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1時間目(2)コンピュータと妖精さん


「魔法は限られた人しか使えませんね。でもコンピュータは便利な道具です。むずかしい機械や道具を、誰でも使えるようにって頭脳(・・)として働いてくれています」


 誰でも使えない魔法より身近なコンピュータ。

 遠くの親戚より近くの他人、みたいな言い方ですね。

 魔法が使えるマキナ・アイ先生に言われると、なんだか不思議な気持ちになります。周りをちらりと見回すと、みんな真剣な様子で耳を傾けています。


 機械の中には現代の『魔法の箱』――コンピュータがある。これは小学校の時、総合学習の授業でも同じようなお話は聴いた気がします。

 その時は「そうなんだ?」という感じでピンときませんでした。

 でもマキナ・アイ先生は、黒板に映し出した家電や機械の中身を、魔法で透明にして見せてくれました。まるでCGコンピュータ・グラフィックです。あれ? 魔法なのにコンピュータって、なんだかおかしいですね?

 そういえばテレビや映画で見かけるキャラクターや迫力ある映像は、すべてコンピュータで作っているって、お父さんが言っていました。

 いろいろな面で、魔法とコンピュータは似ているのかもしれません。


 黒板では白いチョーク()が文字を書いていきます。カツカツ、コツコツと書く様子は、まるで透明人間が動かしているみたいです。


 マキナ・アイ先生は今まで話した内容を、おさらいします。


『コンピュータが入っているもの。

 ・身の回りの家電製品(テレビ、冷蔵庫、洗濯機など)

 ・携帯電話スマートフォンなどの通信機器

 ・自動車、飛行機、社会を支えるインフラ(電気ガス水道、信号、発電所など)』


「こんなふうに、色々な場所、家電や身近なあらゆるものにコンピュータが入っています。陰から生活を支えてくれている働き者ですね」


 魔女先生の言葉にしたがって、黒板のうえを動く白いチョーク君。

 私はそこで気が付きました。

 先生の話の内容をそのまま一字一句、漏らさず書いているわけではないのです。

 どうやらお話の内容を判断して、必要な部分だけを書いている感じです。自分で判断するチョーク君。かしこくてとても優秀な助手さんみたいです。


「先生、魔法の国にテレビやスマホは無いんですか?」

「ゲーム出来ないんじゃつまんね……」

 一番うしろの席から島崎くんと田島くんの声が聞こえました。発言する時は手をあげてくださいね、と心の中で注意します。


「そうですね、みんなが考えるような『機械』はありません」


 マキナ・アイ先生は質問にたいして、ていねいにゆっくりと説明をつづけます。


「むこうの世界はわかりやすくたとえるなら18世紀、『中世ヨーロッパ』ぐらいの科学技術しかありません。水車で動く仕掛けや、町にひとつ大きな時計塔があるくらいです」


「中世ヨーロッパっぽい魔法の世界!」

「素敵、いってみたいね!」

 花音(カノン)さんと一ノ瀬(いちのせ)さんが盛り上がります。

 きっとお城があって王様がいて、イケメンの騎士とかわいいお姫様がいるんですね。それは素敵な剣と魔法のファンタジーな世界なのでしょう。想像しているだけで夢が広がります。


「自動車や空を飛ぶ飛行機、それに宇宙に行けるロケットまで創るこの世界は、すごく高度に発達した科学技術で支えられています。魔法の世界では同じような物はつくれませんから。だから私はここに来て、科学文明の進み方を勉強しているんですよ」


 魔女先生の目的がひとつ明かされた気がします。この世界で科学を学ぶことが、魔女であるマキナ・アイ先生の目的でもあるのでしょう。


「当たり前だと思ってたけど……」

「オレらって、そんないい場所で暮らしていたんだ」

 島崎くんと田島くんだけでなく、クラスのみんなも何かに気がついたような雰囲気です。


 私もマキナ・アイ先生に言われてはじめて気が付きました。

 いままでそんなに凄い世界で暮らしていたなんて、考えたこともなかったのです。たぶん、みんなもそう。あたりまえに電気がつかえてテレビが観れて、いろんな道具に囲まれた暮らしは、生まれてからずっと当たり前のようにありました。すごい科学の結晶、技術の集まりだなんて考えたこともなかったのです。


