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第四章の七

しばらくの間、堀田はユキの姿を見ていない。

夏期合宿までの2ヶ月間は、スキー部も部活としての集まりがない。そのせいか駅でユキと出会うこともなかった。みんなそれぞれ学業が忙しいのか、週末は一人家で過ごすことが多い堀田だった。

ただ、星野ひとみとだけは、図書室で出会っては帰りがけに、お茶を飲みながら話しをする機会が増えた。それは、今まで閉ざされていた部屋に風穴が開いたように、堀田にとっては初めて体験する爽やかで楽しいひと時だった。

やがて2ヶ月が過ぎた。ユキはこの2ヶ月間、ワザと堀田には近づかぬようにして遠くから2人を見つめていた。

(クッ付くんなら、早くクッ付いちゃえばいいのよ!どうせすぐダメになるんだから)そんな気分だった。

堀田は最初から自分の男と決まっていて、星野ひとみは割り込んできた余分なものでしかない。ひとみが好きな男も、堀田が好きな女も別にいるのだ。勝手にそう決めつけている。

堀田がひとみを向いているうちは、そばにいると無駄なエネルギーを使うし、嫌な思いもする。

そんなこともユキは本能的に知っている。だから逆にできるだけ早くクッ付けて、早く嫌にならせる方がいい……そう思っていた。

(クッ付いた男と女なんて、モロイもんよ。見張っていれば壊すチャンスなんて幾らでもあるわ!)

呪文のようにいつも頭の中でそう思いながら2人を見続けた。だから直接2人には会わないが、2人が関わる人間には、むしろ積極的に接近して行く。相手の気に入るように振る舞い、安心させ、して欲しいことをしてやり、自分に何でも話すように仕向けて行く。

ユキにとってそれは、堀田をつけたのと同じように楽しいゲームなのだ。今まで、その方法で、祖母や母まであやしてきている。

幼い頃ユキに頭をタイルにぶつけられた妹でさえ、今の所ユキにあやされ、ユキになついている。

ユキは、人を悪い方へ操る事が大好きなのだ。だからその事には底知れない自信があった。


今ユキは山根に接近していた。山根は頭が良く練れた大人だ。その分、人には大容なのでユキにとってはもっとも御しやすいタイプだ。

最初は不信顔だった山根も、今ではユキを自分を頼る後輩だと思い、何かにつけてユキがそばにいても気にしなくなっていた。

むしろ、いつも色んな用事を片付けてくれるので、最近ではユキの不在に不便さを感じることがある。

それはちょうど何の取得もない女が、たまたま捕まえた男をダメ男に調教するやり方と同じだ。何もさせないことで、何もできない人間に変えてしまう。

ついには彼女の存在がないと生きられない人になる。

だから……嫌でも一生離れることがない……、やり方は同じだ。

今日はユキと夕飯を食べる事になり、いつも寄る駅前の定食屋に来ている。午後の講義に必要なノートを駅に置き忘れ、困っているところへちょうどユキが現れた。困っている彼を見ると、心よく彼の代わりに駅まで取りに行ってくれた。お陰で山根は他の講義も欠席せずに済んだ。

お礼に夕飯をおごろうとここに連れてきたが、逆にバイト代が入ったからとユキがおごってくれる事になりそうだ。

勿論、バイト代の話は嘘だ。相手に都合のいい存在であり続ける……、今のユキはそれに徹している。その甲斐があって今もここにいる事ができる。仮に堀田がここに来たとしても、山根が連れて来たものと思い安心するはずだ。

通常、人が面倒だからそこまでは出来ない…と思うところまでユキはやる。それが面白くてたまらない。そうとは気付かずに、ユキのことを手下扱いして、おごりきったヤツラの顔を見ているのはどんな映画を観るより楽しかった。

ことに、頭が良いと周りから一目置れているようなヤツほどやり甲斐を感じる。そんなヤツが、上からユキを見下ろすようにしゃべっているのを見ている時が、ユキにとっての至福の時……何時間でもその時間をアメを舐めるように楽しむのだった。


