2時間目(1)スクール・ゴーレムを作ろう!
おまちかね、総合学習の時間になりました。
「さぁ、今日はみんなで『ゴーレム』を作りましょう! あ、学校の学習用ですから、『スクール・ゴーレム』ですね」
マキナ・アイ先生がえいっ! と右手の杖をゆり動かすと、黒板の上をチョークがすべります。
瞬く間に『スクール・ゴーレムをつくろう!』という字が書かれました。姿は見えませんが、妖精のコンソル君が今日もがんばっているようです。
「スクール・ゴーレム?」
「なんだそりゃ?」
「すげー!」
「おもしろそう!」
クラスのみんなの反応は様々です。でもこれから始まる未知の授業に、興味津々なのは一緒のようです。
そもそも『ゴーレム』ってなんでしょう?
マキナ・アイ先生のいた異世界では、ごく普通の存在なのでしょうか。ファンタジーに詳しい花音さんや、一部の男子は知っているみたいですが……。
「まず『ゴーレム』というのは、この世界で言うところの『ロボット』と同じ意味です」
ふむふむ、ゴーレムはロボットなのですね。
電気で動くのがロボットなら、きっと魔法の力で動くのがゴーレムなのでしょう。私もだんだんとわかってきました。
「ゴーレムは人間の代わりに働いてくれます。魔法で動く人形です。金属で骨格を組んで、その上を革や布で体を覆います。人間そっくりな人形を作ったら魔法で命を吹き込みます。どう動かすかは魔法の命令しだいです。妖精とうまく対話しながら動きを教えていきます」
どうやら人形を魔法で動かすのですが、妖精に「どう動かせばよいか」を教える必要があるみたいですね。
マキナ・アイ先生は説明をしながら、右手に持った魔法の杖で、空中に立体的な映像を映し出しました。
「あれがゴーレム?」
「木の人形が働いている」
クラスのあちこちから声がします。
「自動的に動くタイプじゃないみたいですね」
「魔法使いが個別に動かしているようだが」
花音さんと利久くんが小声でささやきあいます。さすがです。パッとみただけでそこまでわかるなんて。
映像の中では、木を組み合わせたカカシのような人形が、何体も働いていました。
どこかの工事現場でしょうか。人間の指示にしたがって荷物を運んだり、スコップを持って黙々と穴を掘ったりしています。
近くには魔法使いらしき人物が何人かいて、手元で魔法円を光らせています。
「ゴーレムは、魔法使いがずっと面倒を見なくては動かないのですか?」
利久くんが手をあげて質問します。
「よく気が付きましたねリクくん。そうなんです。ゴーレムを動かすためには沢山の魔力が必要なのです。ロボットを動かすために電力が必要なのと同じですよ」
なるほど納得です。ゴーレムという人形を動かすには、魔法の力をずっと「オン」にしておく必要があるのですね。
電気みたいにコンセントがあるわけじゃなさそうです。魔法使いが付きっきりで動かすしかないのでしょう。
よく映像を見ると、ゴーレム数体を一人の魔法使いが動かしているようです。まるで操り人形みたいです。
「魔法使いは疲れちゃいます。でもゴーレムは危険な仕事を、人間の代わりに行ってくれるので便利なんです。たとえば、3階まで私を担ぎ上げる仕事なんかもこなしてくれます」
マキナ・アイ先生は、いたずらっぽく笑いました。
幸いにして、お目付け役(?)の剛田先生は他のクラスで体育の授業をしています。この授業の間は不在です。マキナ・アイ先生は、どうやら授業にかこつけて、自分の楽ができるゴーレムを作るつもりみたいですね。
「……コホン。今日のいちばんの目的は、みんなで『プログラミング』の基礎を学ぶということです。ゴーレムを動かすために必要な魔法の組み合わせを、みんなで試行錯誤しちゃいましょう。それがこの先、プログラムを組む考えかたの練習になりますからね!」
「はーい!」
「なんだか楽しそうね」
「プログラムでゴーレムを動かすなんて、すげーよな」
ゴーレムを動かす魔法の組み合わせを考える!
