23 ハリスの想い人
倒れた日から初めてハリー様とお会いする。
シェラルージェが落ち着きを取り戻したときに、昔のトラウマを思い出したことでその時は忘れていたハリー様の婚約話のことを思い出して、どう接すればいいのかとても悩んだ。
ハリー様の婚約話がどうなったのか気になって、でもシェラルージェから聞けるわけもないのでハリー様と視線を合わせづらかった。
「シェーラ嬢、おはようございます」
「おはようございます、ハリー様」
ハリー様にもいつもの笑顔がなく、何か言いたそうにはしているけれど言葉はなかった。
互いに気まずい空気を感じて、それ以上言葉が続かなかった。
「本日はどちらに行かれるのですか?」
「今日はマリー様とセリーナ様と一緒に勉強をする日なのです」
「初めて行かれる場所ですね」
「……そうですね」
ハリー様が知らないだけでいつも行っている待機場所なのだけれど、お父様と一緒に登城しないで勉強会に行くのは初めてのことだった。
今後も同じように登城することがあると思うので、ハリー様に着いてきてもらうことにした。
お父様とお兄様が心配して護衛は絶対に連れて行きなさいといわれたのもあるのだけれど。
ハリー様にエスコートされて馬車に乗る。
いつ社交の練習相手を断られるのかを待つのは気が滅入ってくる。
そんなことを気にしている場合ではないのだけれど、ハリー様と会うと気になってしまい、馬車の中でため息をついてしまった。
***
今日だけは場所を知らない部屋へ案内するためにハリー様の前を歩く。
城へ入ってすぐのところで、前から歩いてくる令嬢が瞳に入った。
その令嬢は水色の髪を品よく纏め、今日は瞳色よりも少しだけ濃いめの赤色のドレスを着ていた。
私が倒れたお茶会で話しかけてきた令嬢だった。
シェラルージェが気づいたのと同じくらいにその令嬢もシェラルージェに気づいたのか、一瞬刺すような視線を感じたのだけれど、すぐに微笑みを浮かべて会釈してきた。
シェラルージェも会釈を返したときには、令嬢の視線は後ろを歩くハリー様に注がれていた。
その瞳には憧れというか慕っているような熱を宿してハリー様を見つめていた。
その瞳を見てシェラルージェは足を止めてしまった。
そして、ハリー様が気になって振り返ると、ハリー様もその令嬢を見つめていた。
ハリー様は苦しげに眉をひそめて令嬢を見つめていた。
(やっぱり、ハリー様の好きな女性ってこの方なのね……)
事実として目の当たりにしてしまい、シェラルージェはぎゅっと胸が締め付けられるように痛くなった。
シェラルージェはそれ以上見ていられなくて、この場に居たくなくて令嬢の脇を通りすぎて部屋へ急いだ。
後ろから慌てて追いかけてくる足音を聞きながら、見つめ合っているハリー様の邪魔をしている自分が嫌になった。
それでも、護衛はここまででいいと言えなかった。
(ごめんなさい、ハリー様。弱くてごめんなさい)
心の中で謝りながら部屋の前に辿り着くと、ちょうどハリー様も追いついた。
ここまで来てやっとシェラルージェは気持ちを落ち着けることができた。
見上げたハリー様はシェラルージェの行動に驚いた顔をしていた。
そんなハリー様にぎこちない微笑みを浮かべる。
「ハリー様はここでお待ちいただけますか?」
「かしこまりました」
ハリー様の言葉に頷くと、部屋の中に1人で入る。
「シェラ、いらっしゃい」
「おはよう、シェラ」
迎えてくれたマリーとセリーナに、泣き笑いをしてしまいそうになり唇に力を入れて耐えた。




