表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/63

第19話


 漫画の発売から一ヶ月が過ぎた。

 売り上げはほぼ予想通り順調のようで、アーシャがたまに見せてくれる商工ギルドの売れ筋商品ランキングでも常に上位。毎週のように増産の連絡も来る。


「今書いているのが完成する前に帰っちゃうことになると申し訳ないな~」


 初動の報告を受けてから、「帰るまでにもう一冊くらいは」と次回作のネームに取り組み、今週から作画に入ったばかりだ。

 イケメンをたくさん描きたくなったから、高校デビューした地味子が急にモテ初めてさぁ大変! ……みたいな話。

 元の世界ではよくある話で、ノリのいいラブコメ寄りだと思うけど、ネームを読んだナダール曰く……


「今度のお話は前回よりも多くの選択肢の間で揺れ動く複雑な恋心に加え、美醜という重いテーマにメスを入れていて、恋愛とは何か、外見を飾るとは何か、自分の求める恋愛の形や将来像とは……という読者も一緒になって考えてしまう非常にメッセージ性の強い作品ですね! 素晴らしいです!」

 

 ということだ。

 ……そこまで考えてないけど……まぁ……いいか。

 そして、今回の原稿からは、ナダールも作業の手伝いもしてくれるようになった。

 特に今日はアーシャがお休みなので、もう一つ並べてもらった執務机に座って、ペンを入れ終わった原稿の消しゴムかけとベタをしてくれている。


「あの、少し伺ってもよろしいでしょうか」

「ん、いいよ。何?」


 一緒に作業をするにつれ、こうして気軽に質問もしてくれるようになった。

 物語の構成や恋愛漫画についてといった文学ファンらしいことを聞かれることもあれば、自動販売機の仕組みやコーラという飲み物の味、ペットボトルや食器……実家が造り酒屋だから商売の参考にするのかな?

 今、お願いしているページには紙パックの飲料が登場するから、今日はそれについて聞かれるのかもしれないなんて身構えていると、ナダールが指摘したのは意外な部分だった。


「ミヤコ様が『学校一の美形』とする顔のタイプは前回もこういった顔立ちでしたが……こちらの顔立ちがミヤコ様の世界の美形なのですか?」

「え? うん、そうだけど。ただ……」


 こういう質問はちょっと意外だった。

 もしかして、ナダールも自分の美醜をけっこう気にしている?

 アーシャとだったら女子会っぽく盛り上がりそうな話題だけど、真面目に答えた方がいいのかな……。

 

「美形もいろんなタイプがいるけど、私がこういう華やかな顔立ちが好きだからついつい……っていうのもあるかな。えっと……」


 以前落書きした中にあるはず……。

 あった! この写実的な似顔絵。


「これ、元の世界で人気のアイドルの似顔絵なんだけど……私、この人のファンなんだよね。それでちょっとこの人に近い顔立ちになっちゃうんだ」


 国民的男性アイドルグループの中のイケメン担当、タクトくん。

 ドイツとのハーフだから彫りが深い色白金髪碧眼なんだけど、垂れ目気味の甘い顔立ちにはアジア系の親しみやすさもある。ナンパなキャラなのにバレエをしていたからか品の良い所作で、ちょっとプライドが高い所も……いや、推しアイドル語りをしている場合じゃないか。


「すみません、アイドルと言うのは?」

「えっと……歌ったり踊ったり、演技なんかもしたり、バラエティ番組……は無いか……こっちの世界も歌手や役者、ダンサーはいるんだよね? それを全部混ぜて、とにかく見ている人に夢を与えるような存在、かな」

「……所謂、人気者ですか? ファンがつくような職業で、応援されたりちやほやされたりする美形芸能人……?」


 うーん。それが本質ではないけど……テレビやラジオが無いここでは伝わりにくいし、ある程度は伝わっているようなので頷いておいた。


「そんな感じ。私のいた世界も色々な国があって色々な美形の基準はあったけど、このタクトくんは私のいた国で一番の美形って言われて、女性ファンがたくさんいたよ」


 正確には美形と言うより抱かれたい男のナンバーワンだけど……まぁいいよね。


「この国の感覚でも美形なので、納得できます」

「漫画にした時も人気だったよね、この顔。感覚が合ってよかった」

「そうですね。御本の方でも、ライバルのイケメンの方がかっこいいという感想が多かったですし……それにしても……」


――ジリリリリリ


 ナダールが何かを言いかけた時、部屋に設置されている電話が鳴った。

 こっちの世界の電話は、ベルの音が非常ベルの音に似ていていつまでたっても慣れない……。


「はい、こちらはミヤコ・ヤダ様のお部屋になります。あぁ、スーイさん……はい。ミヤコ様の……そうですね」


 電話を取ってくれたナダールの様子では、スーイさんからか。

 一ヶ月分の売り上げのデータがまとまったら打ち合わせしましょうと言われていたから、それかな?


「はい。承知致しました。お伝えして折り返します」


 受話器を置いたナダールがこちらを向く。

 特に嬉しそうな顔でも困ったような顔でもないので、普通に業務連絡だろう。


「ミヤコ様、御本のデータがまとまったので明日にも打ち合わせをとのことです。できれば午後が希望のようですがいかがいたしましょう?」

「予定なんて無いし何時でも。スーイさんたちの都合優先で決めてもらっちゃって」

「承知致しました。城の馬車の空きだけ先に確認しておきます」

「あ、そうか。よろしく。それと、新作の原稿はまだ持っていけるレベルじゃないから」

「お伝えしておきます」


 漫画の内容に関すること以外のやり取りやスケジュール管理に移動手段の手配……元の世界ではこれ全部自分でするんだよね……。

 本当、ナダール有能。

 漫画はめちゃくちゃ認めてもらえるし、お金にも困らないし、優秀な執事とメイドがいるし……もうちょっとこの世界に居てもいいかな。


 なんてね……。



読んで頂きありがとうございます!

続きは1週間以内に更新予定です。

読んで頂けると嬉しいです!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