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第九章 新しい軍服

 海の向こうから、オレンジ色の太陽が登ってくる。吹きつける風の冷たさに、僕は着ていた第二種軍装の襟を掻き合わせた。ここは、択捉エトロフ単冠ヒトカップ湾。艦隊の集合地だ。

 艦橋の一番上の防空指揮所から、となりの瑞鶴を眺める。

 永信と実は、翔鶴ではなく瑞鶴に乗艦している。ちなみに、永信は私服のジーンズにパーカー姿。実はカーキ色のフライトジャケットにデニムのショートパンツだ。艦内では、映画も撮影中だから、ちょっと浮いちゃうな。

「ヤスっ、できたよー。」

 ハルが、紙包みを抱えてやってきた。

「どれどれ・・・・・・」

 包みを開けて中身を確認する。

「・・・・・うん、これならいいと思う。」





 カンカンカン


 包みを持ったまま下の電信室に降りると、電信係の七海ほのかさんに声をかけた。

「すいません、瑞鶴に打電をお願いしたいんですが。」

 ほのかさんがショートボブの髪の中から右耳のヘッドフォンを浮かせて振り返る。

「うん、いいよ!なんて打つ?」

「じゃぁ、『渡シタキ物アリ、神崎永信、初霜実ヲ翔鶴ニ呼ビ出サレタシ。』でお願いします。」

「わかった!」

 ヘッドフォンを元に戻したほのかさんは、机に向かうと、打電を始めた。


 ピッピッピッピー、ピッピッピー・・・・・・


 ほのかさんの長い指が電鍵の上で踊る。しばらくの間左手でヘッドフォンを押さえていたほのかさんは、こっちを振り向くと右手の親指を突き出した。

「瑞鶴より打電。『了解、スグニ向カワセル』だって。」

 甲板に上がると、瑞鶴から内火艇が向かってくるのが見えた。翔鶴に着いて、二人が舷梯を登ってくる。

「あ、お兄ちゃんだ。ハル姉ちゃんもいる。」

 永信が駆け寄ってきた。

「ハル姉ちゃん?春音さんじゃなくて?」

 ちょっときいてみると、永信がうなずいた。

「だって、お兄ちゃん、ハル姉ちゃんと付き合ってるんでしょ?だったら、二人が結婚して、春音さんが義理の姉になるかもしれないじゃん。」

 僕とハルの顔が一気に赤くなった。

「ど、どうしてそれを・・・・・・?」

 永信は、ケロリとした顔で続ける。

「え?艦攻と艦爆のパイロットの間で結構噂になってるよ。それよりも、二人に子供が生まれたら、僕、おじさんになっちゃうのか―。」

 ちょっと待てーい!話がぶっ飛んでるぞ!て、言うか、なんで艦攻と艦爆のパイロットがこのことを知っている!?

「うーん、噂の出どころは、翔鶴攻撃隊と爆撃隊らしいね。」

 まぁ、いっか。バレたものは仕方ない。

「ちょっとどいて。」

 永信を突き飛ばして、実が出てきた。

「ヤス兄、渡したいものって、何?」

 あぁ、忘れるとこだった。

「忘れるな!」


 パシッ!


「痛ったぁー!僕の部屋で渡すから、ついてきて。」

 実のツッコミが僕の眉間にヒット!僕は眉間をさすると、二人の先頭に立って歩き出した。

 艦内に下りて、中甲板にある士官搭乗員私室を目指す。僕とハルは、一応旧軍の階級で言えば士官だから、自分の部屋が支給されている。

 自分の部屋に永信と実を招き入れた。その後ろから、ハルもついてくる。

「はい、これ。」

 ベッドに置いておいた紙包みを二人に渡した。

「?」

 中身を取り出すと、永信が叫んだ。

「これ、軍服だ!海軍の下士官用軍装。夏と冬両方ある!お兄ちゃん、ありがとう!」

 この軍服は、ハルが作ってくれたものだ。ちゃんと二人のサイズに合うようにしてある。

「作ったのはハルだから、お礼ならハルに言ってくれ。」

「ありがとう!ハル姉!」

 永信が、ハルに向かって頭を下げた。

「いえいえ~。」

「あっ、わたしのにはズボンだけじゃなくてスカートも入ってる。上着の襟のあわせも永信のと逆だし、もしかして、女の子用?」

 実が、冬用の黒い上着を広げて光にかざしながら言う。

「そうだよ。実もおしゃれしたいでしょ?」

 さすがハル、女子の気持ちわかってるなー。

「うん、ありがとう!ちょっと着てみたいんだけど、どこか更衣室はない?」

「じゃあ、わたしの部屋貸すよ。ついてきて。」

「わかった、お姉ちゃん!」

 ハルと実はお正月に呉に行ったとき、すっかり意気投合したみたいで、お互いに「実」、「お姉ちゃん」と呼ぶほど仲がいい。

 二人が去った後、部屋には永信と僕だけが残された。永信が、「着ていい?いいよね?」という目でこっちを見つめてくる。

「永信も、着てみる?」

 そう言うと、永信は目を輝かせた。

「うん!着替えてくるね!」

 部屋を出て浴場に向かった永信は、すぐに着替えて戻ってきた。

「どう?似合ってる?」

 黒い下士官用の第一種軍装に身を包み、同じ色の軍帽をかぶっている。軍帽の前面には、海軍の錨のマークが付けられていた。はっきり言って、かっこいい。

「うん、似合ってる。」

「やった、ありがとう!実とハル姉ちゃんにも見せてくるね!」

 タタタタタっと駆け足で部屋を出ていく永信。あれ?永信って、ハルの部屋の場所知ってたっけ?

「おい、永信ーっ!」

 廊下に向かって叫ぶけど、返事はない。迷子にならないといいけどな・・・・・・・・この翔鶴はデカいからな・・・・・・・大和型には負けるけど。










 しばらくして、ハルと実が来た。うしろから、永信も入ってくる。

「どうしたの?永信」

「艦内で迷子になってたから、つれてきた。」

 やっぱり・・・・・・

 実が、僕の前に出てクルリと回った。

「ヤス兄、似合ってるかな?」

 黒い詰襟のジャケットに同じ色のプリーツスカート、頭には、永信と同じような軍帽をかぶっていた。

「うん、似合ってる。かわいいよ。」

「ありがとっ!」

 実が、ヒマワリのような笑顔でお礼を言う。自然と、士官私室の雰囲気が華やいだような気がした。

 補給艦の日本丸や神国丸たち、潜水艦も加わって、艦隊の準備が整ったら、いよいよ真珠湾に向けて出港だ。


本日の次回予告は、みんながお互いに軍服の撮影会を始めたためお休みです。

誠に申し訳ございません。

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