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第十四章 真珠湾突入!

 遠くに真珠湾とそのまんなかに浮かぶフォード島が見える。

 僕―神崎保信は、額の位置まで上げておいた飛行眼鏡をかけると、左手をスロットルから放して、風防止金ラッチにかけた。

 そのまま一気に全開にする。

(淵田機からの信号銃は一発目はさも聞こえなかったかのように飛び続け、二発目で気づいて態勢を整える・・・・・・・っと。)

 風防は、開けといたほうが信号銃の音が聞こえやすい。ハルも同じような理由で風防は全開にしていた。

「真珠湾までの距離、あと二千メートル・・・・・・・」

 そっとつぶやく。

「千、九百五十、九百、八百五十・・・・・・・・」

 先頭を行く淵田機が風防を開けた。拳銃を持った手がニュッと突き出される。


 パァン!


 一発目が放たれた。艦攻隊が広がり、敵艦役のアメリカ艦に向かって海面スレスレの低空飛行で向かう。 


 パァン!


 二秒ほど後に、二発目の信号銃が発射された。

 僕たち零戦隊は、上空に広がり、上昇してくる敵機に目を光らせる。四機ほどのカーチスP40ウォーホークが上がってきた。

《行くよ!ヤス!》

 ハルの声がインカム越しに聞こえる。

「わかってるって!」

 僕はウォーホークの二番機に狙いを定めると、上方から一機に襲いかかった。ハルも、一番機に襲いかかる。

 スロットルレバーの一番先にあるスイッチを操作して、二十ミリに設定した。

 OPLの緑色の輪の中にウォーホークがぴったり収まる。

「目標補足!てぇっ!」

 スロットルにくっついている機銃発射レバーを握る。


 ドドドドドッ!


 ウォーホークが演出用の白煙を吐き出した。そのまま、フラフラしながら降下してゆく。一見危なっかしいけど、しっかりと態勢はとっている。プロの技だ。

(ウォーホーク撃墜の演技をしたら、ヒッカム飛行場への機銃掃射・・・・っと)

 地上に機首を向け、空砲の七、七ミリ機銃を放とうとした時だった。


 ピッ!


 インカムが鳴る。

《ヤス!、わたしに緊急事態!》

 悲鳴みたいなハルの声が聞こえてくる。

「どうしたの?」

《燃料がない。もう少しでガス欠する。》

 飛行中のガス欠は、墜落を意味する。かなりヤバい。

 フットバーを操作し、ハルの横に並んだ。

《ねぇ、どうしよう!》

 ハルの悲鳴がインカム越しじゃなくてもわかるほどだ。

(これが「四割頭」か・・・・・・)

 飛行中は、脳が普通の四割ほどしか働かなくなると言われている。パイロットたちは、この現象を「四割頭」といって、今のハルが、まさにそれだ。

 燃料がギリギリの場合、方法は一つしかない。僕は、インカムのマイクに向かって叫んだ。

「ハル!不時着だ!ヒッカム飛行場に不時着して!燃料はまだあるんだよね?みんなには僕が言っとくから。」

《でも・・・・・・・ヤスと離れたくない。いっしょに翔鶴まで帰りたい。》

 ハルが泣きそうな声で言う。

「いいから下りるんだ!あそこはあらかじめ決めておいた不時着場所だし、米軍側にも協力してもらってる!墜落するよりはマシだよ!」

 思わず大きな声が出た。となりを飛んでいたハルが、意を決したようにこっちを向く。インカムから声が聞こえてきた。

《わかった。不時着する。しばらく離れるね。》

 そう言って飛行眼鏡をとり、敬礼した。お互いに風防は開け放している。僕とハルの目が、一瞬、合った。

《じゃあ、またね。》

「うん、またな。」

 ハルは大きく右手を振ると、フラップを全開にして降下していく。

 ハルが無事着陸したのを見届けると、僕は翼を振って、進路を翔鶴の方向に取った。









 ヴァラララララララララ・・・・・・・・・・・・・・・ガキっ!

「みやび!ハルが燃料切れで不時着!アメリカ空軍ヒッカム飛行場に連絡を取ってくれ!」

「了解しました!」

 僕の指示で、みやびが伝寝室に向かって駆けていく。

 翔鶴に着艦した僕は、隼人さんに機体を預けると、急いで艦橋の信さんのもとへ向かった。

 ノックもせずに扉を開ける。中にいた信さんが顔を上げた。とりあえず、敬礼をする。

「翔鶴制空隊、一番機が燃料切れによりヒッカム飛行場に不時着。それ以外は全機帰りました。」

「えっ!?ハルが!?ちゃんと不時着できたかい?」

「はい、着陸に成功し、基地関係者に手伝ってもらって格納庫に機を押し込むところまで確認しました。」

「それはよかった。」

 そういう信さんの後ろの窓の外を第二次攻撃隊の飛行機が通過していく。その中に一機、水平爆撃隊の九七艦攻のコックピットに栗田さんの影が見えた。こっちに向かって敬礼をしている。

 艦戦、艦攻、艦爆の混成の編隊は、蒼穹に吸い込まれて消えた。

「第二次攻撃隊を収容したら、真珠湾入港ですね。」

「そうだよ。君とハルには、上空直掩をお願いする予定だったんだが、一人で大丈夫かい?」

 僕は、胸に手を当てた。

「だいじょうぶです。まさか、敵戦闘機が現れるとも思いませんし。」

 僕たち上空直掩要員は、真珠湾に到着したら、ヒッカム飛行場で整備を受けることになっている。

 補給を終えた自分の愛機「コオ―102」のコックピットに体を収め、第二次攻撃隊の到着を待った。

みやび「今回は、未帰還機に関して処理が大変なので次回予告はお休みです!」

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