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いいご身分だな、俺にくれよ  作者: nama
第二十章 大陸統一編 二十三歳~

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803 三十歳 アイザックからの試練

「アルビオン帝国がすでに降伏しており、エンフィールド帝国の領土に攻撃を仕掛けてしまったというのは大きな問題だが、まだ釈明に訪れる機会を与えてもらえたので救いはある。もしかしたらオルデンがエリザベス皇女を娶る事もあるかもしれん。これは危険ではあるが、呼び出しに応じるべきだろう」


 ギリアムは危険な状況ではあるが、同時にチャンスだとも考えていた。

 上手くいけば、侵攻を許してもらえる以上の利益を得られる可能性があったからだ。


「もっとも、オルデンの事をウェルロッド公達が気に入るか次第ではある。私の安全を保証するために送り込んだ人質とはいえ、一応やる事はやるだろう。その時、気に入られればエンフィールド帝国と縁を結ぶチャンスとなる」

「……本当に人質なのでしょうか?」


 大臣の一人が疑問を呈す。


「いつ亡くなっておかしくない年齢です。我が国で自殺すれば攻め込む大義名分を得られます。もしくは陛下の命を狙うために、死を覚悟した老人を送ってきたという可能性もあるのです。アルビオン帝国の内戦が終わったあとを考えているといっても、それは和平のためだとは限りません。陛下を害する、もしくは人質に取るなどして、我が国を混乱させながら攻め込んでくるというケースも考慮しておくべきでしょう」


 彼はギリアムの浮ついた気分に冷や水を浴びせかけた。

 確かにモーガンとウィンザー公爵は人質として十分な価値がある。

 だが、それは年齢を考慮しなければの話だ。

 年齢を考えれば、いつ爆発するかわからない爆弾を抱えているようなもの。

 しかもいつ死ぬかわからない老人の命と引き換えに国王を敵地へと送り込むのだ。

 ネームバリューを考慮しても、とても割に合わない交換条件だという見方もあった。


「少し調べただけで権謀術数に長けると言われている家系だとわかりました。我が子を使い捨ての駒として利用するくらいなら、老い先短い老人を使い捨てにするくらいどうという事はないでしょう。言葉通りに受け取るのは危険です」

「そもそも自国に攻め込んできた相手に『事情を説明すれば許してやろう』と本気で考える王がいるでしょうか? いざ会いに行けば、難癖をつけてくるものと思われます」


 他にも慎重な意見が出てくると、ギリアムも自分の考えの甘さを自覚した。


「危険か」

「はい。ですが行くしかないでしょう。ここで断っても、アルビオン帝国の騒動が終われば、次はマカリスター連合へ兵を向けられます。その時になってから面会したいと言っても相手にしてもらえないと思います」

「……死地に飛び込むつもりで行けという事か?」

「その通りでございます」


 今の状況では、アイザックからの呼び出しに応じるしかない。

 だが「娘をもらえるかもしれない」と希望を持って向かうのではなく「あらゆる手段で陥れようとしてくる」という警戒心を持って向かうべきである。

 周囲に諭された事で、ギリアムから甘い考えは消えた。


「知らなかったとはいえ、こちらは他国の領土を侵略した側。謝罪をする側だという事をお忘れなく。でなければ皇帝一人の気分であっさり潰されてしまうでしょう」

「なにしろ、あのヴィンセントですら降伏を選んでしまうような相手なのです。悪鬼羅刹と渡り合う覚悟で挑まねばなりません」

「そうだな、あのヴィンセントが膝を屈した相手だという事を忘れていた。ならば、ただ会いに行くだけでは済まないだろう……」


 ギリアムは安全の保証にモーガン達を送ってきていた事で油断してしまっていた。

 アイザックは三十歳と若いにも関わらず、傲岸不遜のヴィンセントが膝を屈してしまう男である。

 絶対にただ者ではない。

 油断していい相手ではないのだ。

 ギリアムは肝を冷やした。

 つい先ほどまでの自分は、なんと恐れ知らずな事か。

 あのまま会いに行っていれば、態度を見咎められていたに違いない。


「だが媚びへつらうばかりではいかんだろう」

「もちろんです。へりくだり過ぎると、それはそれで簡単に踏みにじる事のできる相手だと軽んじられます。誠心誠意謝罪はすれども媚びはしない。そのバランスが大切になってくるでしょう。我らも同行して陛下をお支えします」

「そうだな、今は国難の時だ。一致団結して問題に当たらねばならない。頼むぞ」

「はっ!」

「では次にエリオットの件だが、私が留守にする以上は前線から呼び戻さねばならんだろう」


 ギリアムは次の議題へと話題を変える。


「一応ウェルロッド公に尋ねるが、攻撃をやめさせるべきだろうか? 相手が反乱軍ならば、我々が敵軍を引きつけておくのはエンフィールド帝国にとっても悪い話ではない。あわよくば旧領を返還してもらえるように交渉できるかもしれない」

