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プロローグ【幼少期の影山秋】

【幼少期の影山】

 僕は母親にねだって買ってもらった『小さい魔女』を、はらはら、どきどきしながら読んでいる。ページをめくる度に、そこには夢が詰まっていて、まるで「こっちにこないか」と僕に手招きしているようだった。この公園のベンチはいつも僕の特等席だ。風に揺れて流れてくる若葉の匂いがとても気持ちいい。僕と同じぐらいの子たちはブランコや滑り台で体全身を使って楽しそうに遊んでいる。僕は今、ホウキに乗って街の明かりを見下ろしながら空を飛んでいる所だ。空を飛ぶって、どんな気分なんだろう。月にこんばんは、と言ったり、フクロウと好きな本を一緒に読んだり、きっと楽しいに決まってる。空に思いを巡らせていると、砂場の方で声がする。


「かえしてよ」


 女の子が体格のいい男の子に本を取り上げられて泣いている。

 小さい魔女に「いっておやり」と言われた気がする。僕は魔女に「少しここで待っててね」と言うと、砂場に向かう。

 女の子は、だいじな本だから、かえして、と何度も男の子に言っているけど、男の子は、一向に本を取り上げたままだ。僕が本を取り上げられたら、どんな気持ちになるだろう。すごく悲しくなるだろうな。だからあの女の子も泣いてるんだ。僕が行って助けてあげないと。


 僕が砂場に入ると、体格のいい男の子が、さらに大きく見える。

 女の子は手を伸ばして本を取り返そうとしているけれど、届かない。

 僕は二人に近づき、男の子に向かって

「かえしてあげなよ」

 と言う。すると男の子は

「なんだおまえ、うるせえな」

 と言って僕の頭をげんこつでぶった。

 僕は生まれて初めてげんこつを喰らったことにビックリする。ビックリした後、頭の上の方が熱くなってきてヒリヒリと痛くなる。


「いいか、逆らったらぶんなぐるからな」

 男の子がそう言ってくる。僕は、痛さと怖さが同時にやってきて、もうこんな思いはしたくない、と思った。

「わかった、ごめんなさい」

 そう僕が口に出すと、みるみるうちに涙があふれてくる。

「ごめんなさい、もうしません」と繰り返す僕は、その言葉を言うたびに涙がどんどん出てきて止まらなくなる。


 満足した男の子は女の子に本を返してくれた。

 男の子が公園から出て行った後、女の子とベンチに戻っても、僕の涙は止まらない。魔女もきっとあきれ返っているはずだ。なんでこんなにも悲しいんだろう。そんな僕を、女の子は付き添ってなぐさめてくれる。そしてこう聞いてきたんだ。

「きみも本が好きなの?」

 ってね。僕が

「うん、大好きなんだ」

 と言うと、涙はどこかに行ってしまった。

 女の子は『かいけつゾロリ』の本を持っていた。僕も好きな本だ。家に3冊もある。僕と女の子は『かいけつゾロリ』の面白さを夢中でたくさん話した。同じぐらいの年の子で、本のことをいっぱい話せるのが初めてだったから、とても嬉しかった。

 しばらく話していると、茂みの方から何か、小さな声がするんだ。僕達はゾロリ探検隊となって「あるくぞ、あるくぞ、どんどんいくぞ」と歌いながら冒険に出かけたんだ。


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