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貴方の瞳に映りたい  作者: 蒼華
本編
7/63

6 初恋の自覚


ハリス様の気持ちを知ったときから、シェラルージェは(ふさ)ぎこみ、部屋に閉じこもっていた。

お母様やお兄様が理由を尋ねてきたけれど、答えられなかった。


自分でも初めての感情でどうして良いかもわからず、気持ちが落ち着くまで待っていて欲しいと伝えただけだった。




何でこんなに胸が苦しいのかな……。

ハリス様のあの顔を思い出すと、またぎゅっと胸が痛くなる。

そして、訳もなく涙が出てきた。


自分でも情緒不安定なのはわかっていた。


でも、なんで胸が痛くなるのか、理由がわからなかった。


ハリス様がプレゼントを贈る女性が好きと言っていたときから痛い。

好きと聞いたときに胸が苦しくなった。


好き…

好き……

…好き

ハリス様が──を好き……


──を好き、なんだ……

──────

──────────────────


『マリーはね、アーサーが他の女性の話をしているのが嫌なの。もしかしてその人のこと好きになっちゃったのかなって不安になって、胸が苦しくなるから』



前にマリーが言っていた言葉を思い出した。

あぁ、これが『好き』という気持ち、なのね。

何故かストンと腑に落ちた。



私はハリス様が好き…

好きだったんだ……だからこんなに胸が苦しく、こんなに胸が痛くなる。

また溢れる涙をそのままに、シェラルージェは何度となく泣いた。



泣きすぎてぼおっとした頭でハリス様と初めて出逢ったときのことを思い出していた。




ハリス様と出逢ったのは今から二年前。


お祖父様が私を心配して特別にお願いして私の護衛騎士になって下さった方だった。


ハリス様はフォード侯爵の嫡男であり、ご自分の実力のみで騎士の花形である近衛騎士の副長に登り詰めた。

本来貴族の嫡男は騎士などにはならないし、(なるのは家督を継がない次男や三男が生きていく為に目指すものだから)、領地経営と騎士との両立は不可能だと言われていた。

そんな中、ハリス様は平民も入る最も過酷な騎士学校に入り、その中でのし上がり近衛騎士試験を突破した逸材といわれている、とお祖父様が自慢気に言っていた。


若くして近衛騎士の副長から近衛騎士の団長になる予定だったハリス様をお祖父様が無理を言って私専属の護衛騎士にしてしまった。


そんな話をお祖父様から笑って話された私は、初めての会う男性というだけでも恐怖を感じていたのに、そのハリス様から恨まれているのではないかと別の恐怖も抱いていた。


そんな状態でハリス様と会うことになった私は、緊張のために眠れず寝不足で隈が出来て、恐怖のため強張った顔をしてハリス様の前に立つことになった。


本来なら私から挨拶をしなければならないところを、目も合わせることも出来ずシェラルージェはただただ立ち尽くしていた。


「初めてお目にかかります。私はハリス・フォードと申します」


ハリス様の包み込む優しい声色がシェラルージェの耳に届いて、シェラルージェは恐る恐る顔を上げることが出来た。

それを見たハリス様は、シェラルージェの前に騎士として跪くと、優しく微笑んで言った。


「どうか私に貴女を護らせて下さい」


そう言われた瞬間、嬉しい気持ちが体中に広がるのを感じた。

そして、ハリス様を見ても恐怖も嫌悪感も感じず、どちらかというと安心感を感じていた。


とてもいい人のように思えて、だから、より一層ハリス様を近衛騎士の職から引き離してしまったことが間違いだと思えてならなかった。

ハリス様が近衛騎士に戻りたいと言ったら、お祖父様に掛け合って違う人に変えてもらおうと決意してハリス様に問いかけた。


「今ならまだ護衛騎士団長に戻れるようお手伝いできます」

「いいえ、私は貴女の護衛騎士になれることをとても光栄だと思っています」


ハリス様の瞳は嘘を言っているようには見えなかった。


そう言われたことが嬉しくて、申し訳なくて、それでも嬉しくてシェラルージェは微笑んでいた。


「どうか宜しくお願いします」


シェラルージェがお辞儀すると、ハリス様も「かしこまりました」と微笑んで下さった。

このときに、名前呼びも許していただいたので、ハリス様と呼ぶことになった。



シェラルージェはもうこのときにハリス様を好きになっていたのだと、今ならわかった。

好きという自覚もなく、でも、ハリス様の前で緊張していたのは、嫌われたくなかったから。

今頃になってようやく緊張の原因がわかったなんて間抜けすぎる。


渇いた笑い声が口から漏れる。


(あーあ、……誰にも会いたくないな)


特にハリス様とは顔を合わせるのが今は辛い。

辛いけれど、ハリス様に会いたい気持ちもあって、自分の心なのに相反する気持ちが混在していてどうして良いのか全然わからなかった。








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