「アンドウナツ、何にする?俺はいつもの焼き魚定食だけど。ここは魚が得意なんだ」

アンドウナツ…最近、山根はユキのことをそう呼んでいる。(うんとバカにしたらいい!その分、後でお前の痛手が増えるんだから)そう思っているユキは、どう呼ばれてもニコニコしている。

「何がいいかな〜」そう言いつつ、肉料理を探す……。生姜焼き定食と肉ジャガ定食しかないので生姜焼き定食を頼んだ。

「そういえば、鎌倉以来、小向先輩見かけませんけど。山根先輩は会ってるんですか?」小向は、江ノ島バーベキュー以来、大学であまり姿を見かけない。

「いいや、しばらく講義には出ないってのは聞いてるけどね。それより、お前サーフィンやる気ないか?教えてやるよ。夏の合宿はスキーできないだろ。だから代わりに俺達は海でサーフィンやるんだ。どっちも体の使い方似てるからいい練習になるぜ」

面倒見の良い山根は、早くもユキにものを教える気らしい。ユキは気分がいいが、やる気はない。もともと水泳が得意なユキは、海では思いきり泳ぎ、みんなをビックリさせたかった。

「な〜んだ、だから九十九里になっちゃったんだ。最初、堀田部長が長野を押してたのに、急に変わったから変だな〜て思ってたんだ。サーフィンか〜、凄いですねぇ。堀田先輩も、結構やってるんですか?」

「うん、あいつはまだ今年初めて。今までに5〜6回習った程度かな。でもヤツは感がいいから、もう結構様になってるよ。お前どう?」

山根は本気らしい。ユキはチラッと山根の目を見た。

「私なんかより、星野さんに教えてあげたらいいのに……彼女、サーフィンやりたいって言ってましたよ」

またしても、ユキはヌルリと嘘をついた。

「星野さん?彼女やりたいって言ったの?」

「ええ、この間、図書室で会った時誰か教えてくれないかな〜って言ってましたよ。私は今ちょっとムリ……本当に、星野さんに言ってあげてくださいよ!彼女、凄く喜ぶだろうな〜彼女ほとんど毎日、夕方は図書室にいますから…行って話てあげてください!」

「図書室ねぇ〜…機会があったらな…」山根の口調はハギレが悪い。

だが口調とは裏腹に、山根の頭には星野に会う自分の姿が浮かんでいた。

ちょうどその時、堀田が定食屋の前を通っていた。のれんの隙間から中を覗くと、山根が安堂と飯を食べながら話をしている。

山根とは久々に話たかったが、安堂が一緒なので入るのはやめて真っ直ぐ駅に向かった。

(ヘェ〜山根と安堂か……)

少し奇妙な気がしたが、そんなことは今の堀田にはどうでもいい。次の瞬間には、もう彼らのことは頭になかった。


何日か後、山根は図書室で星野ひとみを見つけた。夏期合宿に向けサーフィンの練習に誘うと、ひとみはちょっと考えていたが、参加すると答えた。

星野は最初、山根から誘いを受け戸惑ったが、前から山根のことはスキー部で一番信頼できると思っていたし、何より夏の合宿で他のことをするよりは、はるかに有意義な時間が過ごせそうに思えた。

山根は自分だけでなく新入部員全員に声をかけたものと思い、山根が自分を誘ったのはごく自然な事だと思った。

合宿まであと2週間しかないので、とりあえず合宿の下見を兼ねて、週末は九十九里の海へ一緒に出向くことになった。

「堀田先輩も、もちろん一緒に行きますよね」星野は、堀田が行くのは当然という顔つきだ。

最初山根に九十九里に星野を連れて行く話を聞いた時は、かなりビックリしたが、山根と星野のどうしても一緒にという強硬な誘いに気を取り直した。

(しかし、また何で山根が……星野さんと?この間は安堂と一緒だったし…)という戸惑いの気分はそのまま残った。


当日、山根が運転する車で現地に向かった。星野が河合を誘い、ミカも一緒に行く事になったが、河合は自分が運転するものとばかり思っていたので、山根が車で迎えに来ると聞いて驚いた。