「陛下、それを見咎められたから詰問の使者が訪れたのです。旧領を取り戻すという望みは捨てたほうがいいでしょう」

「そうか、そうだったな」


 ギリアムは肩を落とす。

 マカリスター連合に参加している諸国はアルビオン帝国の被害者だが、その事を無関係だったエンフィールド帝国が考慮する理由もない。

 アルビオン帝国の領土は自国の領土。

 それを奪おうとする者には厳しい対応を取られると考えるべきだろう。


「一切の望みが断たれるというのは悲しいものだな」


 そうは言うものの、これまで小国の悲哀は何度も味わってきたので慣れている。

 エリザベスとの婚約という希望をチラつかされたせいで、持つべきではない希望を持ってしまったのが彼の不幸だった。

 さすがに言い過ぎたと思ったのか、大臣は彼のフォローをする事にした。


「エリザベス皇女との婚約が進めば、持参金で旧領を嫁資するという事も考えられます。陛下がアイザック陛下への弁解を上手くこなせるか。オルデン殿下がウェルロッド公達の眼鏡に叶うのか。それ次第では未来も明るいものになる可能性は残っています。可能性は極めてゼロに近いですが、ゼロではありません」


 あまりフォローにはなっていなかったが、可能性はゼロではないというところが重要だった。

 ギリアムもそれをわかってか、悲観的な返事はしなかった。


「縁を結ぶ価値がある相手だと思われるようにやれる事をやろう。同盟国にも攻撃を控えたほうがいいと伝えるとしよう。……非難されるだろうがな」

「それが連合の筆頭の責任ですから……」


 内戦が始まったアルビオン帝国への反攻作戦は、バークレイ王国が言い出したわけではない。

 マカリスター連合に所属する各国から「今がチャンスだから国土を取り戻そう」と提案されたものだ。

 しかし、みんなで決定したとはいえ「筆頭のバークレイ王国が賛成したからだ」と責任をなすりつけられかねない。

 全員で決めたのに、人身御供にされるのは納得できないものだった。


「それでも我が国だけで勝手に交渉するわけにはいかない。各国に使者を送って、会合の場を設けよう。それが同盟を結んだ国に対する礼儀だろう。徹底抗戦の意見が多ければ……、我が国だけでも交渉するしかない。ウェルロッド公達を送ってまで作ってくれた弁明の機会を無駄にするわけにはいかないのだからな」

「それでよろしいかと思います。マカリスター連合は対アルビオン帝国のために作られたもの。エンフィールド帝国相手ではないと強弁する事もできるでしょう。自殺志願者に付き合う必要はありません。単独講和も一つの道だと思います」

「私もそう思います。状況を説明せずに勝手に交渉するわけではないので、義理を果たせば、あとは各国の責任です」


 今後、他国がどう出るかを想定すると、責任を被せようとしてくるのが濃厚だった。

 アルビオン帝国に滅ぼされないために手を組んだだけの関係なので、どこも自国の生存優先に動くのが容易に想像できたからだ。

 そのため彼らも自分達が助かるための行動に出るしかない。

 同盟国としての義理を果たせば、負けるとわかっている戦いに参加する必要などないのだから。


「では、エンフィールド帝国に交渉に応じるつもりだが、連合各国と一度話し合うまでは待ってほしいと伝えよう。あちらも我が国は交渉の窓口であって、我が国とだけ停戦できればいいと考えてはいないだろうからな」


 ギリアムは慎重かつ一般的だと思われる対応を選んだ。

 これならばエンフィールド帝国側も文句を付けてこないだろう。

 彼らの考えは間違っていない。

 普通の国、普通の王であれば、彼らの対応に対して特に何も思わないだろう。

 だが、アイザックは普通の王ではない。


 ――特に子供の関わる事に関しては。


 試練はオルデンにだけ行われるものではない。

 カニンガム伯爵達を派遣すると決定された時点で、マカリスター連合全体に向けて、アイザックからの試練はすでに始まっていたのだから。

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― 新着の感想 ―
あけましておめでとうございます。 今年も更新楽しみにしています。 アイザックは子供褒めれば骨抜きになると思いますw
バークレイ王国の王子とアイザックの娘の縁談は、毛利家みたいに他の家を乗っ取るための策なんでしょうね。もし幼い王子がこの縁談の重要性を理解出来ずに、娘に対して酷い態度を取ろうものなら、バークレイ王国はア…
娘が嫁いだ後に娘にとって暮らしやすい環境にする為に色々するんだろうなぁという感想
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