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いいご身分だな。俺にくれよ。 作者:nama

第四章 継承権争い -後始末編- 九歳~十歳

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「お疲れー」

 閉店作業を終え、彼の一日が終わる。
 そんな彼の肩を同僚がポンと叩く

「どうする? 一杯やってくか?」
「俺は明日も仕事だ。軽くなら付き合うぞ」
「なら決まりだ」

 カーマイン商会は王家御用達だ。
 店を訪れる客も貴族や富豪など大物ばかりなので、たまには息抜きでもしないとやっていられない。
 幸い給料は良いので、気晴らし程度は気楽に行ける。
 二人は盛り場へと向かって行った。

「そういえばさ、今日は貴族のお客さん少なくなかったか?」
「まぁ、そんな日もあるさ。その分明日は稼がせてもらう」 

 カーマイン商会では基本給プラス歩合給という給与形態を採用している。
 客が来ない日があるという事は、別の日に固まって来店する可能性があるという事。
 さすがに二日続けて客が来ないという事はないと思い、男は明日の売り上げを楽しみにしていた。
 近道をしようと人通りのない道を通ろうとした時に、それは起きた。

「おい」
「えっ? ぐあっ!?」

 背後から声を掛けられたと思ったら後頭部に重い一撃を食らった。
 痛みのあまり、頭を抑えてその場にしゃがみ込む。

「何をする!」

 振り返ると、黒ずくめで頭巾を被った人影が二つ。
 手には木の棒を持っている。
 それで頭を殴られたのだろう。

 再度、固い木の棒を振り下ろされ、顔に叩きつけられる。
 口の中が切れ、歯が欠けた。
 それは彼だけではない。
 同僚も同じように打ち据えられている。

「待て、待ってくれ」

 必死の思いで声を絞り出した。
 そして、今までの人生で最も早い動きで財布を差し出す。
 金は大事だが、失った分は働いて稼ぎ直せば良い。
 命には代えられない。
 大人しく金を差し出す事で許してもらおうと考えた。

 しかし、襲撃者の腕は止まらない。
 今度は足をナイフで刺された。

「ギャァァァーーー!」

 悲鳴が上がる。
 それが自分の物か、同僚の物かはわからない。
 ただ、二人とも同じ目に遭っているという事だけは確かだった。

 それから二人は更なる暴行を受け続けた。
 数分間の出来事だったが、体感では数時間に及ぶ不幸な出来事。
 足を刺されたので逃げる事もできず、この理不尽な暴力の嵐が早く止んでくれと願う事しかできない。

 そんな彼らに救いの手を差し伸べてくれる者達が現れる。

「お前達、そこまでだ!」

 ――衛兵だ。

 人通りの少ない道とはいえ、誰も通らないわけではない。
 通り掛かった誰かが異変に気付き、衛兵を呼んで来たのだろう。
 ここは商業地区、その中でも高級店が立ち並ぶ地区だ。
 衛兵も治安の維持に力を入れている。
 今まで来なかったのが不思議なくらいだった。
 普段は存在すら気にしない衛兵がとても頼もしく見える。

「助けて!」

 ボロボロにされて力が入らないが、それでも精一杯助けを求める意思表示をする。
 これで理不尽な暴力も終わるだろう。
 二人の襲撃者も、五人もいる衛兵には敵わないはずだ。

「貴様、街中で堂々とこんな真似をしてタダで済むと思うなよ! 武器を捨てろ!」

 隊長らしき男の声に合わせて、全員が槍の穂先を襲撃者に向ける。
”これで助かった”と思い、男の体の力が抜けた。

 ――だが、現実は非情だった。

「まぁ待て。こいつらはカーマイン商会の人間だ。お前達も話は聞いているだろう?」

 襲撃者の言葉一つで、衛兵達が向けた槍の穂先が退けられる。

「えっ……。なんで……、カーマイン商会で働いてるからってなんで……」 

 同僚の呟きを聞き、衛兵達が気まずそうな顔をして顔を背けた。

 それが意味するところは――

「そういう事か。やるならもっと人気の無い所でやってくれ」

 ――絶望だった。

「なんで……」

 男は同僚と同じ事を呟いた。
 これには多くの意味が含まれる。

”なんで、自分が襲われるのか?”
”なんで、カーマイン商会で働いていたら狙われるのか?”
”なんで、衛兵は自分達を助けてくれないのか?”

