第一章 南国からの招待状
「はい、じゃあ着陸するので、脚だしてください」
零戦ミュージアムの動態保存機、零式練習戦闘機「ツー135」の後部座席、そろそろ、着陸するころだ。
申し遅れました。どうも、神崎保信です。零戦ミュージアムの学芸員兼、指導パイロットです。
僕、保信と親友のハルこと山ノ井春音は、無事に大学を卒業し、零戦ミュージアムに就職した。パイロットの資格は、大学在学中に取ってある。
ここでは、「零戦操縦教室」を行っていて、僕とハルは、その教官だ。
ガッタタタタタタタ
飛行機の着陸後、風防を開けた。
「じゃあ、降りた後は、全体を点検してください。」
点検終了後、レッスンを終えて、建物に入る。
「神崎保信、ただいま帰還しました。」
「あ、お帰り~」
顔を上げたのが、ハルこと山ノ井春音だ。大学でのゼミが同じ縁で知り合った。零戦の免許をとったのも同じタイミング。まさに「同期の桜」だ。
ここは、旧大日本帝国海軍桑折飛行場の跡地を利用している。滑走路や掩体壕は、当時のままに復元してある。保存されてる飛行機は、零戦から烈風まで、第二次大戦の日本機だ。
ハルの手には、雑誌「飛行機ファン」十二月号が握られている。「特集!この冬行きたい航空系博物館、日本の戦闘機の系譜」の文字が表紙に踊っていた。
「ねぇねぇ、ヤス!これにね、うちのことが載ってるの!」
そういやぁ、この前雑誌の取材が来てたな。これだったのか。
「どれどれ・・・・・・」
二人一緒に紙面をのぞきこんだ。
《零戦ミュージアム(福島県桑折町)
桑折駅から車で走ること数分、零戦ミュージアムがある。ここの特徴は、「全ての保存機が飛行可能」だということだ。
駐車場に入った瞬間、滑走路においてある零戦が見える。ここでは、日に三回、デモ飛行が披露される。さらに、実物の零式練習戦闘機を使用した運転体験もすることができるのだ。
今回の担当教官神崎保信さんは、二十歳ぐらいのさわやかな方だ。
さて、学科講習と点検を終えて、人生初の零戦のコックピットである。神崎さんは、懇切丁寧でわかりやすい指導で操縦のイロハを教えてくれる。
離陸後、一時間ほどの飛行を楽しんで、飛行終了。一日コースの場合は、これで終了。二日コースの場合は、次の日も学科講習なしで二時間の飛行を行う。
なお、体験には事前予約が必要。》
懇切丁寧でわかりやすい指導なんて・・・・いいこと言ってくれるじゃん。
飛行帽を脱ぎながら、内心ほほ笑む僕だった。
ガチャ
「保信君、お疲れさま。」
ドアを開けて入って来たのは、ここを経営する会社「ゼロファイター・ジャパン」の社長さん、高信祐樹さんだ。後ろには、メカニックの釆女隼人さんもいる。
「そろそろ、冬季休業の時期だね。」
たしかに、そろそろだな。
「飛行機の整備もありますからね~」
冬は、定期点検の時期だ。今日で、ミュージアムはいったん休業。エンジンを専門の工場に送って、オーバーホール、機体も整備するんだ。
三日後・・・・・・零戦ミュージアムの冬季休業一日目。
オーバーホール作業が始まった。
工場の天井クレーンでエンジンを外して、黒トキと呼ばれる専用の貨車に積み込む。ちなみに、この貨車は、籍はJRだけど、所有はうちだ。桑折駅までつながっている専用線を通して、JRを利用して運ぶ、最近、トキは減っているらしく、鉄道ファンの人気の的らしい。
うちの所有のタンク式蒸気機関車が三両の貨車の先頭に連結された。
「隼人さん、無事故で桑折駅までお願いしますよ。JRへの引き渡しは十一時半ちょうどですからね。」
「わかってるって。お召列車転がしたこともあるわしに任せろ。」
うちの整備員で元整備兵の隼人さんが運転台から顔を出して笑った。ちなみに、徴兵前は国鉄の機関士だったらしい。
みやびが機関助士としていっしょに乗り込んでいる。
「出発進行、発車ぁ!時刻よし!制限二十五ッ!」
「はい出発進行ぉ、発車ぁ!時刻よーし!制限二十五ぉ!」
二人の喚呼の声が響き、隼人さんが逆転機ハンドルと加減弁ハンドル、自動ブレーキ弁ハンドルを操作しながら笛弁ペダルを踏む。
フォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!
ボッ、ボッ、ボッ、ボッ・・・・・・・・・・
シャシャシャシャシャシャシャ!
