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いいご身分だな、俺にくれよ  作者: nama
第二十章 大陸統一編 二十三歳~

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800 三十歳 マニュアル作りの大切さ

 ヴィンセントは精力的に動いていた。

 降伏してきた貴族の軍を使って攻撃を続け、同時に降伏勧告も行っている。

 攻撃を続けると無駄な消耗もありそうだが、彼らは生き残るために降伏しただけなので戦意は低い。

 最初は威勢よく攻め込んでいたが、ブランドン達が防衛態勢を整え始めた今ではかつての勢いは見る影もない。

 アリバイ作りのために攻め込むふりをしていた。

 そしてそれをわかっているヴィンセントは、やる気のない貴族をリストアップしながら、彼らの存在を誇示して降伏交渉を進めていた。


「西側からはマカリスター連合が攻撃を仕掛けているそうですね。このままではアルビオン帝国は東西で分割されてしまいます。そうなった場合、エンフィールド帝国の傘下に降るよりも酷い事になるでしょう。今ならばヴィンセント陛下は寛容にも恩赦を与えてくださるそうです。早めに降伏されるべきかと」


 恩赦を約束する書状と共に降伏勧告の使者が訪れると、心が揺れる者も多い。

 当初は領地を失うのが怖くてアルフレッドやブランドンに付いたが、今ではすべてを失いかねない状況である。

 少しでも財産を残せる内に有利な側へ降ろうとするのは人として当然の心理だった。


 ――だが、そうでない者もいる。


「恩赦を与えるから寝返れだと? 私をそのような不忠者だと思っているのか!」


 アルフレッドやブランドンに忠義を尽くす者も当然いた。

 ヴィンセントにしてみれば「最初に私を裏切ったくせに!」という怒りしか湧いてこないが、この状況で最後まで付き従ってくれる者が息子達にもいるという事を少しだけ安心してもいる。

 だがそれはそれ。

 寛大な措置をしてやっているにも関わらず、それに従わない事に強い憤りを覚えていた。


「奴らの領地を集中的に攻撃して見せしめにしてやれ」


 もちろん、これは意趣返しだけではない。

 反抗的な者を徹底的に攻撃する事で、ヴィンセントに逆らうと狙われるという恐怖を他の貴族に与えるための行動である。

 彼に反抗的だったからターゲットにされただけだ。

 これは実利とストレス解消を兼ね備えた一石二鳥の策だった。

 こういった行動は、ヴィンセントにとって難しいものではない。

 本当に難しい問題は、アイザックからの要請にあった。

 

「占領地の統治方法を教えてほしい、ですか?」


 大臣や将軍を集めての会議を開く。

 だが、誰もが困惑していた。


「その地を与えられた領主がどうにかする問題では?」


 ――そう、アルビオン帝国にもマニュアルなどなかったのである!


 基本的には「領主が変わった。だからこれからはこれだけの税を収めて、徴兵にも応じろ」と命じて、あとは兵で押さえつけるだけである。

 しかし、アイザックはそのような力で平民を押さえつける方法を取りたくないらしい。

 これにはヴィンセントも困った。

 なぜなら彼は「あの土地をやるから好きにしろ」と命じるだけの立場だったからだ。

 自分の手で地方を治めた経験など、アルビオン帝室直系である彼にあるはずがない。

 アイザックからの要請は、彼にとってかなりの難問だった。


「それがアイザック陛下は力で治めるという手段を取りたくないらしい。侵略戦争をした事のないリード王国の流れを汲んだ国だけあって、お優しい事だな。私も新領主に軍を預けて任せるという方法以外を知らん。誰か良い意見はないか? 今ならばアイザック陛下へのアピールになるぞ」


 アイザックへのアピールになると言われても、いきなり聞かれて良い案がパッと出るわけではない。

 長年周辺国を攻め続けてきた侵略国家とはいえ、今いるほぼすべての者が祖先から領土を受け継いできた領主であり、比較的新しい領地を賜った者達は西部方面の領主になっていて、ここにいない。

 国境付近から領主を連れてこなければ、新領土をどう統治し始めればいいのかという事がわからなかった。

 国を拡張し続けたからこそ、中央からの統制ではなく、地方の自治に任せるという方法が取られていた。

 これはアルビオン帝国よりも版図の狭いリード王国でも、地方自治に任せるべきだという貴族派がいた事からわかるように、電話などの通信手段がない時代であれば領主に任せるのが普通だったからだ。

