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第16話


「書き出し帳?」


 首を傾げると、アーシャが手に取った銅貨の番号を指差した。


「はい。簡単に仕組みをご説明すると……まず、支払いが完了して番号が変わったお金をお店専用の箱に入れます。この箱の投入口に読み取り魔法石がついていて、誰の番号から店の番号に変わったか、何の対価に払われたかを読み取って、箱の中の台帳に記録してくれるんです。あ、おつりもそこから出します」


 そういえば……先日化粧品を買った時、会計をする場所には貯金箱のような口のついた大きな箱があって、店員さんがお金をそこに入れ、お釣りもその箱の引き出しを開けて出していた。レジや金庫みたいなものだと思っていたけど、あながち外れていない……?


「この箱と台帳が、お金の管理をしながら、どういう年齢や性別、種族が何円の何を何個買ったという情報を蓄積してくれます。先日の企画書に載せていたデータも、書き出し台帳の記録をグラフ化したものです」


 企画書……確かに細かい客層や、売り上げのグラフが書かれていた。

 あれってここまで細かくて正しいデータだったんだ!?

 アーシャの言葉にナダールが頷いて補足する。


「しかも、店で読み取った情報は、商工ギルドでも書き出されるんです。例えば……私の実家は造り酒屋なのですが、販売店や飲食店に卸した自社の酒がどこでどれだけの量売れたか、商工ギルドに登録していれば自社製品に限り教えてもらえます」

「自社製品以外も、各カテゴリのトップ二〇くらいは商工ギルド発行の新聞で見られますしね」


 それ、元の世界にもそういう新聞あったよね?

 お店のレジで売れた時にデータをとる……POSデータとか言うのを使ってランク付けしたり分析したりする新聞。

 というか、そもそも……


「商工ギルド……?」

「商売している者が登録する半分民営の役所です。先日ミヤコ様が開業届を提出したのも商工ギルドです」


 ナダールの説明からすると、商工会議所とか税務署をまとめたような団体、かな……?

 開業届を提出した後、講習会があったり開業のしおりみたいな冊子が送られてきたりしたのは、全部商工ギルドからだったのか。忙しすぎてよくわかっていなかった。


「私の実家で言うと、売れている酒と売れていない酒が一目で見えるのでプレッシャーではありますが、データを見て仕入れの予定や販売戦略、競合との差別化、生産計画が立てられるので重宝しています」

「うちの店もですよ。服なんてターゲットごとに好みが分かれるし、トレンドをしっかり押さえないといけないしなので……商工ギルドと契約して、一番細かいデータがとれる書き出し帳で契約しています」

「すごい……話を聞けば聞くほど商売がしやすそうというか、かなりキッチリした仕組みなんだ……」


 不正利用されにくい

 紛失しても追跡できる

 偽物を作られにくい

 売上のビッグデータが取れる

 ……お金が超ハイテク過ぎる!


 コイン型で電子マネーのように使えるっていうと、海外の地下鉄のトークンを思い出したけど、そんなの比じゃない。

 しかも、お金がハイスペックすぎるだけじゃなく、そのデータをキチンと集計できて、まとめる機関もあって、データを活かした商売ができて……この国の商売、実はめちゃくちゃレベルが高いのでは???


 あまりにレベルが高くて、だんだん頭がついて行かなくなってきたのに……

 ナダールの説明が止まらない。


「しかし、この便利なデータ機能は商売を発展させるために作られたのではないんです」

「え? まだ何か役割があるの?」


 すでに理解できるギリギリなのに?

 これ以上?


「一番の目的は、税金を誤魔化せないようにするためなんです」

「税金……!」


 それ、もしかして……

 税金ってことは……もしかして……!

 説明を続けるナダールに期待の眼差しを向ける。


「この国の税金は一律ではなくて、売り上げから経費や従業員の給料などを引いた利益に合わせて、年間に払う額が変わります。そのため、税金を徴収するギルドや役所がお金の流れを記録しているんです」

「経費ってどうやってわかるの?」

「店の財産番号で支払ったものは経費扱いになります。ミヤコ様も開業届が受理されて、そろそろ仕事用の財産番号と専用箱が割り当てられるはずです」

「つまり、自分で書類を作らなくても勝手に税金が計算されるってこと?」

「ほぼそうですね。書き出された内容で修正すべきところがあれば、手書きで修正しますが……私の実家では年に五ヶ所位でしょうか」


 経費の計算そんなざっくりでいいの? とか、仕事用の番号と個人用の番号の切り替えどうするの? とか、個人情報駄々洩れで怖いとか、とか、色々細かい所は面倒臭そうな気もするけど……元の世界の確定申告だって色々と心許ない所はあった。

 だからどう考えても……


「めっちゃ便利!!!!!!」

「便利……? まぁ、昔はかなり大雑把な申請や不正が多かったらしいので……便利と言えば便利ですね」


 きっとこの国の人としては不正防止というか、税金を正しい額だけきちんと徴収するためにしているだけなんだろうけど、元の世界の煩わしい確定申告の作業や企業の経理担当の友人たちの年度末の様子を思うと、ただただ便利でしかない。

 レシートまみれになってパソコンに向かわなくて良いんだ。

 どうしようもなくなって税理士さんに頼んだら何万円も取られるようなことないんだ。

 提出した後、間違ってないかビクビクすることもないんだ。


 羨ましい!!!!!

 今の所、この世界のもので一番羨ましい!!!!!


「いいなぁ……このお金、元の世界にも持って帰りたい……」


 あまりにも羨ましすぎて、今日発売の自分の本のことは一瞬、意識の外にいっていた。



読んで頂きありがとうございます!

続きは2~3日中に更新に予定です。

読んで頂けると嬉しいです!

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