 だが、それに答えてくれるほど親切な者などいない。
 二人を無視して話を続ける。

「こんなところでやられると、こっちも困るんだよねぇ……。いくら話が通っているとはいっても、こちらにも立場がある。一区画分の距離をゆっくり見回りしてくるから、それまでに終わらせてどこかに行っておいてくれ」
「わかった」

 暴漢と衛兵の癒着。
 その現実はとても信じられるものではなかった。
 しかし、今目の前で行われているし、衛兵達が立ち去ろうとしている。

「待って、助けて!」
「悪いな。あとで教会に連れて行って治療を受けさせてやるからさ」

 必死に助けを求めるが、衛兵は申し訳なさそうな顔をして立ち去って行った。

「さぁ、続けようか。言っておくが、これはお前達がカーマイン商会で働いている限り何度でも繰り返されるからな」
「わかった、辞める。すぐ辞める。だからもう殴らないでくれ」
「良い返事だ。だけどダメだ。今日はな」
「ヒィッ! もう嫌だ! 誰かぁ!」



 これと同じ光景は他の場所でも繰り広げられていた。
 カーマイン商会で働く者だけが狙われる事件は、容疑者不明のまま未解決事件として扱われる事となる。


 ----------


 商会員が襲われるようになってから二日後。
 一台の立派な馬車がカーマイン商会の店舗の前に止まった。
 ここ数日、不自然なほど貴族の客が店に訪れなかった。
 良客と思われる客の来店に店内は色めき立つ。

「いらっしゃいませ」

 若い女性店員が応対する。
 だが、彼女は心の中でガッカリしていた。
 護衛付きとはいえ、来店したのは十歳くらいの子供。
 あまり売り上げに期待できそうになかったからだ。

 しかし、その子供の来店は店にとって売り上げどころではない影響を与える事になる。

「アイザック! ……様。何か御用で?」

 ルイスが最初に反応した。
 彼はここ数日、男の商会員が大量に無断欠勤しており、店舗が人手不足なのでやむを得ず店に出ていた。
 先ほどまで残った女の商会員に当たり散らしていたところだ。
 そのせいでアイザックと遭遇する事になった。

「何か御用も何も、客として宝石を買いに来ただけだよ。お姉さん、イヤリングってどこにあるの?」
「こちらです」

 女の商会員は戸惑いながらも、アイザックを案内する。
 その後ろをノーマンと護衛騎士が四人が付いていく。
 もちろん、アイザックの事が気になったルイスもだ。

「贈り物でしょうか?」

 どこか重苦しい空気を感じてはいるが、女は普段通りの対応をする。
 いや、こんな時だからこそ、普段通りの対応をしているのだろう。

「相手は来年十五歳になる男爵家の女の子。だけど、あんまり良すぎる物を送るのも迷惑らしいんだよね」
「ご友人でしょうか?」
「うん」
「その方には婚約者などおられますか?」
「いないと思う」
「それでしたら、こちらの方がお勧めですね」

 女が取り出したのは、真珠のイヤリングだった。

「えっ、これ?」

 以前アイザックが装飾品に加工したクズ宝石よりはマシだとは思う。
 だが、前世の記憶のせいで、ダイヤモンドなどに比べて真珠はどうしてもみすぼらしく見えてしまう。
 葬式で付けている人が多いイメージだ。
 なんとなく地味に思ってしまう。

「真珠は海で取れる宝石ですので、内陸にあるリード王国では希少性があります。それに、プレゼントする相手が男爵家のご令嬢という事ですので、派手になり過ぎないという点でもお勧めできます」
「あー、そういえばそうか」

 リサの十歳式では、男爵家の娘だからと地味な色のドレスを着せられていた。
 キラキラと輝く他の宝石をパーティーに付けて行った場合、他の女の子達に嫌味を言われたりするかもしれない。
 希少性もあるので、プレゼントとして価値がないというわけでもない。
 貴族相手に商売しているだけあって、ちゃんとそういったところの配慮はしてくれているようだ。

「それにあまり立派過ぎる物を贈るのは、そのご令嬢にとって迷惑となります。将来、その方に婚約を申し込もうと考えている男性が尻込みしてしまう可能性もありますので」
「それじゃあ、これもらうよ」
「ありがとうございます」

 女はイヤリング用のケースに詰めてくれた。
 支払いはノーマンが行い、商品の受け取りも彼が行った。
 もちろん、アイザックはリサへのプレゼントを買いに来ただけではない。

