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第三章の二

入部届には、千葉の実家の住所を記入した。総武線の錦糸町駅が頭に浮かんでくる。

とにかく、大学の近くにマンションを借りていることは、誰にも知らせずにおこうと思った。

ユキが住所を記入すると、部員の女が、「あら、あなたも千葉なの?部長と同じじゃない!」と、声を上げた。

「え〜ナニ?堀田と一緒ってどこだよ。千葉つったって…あいつはほとんど東京寄りだぜ!たしか錦糸町じゃなかったかな?」

「あの〜私、千葉といっても、千葉市の向こう側ですから…部長のお宅からはかなり離れていると思います。部長は錦糸町から通ってらっしゃるんですか?」

こんな会話にもまったく興味が無い様子で、すぐそばで星野ひとみが、他の部員達と楽しそうに話をしている。

ここでもすでに、彼女は人気者になっているらしい。

さっきまで、つまらなそうにお菓子を食べていた部員達が…特に男子部員達の目が輝いている。

女子部員達も、ひとみが何か言う度に楽しそうに笑っている。

向こう側の世界……とユキは思った。

「堀田先輩遅いなぁ、先にミーティング始めようぜ!」

「あっ、そうそう、マサキのやつ、柏木教授に呼ばれてるから今日の部会は出れないかも、って言ってたっけ」

その言葉に、やっと星野ひとみが反応した。

「なんだ、じゃあもうミーティング始めちゃいましょうよ。私も今日は用事があるし、さっさと終えて帰りたいわ」

それにはみんなも同意した様子でうなづき合った。


ミーティングは、新入部員の紹介と、夏の合宿の候補地選びで終わった。部長の堀田がいないので、3ヶ所の候補地が選ばれ、今度のミーティングで最終決定される事になった。彼と一緒に旅行できると思うと、ユキはワクワクしてきた。

堀田が出てこなかったのも、かえってホッとした。不得意な自己紹介を彼の前でしなくてすんだのだ。

ミーティングが終わると、ユキはすぐに校門へ向かった。今日はそのまま部屋へは帰らずに、また総武線に乗ってみようと思った。(錦糸町まで行って戻って来ればいい)理由は無かったがそうしたかった。ユキの総武線通いは、その日から部活がある度に、毎週行われることになった。

ユキが総武線に乗った頃、堀田はやっと柏木教授から解放された。遅くなったので部室へは寄らずに、そのまま近くの駅前にある定食屋へ向かった。

部活の仲間がよく利用する店だ。(誰かいるかも…)そんな気持ちでマサキは店の中をのぞいた。

案の定、今日伝言を頼んだ山根と、いつも一緒につるんでいる小向がいる。

「ちゃんとみんなに伝えてくれただろうな」

「伝えた、伝えた」

小向が口をはさんだ、「堀田が来ないと、最近は星野さんが仕切るらしいぜ。ちゃんと候補地は3ヶ所決めたし、もちろんお前が希望した長野も入れておいたよ」

堀田は山根の隣に座って、カツカレーを頼んだ。山根は銀ダラ定食をうまそうに食っている。

カウンターに肘をついて、堀田は山根の顔を見た。「星野さんかぁ、彼女カリスマ性あるよな、新入部員なのにみんな結構言うこと聞くじゃん?」

「うんうん」山根は相変わらず夢中で飯をほおばっている。

と、小向が山根の肩越しに首を伸ばして、「そうだよなぁ、もっとも、彼女カワイイから俺許しちゃう」と言った。

すると、最後の一口を呑み込んだ山根が、「ちょっといいよね〜、いや、だいぶいいかな」そう答えた。

この3人があの日、ユキを入部に誘ったのだ。だが3人にしてみれば、ユキのことなど何も憶えていない。

山根と小向は今日のミーティングでユキが自己紹介した時でさえ、ついに彼女を思い出すことはなく、初めて見る新入部員として受けとめた。

「そういえば、今日入部した女子が一人いるんだけど、名前はえ〜と、え〜と…何て言ったっけ?」と、小向が山根の方を見る。

「安堂ユキ」山根が上目使いに小向に促す。

「そうそう、その安堂ってヤツがさ、堀田の家と同じ方角に家があるって言ってたな」

「ふ〜ん、でどんなタイプ?」と堀田が興味を持った。「どうって…思い出さないくらいフツウかな。ただやけに背がでかかったな」

「そうか」堀田は大柄な女はあまり好きではないので、それだけでユキの話は終わった。


この時の堀田は、まだこの2人と同じ世界にいた…。

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