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第22話



「以前、ミヤコ様の世界で人気があるアイドルという芸能人のことを教えていただいたのですが、ミヤコ様はアイドルのパーソナルな部分を語っていたのが印象的でした。この国の役者は、役の邪魔になるからあまり素顔の自分を見せないというのが鉄則でしたが、見せていく方がよりファンに愛されるのではないかと考えたんです」


 わかる! 元の世界でも硬派な役者さんはプライベートを一切見せないって人もいたけど、それも良いと思うけど、ラヅさんのファンの付き方って言うか、持っているオーラっていうか……絶対にアイドル俳優風の売り方が良いと思う。私は推しの人間性も知りたいし、そこを応援したい。


「私もそう思うよ。役以外の素顔の部分をもっと見てもらったら、役は役、ラヅさんはラヅさんって見れるよね? 今はきっとラヅさんの素顔の情報が少なくて、ラヅさんを役と混同しがちなんじゃないかな?」


 私の答えにナダールが少し安心したように表情を緩める。


「えぇ。そして、今までにない形の親しみやすいイベントを開くことで、恋愛という難しいテーマでも観に来てくれる人を増やせると考えています」


 この世界の舞台は、エンターテイメント性が高いみたいだからそれでいいと思う。

 メインが漫画よりもラヅさんになっているけど、普段本を読まない人に小難しい……と私は思ってないけど、小難しいらしい恋愛ものに触れてもらうんだから、これくらいやっちゃっていいでしょう。

 心配があるとすれば……

 

「でも、舞台は楽しんでもらえるとしても本には結びつかなさそうだよね」


 舞台とラヅさんを楽しんで終わりになりそう。

 それでも、原作は私だから、この国の国民に貢献したってことになるのかな?

 別に、メディアミックスが全て本の売り上げに繋がらないといけないと言うことも無いんだけど……できれば……。


「それなんですが……ミヤコ様に一つお願いがあります」

「お願い?」

「はい。この舞台はラヅで集客する……というと言い方が悪いのですが、ラヅを切っ掛けにコンテンツに触れてもらう機会を作ろうと考えているので、ラヅを主役に……つまり、ラヅと容姿が近い『学校一のイケメンライバルキャラ』を主役にした、ライバル視点のお話にしたいんです」


 あのイケメンキャラのモデルになったタクトくんに似ているんだから、ラヅさんがイケメンキャラを演じるのは当然。それに、あのキャラは感想カードでも人気があったから利にかなっていると思う。

 しかも、スピンオフってことは……

 

「舞台と漫画でリンクしている別の話にすることで、漫画ファンを舞台に呼び、舞台ファンを漫画の購入に繋げる。それができると思うんです」

「それ、いい!」


 つまり、 「舞台で気になったキャラの他の話が見たいから漫画を読もう」って思わせるんだ。

 漫画ファンも「あのキャラの他の話? どうなるんだろう!」って舞台に興味持ってくれそうだし……


「私、演劇の台本は書けないけど、簡単なライバル目線のシナリオなら書くよ」


 気に入っているキャラだから、色々と漫画に描けていない裏設定もあるし、もしも続きを書くなら……なんていう妄想も漫画家ってついついしちゃうよね? 書ける! 書きたい!

 やる気に満ちた私の言葉にラヅさんが眩しい笑顔を浮かべた。


「ありがとうございます。俺が所属している劇団は腕のいい作家も抱えていますが……今回のお話はやはり、原作の方に協力して頂かないと。俺たちではあんなに他人の気持ちを深堀できる話は作れませんから」

「もちろん貴社とミヤコ様には舞台化の権利料を劇団からお支払いしますし、劇場で御本の販売も行います。万が一興行が振るわなかった場合も権利料はお支払いします。公演やイベントは劇団主催で行うので出版社の方のお手を煩わすことはありません」


 出版社側にとってはノーリスクだよね?

 私には、ナダールがしっかり考えてくれたいいプランに見えるけど……?

 サンダーさんとスーイさんの方を向くと、二人もまんざらでもない表情でナダールとラヅさんを見ていた。


「うーむ……確かに上手くいけば中間層を読者に取り込めますな。しゃべりや握手でそんなに人が呼べるのか未知数だとは思いますが、こちらに不利なことは無さそうで、チャレンジするのは大いに良いことだと思いますし……それに、まぁ……」

「そうですね。ラヅさんの人気に大きくあやかることになりそうで、利用しているように思われたら辛いですし、そもそもファンの方が俳優の素顔に興味があるかは私には解りかねますが……でも、まぁ……」

「「社長のこの反応ならいけるのでは?」」


 二人が少し呆れたような視線を向けた先、社長さんは涙を浮かべながら口元を両手で覆っていた。


「見たいです! 行きたいです! 絶対行きます……!!!! 先ほどの親戚の方とのエピソードもとても素敵で、もっと色々伺いたいです!」


 社長さんがこの世界の俳優ファンのスタンダードかどうかは解らないけど、なんか大丈夫そうだよね?

 というか、ここでやらないって言ったら社長さんショックで倒れそう。


「俺も、少し迷ったんですが……七〇年も役者をやっていると、役にばかり見られて本当の自分が少しブレちゃって怖いなと思う時があるんです。だから、俺が役と自分を割り切って考えるためにも、こういう試みは面白いと思って。ファンの方にそう言って頂けて安心しました」


 うっ……ラヅさん、ウインクはまずい。

 私の心臓が……まずい。

 社長さんなんて気を失ってない?

 自分がどんな表情をすれば魅力的に見えるか、解っている人の表情と仕草だ。

 小難しいことは解らないけど、この人のファンイベントならきっと大成功でしょ?


「こちらの企画書は私が簡単に作成した草案なので、ミヤコ様ともお話して、後日きちんと劇団の方で詰めた企画書をお持ちします」

「スポンサーも説得しないといけないですしね」

「スポンサー?」


 ラヅさんばかり見ていると心臓がもたないので、慣れ親しんだナダールの方を向くと、真剣な顔で頷いた。


「はい。舞台はチケットの売り上げだけでは赤字なんです。スポンサー企業がついて、その会社の商品をPRしたり、社員の福利厚生として上演したり、物販でスポンサー企業のものを販売したり……その収入が大きいので」

「うちの劇団は柔軟なスポンサーが多いから挑戦的なことも飲んでくれるとは思うけど……ちょっと心配はありますね」

「そっか……」


 この辺りは元の世界の芸能界とも似ているかな。

 舞台の収入は詳しくないけど、テレビだと必ずCMが入るわけだし。

 何か協力できればいいんだけど……。


「あの! そのスポンサーってうちもできますか?」


 みんなが黙ってしまった会議室に、アーシャの声が響いた。



読んで頂きありがとうございます!

続きは1週間程度で更新予定です。

読んで頂けると嬉しいです!

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