聞いただけでワクワクしますが、それがプログラムのお勉強になるみたいですね。
「ゴーレム用の人形を最初から作るのはとても時間がかかるので、今日はマネキンをお借りすることにしました。三上くん、田口くん、島崎くんと杉田くん、よろしくね」
「「「「はい!」」」」
後ろの席に座っている男子4人がいっせいに立ち上がると、まわれ右。教室を小走りで出ていきました。
「マネキンって、家庭科実習室にあるわよね」
「あー、そういえば置いてあったよな」
レンは家庭科実習室ときいて、少しテンションが上がったみたいです。編み物大好き男子なので、家庭科実習室も好きなのでしょうか。
「さぁ、今のうちに教室の真ん中に、作業スペースを空けましょう。机と椅子を寄せてくださいねー」
マキナ・アイ先生が指示を出すと、みんなで教室の机と椅子を動かします。丸く中央にスペースを空けて、マネキンを受け入れる準備というわけです。
教室の真ん中に直径5メートルほどのスペースができました。
クラスの皆は周りに片付けた椅子に腰掛けたり、机に腰掛けたりしています。そこへさっきの4人組が戻ってきました。
「えっさ」「ほいさ」
四人でマネキンを真横にして担ぎ上げて来ました。確かにあれは、家庭科実習室に置いてあった男性のマネキンです。
「なんだか強奪してきたみたい」
「四人がかりでマネキンを捕獲!?」
夏帆さんと花園さんが噴き出します。
「ありがとう、お疲れさま! では、マネキンを教室の真ん中に立たせてあげてくださいね」
三上くんと田口くん、それに島崎くんと杉田くんは、マキナ・アイ先生の指示通り、教室の中央にマネキンを立たせました。
マネキンの身長は170センチほど。ズボンを穿かせたり、シャツを着せたりできるように、両手両足がちゃんとあるタイプです。足首の後ろに金属の板があり、ちゃんと自立します。
今は短パンとタンクトップだけを身に着けています。露出している肌は、柔らかい樹脂製のようです。体つきは全体的に痩せ型ですが、胸板は少し厚いです。いわゆる細マッチョなのでしょう。
顔もよく見るとイケメンで、彫りの深い外国人っぽいです。でも髪は無くてスキンヘツド。先輩がやったのでしょうか、眉毛が太くマジックペンで落書きされています。
教室の真ん中にマネキンが設置されました。
スキンヘッドに太い眉毛。短パンとタンクトップ姿のマネキンが、円形に片付けられた机と椅子の中央に存在する光景は、なんといえばいいのでしょう。シュールといいますか、最先端の現代アートを見ているような感じです。
「……ぷっ!」
「うっ……くく」
「あはは……!」
みんな笑いをこらえきれません。思わず笑いの輪が広がりました。
マキナ・アイ先生はクラスメイトたちの真ん中に進み出ると、大きな円でマネキン人形の周りに円を描きました。二重、三重に円で囲みます。
さらにチョークで、円に沿って見たことのない魔法の文字を書きはじめました。妖精のコンソル君に任せずに、直接手で床に書く魔法の文字にはきっと意味があるのでしょう。
あっというまに、マネキンを囲むように魔法円が書き上がりました。
「大きな魔法円、これって儀式級の魔法かしら」
「剛田先生を召喚した時とは、書かれている文字の種類がちがうな」
花音さんと利久くんが、それぞれの見識で分析していますが、答えは出ないようです。
これから始まる魔法の儀式に、みんなは息を潜めます。神秘的な光景にようやく教室が静かになりました。
「えーと……このマネキン君は、なんて名前でしょう?」
「なまえ?」
「そんなのあったっけ?」
みんな顔を見合わせます。マネキンに名前なんて無いと思いますが。
「……『マユ次郎』」
隣りにいたレンがつぶやきました。みんなの注目が集まります。
「知ってるの!?」
「ねーちゃんの学年で落書きして、『マユ次郎』って呼んでたらしい」
「なぜに次郎……?」
センスの無い落書きに微妙な名前。ちょっとマネキンが可哀想ですが、マキナ・アイ先生にとってはそれで十分だったみたいです。
「了解! オーケイ、『マユ次郎』! 我が求めに応じ、宿れよ精霊、虚ろなる身に、かりそめの命を与えよ! ……操術人形起動術式ッ!」
マキナ・アイ先生が杖の先で魔法円をたたくように、気合を入れました。すごい、本物の魔法です。
床に描かれた魔法円が赤い輝きを発しはじめました。光が強くなると、中心に立つマネキンに向かって、光の輪が波のように集まっていきます。
「わ!?」
「きゃ!?」
光が重なり『マユ次郎』を包みこむと、ビキュン……! とマネキンの両目が光りました。そしてマネキンの首、肩、両腕、胴体部分、そして両足へと、レーザー光線のように輝くラインがえがかれてゆきます。まるで関節のような分割線が生まれました。
「さぁ、下僕として我が命に従え」
マキナ・アイ先生の凛々しい声が響きました。かっこいいです。さすがは本物の魔法使いです。
ギ……ギギギ、とマネキンが動き始めました。
両腕を持ち上げて、首を回し、腰をゴキゴキと動かします。右足、左足と持ち上げて、まるで体の感覚を確かめているかのようです。
「う、動いた……!」
「ちょっと気持ち悪いね」
『……眉ヲ、書イタノハ』
「え……?」
ぐるん……! と、首が私の方を向きました。真っ赤な両目が光っています。
「なんか怖い……!」
「なんかしゃべったし!?」
思った以上に禍々しいです。ぜんぜん可愛くありません。
『……オマエカァアアア!?』
ドドド! とマネキンがダッシュで向かって来ました。
「え、ぇえッ!?」
私は思わず悲鳴をあげました。足がすくんで動けません。え? なんで、なんで!? どうしてこっちに来るの!?