「山根先輩運転するんだ!大丈夫なの?」河合は不安気だ。

「サーフィンの時はいつも彼が運転するんですって」星野がおかしそうに笑った。

「だったらこの間、少しは変わってくれたらいいのに!一言も運転できるなんて言わないから……」

江ノ島までずっと運転手をしていたミカにしたら、最もな思いだ。そのことが分かるので、星野は可笑しかった。

「でも、男の人のそういう変てこさが私は好きよ。楽しいじゃない」

本当に、星野は山根のモッソリした大容なところが大好きだ。

「マァ〜いいか…。今度は海でビールが飲めるぞ!楽しみ〜」結局ミカも楽しいらしい。

山根の車は四駆を備えたブルーの大きめのワンボックスだ。

ただし車の横に<<〜山根せんべい〜>>と書かれている。

「山根先輩の家、ひょっとしておせんべい屋さん?」山根の車に乗るとすぐに河合が聞いた。

「そういうこと。しかし、この車見るとみんな必ず同じこと聞くな〜。せんべい屋ってそんなにインパクト強い?」

「山根先輩に、似合い過ぎてるんですよ!ね〜ミカ?」星野は河合に同意を求めた。

「確かにね〜」河合もそのことに違存はないようだ。

海に着くまでの間、そんな雰囲気で始まった3人のおしゃべりは楽しく続いた。そんな中、堀田は急に星野に接近した山根に、今まで無かった距離を感じている自分にてこずっていた。

星野との会話もいつになく、ギクシャクしてしまう。せっかくのみんなの気分を壊すまいと、現地に着くまでの間、堀田はずっとみんなとの会話にいつになく神経を使った。

九十九里に近づくと、道路沿いに又ラブホテルの看板が目立つようになった。

「先輩!ラ・ブ・ホ・テ・ル。今日もバッチリ!ツーペアですよ〜」と河合ミカが山根をからかう。

「どうゆう組み合わせ?それによるな〜」今日は山根も応戦する。

「じゃ〜ムリだな!山根先輩だけペアの相手いないもの」

「そんなことないだろ〜、な〜星野さん?」話を振られて星野は、いかにも冗談ぽくすぐに言い返した。

「私と山根先輩で、ペア組みます?」冗談とは分かっていても、ドキッとするひとみの言葉に堀田は完全にいつもの平静心を失った。山根の存在を、初めて不愉快なもの感じた。

海岸近くの駐車場に車を置くと、ウエアやボードを下ろして、4人で海岸まで運ぶ。もともとサーファーの河合が、星野にウエアを貸してくれた。

ミカは小学生の時から波で遊んできたらしい。山根も河合のボードさばきを見て、自分より上手いと判定した。とはいえ、河合は遊ぶことに専念したいと言うので、山根が星野に教え始めた。教える山根の表情もかなり真面目だが、教わる星野の方も真剣な顔付きでそれに応えている。

そんな光景を祝福はするものの、時間が経つにつれだんだんと寂しい気分になってくる。

今いち波に乗り切れずに堀田は砂浜に横になった。見上げると、さっきまで真っ青だった7月の空は、水平線の方からだんだんと黒ずんだ雲に覆われ始めた。風も強くなっている。こうゆう天候が、まさにサーフ日よりなのだが、調子の悪い堀田にはただの悪天候でしかない。

