閑話 ある公爵の呟き
「おや? あそこにいるのはランバルシア子爵のところのアルムか?」
一人の女性を伴って現れたのは、ランバルシア子爵ハワードの息子のアルムだった。
そのふたりが会場入りした瞬間に、会場にいた貴族達は素知らぬ顔をして観察していた。
貴族にとって情報収集は当たり前に必要なことだが、半数以上はすぐに興味をなくしたように自分の相手との会話を始めた。
それを見て私は心の中で嘲笑した。
アルムが女性を伴って来た、これの重要性を分からない者のなんと多いことか。
これではこの国も安泰とは言えぬな。
ランバルシア子爵家は特殊な家系だ。
それを理解している者が少ないことが問題ではあるが、まあ仕方あるまい。本人達が埋没するように振る舞っているのだからな。
ランバルシア子爵家は、いや、ハワードの義父のランバルシア辺境伯は長きに渡る戦争を終息させた立役者だ。英雄と言ってもいい活躍をされた方だった。
ランバルシア家の創術を用いて戦争が終わったことを一体どれ程の者が覚えているのか。
ランバルシア辺境伯は戦争が終わると共に領地から出てこなくなったし、その娘夫婦は王都に住んでランバルシア子爵を名乗っているが目立たぬように暮らしている。
ハワードも周りの者に分からぬように人畜無害な男を演じながら、王国を影から創術で支えている。
ハワードのことを理解している者など片手くらいしかいないのではないか?
そんな特殊な家系の者で普段連れを伴わない男がエスコートしている女性など限られてくる。
アルムよりも年下に見えるということは、妹御のシェラルージェ嬢か。
公の場で見るのはかなり久しぶりだな。
幼子だった頃の面影はあるが、あどけなさを残してとても美しく成長したようだ。母親のルイーゼ夫人にも似ている。
ハワードの周りに悟らせない隠しぶりにも驚いていたが、こんなに美しく成長していたら隠したくなる気持ちも分かるか。あれではいつ攫われてもおかしくないからな。
まあ、隠していた理由は他にあることは分かっているが……。
それにしても、なぜシェラルージェ嬢が表舞台に出てきたのか。
何かあったのか? 息子や娘からは何も報告は受けていないが………。
思案しながらアルム兄妹を観察する。
アルムを見ていれば、何処の家の者が現状を把握しているか分かるというものだ。
ある程度挨拶が終わったのか、アルムが一人で動き出した。
そろそろ私のところにも挨拶に来るかと思って見ていると、馬鹿二人が何やらおかしな動きをしているのが見えた。
(はあー、なにをするつもりなのか)
頭の痛いことに我が息子と王太子が何やら計画しているようだったが、どうなることやら。
あの二人はたまに馬鹿としか言いようのないことをしでかすのだ。
まだ青二才だが、自分の尻ぬぐいくらい、自分で出来るようになってもらわなくてはな。
これから国を背負って立つのだ。
どの様なことも自分で考え解決していかないといけなくなるのだから。
私は黙って成り行きを見守ることにした。
この後の騒ぎを予測できていたならば、何が何でも馬鹿二人を止めていたのだが、それは知るよしもなかった。




