804 三十歳 マカリスター連合会議
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ギリアムはまず、アイザックに「連合国首脳陣と話をするので、二、三ヶ月待ってほしい」と返事の使者を送った。
次にマカリスター連合に加盟する各国へ連絡を取り、連合の中心にあるメルブリーク王国へ向かった。
そこには連合の名を冠するマカリスターという街があったからだ。
各国からのアクセスがいいため、緊急の会合をする際に使われている。
アルビオン帝国へ攻め込もうと話し合った時にも使われていたが、今回は真逆の話し合いをする事となった。
「最初に攻め込もうと言い出したのは誰だ!」
「あなたではありませんでしたか?」
「やるなら参加してもいいと言っただけだ!」
集まって早々、犯人探しが始まる。
それも仕方ない。
――アルビオン帝国に攻め込んだら、エンフィールド帝国に攻め込んでいた。
誰もそんな重い責任など取りたくない。
現実逃避も合わさって、建設的な話し合いなどできそうになかった。
そんな中、一人の王が非難以外の言葉を口にする。
「とにかく私は取り戻した土地を返したりはしないぞ! 反乱軍を引きつけてやっているのだから、あちらも謝礼として領地を渡すべきだろう!」
サウスウォルド国王ジョニーだ。
彼は世間一般に広くケチ王として知られている男である。
多額の戦費を使ってまで得た土地を返すのが惜しいのだろう。
だが、それは他の王達も同じ。
戦費も惜しいし、本来ならば自国の土地だったものを他人になど渡したくない。
いつもなら「金を惜しんでいるんだな」と思われて終わるところだったが、今回ばかりは彼に同調する者が多かった。
「ジョニー陛下の言う通り! 我らは反乱軍を引きつけている。だからエンフィールド帝国軍も戦いやすくなっているはずだ!」
「それならば、あちらは感謝するべきだろう!」
「そもそも自国の領土を取り戻してなにが悪い!」
(取り戻すチャンスが来たのも、エンフィールド帝国がアルビオン帝国を降伏させたからなんだがなぁ……)
この状況を、ギリアムは熱気に巻き込まれたりせずに冷静に眺めていた。
自国は「皇太子の妹と婚約できるかもしれない。その時、過去の領土を返してもらえるかもしれない」という願望に近い希望が残っていたからだ。
そうでなければ、彼らと同じく土地を返したくないという気持ちでいっぱいだっただろう。
だが、他にも冷静な者もいた。
「ならば、まずはその事を主張して交渉してみるべきでは? 内戦を鎮めるのに少なからず貢献しているので、現在占領しているところだけでも譲ってほしいと。無条件ですべて返せというわけではなく、兵の血を流したところまでなら譲ってくれるのではないか? 大陸中の国をすべて滅ぼしたいという狂人でもなければ、今後の友好関係のためにも耳を貸してくれるのではないだろうか?」
「……まぁ、いきなり跳ね除けるのではなく、まずは交渉による譲歩を求めるのもよさそうだな」
熱くなっていたジョニーも、妥当な意見が出るとトーンダウンする。
「有力貴族の祖父と義祖父の二人を人質として送り込んできたのだ。アーク王国とアルビオン帝国の連戦で国がボロボロで、あちらも戦争をしている余裕はないのだろう。本当は友好条約を結びたいものの、大国の面子が邪魔をして説明のために呼び出すという形を取っているのではないか?」
「確かにその可能性はありますな。最初に吹っ掛けるのは交渉の基本。最初に領土を返せと言っておいて、交渉の末与えるとなれば我らが感謝すると思っているのでしょう」
「アイザック陛下はなかなか狡猾な男だと聞く。それくらいはやってくるはずだ」
「やはり交渉でしっかりと説明をするべきだ。こちらから要求する条件を話し合おうではないか」
徐々に交渉のための話し合いという建設的な内容に変わってはきている。
だが、ギリアムはその内容の危うさに気付いていた。
だからこそ、言っておかねばならない。
「もし『小国が交渉しようとするなど無礼である』と言ってくるような皇帝であればどうする? アイザック陛下は三十ほどで、まだまだ血気盛んな年頃だ。こちらから条件を提示しても、激昂させるだけに終わる可能性もあるぞ」
「交渉の塩梅は交渉を担当する筆頭殿にお任せしようではないか。激昂させる事なく、上手く進めてくれ」
「そんな無茶な事を……」
「無茶だろうがやってもらわねばな。筆頭なのだから」
マカリスター連合も対アルビオン以外では一枚岩ではない。
国の広さ、人口、歴史などでバークレイ王国を上回る国もある。
ではなぜバークレイ王国が筆頭扱いされているかというと、海洋貿易で金を持っているからである。
