第四章 アマンダ、空を飛ぶ!?
わたし―山ノ井春音は、アマンダさんを後席に乗せた零式練戦「ツー135」の座席を上げて、飛行眼鏡をかけた。
「行きますよ!」
ブレーキを開放し、スロットルを一番奥まで押し込んで、全開にする。
まずは、下げ舵で機体を水平にする。速度が九十ノットを越えたところで、上げ舵にして、離陸した。
高度二千メートル。零戦が得意な高度だ。零式練戦は、普通の零戦と違って前席が開放式キャノピーだから、まわりの音がもろに聞こえる。
ドドドドドド・・・・・
「ん?」
後ろを振り向くと、ヤスの操縦する烈風がすぐ後から飛び立っていた。栄とはまた違ったハ43の音が響く。
わたしは、無線機をとった。
「こちら神崎二番。感度良好、機体に問題なし。」
無線機のスイッチを「送」から「受」に切り替える。
《こちら神崎一番、感度良好。機体問題なし。》
ヤスの声が聞こえてくる。
わたしは、アマンダさんのほうを振り向いて言った。
「さて、どこまで行きましょうか?」
「とりあえず、あなたの判断にお任せします。」
「わかりました。」
わたしは、無線機を「送」に切り替えた。
「こちら神崎二番。ヤス、福島空港まで飛ぶよ。猪苗代をちょっと回ろう。」
「受」に切り替える。
《わかったよ、ハル。僕が先導する。》
そう言うやいなや、烈風がわたしの前に回り込んだ。
南西方に進路をとる。
「アマンダさん、よっく見といてくださいね。」
たしか、そろそろだったはず。この航路は、オーバーホールが終わった飛行機の試験飛行航路だ。よく知っている。
「Oh~! It is bautihul!(うわ~!きれい!)」
アマンダさんが叫ぶのも無理はない。だって、眼下にはエメラルドグリーンの水を豊富にたたえた裏磐梯の池や湖が広がってるんだもん。
操縦桿を前に倒し、高度を下げた。檜原湖の水面が間近に迫る。すれすれのところで操縦桿を手前に引いて、上昇した。
「酸素マスクは大丈夫ですか?」
「だいじょうぶです。」
わたしは、少し舌を出してみた。先っぽに、ひんやりとした酸素が出ているのがわかる。じゃあ、ちょっとアレ、やろっかな~♪
「アマンダさん。」
伝声管に向かって語りかける。
「アクロバット飛行していいですか?」
「What!?」
「行きますよ!」
アマンダさんが伝声管ごしになんか行ってるけど、気にしない。
操縦桿をめいいっぱい手前に引いた。一瞬で天地がひっくり返る。
「わやややややややややややややややや!」
後席で、アマンダさんが変な悲鳴を上げている。
「よしっ・・・・・宙返り成功!次は宙返り反転だ!」
さっきと同じように、操縦桿を引きつける。天地がひっくり返り背面飛行に移った瞬間、操縦桿を右に思いっきり倒した。
機体が激しくロール(横転)する。水平飛行に戻った。
さらに、上昇途中にエンジン出力を抑えて、左フットバーを思いっきり蹴る。機体が急激に左に曲がった。
「よしっ!『ひねり』成功!」
さらに、操縦桿を横に倒して背面飛行状態になると檜原湖の水面にダイブした。
衝突寸前で機体を起こす。エメラルドグリーンの水面が頭のすぐ上を通り過ぎた。たぶん、手を伸ばせば届く。
伝声管でアマンダさんにきいてみる。
「どうでしたか?」
「死ぬかと思いましたよ!!!」
思いっきり怒られた。
福島空港上空をぐるっと回って、桑折飛行場に帰投したわたしたち。
「あ、足ががくがくします・・・・・・」
アマンダさんが膝をがくがくさせながら翼から滑り落ちる。
「大丈夫ですか?」
「え、ええ。」
わたしに手を取られて立ち上がると、滑走路わきに移動した。
隼人さんが移動車を使って、機を格納庫に押し込む。
ヴァラララララララララ!ガガガガ、ギャッ!
ヤスの操る烈風が着陸する。
「ふー、ひさしぶりに烈風ぶん回したけど、やっぱりこいつはいいな。零戦と同じ感覚で動かせる。」
ヤスもどっか途中でアクロバット飛行をしてきたらしい。機体の燃料が私のよりも多く減っていた。
「すごいですね。お二人とも。あの水面スレスレまで行く技、五年くらい海軍にいますけど見たことありません。」
そんな言われると照れるな~。
「わたしはずっと駆逐艦でやって来たので、飛行機は乗ったことなかったんです。今回の技を拝見して、イベントが成功する自信がつきました。」
それはよかったよかった。
アマンダさんは、今夜は日本に泊まって、明日の朝帰るそうだ。
「では、パールハーバーでお会いしましょう。」
アマンダさんは、わたしたちにLINEの連絡先を教えると、アメリカに帰って
行った。
保信「保信とぉ!」
春音「春音とぉ!」
みやび「みやびのぉ!」
三人『次回予告~!』
―♪守るもせむるも黒金の 浮かべる城ぞ頼みなる・・・・・・・
保信「さて、今回はアマンダさんが空を飛びました。ハル、ちょっとは自重してよ。」
春音「ごめんごめん」
みやび「お客さん乗せてアクロバット飛行するとは・・・・・・・」
春音「もうしないから。」
保信「では、ここらへんで次回予告しちゃいましょう!」
みやび「次回は、いよいよ真珠湾に向けて出発!それでは皆さん」
三人『お楽しみに~!!』