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第八章の二

「どうしたんだ?最近のスキー部は……何かギクシャクしてるよな。前は結構まとまってたんだがな」

山根が堀田の隣で呟いた。2人は久々に部室で、部員が集まるのを待っていた。

確かに山根の言う通り、新入部員が入った頃から、徐々に部員の集まりも悪くなってきている。

退部した者や体を壊している者を合わせると、かなりの人数…特に女の部員が減っていた。

以前だったら部会があると、早めに部員達が集まって、堀田達が来るまでおしゃべりをしていたものだが…

今では堀田達が、なかなか集まらない彼等の来るのを待っている。

さすがに、大雑把な山根も部員のまとまりの無さが気になった。堀田の方は、自分そのものが、今は何に対しても熱意が湧かないので、ただボンヤリと山根の話を聞いている。

「ああ、そうだな」と生返事を返した。

部室のドアが開いて、誰かが入って来た。

星野ひとみだった。星野はドアの所に立ち止まると、ジッと堀田の方に目を向けた。

山根は一瞬、声をかけるのをためらった。

いつになく星野の周りの空気が張り詰めているのだ。見据えられた堀田は、久しぶりに会う星野ひとみのが眩しくて、顔を伏せた。

以前とは違って、今の自分は好きな女を思うようなエネルギーさえないのだ…と思った。

山根は不思議そうに2人を見比べていたが、「俺、ちょっと席を外すよ」と言って、ドアの外に出た。

後ろ手にドアを閉めると、ちょうど河合ミカがこちらに向かって歩いて来る。

「山根さん!どうしたんです?」

「うん、今星野さんが入って来てさ…堀田に用があるみたいだから」

「気を利かせた…んですね」

「そう言うこと」

「ということは、他の部員、まだ来てないんだ。最近集まり悪いですね」

「そうなんだ……何故だろうな?」

「空気が重いから…ジャナイカナ?私もこの冬、本格的にスキーやってみて、それで空気が同じなら辞めるつもりです」

「本気かよ!お前までか〜。そういえば合宿中にサーフで怪我したみたいだけど、その事と関係あるのか?」

河合は黙った。あの時の事はどうしても言いたくないのだ。

話たとしても、誰にも分かってもらえないだろう。河合は山根の問いには答えず、

「他の部員が来ちゃいますよ。中へ入りましょう」そう言って部室に入ってしまった。

確かに、他の部員が何人かこちらにやって来るのが見えた。仕方なく山根も部室に入った。

中はシーンとしていた。堀田も星野も黙っている。河合まで静かだった。

(重いな…)かに、空気の重さを、今しっかりと山根も感じていた。

後からすぐに他の部員達が入って来た。男の部員が、久々に会った星野ひとみに声をかけた。

「体の具合どうですか?もう治りましたか?だいぶひどかったみたいですね」

その声で、星野もいつもの自分を取り戻したのか、明るい顔でそちらを見ると、元気な声で返事をした。

「有難う!だいぶイイみたい。そういえばミカさんも怪我大丈夫?私も先週まで通院してたから、連絡もせずにごめんなさいね」

と、やっと河合に声をかけた。

本当は、ミカに連絡を取ると、変な話をしてしまいそうで怖かったのだ。

河合ミカの方もそれは同じだった。ひとみもミカも、安堂ユキを中傷することになる話題は避けたかった。

もしそうなったら、本当にスキー部が壊れてしまう……そんな気がしたのだ。

「うん、有難う。私こそ……顔の傷もほとんど分からない程度で、それも後何年かしたら消えるそうだから…」

「そう…良かった」

星野達がそんな話をしている間も、堀田は決して星野の方を見なかった。

やっと部員も揃ってきて、それぞれ話始めた。そしてだいぶ遅れて、最後にユキが現れた。

今のユキには、自分は堀田の彼女だという実感があるので、妙に堂々としている。

悪くいえば、ふてぶてしい。最初に部室へ現れた頃には、必要以上に遠慮がちで、オドオドしていたのが嘘のようだ。

ユキは一番後の席に座って、机に両肘をついて手を組み顔を乗せた。星野と河合ミカは最前列の席にいる。

今日は文化祭に何をするかと、冬の合宿をいつからするかが議題だ。部員が次々に思いついた事を言い始めた。

ユキはお化け屋敷の案を出したが、夏の合宿で実際に怖い状況を体験した部員が多くて、却下されてしまった。

結局お決まりの焼きそばとカレーの屋台をする事になった。

冬の合宿は出来るだけ早く、スキー場に雪が降り次第始める、ということで、部会はお開きになった。

ユキが、「お化け屋敷をしましょうよ!」

と言った時に、振り返った星野ひとみと河合ミカの、何とも言えない青ざめた顔を、ユキはじっくりと楽しんだ。

もともとそれが目当てで出した案なので、山根が星野達を庇うように急いで多数決を取り、

「却下!」と言った時も、お腹の中で(ふんっ)と思っただけだった。


「何でアナタ学園祭にお化け屋敷やろうなんて言ったの?ほとんど女子は気味悪がってたわよ。」

部員が帰ってしまった部室には、山根と河合それに安堂ユキだけが残っていた。

今少し前に堀田と星野ひとみが出ていったばかりで、後からユキが出ていこうとするのを、河合ミカが呼び止めたのだった。

「何ででって……みんなが、そんなに怖がるなんて思わなかったから……何でみんな怖いのかな〜

合宿の時、私は見ないけど、女子は見た人が多いから、かえって面白がってやるのかもとおもったのよ。

そんなに気味悪い事だなんて、私がビックリしました」

「何かって……見たり感じたり、聞こえたりした物はみんな違うと思うけど、でもそれが、今までは経験したことのない

<実存するもの>だってことは分かるから、気味が悪いんだわ。あなたが体験しなかったのは、あなた自体が魔物だからじゃないの?」

ミカは吐き捨てるように言った。ユキは黙っている。

黙ったまま相手に喋り続けさせる事で相手のエネルギーを奪い去り、マイナスな気分にさせるいつもの方法だ。

言葉には出さないが、頭の中ではいつも反論し、自分を攻撃している相手に三倍返ししている……確かに、魔としての素質は充分だ。

「私が部室に入った時も、ひとみが堀田先輩のこと元気付けてたけと、ムダヨネ! アナタみたいな人が彼の周りをうろうろしてたんじゃね……

そりゃみんな、もう大人だから何をしようが自由だけど、相手のエネルギーを奪うような付き合い方だけは止めなさいよ。

そんな事してると、アナタいつまでも不幸よ!」

そう言い切ると、ビックリしている山根をしりめにサッサと部室から外へ河合ミカは出ていった。

ドアを閉めて独り廊下に立つと、目の下の傷跡がほんの少し傷んだ。医者が言うように、この傷跡は綺麗に消えるのだろうか?

そんなかすかな不安を今は抱えている河合ミカだった。

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