818 三十一歳 謁見のあと
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その後、アイザックは捕虜にしたブランドン派の主だった貴族に対する処遇も進める。
こちらはヴィンセントの要望に沿ったものが中心となり、処刑や爵位の剥奪、領地の没収を行い、アイザックは寛大な態度ばかりを見せる皇帝ではないと証明した。
エリアスのように大物を気取っていては舐められる。
甘い顔を見せると、その隙を狙ってアイザックのような不忠者が調子づくかもしれない。
そんな事をさせるわけにはいかないのだ。
だが鞭ばかり見せているわけでもなかった。
「近年、エンフィールド帝国は急速に領土を広げ続けている。そのせいでアーク王国やアルビオン帝国のすべてをエンフィールド帝国の貴族だけで統治するのは難しいだろう。そうなると領主を失った領地をどうするかという問題が残る」
アイザックはアルビオン帝国側の貴族達を一瞥する。
「諸君らの忠義はアルビオン家に向けられたものだという事はわかっている。だが不忠者よりもずっといい。この場にいる者にも領主を失った空白地を割り当てる事になるだろう。願わくば、エンフィールド家にも忠実に仕えてほしいものだな」
彼は立ち去る前にそう言い残した。
アルフレッド派とブランドン派は国の七割近い領域を支配していた。
アルフレッド派にも、ブランドン派のように粛正の嵐が吹き荒れるのならば、多くの領主が消える事になる。
アイザックに従えば領地の加増は十分望めるだろう。
その強い欲望が、アイザック達に対する害意を薄れさせた。
なぜなら彼がヴィンセントとは違うところを見せていたからだ。
――ヴィンセントが皇帝に君臨している時よりも、褒美が貰えて不当な処罰に怯えなくてもいい。
アイザックは罰を与えるにしても理由を説明する。
ヴィンセントのように絶対権力者のその日の機嫌に怯える必要がなくなるのだ。
自分が優秀だと信じ込んでいる者でも、絶対にミスをしないと言い切れる者はまずいない。
成功する事よりもまず先にミスした時の事を考えてしまう環境に比べれば、ミスを恐れないで済む環境のほうが当然やりやすい。
――厳しいところもあるがヴィンセントよりはマシ。
その一点で、アルビオン帝国に絶対の忠誠を誓っている者以外の心を掴んでいた。
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「アルバイン、よく頑張ったねー」
アイザックはアルバインを抱きしめて頬ずりをする。
子供達が見るいつもの姿だが、先ほどまでの姿とは大違いのため子供達も動揺する。
「どちらがお父様の本当の姿なのですか?」
疑問に思ったアルバインが尋ねるが、アイザックはクスリと笑う。
「どちらも本当の私だよ。家族に対する態度と仕事をしている態度は違う。お前も兄弟といる時と、友達といる時とでは話し方や態度が変わったりするだろう? それと同じようなものだ。厳しくしないといけない時は厳しくする。それが人の上に立つ者にとって必要な事なんだよ」
アイザックは子供の疑問に答える。
「貴族社会では、大人になれば仲の良い友人との間にも上下ができる。その立場に見合った態度を取らなければならなくなるものだ」
モーガンも曾孫達を前に何か言いたかったのか、口を挟んでくる。
「でも父上は下々の者にも丁寧な言葉使いをされています。あれはよろしいのですか?」
バリーの鋭い指摘に、モーガンは言葉に困った。
一国の頂点に立つ者が最も参考にならない態度を取っていたからである。
「丁寧な対応をする事自体は悪い事ではない。ただ度が過ぎると媚びているように見られてしまう。バランスを上手く調整できるのならばかまわないが、経験を積まぬうちはやめておいたほうがいいだろう」
(アイザックは特別なのだ。この子達が真似するような事があってはならん!)