 ――ここからが本番だ。

「お姉さん、ありがとう。お礼に良い事を教えてあげる」

 子供らしい無邪気な笑みを浮かべる。
 女も釣られて微笑んだ。

「今日の昼までにこの店を出た方が良いよ。じゃないと、お姉さんも暴行されちゃうよ」
「へっ?」

 微笑んでいた女の顔が引き攣った。
 これは傍にいたルイスも同様の反応を示した。

「女の人が受ける暴行ってきついらしいね」

 この言葉で女の顔から笑顔が完全に消え、顔が青ざめ始めた。
 男性が受ける「暴行」は単純に暴力によるものだ。
 しかし、一般的に女性が受ける「暴行」という言葉には性的な意味も含まれる。
 若いか年を取っているかは関係無く、女性にとっては恐怖の言葉である。

「アイザック様、何をおっしゃられるのですか! 手出しはしないと約束したではありませんか! 約束を破るおつもりですか!?」

 これにはルイスがアイザックに抗議する。
 ウェルロッド侯爵家とは手打ちが終わっているはずだった。
 なのに、なぜこのような事を言うのか。
 それがルイスにはわからなかった。

「”手出しをしない”などという約束はしていません。”あなたやその家族を暗殺しない”という約束をしただけですよ」

 アイザックは声を荒げるような真似はしなかった。
 まだ九歳になったばかりの子供だ。
 怒鳴り散らしても、まったく怖くないだろう。
 だから、その逆。
 冷静に話す事によって、得体の知れない不気味さを感じさせる方法を選んだ。

「まさか、商会員が来てないのは……」
「何者かに襲撃されたからでしょうねぇ」

 アイザックは他人事のように話す。

「いくらなんでもそんな横暴、許されるはずがない!」
「許されますよ」
「なにっ!?」
「許されると言ったんです」

 アイザックはニッと笑う。

「宰相閣下が”どんな方法を使っても良い”とおっしゃられました。宰相閣下は陛下の代わりに国家の差配をするお方。ですから、僕のやっている事は全て合法なんですよ。僕はフィオナとマシューの両名を引き渡してくれるまで、ルイスさんとその家族以外を狙わせてもらいます」
「ハァ? なんでそうなるんですか!? 普通は引き渡しを要求してから行動でしょう!」

 ルイスの疑問ももっともだ。
 引き渡せと要求する前に行動している。
 その時点で常軌を逸しているとしか言いようがない。

「引き渡すつもりなど無いでしょう? ですから、こちらがどの程度の決意で行動しているかわかってもらえるよう、先に行動したんです」
「いくらウェルロッド侯爵家とはいえ、これはやり過ぎでは? 陛下に訴え出れば、子供お遊びでは済みませんよ」

 ルイスにとってエリアスは切り札だ。
 御用商人として、王に会う事ができる。
「不当な妨害を受けている」と訴え出る事も容易だった。

「それは訴え出る事ができればの話しですけどね。あなたは貴族を敵に回しました。だから、陛下に会いたいと陳情しても、陛下の耳に届く事はないでしょう」
「なぜ? 私は御用商人だ。面会を拒絶されるいわれはない」
「あるんですよ」

 アイザックは右手の人差し指をチッチッと左右に振る。

「面会を申し込んでも、その申し出は陛下のもとまでたどり着きません。なぜなら城で働いている者のほとんどは貴族。カーマイン商会の陳情は、全て途中で握り潰される事になっています」

 これは宰相であるウィンザー侯爵に頼んだ事だ。
 ルイスの心が折れるまでは、エリアスと会わせるわけにはいかない。
「いかなる手段を用いようとも、全て宰相の名の下に追認される」と言った以上は、宰相自身も手段として使わせてもらった。
 宰相の命令により、カーマイン商会の取り次ぎを拒否するように全ての役人に通達をさせている。
 貴族らしからぬ暴力的な解決方法でも驚いていたが、本人も利用されると聞いて驚いていた。
 彼もこんな方法に協力させられるとは思っていなかっただろう。

 もちろん、それだけではない。
 この国は民主国家ではないという事が大きい。
 ルイスが訴え出ても、犯人を捕らえていない以上はアイザックを裁く事ができない。
 そもそも、この国の法律では貴族が平民に対して暴力を振るっても、罪に問われない状況が多い。
 せいぜいエリアスがアイザックに注意をする程度だろう。