「ヒメ!」
その時です。とっさにレンが飛び出して前に立ちはだかってくれました。
真っ赤なマフラーが目の前でひるがえったかと思うと、レンは、ビシィ! とマフラーを棒のように両手で構えました。
まさか武器のつもりでしょうか? 手編みのマフラーで相手の動きを封じるなんて、できっこありません。
「――待て! おすわり!」
でも心配はいりませんでした。レンが私の前に飛び出すのと同時に、マキナ・アイ先生の鋭い声が響いたのです。
『……ハウッ!』
しゅたんとマネキンの『マユ次郎』は床に座りました。ズザザ……と、正座したまま床の上を滑って止まりました。
間一髪でした。
「「ふぅ……」」
私とレンは思わず同時に息を吐きました。
「姫子ちゃん! 大丈夫!?」
夏帆さんや他の女子たちが、心配そうに声をかけてくれました。
「ちょっとそこの眉毛マネキン、なんのつもり?」
花園さんはマネキンに抗議しています。
「ごめんね、ふたりとも。驚かせて」
マキナ・アイ先生が慌てて駆け寄って、マネキンの頭を押さえます。
「あ、いえ」
「大丈夫です」
「このマネキンに宿らせた精霊は、言うことを聞かない子なの。いたずら好きで……ほら謝りなさい、オペレッタ」
マキナ・アイ先生が『マユ次郎』の頭をぺしぺしと叩くと、妖精が姿を見せました。
オレンジ色の服を着た、女の子っぽい姿の妖精でした。髪の毛は赤く燃えるような光を放っています。
背中の羽をふるわせながら、マネキンの頭の上で「あぐら」をかいて座ります。
「これがゴーレムを動かす魔法、妖精オペレッタよ」
『ゴメンよー? 冗談だよ、じょうだんー』
なんだか反省している感じじゃありません。けどイタズラ好きな妖精のしたことですからね。
「あ、大丈夫です」
それより、レンがとっさにかばってくれたのが意外でした。マフラーで止めてやるぜ、みたいな行動はどうかとおもいますが……。ちょっと嬉しかったです。
「レン、その……」
ありがとう、と言おうとしましたが、レンはマネキンのほうに歩み寄って行きます。そして手作りの赤いマフラーを、くるりと『マユ次郎』の首にかけました。
え? どういうことでしょう?
「ほらな、こいつ赤いマフラーが似合うと思ったんだ」
満足そうにマネキンの『マユ次郎』をながめるレン。
タンクトップに赤いマフラーという姿に、クラスのみんなが笑います。ちょっと緊迫した空気も消えてしまいました。
「な、なんなのよ、もう」
「べつに、マフラーが余ってただけだし」
「余るって……、意味わかんない」
つまり、私をかばってくれたというのは勘違いだった……ということですか。ですよね、だって綾織レンですから。
あれ? でも確かさっき「ヒメ」って名前を呼んだような……。
『ア、アタイが赤が好きだからって……! べ、べつに嬉しくなんてないんだからな! マフラーは嬉しいけどー』
妖精さんがマネキンの頭の上で飛びはねます。赤い火の粉みたいな光が舞い散りました。
「気に入ってもらえたみたいだね、レン」
「……そりゃよかった」
「これからこのオペレッタに、いろいろな命令を教えましょう。つまりゴーレムを『プログラミング』しちゃうのです」
マキナ・アイ先生が教室のみんなに向かっていいました。
『言っとくけど、アタイはちゃーんと命令してくれないと、動かないからねー』
小生意気にあごをツンと持ち上げて、私たちを挑戦的な顔つきで見回します。妖精の性格もいろいろちがうみたいです。
「えー? なんだか難しそうじゃない?」
「ちゃんとって、どういうふうに?」
「プログラミングだから、動くように命令を組み合わせんじゃね?」
みんな口々に考えを口にします。
「おもしろい、やってやろうじゃないか」
頭脳派の利久くんは、逆に闘志を燃やしはじめたみたいです。
ゴーレムのプログラミング。
これは一筋縄ではいかないかもしれませんね。
<つづく>




