が一層楽しいです!」

「そ、そう……?」


 二人の言葉は嘘ではなさそうだ。

 自分たちの志のために、しっかり考えて、一生懸命働いている。

 尊敬できる。

 でも……いや、だからこそ。


 最近よく思っていた「この二人にずっと私の執事とメイドやって欲しい!」、だけど……もし個人で今と同じ給料水準で雇おうと思ったら……払えるんだろうか。

 これ……………………無理じゃない?

 泣きつけばやってくれるかな……いやいやいやいや、やりがい搾取しちゃいけない。

 そうなると……


「……私もいっぱい稼ごう」

「すでにいっぱい稼いでいるのにですか? ミヤコ様の向上心、尊敬します!」


 売上金や契約金「なんかたくさん!」としか認識していなかったけど、きっちり把握しようと思った。



読んで頂きありがとうございます!

続きは1週間程度で更新予定です。

読んで頂けると嬉しいです!!

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