「その証拠に、この数日は貴族が訪れていないでしょう? 我々の呼び掛けに応じたという事を証明するためのものです」
「それは……、確かに……」

 アイザックの言葉を裏付けるように、ここ数日は客の入りどこかおかしかった。
 来店するのは平民の富裕層のみ。
 貴族の客はまったくと言って良いほど来ていない。
 ルイスが今の状況を少しずつ把握してきていると見て、アイザックは本題を切り出した。

「ここで提案です。フィオナとマシューを引き渡してくれませんか? そうすれば、こちらも手を引きます」
「……もし、断ったら?」

 ルイスにとっては聞きたくない事だ。
 だが、これは聞いておかなければならない事でもある。

「カーマイン商会への妨害がエスカレートしていきます。あぁ、もちろんあなた方を暗殺したりはしません。陛下との約束ですから。その点はご安心ください。けど、自宅や店が燃えたりするかもしれませんよ。あなたのご友人方にも影響があるかもしれませんね」
「くっ……」

 小さく呻いたあと、ルイスは黙り込んだ。
 普通の貴族ならば、もっと違う方法を使う。

”金での解決”
”仲介者を通しての説得”
”貴族と平民という立場の違いによる脅迫”

 普通はこういった手段を試してから他の手段を考えるはずだ。
 いくらなんでも、ここまで手段を選ばずに行動してくるとは思っていなかった。
 これではまるでタチの悪いチンピラだ。
 大きな権力を持つ貴族のやる事ではない。

 実際、これはアイザックが前世で友達から聞いたあくどい方法を実践しているだけだった。

『法整備される前は、いろいろヤバイ方法がたくさんあったんだよ』

 そう言って、飲み会で友人が語っていた。

『対象の周囲を狙って、対象を精神的に追い詰める。精神的に強い奴でも、身近な人間が自分のせいで巻き込まれるってのは結構堪えたらしいぞ』

 どこでどんな知識が役に立つのかわからない。
 絶対に使う事がないと思っていた雑学でも、今ここで役に立っている。

 ルイスは妹と甥を国王を利用してまで守ろうとした。
 それなりの覚悟があっての事だろう。
 その覚悟を根っこからへし折らなくてはならない。

 そして、今回のような方法を取ったのはルイスの心を折るためだけではない。

”ウェルロッド侯爵家のアイザックは危険だ。ウェルロッド侯爵家に手出ししたらどんな目に遭わされるか……”

 そう思わせるためだ。
 もう誰にもアイザックの邪魔をさせはしない。
 ルイスはその意思表示のための人身御供となったのだ。

「僕はね、デニスが死んだらそれで良かった。妻や子供は見逃しても良かったと思っていました。多分、お爺様もそうだったんじゃないかな」
「では、なぜ?」

 アイザックが話し出した事と、今やっている行動が一致しない。
「見逃してもいい」というのならば、暴力による圧力をかける必要などないではないかと思った。

「ルイスさん、あなたが悪いんですよ。先ほど言われた”普通は引き渡しを要求してから行動でしょう”という言葉。そっくりそのまま返しますよ」
「……どういう事ですか?」
「まずはウェルロッド侯爵家に許しを乞うべきでした。それがダメだったら、ウィンザー侯爵に仲介を頼むとかすれば良かったんです。動揺していたのかもしれませんが、貴族の頭越しに陛下に頼みに行ったのがまずかったですね。あなただって貴族相手に商売をやっているのなら、貴族の面子を踏みにじる事の意味くらいわかるでしょう?」
「…………」

 ルイスは何も言わなかった。
 だが、唇を噛んで悔しがっているのでアイザックの言っている意味はわかっているようだ。

「それと、謁見の間で一段高い所から貴族の皆さんを見下すような視線をしたのが悪かったですね。あれのせいで大人達がみんな怒っちゃいましたよ。そのとばっちりで、僕にこの問題を解決しろと命じられたんです。騒動を引き起こした元凶としてね」
「そうですか……」

 ルイスだって馬鹿ではない。
 自分のやった事が間違いだったと指摘されれば、それを理解する事はできる。
 彼は”国王陛下の威光の下なら、誰も何もできない”と思っていただけで、その前提が崩れた場合にどうなるかの想像くらいはできる。
 先を完全に見通す事はできないが、先行きが暗いという事だけは確実だった。

「あなたの人生を優先するか、妹達と共倒れになるか。お好きな方を選んでください」
「待ってください。考える時間をください」

 エリアスを利用してまで守った妹と甥。
 ルイスには彼らを切り捨てる事をすぐに決める事などできなかった。
 アイザックも彼の意見を尊重する。

「いいですよ。ゆっくりと考えてください。でも、お店や友人達が手遅れになる前に決めた方がいいですよ」
「えっ、待って頂けるのでは?」
「返答は待ちますよ。でも、こちらの行動はやめません」

