第11話
「アーシャ様、お声が大きいですよ」
「あ、店長さん! すみません、つい……」
振り返るとスーツを着た年配の男性が立っていた。
「こちらがお話を伺っている救世主のミヤコ・ヤダ様ですね?」
「はい。企画が通ったので早速お連れしたんです。ミヤコ様、こちらは店長のノバンさんです」
「店長のラブーゾ・ノバンと申します。よろしくお願い致します」
「よろしくお願いします」
後ろに流した髪も、綺麗に整えられた髭もやや白い方が多い。
六〇歳くらい? 背筋が伸びてピシっとしているのに物腰が柔らかくて……紳士という単語が頭をよぎった。
「馬車が停まるのは見えていたのですが、接客がありお出迎えもできず申し訳ございません。上でお茶をご用意していますので……アーシャ様、社長と製作スタッフも呼んでおきました」
「ありがとうございます、店長さん。ミヤコ様、先ほどの仕組みのことも含めて、上でゆっくりお話しを伺ってもよろしいですか?」
「もちろん。そのために来たんだし……偉い人も一緒なのは緊張するけど」
途切れた螺旋階段の前で立ち話をしていると、店長さんがスタッフオンリーと書かれた扉を開く。
あぁ、螺旋階段の続きはこの中か。
「緊張しないでください。社長と言っても私の姉なんです」
「確か本が好きなお姉さん?」
「そうです! ミヤコ様の本も、とても楽しみにしていますよ」
話している間に一階分の階段を昇り、着いた先はホテルのフロントのような受付だった。
他のフロアと違って、壁で仕切られているため、少し狭く感じる。
「いらっしゃいませ」
「アーシャです。ミヤコ様をお連れしたので社長に取り次いでください」
受付に立つ綺麗なお姉さんとかっこいいお兄さんが恭しく頭を下げたあと、アーシャの言葉に頷いた。
「はい、店長から伺っております。ようこそお越しくださいました」
「三番の応接室で社長が待っております。どうぞ、そのまま向かってください」
受付のやり取りに番号のついた応接室……元の世界の企業を思い出すな。
「わかりました。ミヤコ様、こちらです」
アーシャに続いて廊下を進み、三番と書かれた重厚な木のドアの前に立つと、チラっとアーシャが振り返った。
「緊張はしないと思いますが、驚かないでくださいね?」
「……?」
異世界に来て驚きの連続だし、もう何に驚いていいのか解らないくらいだけど……まぁ、なるべく平穏を保てるよう心掛け……
「っ!」
「ようこそいらっしゃいました! あぁ、アーシャの言う通りなんとエキゾチックで神秘的で凛々しい救世主様なんでしょう! お会いできて嬉しいです!」
アーシャがドアを開いた瞬間、社長さんと思われる女性に抱き着かれた。
なるほど、このテンションの高さとフレンドリーさには多少驚くな。
「アーシャのお姉さんですよね? こちらこそお会いできて……え?」
驚いた。
いや、これは普通に驚くやつ。
元の世界でも驚くやつ。
「顔、え? あ、えぇ!?」
アーシャと同じ顔。同じ背格好。服もメイド服のエプロン無しかな? ほぼ一緒。
髪型が、アーシャはふわふわの金の巻き髪をハーフアップにしているのに比べて、お姉さんは同じ色の髪をポニーテール……それ以外は目の色も肌の色も歯並びもほぼ同じ。声もかなり似ている。
こんなにもそっくりの人間がいるなんて!?
……と、一瞬驚いたけど、そりゃあいるよね。
「双子?」
「「はい!」」
二人の声が重なった後、私から離れたお姉さんがアーシャと似た笑い方で笑顔を浮かべながら軽く頭を下げた。
「私、アーシャの双子の姉でロックガーデン服飾店の代表取締役社長をしております、ナリーヒャ・ロックガーデンと申します。この度は、一緒にお仕事できること光栄です! いえ、もうお会いできただけで光栄です! どうぞよろしくお願い致します! 」
アーシャも明るくてハキハキした子だと思っていたけど、ナリーヒャさんは更に明るいしテンションが高い。このノリと見慣れた顔……アーシャの言う通り、緊張はどこかに消えてしまった。
「ミヤコ・ヤダです。よろしくお願いします」
「色々お話を伺いたいのですが、先にスタッフを紹介致しますね! こちらチーフデザイナーのウインドとパタンナーのツチ、企画広報のフナードです」
ナリーヒャさんに気を取られていたけど、大きな机と沢山の一人掛けソファが置かれた応接室には他にも三人の女性がいた。
「チーフデザイナーのスズ・ウインドです」
「パタンナーのツヅ・ツチです」
「企画広報のシップ・フナードです」
ま、眩しい……!
めちゃくちゃキラキラしてる……!
おそらく人間のウインドさんは光沢のある生地でシンプルだけど高級感のあるタイトなワンピースでイイ女オーラがすごい。
ドワーフらしきツチさんはめちゃくちゃカラフルで派手な服の重ね着と大量のアクセサリーの組合せなのにバランスが絶妙でセンスのいいアーティストって感じ。
猫の獣人のフナードさんは店のマネキンと全く同じトレンドの服をトレンドの方法で着こなしていて多分流行の最先端。スタイルもいいな。
全員がこだわった服装で、凝った髪型、化粧も濃い。姿勢もいい。笑顔に隙が無い。良い匂いもする。
「ミヤコ・ヤダです……よろしくお願いします」
ギャルというか、キラキラ女子というか……私だってファッションも化粧も大好きだったけど、一般人の枠を出ない。ファッションの文化が異なる世界だけど解る。
彼女たちは、ガチめのオシャレ女子だ。
「ミヤコ様、この三人と私と社長で先ほどの企画書を作ったんです。全員とてもやる気ですよ」
アーシャの言葉に三人が深く頷く。
「はい! あんな素敵なデザイン、今すぐにでも自分で着たいと思い、企画に参加させて頂きました!」
「どう型紙を作ればいいか、私なりに研究もしてみたので後で見てください!」
「広告プランも企画書に載せきれない案が沢山あるのできいてください!」
「は、はい……!」
話してみると全員二〇代後半くらい? こんな若くてキラキラした女子に喜んでもらえるなんて……少女漫画家として嬉しすぎる。
「すみませんヤダ様。みんなファッションが大好きで……伺いたいことだらけなのでお茶でも飲みながらゆっくりお話しして頂けますか?」
「もちろんです」
社長さんに促され、ソファに腰を下ろすと、甘い花の香りがするお茶と見た目も可愛い小さなケーキや焼き菓子が沢山運ばれてきた。
キラキラ女子、スイーツ、ファッショントーク……。
あ、これ、女子会だ。
ヤバイ。めちゃくちゃ楽しい女子会だ。
女子の会話が盛り上がっていく中、ナダールは気配を消してお茶を飲んでいた。
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