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第2話



 連中からすれば、ただの家畜風情であるコッココがそれなりに大切に扱われてているのが滑稽であったのだろう。

 古代やその後の時代がどうでどうなるかは知らないが、その時代……家畜と言えば家の外……または離れの温室に囲って育てるのが普通だった。そんな事実を考えれば、疑問に思うのもおかしくはない頃だろう。


 だが、そう思ったとしても、それらの感想は胸の中にだけ留めて置いて欲しかった。


 勇者達は我々の現状を大いに嘲笑ったのだ。


 そんな行為を許してしまった我らは亡き夫人……この家に住んでいたご主人の一人に申し訳なくなった。


 アントワーヌ家の麗しき婦人、カトリーヌ・アントワーヌ。

 現在この家に住む、グランゾ・アントワーヌご主人の大事な故人であり、奥方だ。


 我らコッココの先代は、貴族界の可憐な花であったカトリーヌ様が、艱難辛苦の人生を経てその高名な生家を追放された際、彼女の唯一の友として選ばれた。


 ゆえに雨の日も晴れの日も、喜びの日も悲しみの日も、我らはカトリーヌ様とともにある、全てを分かち合って来たと、ご婦人自身の口から聞いている。


 だから我らも、トキワ村にきてつがいを見つけ家庭を築いた後も、屋内で家族の一員として過ごしてきていたのだ。


 それだと言うのに……。

 その絆をどこぞの物とも知れないただの勇者に否定され嘲笑され愚弄されて、どうして我慢できようか。


 平然とした顔で民家を荒らしに踏み入り、奴らは立ちふさがった我らを腰につけている棒きれのようなもので我らを無情に打ちすえた。

 

 我らが無礼を働いたというのなら、まだ分かる。

 親の仇だというのならば、仕方がないと思うだろう。

 だが、


 彼らの行いには理由がなかった。

 いや、理由とも呼べぬものは一つある。

 それは、ただ暇だったから弱き者から搾取したというもの。


 我らの家は勇者の暇をつぶす為に、荒らされたのだ。

 そこに立ちふさがった我らも、必要以上に無残にも打ち据えられた。


 結果は言わずもがなだ。

 所詮は標準レベル一の生命体。


 我らは集団で勇者をかこい、屍になるまでその肉をつつきまわそうと思ったが、容易に蹴散らされてしまった。

 どんなに数をそろえて束になってかかったとしても、勇者には敵わなかったのだ。


 我らはただ、高笑いをする勇者たちに成すすべもなく返り討ちに合い、ぼろきれの様に無残にも地面に転がるのみである。


 物言わぬ骸となった仲間達を見下ろして、我らは涙を流さずにはいられなかった。


 妻がいたものもいた、子供がいたものも。

 添い遂げる約束をしていたつがいのものも、友情を育みあっていたものも。


 彼等は等しく、物言わぬ骸となってしまった。


 ああ、無念なり。


 そして、その日勇者が去っていった後に、我らは決意した。


 あの非情な勇者共に、必ずや血の復讐を。




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