夕暮れ時に百合の花は咲かない
夕暮れ、教室、女子高生が二人。
「ねぇカナ、今日どこか寄って行かない?」
「……また? 中間試験そろそろでしょ、たまには家に帰って勉強でもしたら?」
ショートカットで少し服装のだらしない一人が、眼鏡で黒髪の優等生に声をかける。
「いやーそれが、ちょっと家に帰りたくないんだよね」
「あ、大丈夫大丈夫。重いヤツじゃないから」
「どれぐらいの軽さ?」
「そだねぇ、私の財布の中身ぐらいだねぇ」
「定期的入れより軽い理由で帰りたくないなら帰って参考書でも開くべきだと思うけど」
「それがさー、今日水曜じゃん? オカンパートの日じゃん? 兄貴大学早く終わる日じゃん?」
「喧嘩? お兄さんと仲悪かった記憶ないけれど」
「普通なんだけどさー、兄貴アタックかけてた人にがっつり振られちゃってちょっと目覚めちゃった訳よ」
「何に」
「アニメ!」
その言葉に優等生がため息を一つ返す。
「……オタク?」
「その二つの違いなんて私にはわからないけど、お兄さんの趣味の変化と最初の話題の関係の方がもっとわからないわ」
「まぁオカン帰ってくるまで兄貴が居間のでかいテレビで女の子ばっかのアニメ見てるから帰りたくないないってだけ」
「自分の部屋に直行すればいいじゃない」
「あー……」
ショートカットの彼女が言葉を詰まらせる。が、すぐに口を開く。
「いやそれがね、見てるアニメってのが女子高生ばっかり映ってる訳ですよ! これはもう現役女子高生にしてみればウェッとなること間違いなし!」
「知らないわよ」
「男女比率おかしくないって聞いたら、男子はいらないとのことで」
「それの何が気に入らないのよ」
「こんな女子高生いねーよって」
「創作なんだから当然でしょ。あなたの好きな某ネズミも世界中どこに探してもいないわ」
「あれはほら……夢じゃん」
「じゃああなたのお兄さんも居間で夢を見てるのよ。失恋したんでしょ、そっとしておいてあげたら?」
「そう! その通りだからそっとするために健気な私はわざと帰りを遅らせるのであった!」
「……お金ないなら市の図書館でいいかしら?」
「さっすが話しがわかる! やっぱり成績良い人は違うね」
「違わないわよ」
ため息をひとつついてから、優等生の彼女は席を立つ。
「ところでそのアニメ面白いの? えづくぐらいは見たんでしょ」
「いやーそれがね、女の子同士がこう手を恋人繋ぎなんかしちゃってね、見つめ合ったりポワポワしたりするの」
「確かにそんなのいないわね」
「ねー」
そう言ってショートカットの彼女は、優等生の頬に軽くキスをする。
「だって私ガチだからね!」
「……それはあなただけだから」
「またまたぁ、本当は恋人つなぎしたいんでしょう?」
「そんな女子高生いないんでしょう?」
「じゃあ……こうだね」
腕を組もうとするショートカットを、優等生が払いのける。
「まんざらでもないくせに」
「はいはい、そういうのは試験が終わってからね」
「終わってからならいいんだ」
「アニメ見るぐらいならね」
「兄貴も一緒?」
「男子はいらないんでしょう?」
下校、夕暮れ、校門前。頬を寄せるショートカットと、少し押しのける優等生。
花の女子高生の二人に、百合の二文字は似合わなかった。