 領主とは褒美で領地を与えられただけの存在ではなく、中央政府からでは統治できない遠隔地の統治を任される小さな政府である。

 小さいとはいえ別系統の政府である以上、その内情を他者が詳しく探るのは難しかった。

 領主は現代の知事などとは比べ物にならないほど強い権限を持つ、地方の王のようなものなのだから。


「いざ占領地をどう統治しているかと問われると……。答えにくい問いではありますな」

「私はその地域の有力者を取り込んで統治しやすくすればいいと考えたのだが、そのような者達に『我々がいないと統治できないだろう』と調子に乗らせたくないので、地元の有力者を使わない方法も教えて欲しいと言われている」

「なんですか、その無茶苦茶な要求は……。新手の嫌がらせですか?」


 地元の有力者――村長や大商人などを使う事で、平民を支配しやすい構造を作るのは基本的な事だ。

 平民一人一人に通達を出すのではなく、キーマンとなる者を押さえるほうが効率がいいからだ。

 それなのにアイザックは、わざわざ効率の悪いやり方を考えている。

「これはアルビオン帝国に対する嫌がらせではないか?」と疑ってしまうのも無理はない要請だった。


「一応本気らしい。ただ様々な統治手段と、その結果を知りたいようだ。……情報を集められるか?」


 今回ばかりはヴィンセントもお手上げである。

 まったく気にした事のない分野なので、彼も良い案がまったく浮かばない。

 誰かが良い案を出してくれるのを待つ事しかできなかった。


「ファラガット共和国を占領した時はどうしたのでしょうか?」


 将軍の一人から質問が出る。

 これは気になるところだったからだ。


「どうやら大貴族を中心に、多くの貴族を送り込んだそうだ。統治する方法がわからなかったので数で補ったらしい。だがファラガット共和国とグリッドレイ公国を占領した事で、派遣できる貴族を使い切ったようだな。最小限の貴族で統治したいのだろう」

「おそらくアーク王国と我が国を統治するための準備でしょう。……我々を売り込むわけにはいかないのですか?」


 他の誰かに統治させるよりは、元々の領主をそのまま使ったほうが効率的である。

 アルビオン帝国の貴族をそのまま残してくれればお互いに助かる。

 そちらの道を模索して欲しいというのは、この場にいる全員の気持ちを代弁していた。


「本来はそうしようと考えていたのだがな。大規模な反乱が起きてしまったせいで売り込める貴族の数が足りなくなってしまっているのだ。いずれにせよエンフィールド帝国貴族が乗り込んでくる事になる。だから我が国の占領地をどう統治しているかを教えを乞うているのだろう。その時、我らのせいで統治に支障が生じたと言われぬように準備をしておかねばならない。だから過去の文献を調べるなどして、こちらも誠意を見せる事にしよう」


 よくわかっていないなら、わかっていないなりに用意をする。

 その上で「すべて領主任せでマニュアル作成などはしていませんでした」と正直に話す。

 そうした誠意を見せれば、アイザックも厳しい事を言ってはこないだろう。

 アルビオン家の力を削ぐ名分を与える事にもなってしまうが、適当な情報を与えて失敗した時の事を考えれば、ベストではなくともベターな選択なはずだ。

 苦渋の選択ではあるが、やむを得ない状況である。


 アイザックも完璧ではない。

 だからマニュアル化を進めて未経験者でも仕事を覚えやすくしようとしていた。

 しかし、それは前世の知識があるからできる事でもある。

 いくらヴィンセントとはいえ、いきなり要求されても答えられない事もある。

 領主それぞれの統治方法がある以上、一律にこうすればいいという答えはない。

「マニュアルってあるの?」という何気ない質問は、旧態依然とした政治体制においては禁句に近い無理難題となっていた。

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― 新着の感想 ―
占領地の、統治マニュアルだからなー さらに難易度高そう これはいよいよママンを特別筆頭顧問に据えた領主育成学校を作るしかないね(棒
統治方法とか昔は貴族の飯のタネなのだからマニュアルとか普通作りませんよね。 それを見れば誰でもそれなりに出来るというのは自分(の一族)の首を絞める事になりますから。 逆に貴族に拘らず統治に広く人材を求…
軍事大国のわれらが碌に戦いもせずに早々に降伏とか皇帝は耄碌して狂った、こいつの判断で領土を失うわけにはいかないから反乱だ家と領を守るぞと意気揚々になるのは実に自然な流れなのですが相手は超兵器もってる自…
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