そばに河合がやって来たので手招きする。河合も着いてからずっと海の中にいたので、かなり疲れたらしくそばに来て腰を下ろした。

手を翳して、空模様を見ている。「崩れてきたわね」

「サーファーとしちゃ〜これからが本番じゃないの?」

「うん、でも今日はもういいや。上がってビールでもやるかな〜」

「賛成!」2人で山根たちに向かって上がるサインを出した。夢中になっているらしく、山根も星野も、なかなかこちらを向かない。

「2人とも頑張るわね〜あれで結構2人して気が合ってるのかもね」

「どうする?呼びに行く?」とは言ったが、堀田は彼らのそばに行くのは気が引けた。

「私が呼んで来る」幸い河合が立ち上がって、彼らに向かって駆け出した。それを目で追いながら、ふと堀田は星野と初めて図書室で出会った、爽やかな日を思い出していた。

あの日の星野のブラタナスの妖精のような姿が、ずいぶんと遠くの方へ霞んで行ってしまうような、そんな気がした。

その代わりのように、安堂ユキのキラキラとした目が何故か頭の中を横ぎって行った。


堀田達のいる海岸から歩いて10分程の所に、合宿所に決めた町営の宿があるので4人連れだって、海沿いの小道を歩きだした。砂浜の所どころに、昔使われていたのだろう、木造の船が朽ち果てた姿で半ば埋もれている。

砂防林の松林が、そうした船達が吹き寄せられたように横たわる白い砂丘と小道の間に、まるでグリーンの縁どりのように続いている。

小道の脇には小さな川が、草に覆われ流れている。その草はよく見ると、沢山の可憐な淡い黄色い花をつけていた……月見草だ。夕暮れと夜の闇との間で、ひっそりと咲き始めている。