汽笛の音とドラフト音が周囲を圧倒して響き渡り、シリンダーから噴き出した蒸気が周りに立ち込める。
ガシャン!クィィィィィィィィ・・・・・・・・
連結器のぶつかり合う音と貨車の車軸がきしむ音とともに、零戦の「栄」、烈風の「ハ43」、紫電改の「誉」が、猪苗代にある工場に向かって送り出された。
貨車たちが去った後。
「そういえば・・・・・・」
信さんが、ポケットから封筒を取り出した。
「二人あてに、手紙が来てたよ。」
受け取る。表面には、筆記体のアルファベットが並んでいるが、あいにく僕は英語が苦手だ。こんな時は・・・・・・
「ハル、たのむ!」
丸投げ。
「ん?どれどれ・・・・」
ちょっと目を通して、ハルはすぐに言った。
「アメリカ海軍からだね。『真珠湾攻撃九十周年記念プロジェクト実行委員会』って書いてあるよ。」
「ありがとっ、さすが英検一級だね。」
つけていた皮手袋を外して、封筒の上を破りとる。
便箋をハルが受け取って、読んでくれた。
「う~ん、イベントへの出演依頼だね。自衛隊にも声をかけてあるらしいね。開催日時は、来年の十二月八日。翔鶴と零戦隊の出演の依頼。」
「来年のこのころの運用予定は?」
信さんから受け取った各機の運用票をめくりながら、ハルが言った。
「零戦は五機みんなあいてるよ。パイロットは、『虎徹会』のメンバーに声をかけてみるかな。」
「虎徹会」は、零戦ミュージアムが主催する零戦パイロットの会だ。名前の由来は、エースパイロット岩本徹三のあだ名から。だいたいが、資格は持っているが機体は持ってない人だ。(そりゃあ、零戦は高いしね。)
《エンジンの音轟々と隼は征く雲の果て・・・・・》
突然、軍歌の「加藤隼戦闘隊」が流れた。信さんが、自分の携帯を取り出す。
「はい、もしもし・・・・はい分かりました。では、明日。」
携帯を背広の内ポケットにしまった信さんは、こっちを見て言った。
「ちょっと急用で明日は外すから、ここの管理は春音さんと保信君に任せたいと思うんだけど、いいかな?」
「はい、いいですよ・・・・って言うか、信さんほとんど来ないじゃないですか。」
信さんはだいたい、東京にある模型会社「ゼロファイター・ジャパン」の社長室にいて、だいたいの管理は隼人さんがやっている。
ちなみに僕とハルの二人は、零戦ミュージアムに住んでいる。一応近くには、コンビニも商店もあるし、電車で福島の街に出れば、いろいろあるから特に不自由することはない。
格納庫の外に出た。あたりには、雪が舞っている。
「ううっ、さっむ~」
ハルが、ツナギの飛行服の前をかき寄せる。
「早く中入ろう」
格納庫二階の居住スペースが、僕らの家だ。畳敷きで、冬になると、コタツが据えられる。
家の前につないでいた愛犬の「東亜」と「共栄」の首輪にリードを付けて、博物館の敷地を出た。
桑折駅前の商店街で材料を買って、料理をする。最近では、町の人たちに顔を覚えられて、飛行服姿でもびっくりされなくなった。
作った鍋を二人でつつきながら、雑談。この時期になると、だいたいが帰省の話になる。
「ヤスは帰省するの?呉でしょ?」
「するよ。ハルは?」
「う~ん、わたしは親も親戚もあんまりいないし、ここに残るかな。」
ハルは、親を交通事故で亡くしている。育ててくれた元パイロットのおばあちゃんは、つい最近亡くなったらしい。こっちに引っ越した後は、家も売り払ってしまったんだそうだ。
「ヤスも、家は誰もいないんでしょ?ねぇ、一緒にのころーよー!」
僕の両親は、海上自衛官だ。舞鶴所属の護衛艦勤務だから、年がら年中家にいない。
「弟がいるんだよ。」
ハルの目が、真ん丸になる。
「え?何それ、初耳・・・・」
あー、もう、あんまし言いたくなかったんだけどなー。
何を隠そう、僕は二人兄弟の長男だ。弟の名前は永信。こちらも僕と同じく軍事ファン。普段は一人でいるけど、たまには顔見せないと・・・・・・
「ふ~ん」
僕の話を聞くハル、その目が怪しく輝いてる。なんか嫌な予感・・・・・・
「ねぇ、ヤス、帰るとき、わたしも連れてってよ。」
(こう来たか・・・)
僕は内心ため息をつきながら、首を縦に振っていた。
保信「保信とぉ!」
春音「春音とぉ!」
みやび「みやびのぉ!」
三人『次回予告~!』
―♪守るもせむるも黒金の 浮かべる城ぞ頼みなる・・・・・・・
保信「さぁ、今回も元気に次回予告行きましょう!」
春音「でも、その前にお手紙が届いてるよ。」
みやび「作者さんあてですね。広島県にお住いの初霜実さんからです。」
保信「みっ、実!?」
みやび「『作者さん、わたしと永信はいつになったら出してもらえるんですか?早くしないと簀巻きにして柱島沖に叩き込みますよ。』とのことです。作者さん、出してあげましょうね。」
春音「それでは、次回はわたしとヤスが呉に向かいます。」
みやび「それでは皆さん」
三人『お楽しみに~!』
一方そのころ、柱島沖の駆逐艦「陽炎」最上甲板にて・・・・・
実「馬鹿作者!わたしたちのこと出すの遅すぎよっ!」
作者(簀巻き)「ごめんなさいごめんなさい!」
実「死なすっ!」(作者を海に叩き込む。)
作者「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
バッシャーーーーンッ!
実「悪は滅びた!」
作者「なんか最近僕の人権どうなってんの?って感じのが多いんですが・・・・・・・・」
実「自業自得ね」