第17話
結局、発売日の翌日にスーイさんに連絡を取ると……
「デビュー作は初日より二~三日後の方が売れる人が多いですし、五日後の休日が一番売り上げが増える見込みですので、あまり最初の数字は気にされない方が良いですよ。ちゃんとデータを分析して報告しますから」
なんて返事が返ってきて、一週間ほど大人しく待つことになった。
スーイさんにもアーシャたちにも「今までのお疲れもあると思うので、ゆっくり休んでください」と言われたけど、休むって言っても……スマホもテレビも無いから、暇もつぶせないし気分転換もできない。
「はぁ……気になる」
この世界の本も少し開いてみたけど、うーん……冒険ものとか戦争の戦略物みたいな絵本は面白くはあるけど……うーん………。気になることが無い時に集中して読めたらきっともっと面白い。
「はぁ……もっと気が逸れるくらい好きな物……恋愛ドラマ、恋愛漫画、恋愛リアリティーショー、イケメンばっかりの舞台、アイドルのコンサート……」
元の世界で脱稿後の自分へのご褒美はこれだった。
恋愛とキラキライケメン……。
「はぁぁぁぁ~……火曜ドラマのラブジェジェの続きどうなったのかな~記憶をなくしたヒロインに言い寄るDV元彼と幼馴染の対決の決着、もう少しだったのに。あと、同じ雑誌の甘野先生の海恋スプーンも新刊出ている頃だよね~三十六巻。戻るころには内容忘れてそう……読み返さなきゃ。ガチンコリアリティショー離島サバイバル&ラブも先週『ユージの告白! 恵奈の返事は!?』で終わっているからめちゃくちゃ気になっているし、星ドキ☆王子様プロジェクトの千秋楽チケットも当たっていたけどいつ見られるんだろう……MOKUSEIのタクト君の初単独ライブのチケットも……帰れたら見られるんだから良いけど……良くないけど……」
ため息を吐きながら、お金があまりない中学生時代のように、好きなドラマのヒロインが誰とくっつくかの予想イラストを描いたり、好きな漫画の名シーンを思い出して描いたり、好きなイケメン俳優やアイドルの顔をできる限りの技術を使ってリアルに描いてみたり……。
「忙しさで忘れていたけど、私の生活、衣食住だけじゃ足りない……」
「うーん。これは、私たちにはどうして差し上げることもできないですね……」
「そうです……ね……」
アーシャとナダールも、私の落書きを興味深そうに眺めてはいるけど、この我儘はどうしようもない。
この世界に恋愛コンテンツは無いし、アジア人顔のイケメンもいない。
「あ、そうだ! 気分転換に書店を覗いてみませんか? 」
「書店?」
ポスターやPOPのイメージを掴むために、この国で一番大きい書店に一度連れて行ってもらったことはある。
元の世界の書店とそう変わらなくて、強いて言うならジュ●ク堂っぽいという印象だった。
「暇つぶしに面白い本を探してみましょう? それに、売れているところが実際に見れたら気分も上がるかもしれませんよ!」
「それもそうか……」
他にやることも無いし。
自分の本が売れる所を見れたら嬉しい。
「うん。見に行こうか。ついでにランチも」
こうして、発売日四日目の店頭を覗きに行くことになった。
「おぉ……!」
先日訪れたアーシャの実家の店から歩いて五分ほどの所にあるこの国一番の大型書店。
四階建てのビルで、一階が雑誌と新聞と話題書ということだったけど……入り口すぐに「救世主様が描く、異世界本!」コーナーができていた。私の身長くらいの大きなポスター、平台に大量に積まれた漫画、私が描いたPOPとサインのポストカード、書店員オススメのPOP、「新聞で紹介されました」のPOPと記事の切り抜き、更にアーシャの店のスカートの宣伝ポスターまで貼られていた。
「こんな目立つところに、こんな充実した売り場……!」
元の世界でアニメ化した時だって、ここまでの扱いをしてもらったことは無い。
平台三列とPOPで大喜びだった。
それが、平台全面! POPいっぱい! ポスターに関連商品情報!
すごい……同じ出版社の少年誌の方で一番売れている漫画の最終巻が出た時くらいしかこんなことしてもらえないのに。
なんでこの世界にカメラがないんだろう。写真に残しておきたい……。
「近くで見ていたいけど……あまりここに突っ立っていると買う人の邪魔だよね。少し離れて見ていようか」
一人ならともかく、アーシャとナダールと三人だし……。
嬉しさをかみしめながら近くでじっくり見た後、三列ほど離れた人のいない本棚の陰からそっと見守っていると……。
「あ、あの人買っていく!」
スーツ姿の男性がPOPをじっくり眺め、少し不思議そうな顔をしながら手に取って会計に向かった。
今の感じ、売り場を丁寧に作ってくれたおかげで売れたよね。
書店員さん、出版社のみなさん、ありがとうございます!
「あ、また売れそうですよ」
メモを片手に一目散に平台にやってきて、本を手に取るドワーフの男性だった。
口コミかな? ありがとうございます!
「あの人もそうではないですか?」
上品な感じの高齢の女性が、「ちょっと店員さん、新聞で見たんですが異世界の御本なんですよね? 私でも読めます?」なんて書店員さんに確認して買っていった。
広告の効果だ!
「あ」
「お!」
アーシャが小さく声を上げた。
若い犬の獣人の女の子と、ヒューマンの女の子の二人組が店に入ってきて、一目散に平台に向かう。
二人とも、アーシャの店のチェックのプリーツスカートを履いていた。
「これだ! へ~! これ学校の制服なんだ!」
「明日このスカートで学校行ったら怒られるかな?」
「絶対怒られるけど着ていきたいよね~!」
パラパラと中身を確認して、最終的に「絵が多いから読めそう!」と言いながら二人とも本を買っていった。
少女漫画家としてはやっぱり微妙な感想だけど……でも、狙った世代の女の子に楽しんでもらえているならいいや。
その後も暫く売り場を覗いて、どんどん売れていく漫画を見送った。
「うん。満足した」
「沢山売れていましたね!」
「一時間に三〇冊ほど売れましたから……平日の午前中だと考えるとかなり多い方だと思いますよ」
二人も嬉しそうというか、作者の私よりもほっとしたような表情だ……心配かけてたよね、ごめん。
「よし、じゃあ出版祝いにカレーでも食べて帰ろうか!」
まだ本で得たお金ではなくて国からのお小遣いだけど、そのうち自分で稼いだお金でカレーを食べられるようになるんだと思うと、楽しみでしかなかった。
もしかしたら、それよりも早く元の世界に帰って、元の世界の原稿料で元の世界のカレーを食べられるかもしれないし。
読んで頂きありがとうございました!
続きは2~3日以内に更新予定です。
読んで頂けると嬉しいです!!