今思えば、アイザックは子供の頃から低姿勢だった。
だがそれは本当の目的を隠すための隠れ蓑に過ぎなかった。
それが許されたのは、弱者というアイザックの境遇があったからだ。
強者である皇子が家臣に向かって取っていい態度ではない。
これこそ立場に見合った態度を取ってもらわないとならないという好例だろう。
「難しいのですね」
「そうだ、難しい。だからこそ上手くできるようになった時の喜びも大きなものとなる。まずは一つずつできる事を増やしていけばいい。まだ子供なんだから焦る事はない」
「はい」
モーガンがザックに優しく言い聞かせる。
それを横目でアイザックが「子供達の尊敬を集める機会が奪われた!」と嫉妬混じりの目で見ていた。
「味方に引き入れるべき相手は厚遇し、罰するべき相手には厳しく、か。わかりやすい基準だったけど、人心掌握の方法が上手いなと思った。みんなはどう思った?」
ロイが他の同行者に問いかける。
「アルビオン帝国の貴族でもちゃんと評価するという態度を示せたのがよかったと思う」
「みんな、これからどうなるか不安だったはずだからね。カレドン将軍のように、エンフィールド帝国のために働いていなくても厚遇されると示したのはよかったんじゃないかな」
「オーランド伯爵のような意地を見せる者には、むしろその意地を尊重するという姿勢も効果があったと思います。尊厳を踏みにじってでも言う事を聞かせるわけではないという姿勢は評価されたでしょう」
彼らは謁見の間でのアイザックのやり方を評価し始める。
概ね高評価である。
やり方自体は真似をするのが難しいものではない。
だが彼らの心を射止める言葉選びや演出からは学ぶべきものがあった。
彼らは「あれがよかった」「これがよかった」と真剣に語り合い、アイザックに少し恥ずかしい思いをさせる。
照れを誤魔化すために一度咳払いをして、アイザックは子供達に語りかける。
「今回はアルバインが主役になった。けど、これからバリーとドウェインも忙しくなるだろう。覚悟しておくように」
「はい!」
バリーとドウェインは期待に満ちた表情で元気よく答えた。
――だが、その表情は翌日には引きつる事となる。
翌日、アイザックに面会の申し込みが殺到する。
もちろん、子供連れでだ。
「よかったなぁ、こんなにモテモテだぞ」
「そう、ですね……」
山積みの招待状を前に、バリーとドウェインは呆気に取られていた。
それだけの相手と会うとなると、会うだけでも大変だからだ。
しかも普段会う機会のある相手ではない。
気疲れするであろう事は容易に想像できた。
「婚約者の決まっていない子供を連れてきたと言ったからね。婚約者のいない娘を会わせたいんだろう」
「でも僕達くらいの年頃の子は、普通なら婚約者がいるんじゃないですか?」
――ドウェインの素朴な疑問。
しかし「普通なら」という何気ない一言がアイザックに気まずい思いをさせる。
「アルビオン帝国は内戦中だ。ヴィンセント卿に従う貴族と、アルフレッドやブランドンに従う貴族との婚約は解消されたようなものだ。反乱に加わった貴族は処刑されたり、爵位を剥奪されたりする。婚約を続けても意味がない。だから婚約者が決まっていない年頃の娘も大勢いるってわけだね」
――もし子供達が「早く婚約決めてほしかったな」と思っていたら?
ひょっとすると恨まれたりしているかもしれない。
その事を考えたくないアイザックは、サラッと聞き流して聞いていない事にしようとする。
「だからこんなに大勢会いたいと申し込んでくるんですね」
「お前達だけじゃない。ザックやクリスにも二人目の婚約者はどうかと売り込んでくるだろう。これからみんな忙しくなるだろうな」
「えー!」
「婚約者を作らないといけないわけじゃない。アルビオン帝国の貴族と交流するきっかけになればそれでいいんだから、割り切ってお話してやれ」
(俺が学生の頃なんて……。よくアマンダやロレッタ達の誘いを断り続けられたものだ)
アイザックなど、相手が毎日話しかけてくる環境だった。
それに比べれば、一時的に話し合うくらいは問題ないだろう。
そう考えたアイザックだったが、ふと一案を思いつく。
「もしかしたら、お前達の負担を減らしてやれるかもしれない。一度、ヴィンセント卿と協議してみよう」
なんだかんだで子供には甘い。
アイザックは子供達のために行動に移す事にした。







