第十章 旅立ちとアマンダさん再び登場
先に言っておきますが、この時実と永信は、「陽炎」艦長、副長任務を拝命していません。
「出港準備ーっ!」
「錨鎖詰め方ーっ!」
ガリガリガリガリ・・・・・・・・
強力なウィンチによって錨鎖が引き上げられた。先頭にいる赤城の艦橋から発光信号が放たれる。
ゴリゴリという音を立てて巻き上げられる鎖の横で赤と白の手旗を持った連絡係が艦橋に向かい合図を送った。
「両舷前進微速!百二十度ようそろ!」
「百二十度よーそろーっ!」
艦の最下層に設置されている八基の艦本式ロ号ボイラーがフル稼働で蒸気を作り、その蒸気が主機関の艦本式タービンに送られていく。
旗艦赤城のマストに「出撃」を示す信号旗がスルスルと上がった。
ボーーーーーーーーーーッ!
全艦の汽笛が初冬の単冠湾に鳴り響く。
カクンと揺れて、艦が動き出す。僕とハルは、飛行甲板に立って、その風景を眺めていた。今回は、第一種軍装の上に膝まである長いダブルのコートを着ている。
「いよいよだね。」
駆逐艦「磯風」、「浜風」、「谷風」、「浦風」を先頭に次々と動き出す艦隊を見ながら、ハルがつぶやいた。
「うん、いよいよだね。」
翔鶴の球状艦首が冬のオホーツク海の波を蹴って進む。
十一月二十六日、午前十一時二十分、六隻の空母と八隻の駆逐艦、三隻の軽巡洋艦、二隻の戦艦、さらに三隻の潜水艦、七隻の特務給油艦からなる我が艦隊は、単冠湾を出撃した。
今回は、当時を再現し、真珠湾攻撃と同じ隊形をとる。
艦隊の一番前には駆逐艦の磯風、浜風、谷風、浦風がお互いに十キロメートルの距離を開けて横一列に並び、その後ろには巡洋艦の利根、筑摩、阿武隈。駆逐艦東雲と特務給油艦東邦丸が縦一列に並んだ。
六隻の空母は縦に二列の体系をとる。先頭が赤城と加賀、その次に飛龍と蒼龍、三番目が翔鶴と瑞鶴だ。同じ列上に給油艦国洋丸、極東丸も続く。
護衛の駆逐艦霞、霰、給油艦日本丸は空母の左側、同じく駆逐艦不知火、陽炎、給油艦東栄丸は空母の右側を守る。哨戒隊の潜水艦伊十九、伊二十一、伊二十三は、空母と駆逐艦の間を航行し、しんがりを戦艦の比叡と霧島が務めた。
「これだけの軍艦が並ぶと壮観だな。」
「そうだね、でも寒いから、中入らない?」
ハルがコートの前をかき寄せながら言う。
「そうだな。中に入ろう。でも、そろそろアマンダさんが来る頃じゃなかったっけ?」
「ああー、確かにそうだね。」
アメリカ海軍中佐で今回の式典のアメリカ側代表者のアマンダ・サトウさんは、そろそろ北海道にある基地を輸送機で飛び立って、洋上の空母翔鶴に向かっているはずだ。一時間くらい前に飛び立ったらしいから、そろそろついてもおかしくないはず。
バババババババババババ!
プロペラの音が近づいてきて、双発式の機影が遠くに見えた。両側の翼の一番端にエンジンがついている。
「オスプレイで登場かぁ。まあ、空母に着艦することを考えたら一番いい選択だね。」
ハルが小さく呟いた。
翔鶴の真上についたオスプレイは、二つのエンジンを九十度まわし、プロペラを垂直にする。
ヘリコプターの様にホバリングしながら降りてきたオスプレイは、飛行甲板上でそのプロペラを止めた。
「お久しぶりです~!元気にしてましたか?」
アマンダさんが、大きく手を振りながら降りてきた。
「はい、元気でしたよ。」
敬礼をして出迎える。
「ハル~!会いたかったですよ~!」
ハルの姿を見つけるや否や、駆け寄って抱きしめる。
「あっ・・・・・はい・・・・」
アメリカ流(?)のあいさつに戸惑うハル。
「保信さんも、会いたかったです~!」
両手を広げてこっちに走ってくるアマンダさん。え!?、ちょっと男女間でさっきみたいなのをやられたら、誤解される気が・・・・・・・・・
僕に抱き着く寸前で、アマンダさんはオスプレイのクルーに呼び止められた。
「アマンダ中佐、我々はそろそろ基地へ帰りますが、荷物はよろしいんですか?」
アマンダさんが、凍り付いたように止まる。
「そうだった!忘れてた!待って!!まだ飛ばないで!」
急いでオスプレイに戻り、カバンを二個抱えて出てくる。
バラララララララララララララ!