 落ち着いて考える時間を与えれば、対抗策を考え出されてこちらが不利になるかもしれない。
”時間”は与えるが”考える時間”を与えるつもりなど、アイザックには微塵もなかった。

「許しては頂けませんか?」

 ルイスはか細い声でアイザックに懇願する。

「ダメです。ここまで大事になったのはあなたのせいです。大人だったら、責任くらい取りましょうよ」

 だが、アイザックは冷たく突き放した。
 この件に関しては、アイザック一人が納得すれば終わるという類のものではない。
 宰相からの命令が出た時点で、貴族対平民という図式になってしまった。
 ルイスが妹達を引き渡す以外の決着など許されないのだ。

(お前が被害者じゃない。むしろ、俺が被害者だ)

 アイザックはそのように思った。
 家庭内が落ち着いて来たと思ったら、外部の件で煩わされる。
 しかも、エリアスに呼び出されるわ、ウィンザー侯爵に無茶な命令を出されるわで大迷惑だった。
 他に良い方法が思いつかなかったというだけではなく、鬱憤晴らしも含まれていたのは否めない。

「わか……、わかりました……」
「何がわかったんですか?」
「引き渡します……」

 ルイスが折れた。
 このままでは被害が拡大する。
 今はまだ男の商会員が襲われただけだ。
 もし、このまま長引かせて店にまで被害が出始めたら、アイザックが言ったように共倒れになってしまう。

 エリアスを頼るところまでは良かった。
 だが、その後がまずかった。
 どこかにモーガン達を呼び寄せて、エリアスを仲介者として話し合えば良かったのに、エリアスが良い恰好をしようと謁見の間に貴族を集めてしまった。
 そのせいで、ルイスがどうこうできる範囲を越えてしまった。
 いくらなんでも、貴族全てを敵に回しては負けを認めるしかない。

 妹達は助けるための労力は惜しまない。
 しかし、それは自分や自分の家族の安全が確保されていたらの話だ。
 営業できなくなったり、家を燃やされたりしたらそう遠くない内に野垂れ死にしてしまうかもしれない。
 こんな状況では、付き合いのある者達も誰一人助けてくれないだろう。
 自分の身が危険になった以上、もう妹達を差し出すしかルイスの生きる道はないのだ。

「ルイスさん、あなたは良い選択をした」

 アイザックは良い笑顔を見せる。
 その横でノーマンが一枚の書類を取り出し、ルイスに差し出す。

「引き渡しに同意する書類にサインを。それと、この後一緒に王宮に行きましょう。陛下に”犯罪者を匿う事の罪悪感に耐えきれなくなった”と説明してください」
「わかりました……」

 ルイスが書類にサインする。
 書類はノーマンが受け取り、護衛の一人に渡す。
 その護衛が店を出て行く。
 彼が衛兵を連れて身柄を取り押さえる手筈となっていた。

「ルイスさん。一応言っておきますけど、陛下の前で”脅迫された”とか言っても無駄ですよ。それでも僕は止められませんし、陛下も僕に厳しい処罰は下さないと思いますから」
「っ!? なぜですか?」

 少しはエリアスに直接訴え出る事を考えていたのだろう。
 ルイスに戸惑った様子が見える。

「僕はエルフとの交流再開のきっかけを作りましたからね。陛下が交流再開を喜んでいたのは、去年一昨年とパレードをしていた事でおわかりでしょう? 御用商人とはいえ一介の平民と、エルフとの交流を深めている侯爵家の御曹司。陛下はどちらを選ぶでしょうね」

 答えはなかったが、ルイスも理解したようだ。
 去年など二回もパレードを行っていた。
 エルフとの交流再開というのは王国史にも残る出来事。
 その率役者となれば、多少のお目こぼしはしてもらえるはずだ。

「よけいな事はせず、ただフィオナとマシューを引き渡す。それだけで今まで通りの生活に戻れるんですよ。その事を理解していますよね?」
「……はい」

 ルイスによけいな事をしないように釘を刺し、それを理解したと見てアイザックは満足する。

「では、王宮に行きましょうか?」
「……はい」

 もうルイスに逆らおうとする気力などない。
 エリアスへ妹達を引き渡す事を伝えるため、アイザックに付き従って馬車に乗り込んでいった。
+注意+
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