その幻想的な光景のせいか、みんな黙々と歩いて行く。日頃おしゃべりな河合ミカも、今は静かだ。誰かが古いアメリカのヒットソングを口ずさんでいる。

<ヘイ ポーラ 覚えているかい?…>山根だった。

山根は低い声で歌い続ける

<あの日からは…大切な人……キット〜キット〜…>

<ヘイ ヘイ ヘイ ヘイポール覚えているわ…あなただけが大切な人よ〜いつまでも……>星野が重なるように歌い出した。ハッとした顔で山根が星野を見た。

「へぇ〜この歌知ってるなんて!驚いたな〜」

「うん…母がよく歌ってるから」あとは遠慮なしのハーモニーになった。

<好きと言わなくても…ワカッチャウ2人…いつまでも変わらない…2つの心…いつまでも>

歌声があまりにも周りにしっくりと溶けこんでいるせいか、堀田も河合も心を委ねるように、2人の歌声に聞き入っていた。

穏やかで美しい情景は、人の心に眠っている"やさしさ"のユリカゴになるらしい。さっきまで堀田が抱いていた、山根と星野2人へのわだかまりが消えていく…。

一旦遠ざかった妖精の姿をした星野の代わりに、生身の女、星野ひとみが、しっかりと堀田の目の前を歩いていた。

もし、ここに彼女しかいなかったら、肩を抱きしめ…くちづけ…したい、そんな生身の衝動が初めて堀田の体を揺さぶった。

「あっ!ここね!」「ここよ!ここ!」

河合と星野が一緒に声をあげた。目の前に、薄いブルーのペンキで塗られた木造の洋館がある。

堀田はこれまで、何度か山根や小向達とこの建物を利用してきた。近くには漁師の家もある。干したアジの開きの匂いがする。磯の匂いと一緒になって、4人の食欲を誘う。

「そう、ここ。雰囲気あるだろ?でもここは飯出さないから、先にあそこの食堂で飯食って来よう」

山根の提案に従って、すぐそばにある漁師の経営する食堂に入った。大ざっばな造りで床はない。

地面の上に直接木のテーブルと椅子が置かれていて、客席と台所はヨシズ一枚でしきられているだけだ。

4人で入ると店の主人らしい赤ら顔のオヤジが、客の漁師に料理を運んでいる。

「何かイイカンジ〜ビール頼もう!それとアジの叩き、ハマグリご飯もあるよ!」河合ミカが嬉しそうにはしゃぐ。

みんなお腹がペコペコなので、はじからある物を頼んで食べていった。最後におでんとカレーを頼んでやっと落ち着いた。

「しかし、お前カレー好きダヨな〜どこへいってもカレー頼むよな!」

こんにゃくをほうばった山根が、凄いはやさでカレーを食べている堀田に言った。

「そういえば、ひとみも毎日学食ではカレーよね」

河合にそう言われて、ひとみは堀田と顔を見合わせた。

「そうね〜私もものすごいカレー好きかも…堀田先輩もなんだ!」堀田はちょっと赤くなった。

「それより、さっきの歌…いい歌だったな〜山根があんなにいい声だなんて知らなかったよ」

そう言って堀田はビールのお代わりをした。

「堀田先輩飲み過ぎると寝ちゃうんでしょ?」星野が心配そうに堀田の顔を覗く。

「いいんじゃない、後は帰るだけ、運転手は俺だし。今度は河合さん運転してよ」

「うん。今度!今度!今日はもうビール飲んじゃったからダメダヨ〜」

「ヤラレタな〜!仕方ない、みんなの為に頑張るか。その代わりみんなでここは奢れ!」

「イイデスヨ」星野はすぐに承諾した。他の2人も仕方ないというように肩をすくめた。

お腹いっぱい食べ終わると、もと小学校の宿舎を見学しに戻る。

宿舎には管理人の夫婦が居るだけで、食堂も無く、食事は自分達で自炊するシステムらしい。「貸し別荘みたいなもんだな」山根が説明した。

「中は自由に見てくれってさ!」そう言って、男達2人が先に靴を脱いで上がっていく。

ガランとした、天井の高い玄関で、小学校の時と同じようにゲタバコに靴をしまう。

内部は、昔教室だった部屋の幾つかに、畳を敷いただけで、部屋には鍵もないガラスの引き戸だ。あとはお風呂場が設置されているだけで、思いきり昔さながら、小学校のままにしてある。

「コレャ〜安いわけだ!でもかえってムードあるじゃない、私こういうの大好き!」

と河合が、長い木の廊下を、子供のように走りながらはしゃいだ。「黒板もついたままダヨ!…オルガンもある!」と、河合は先に幾つかの部屋を覗いては、みんなに手招きする。

いつの間にか、みんな小学生に戻ったような気分になっていた。女達はよほど気に入ったらしく、「また来るからね〜」と、帰る時も外から建物に向かって、バイバイのしぐさをしていた。

星野達女性がすっかり気に入った様子なので、堀田達も、安心して車に戻った。

「しかし、アンドーナツも来れば良かったのにな〜」

帰りの車を運転しながら、山根が思い出したように、誰にともなく言った。

河合が不思議そうに聞く、「アンドーナツ?て……」

「安堂ダヨ、なかなかいい呼び名だろ!せっかく3人一緒に入部したんだからさ、あいつも来れば良かったのにな」河合は返事をしない。星野はちょっと困ったような顔になった。

「そう言えば、最近お前安堂さんと一緒のこと多いよな?」堀田は江古田の定食屋を思い出した。

「ああ〜、最近何故かなつかれてな。あれでなかなかいい所あるんだぜ」

「へぇ〜惚れられてんじゃないの?お前」堀田は"なつかれ"たという言葉に、少し複雑な気持ちになった。一時は偶然会うことも多く、自宅にまでついて来られてウンザリもしたが、彼女が現れなくなってみると自分の追っかけを、他の新人にとられたスターのような、妙な気分がする。

「そうかもな!俺っていい男だからさ〜」山根があまりにもアッケラカンと言うので、みんなで大笑いになった。堀田も複雑な気持ちで笑った。

みんなの笑いが納まると、ふと河合が真顔に戻り、山根に以前も垣間見せた大人の声で忠告した。

「あの人…けっこう大胆だから、注意するのよ。山根さん」

星野には、女同士、河合のそんな気持ちがよく分かったが、男にはそれは分からないらしく、

「ご忠告有難う」と軽くカワサレてしまった。

「ま〜確かに、大胆だけどね。何考えてるかわからない女よりは、楽かもな……」

堀田はそう言いながら、今初めて安堂ユキという女に少しだけ興味を持った。

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