荷物を降ろし終わると同時に、オスプレイはプロペラを回して飛び去って行った。
「ふう~、日本の空母って、結構大きいんですね。」
アマンダさんが、翔鶴の艦橋を見上げて呟く。
「この翔鶴は、当時の大日本帝国の威信をかけて作られた空母ですからね。真珠湾攻撃当時、妹の瑞鶴とともに南雲機動部隊の最新艦でした。」
ハルがアマンダさんに説明する。アマンダさんは、うしろに続く比叡と霧島のほうを見た。
「あれが戦艦ですか。動いてる戦艦はあまり見たことないですね。まさに、『浮かべる城』ですね。」
『え?』
僕とハルが同時に反応する。
「浮かべる城」は、日本海軍の軍歌「軍艦行進曲」の一節だ。中国や韓国で歌ったら拘束される。今でもメロディーは使われているけど、歌詞まで知っている人はなかなかいない。
ハルが口を開いた。
「それって、日本の軍歌の歌詞ですよ。どうしてアメリカ出身のアマンダさんが知ってるんですか?」
「え?これって軍歌だったの?わたし、知らないでずっと歌ってた。おじいちゃんがよく歌って聞かせてくれてたんだけど。」
アマンダさんのおじいさん、一体何者・・・・・?
「わたしが五歳ごろに死んでしまったんですが、どうやら日本海軍のアメリカ駐在武官だったらしくて、国際法とか軍艦とか、いろいろなことに通じてましたね。わたしにこれを遺してくれましたよ。」
アマンダさんがカバンから取り出したのは、かなり古い大学ノートだ。二十冊以上ある。そのうちの十七冊には、流れるような達筆で「日記」と書かれていた。
「これは、昭和十六年から二十年までの日記です。あとの三冊には、当時の国際法や軍艦についてが書かれています。わたしの海軍入隊試験の時、ずいぶん役立ちました。」
ノートを再びカバンにしまうと、アマンダさんはちょっと海のほうを見た。
「ちょっと荒れ気味ですね。霧もかかってますし。」
「たしかにそうですね。」
ハルも荒れ気味の海を見た。研ぎ澄まされた刃のような波は、舷側に打ちつけては砕け散る。
アマンダさんの部屋は、僕やハルと同じ並びにある士官室だ。一人部屋が用意されている。
「わたしの部屋のとなりですから、何かあったらわたしに言ってください。そちらとは言語も習慣も違うので、何かと不便も多いですが、その場合は言っていただければなんとかします。」
部屋に入ってくつろぐアマンダさんに、ハルが「間宮羊羹」を手渡した。
「Oh!羊羹ですね!わたし、日本のお菓子大好きです!」
アマンダさんが、うれしそうな顔で間宮羊羹を受け取る。そして、ノートが入ってないほうのカバンから、紙袋を五つくらい取り出した。
「これ、わたしが作ったマフィンです。よかったら食べてください。」
紙包みを受け取った。まだほんのり暖かい。中身を確認すると、翔鶴航空隊のみんなの分はある。
「ありがとうございます!」
紙包みを受け取ると、僕は航空隊の艦爆、艦攻それぞれの隊長にマフィンを渡し、甲板に出た。荒波は、艦を揺さぶり、もてあそぶ。まわりには濃い霧が立ち込め、となりを進む瑞鶴さえ見えない。
「なんか・・・・・・・・・いやな予感がするな・・・・・・・・・・・」
誰もいない飛行甲板上、僕は一人呟く。
「こういう時に限って、僕の予感は的中するんだ・・・・・・・・・」
保信「保信とぉ!」
春音「春音とぉ!」
みやび「みやびの~!」
三人『次回予告~!!』
♪スンブギチェキュラチョンガチェマンダ ソンブニチェキュラチョンガチェマンダ・・・・・・
訳:赤旗掲げて進撃だ 銃隊を先頭に突撃だ・・・・
三人『?』
♪コンギョ コンギョ コンギョッガブロ チャングンニメヒョンミョンパンシグン ペクトサボンゲチョロコンギョ ジョンイルボンムゲチョロコンギョ コンギョコンギョ コンギョッチョニダー!
訳:攻撃、攻撃、攻撃前進 将軍様の革命方式は、白頭山の雷のように攻撃 正日峰の嵐のように攻撃 攻撃攻撃、攻撃前進だ!
みやび「これって、人気の北朝鮮ポップス『コンギョ』ですよ!」
春音「いったい誰がこんなものを!?」
保信「あとで艦内放送で呼びかけよう。」
春音「だね」
みやび「それでは、次回予告行きましょう!次回は、わたしたちに緊急出動!?」
三人『次回、『比叡故障ス』。お楽しみに~!!』