 なんだか誇らしいような気持ちにもなりますが、気が付かなかったことに恥ずかしい気もします。


 するとマキナ・アイ先生はすこし話を変えました。


「みなさんも私の暮らしていた世界のこと、気になりますか?」


 なります! とみんな言いました。気になります。どんな暮らしをしていたのか、ご飯は美味しいのか、なんでも知りたいです。教えてください。


「これから先、授業の中ですこーしずつ明かしていきます。だからしっかり、先生の話を聴いてくださいね」


 はい! とみんな目を輝かせます。なんだかいい感じにクラスの一体感がたかまります。雰囲気をのせるのが上手いです。


「じゃぁ手始めに、この白いチョークの秘密を教えましょう」


「魔法で動かしているんですよね?」

 いちばん前の席でずっとチョークを見ていた夏帆(かほ)さんがいいました。タネも仕掛けもない、本物の魔法だって私も思っていました。


「うふふ、魔法であることは間違いありません。でも、もう少し詳しく説明すると、コンピュータと同じような仕組みを使っているんですよ」


 えっ? という反応です。

 魔法は科学と似ているけれど、気合と根性。超能力みたいな、そんな感じだとばかり思っていました。コンピュータと同じような仕組みとはいったいどういうことでしょう。


「魔法を支えているのは……この()です」


 マキナ・アイ先生は杖を、すっと黒板に向けました。すると白いチョークのまわりに何か、モヤモヤとした半透明の、煙みたいなものが見え始めました。


「ん……?」

「なに?」

 みんな、黒板の中央に浮かんだままの白いチョークに、ぐっと注目します。


 やがて輪郭(りんかく)が、ハッキリとした人の形をとりはじめました。小さい人間みたいなもので、背中には半透明のトンボみたいな(はね)がはえています。

 それは妖精(ようせい)でした。


「あっ!? 妖精(ようせい)だ……!」

「ホントだ!」

「すげー!?」

妖精(ようせい)さんかわいい!」

 一番前の席にいる夏帆(かほ)さんや二番目の席にいる私には細かいところまでハッキリと見えます。すごいです、白いチョークを動かしていたのは、妖精さんだったのです。


『わっ……!? ちょっ、や、やめろよ!』


 甲高い声が聞こえてきました。チョークを両腕で持ったまま、悲鳴をあげて教室の方を見てかたまっています。


 妖精はよく見ると青い服を着た小さな男の子です。

 くりくりの大きな瞳に、ちょっと長めの緑の髪。耳はとがっています。かぼちゃみたいな形をした白いパンツから、ほそい(あし)がのびています。

 その姿は、童話やおとぎ話の挿絵ではおなじみの、妖精そのものでした。


「あ、妖精がチョークを動かしていたんだ……!」


 レンが一歩遅れて感心してます。マイペースです。


『コラー、おまえら、見せものじゃないぞ!』


 チョークを振り回して、顔を赤くして怒っているようです。可愛いです。


「うふふ、ちょっと恥ずかしがりやさんなので、姿を隠していました。この子は汎用使役妖精(マルチフェアリー)のコンソルくんです」


「コンソルくん……」

「一匹ほしい」

 私もレンと同じ意見です。連れて帰りたいです。


「魔法において、妖精や精霊はとても大切な役割を演じてくれます。物を動かしたり、炎を操ったり、あらゆる魔法にこのような妖精や精霊が、陰で働いてれるんです」


 なるほど、わかりました。

 魔法の世界で、魔法を手助けするのが妖精さん。

 科学の世界で、道具を制御するのがコンピュータ。


 似ているとは、そういうことなんですね。


「じゃぁ先生は、魔法の呪文でその子に、お仕事を頼んでいるんですね?」


 手をあげて質問をしたのは、魔法に興味がいちばんある花音(カノン)さん。


「するどいですね、そのとおりです。先生が魔法の言語で呪文をとなえて、コンソルくんに頼みました」


『そうだよ、めんどうなことさせやがってー』


 妖精さんは豊かな感情があるんですね。


「うふふごめんね。もうすこしがんばって。呪文で『私の言葉を聞いて』『チョークを動かして』『言葉を日本語で書いて』ってお願いしたとおり」


『わかったよ!』

 コンソルくんが飛び跳ねます。ゴニョゴニョと唱えていた魔法の呪文に、そんな意味があったんですね。


「妖精に仕事を命令するのは、こうした呪文をつかいます。さて……! では、コンピュータに仕事をさせるには何で命令するのでしょう?」


 マキナ・アイ先生がクラスを見回して質問します。

 

 えーと、なんでしょう? 機械が苦手な私は頭がまわりません。誰か答えて……と頭をちょっと低くします。


「プログラムです」


 声のするほうに注目があつまります。発言したのは果穂(カホ)さんでした。いつもの静かであまりしゃべらない印象の果穂(カホ)さんが、しっかりとした声で答えてくれたのです。


「プログラム……! 正解ですカホさん」


 マキナ・アイ先生がにっこりと微笑みました。


<つづく>


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