7 ダメだったら…
シェラルージェが鬱ぎ込んで部屋に閉じこもってから数日後。
マリーとセリーナがシェラルージェを心配してお忍びで訪ねてきた。
「シェラルージェ様、王女殿下とアリセリーナ様がいらっしゃいました」
マーリンが来客がきたことを告げる。
「マリーとセリーナが? …分かったわ。お通しして」
シェラルージェの言葉を聞くと、マーリンは一礼して部屋を出て行った。
マリーとセリーナが訪ねてくるなんて初めてのことだった。
公の場では親しくないように振るまっていたから、その決まりを破ってまで訪ねてくるほど心配をかけていたことにシェラルージェは気づかされた。
ノックの音に、シェラルージェは姿勢を正し入室の許可を出す。
「失礼いたします。王女殿下とアリセリーナ様をお連れいたしました」
「ありがとう」
「何かありましたら、何なりとお申し付け下さい」
マーリンは心配そうに気遣わしげな視線を残して下がっていった。
シェラルージェはマーリンの顔を久しぶりに見た気がした。
それに気づいて、ここ最近の私は周りがまったく見えていなかったことが分かった。
あとで、マーリンにもお母様にもお兄様にも心配をかけた事を謝らなければいけないと思った。
「「シェラ! 」」
マーリンが下がるのを待っていたらしく、マリーとセリーナは扉が閉まると同時に駆け寄ってきた。
「マリー、セリーナ」
「心配したよぉ、シェラ」
「何があったの? シェラが突然来なくなって心配したのよ」
二人は私の両隣に座って心配そうに覗き込んだ。
シェラルージェは二人の顔を見て、ごちゃごちゃした気持ちを話すことにした。
もう、誰かに話を聞いて欲しかったのかもしれない。
マリーとセリーナの瞳を一度見て、やっぱり恥ずかしくなって、自分の手を見つめる。
なかなか言い出せない私に、それでも二人は黙って待っていてくれた。
「私…ね、失恋したみたい……」
二人から息をのむ音がした。
「えっ、告白したの?」
マリーが驚きの声を上げる。
セリーナは驚いて瞳を見開いていた。
「してない」
「…じゃあ、どうして、失恋なの?」
セリーナが困惑して問いかける。
セリーナの問いかけにハリス様の言葉を思い出す。
「…好きな人が居るって……」
「…恋人が居ると言っていたわけではないのよね?」
「うん」
確認するようなセリーナに、私は頷く。
「だったら、まだ遅くないでしょ」
「えっ?」
セリーナの言葉が理解できなかった。
「諦めるなんて早いわよ」
マリーも「そうだよ」と詰め寄る。
「シェラはまだ何も行動をおこしていないんでしょう? アプローチしてから、それでもダメだったら諦めればいいじゃない」
セリーナのたたみかけるような言葉に押されながらも、よく分からなくてセリーナを見つめる。
「アプローチって……」
「その人のこと好きなんでしょう?」
「うん」
「だったら諦める前にいろいろ試してみれば良いじゃない」
「試す…」
「まずは男性に慣れるために、いろいろな男性と話してみれば?」
「それは…、知らない人は恐いから無理」
「じゃあ、シェラでも話が出来るユリウス兄様やカミルとお茶会で話してみたらいいんじゃない?」
マリーの言葉にそれなら出来るかもしれないと思った。
シェラの様子にセリーナも付け加える。
「後は、舞踏会に出席してみるとか」
舞踏会と聞いて尻込みした私に気づいたセリーナはシェラの手を強く握った。
「シェラはまず自分から行動出来るようにならないと、アプローチもできないでしょう?」
「そうかもしれないけど…」
「今、変わりたいと思ったんでしょう?」
「うん」
「じゃあ、頑張りましょう。私達が側にいるから、ね?」
「マリーも頑張るから」
3人で手を握り合う。そして、2人はシェラを見ると力強く頷く。
シェラは自信がなかったけれど、やってみようと思った。
「で、シェラの好きな人って誰なの?」
「っ、それはちょっと、まだ…」
「ふーん、まあ、大体分かっているからいいんだけど」
セリーナがニコッと笑って言う。
セリーナの楽しそうな様子に、笑うしかなかった。
まだ、自分でもどう会えばいいのかわからないのに、マリーとセリーナにハリス様と会っている所を見られるなんて恥ずかしくて無理だった。