金を持っている国の発言力は強い。
だから他の国もバークレイ王国をマカリスター連合の代表という事を認めていた。
しかし代表として認めている事と、不満を持たない事はイコールではない。
何もしていなくても「偉そうにしやがって」と思われる事もある。
そうした不満と他に代案がない事から、ギリアムにすべての責任をおっかぶせようとする動きになっていた。
「勝手な事を……」
ギリアムも不満を持ったが、それを抑え込んだ。
彼もすべてを話してはいない後ろめたさがあったからだ。
(アイザック陛下には子供が大勢いる。だから会った際に紹介してやろうと思っていたが、その必要はなさそうだな)
――エリザベスとの婚約。
その事に関して、他の王には伝えていなかった。
「我が国にも年頃の子供がいる」と言い出して、婚約者の座を奪われてはたまらないからだ。
しかし、彼も他の子供の婚約者候補になりそうな王子、王女がいるとアイザックに伝えてやってもいいとは思っていた。
だが彼らが勝手な事を言い出したので、その気も失せてしまう。
「そう嫌がる事はないだろう。アイザック陛下に呼び出されたのはギリアム陛下だけだ。ならば我らの筆頭として頑張ってもらわねばな」
筆頭という言葉に敬意はない。
ただ厄介事を押しつけようという意思だけである。
彼らがそういう態度を取るのなら、ギリアムにも考えがあった。
「ではアイザック陛下に陳情する内容について詰めようか」
連合を組んだのは、アルビオン帝国の脅威から身を守るためのもの。
生き残るために手を結んだだけの関係だ。
自分勝手な事ばかり言うのなら身を挺してまで守ってやる必要はない。
自国が生き残り、あわよくば孫の婚約を成立させる。
それを優先しようとギリアムは心に決めた。
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一方、その頃。
モーガン達は港町でバカンスを楽しんでいた。
「この磯鍋というのは、なかなかいけるな。夏場に食べる料理ではないと思うが」
回復したウィンザー公爵も、汗だくになりながら地元の料理に舌鼓を打つ。
「ファラガット共和国に赴いた時にも食べたが海の幸は旨いものばかりだ。腐ってしまうので干物しか取り寄せられないのが残念なところではある」
「曾孫達にも食べさせてやりたいが、アイザック陛下もさすがに生ものを遠方から取り寄せる事はできんだろう」
「飛行機とかいう空を飛ぶ乗り物なら大丈夫なのでは? 往復で二週間はかかる距離を半日で移動できたそうだ」
ウィンザー公爵は、ムッとした表情を見せる。
「それなら、バークレイ王国へも飛行機で移動すればよかったのではないか?」
「ヴィンセント陛下を脅すために使って壊れたらしい。そもそも長い直線の道が必要らしいので、バークレイ王国では降りられない。エンフィールド帝国と違って、街道も整備されていないからな」
モーガンの返事を聞いて、ウィンザー公爵が今度は首を傾げる。
「我が国では交通の便を良くするために、長く直線的で綺麗に整備された道ばかりだ。もしや、どこからでも飛行機を使えるようにするために、陛下は最初から考えていたのではないだろうな? 無駄に広く作られているのもそのためか?」
「まさか、エルフと知り合ったのは五歳の時。その頃から空を飛ぶための道を作ろうなどと考えては――」
――いないとは言い切れない。
何しろ、相手はアイザックである。
将来を見据えて、飛行場代わりに使えるようにしていた可能性は否定できない。
彼らは「どこまで未来が見えているのか?」と、改めて驚かされる。
アイザックも将来を見据えた街道作りを行っているのは事実である。
だがそれは飛行機の発着場にするためではなく、将来的に片側三車線か四車線の自動車道路を作るためであった。
平民の権利が強くなれば道を一つ作るのも時間がかかるようになる。
だから強権を使える今のうちに主要道路を作っておこうと考えてのものだった。
馬車を使うだけなら無駄に広い道だけあって、モーガン達の中で無駄な憶測を生んでしまっていた。
これも日頃の行いのせいである。
「先代ウェルロッド公とは違う意味で、まったく読めないお方だ。三代の法則とするにしてもほどがある。どうやって育てた?」
「知らない。勝手に育った」
「そんなはずがなかろう。もしや噂通り、サンダース子爵夫人が一人で育てたのか?」
「噂とは、どの噂の事だ?」
「なんだ、知らぬのか。噂ではサンダース子爵夫人が――」
ルシアに関する噂を、ウィンザー公爵は話し始める。
モーガンは「ああ、その事か」と軽く聞き流していたが、給仕を行っていたレストランの店員の耳にも入ってしまっていた。






