752 二十七歳 アーチボルドの処遇
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アーチボルドは激怒した。
「話が違うではないか! 亡命を認めたのではないのか!」
亡命が認められるまでの短い間だと我慢してきたが、すでにかなりの長期間を待たされている。
その挙句、扱いはまるで捕虜のようなものである。
親族や家臣とも離され、アルビオン帝国が用意した世話役がいるのみ。
この状況には不満しかなかった。
「まだ亡命を認められてはおりません」
世話役の一人が冷たく突き放すように言い放った。
「ではなぜ私をここへ連れてきた?」
「ヴィンセント陛下はアーチボルド陛下に憐憫の情を持たれたようです」
「なんだと!?」
同盟を結んでいたのに攻め込んできた事への謝罪が含まれていると思っていたら、哀れみによって連行されたらしい。
それが彼をさらに苛立たせる。
「ドレイク元帥に裏切られ、わずかに残った国土からも追い出された。仮にも同盟を結んでいた王なのです。どこにも行けないままでは哀れだと皇帝陛下は考えられたようですね」
「ふ、ふ、ふざけるな! 仮にもだと! 同盟を結んでいたではないか! 一方的に裏切った挙句、その言いざまはなんだ!」
アーチボルドは声を荒らげ、世話役に掴みかかろうとする。
「おやめください。私はヴィンセント陛下の名代です。私に手出しすれば、この生活すら失う事になりますよ」
世話役はアーチボルドを冷静に止める。
しかし、それは実質脅迫のようなものだった。
アーク王国とアルビオン帝国の間で、どこに行けばいいのか定まらずにいた頃と比べれば、まだ今の生活のほうがマシである。
不満はあるものの、喧嘩を売って惨めな生活に戻るほどの覚悟はなかった。
「そもそも同盟など自国が有利な状況になるよう利用し、価値がなくなれば破棄されるものだとおわかりでしょう? そもそもリード王国との関係を断つために、我が国の力を利用しようと先に考えられたのはアーチボルド陛下です。お互い様ですよ」
彼はアーチボルドを止めようとしているのか煽っているのかわからない事を言い出した。
さすがにアーチボルドも、ここまでやられると「怒らせて手を出させるのが目的なのでは?」と疑い始める。
ヴィンセント相手である以上、先に手を出すわけにはいかないと自重する。
「ならば……、いつまで待てばいい! ヴィンセント陛下との面会すらまだなのだぞ!」
「今はエンフィールド帝国との休戦期間中です。和平交渉が終わるまでは謁見できません。アーチボルド陛下とお会いして、交渉内容に情が混ざってしまうかもしれないと心配されておられますので」
「情? こんな扱いをしておきながら情があるとでも言うつもりか?」
「もちろんですとも。ヴィンセント陛下は情に厚いお方ですので」
「貴様っ、よくもぬけぬけと!」
アーチボルドは歯ぎしりをして悔しがる。
世話役が「面会」ではなく「謁見」という言葉を使った事もそうだが、どう考えても舐められている。
しかも相手が王族ならばともかく、ただの家臣風情が舐めた口を聞いている。
それが今の自分の立場だとはいえ、腹立たしいものだった。
「和平交渉ではアーク王国のみならず、アーク王家の扱いについても議題に上がっております。フューリアス殿下も交渉中は酷い扱いを受けずに済んでいるはずです。交渉が終わるまでお待ちください」
しかし、アーク王家の扱いについて話を切り出されると、彼も少し落ち着いた。
「いつ終わりそうなのだ?」
「エンフィールド帝国側が講和を渋っているので一年はかかるかと思われています」
「一年……。それだけ待たせるのならば、相応の結果を期待してもいいのだろうな?」
「すでにアーク王家の取り扱いに関しては、大筋で決まっているとの事です。あとは賠償金などを中心とした話し合いとなっているそうです」
「……ならいい。しばらくは我慢してやろう。ただ家族との面会くらいはどうにかしろ」
「その件に関しましては善処できますよう上層部としっかり検討させていただきます」
――アーク王家の取り扱いは決まっている。
その言葉を、アーチボルドは良い意味で受け取った。
しかし、実際は彼が考えたものと反対の意味で決まっていた。
――アーク王家に名を連ねる者は全員エンフィールド帝国に引き渡される。
休戦期間中に占領地の譲渡や捕虜の返還、身代金の支払いなどは進められている。
だがアーチボルドの引き渡しは、まだ進められていなかった。
ヴィンセントが「エンフィールド帝国はアーク王家の引き渡し優先度を最も高いものとしている」と考えたからだ。
そのためアーチボルドは手元に残し、彼の孫を半分だけ渡すだけに留めている。
彼の出番は休戦協定の延長を話し合う時か、和平条約を結ぶ時になるだろう。
それまでは適当にやり過ごされるだけの時間となる。
彼の運命は、すでに決まっていた。
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休戦期間中とはいえ、前線部隊も遊んでいるわけではなかった。
「あいつら、また穴を掘ってやがる」
「どれだけ掘るのが好きなんだよ」
エンフィールド帝国軍兵士は、アルビオン帝国軍が塹壕を掘っているのを眺めていた。
攻めるのが難しい塹壕戦を経験すると、二度としたいとは思えない。
休戦期間を利用して境界線の向こう側で防衛態勢を整えていくのを見て、彼らはうんざりとする。
もちろんエンフィールド帝国軍も準備を整えているが、難民の受け入れ準備などに駆り出されているため遅々として進まなかった。
それが焦りとなって、落ち着きを失わせていた。
「そうイラつくな」
「あっ、軍曹殿!」
背後から上官に声をかけられたので、兵士達は慌てて敬礼をする。
軽く敬礼を返すと、軍曹は話を続けた。
「新兵器の部隊が帰国しただろう? 噂ではもっと凄い武器をたくさん持ってくるためらしいぞ」
「ホントですか!?」
「再来年の一月まで休戦が続く。それは戦争の準備をするためだそうだ」
「戦争をやめたのは、また戦争を始める準備のためですか」
「だから奴らも穴を掘ってるわけなんですね」
「そうだ」
――まだまだ戦争は続く。
その事実が気分を落ち込ませる。
「だが大丈夫だ。なにしろ、こっちにはアイザック陛下がいるんだからな。一年もあれば、きっとなにかやってくださるはずだ」
「そうだな、皇帝陛下ならきっと……」
「俺達には思いよらない方法でアルビオン帝国をやっつけてくれますよね!」
「ああ、何をされるのかはさっぱりわからんがな! だからお前達はこの戦争の間に、せめて上等兵になれるよう頑張るんだ。戦争が終わると出世の機会が減るぞ。戦争中だから敵兵を打ち取って手柄を立てられるんだからな」
軍曹は彼らの気分を紛らわせるため、アイザックと出世に関する事を話題に出した。
戦いに怯えるばかりでは、いざという時に体がすくんで戦えなくなってしまうかもしれない。
こうして部下の緊張をほぐすのも上官としての役目なのだ。
ベテランとして、経験のない者を導くのは大切な事だった。
「戦争が始まるまでは平民出身の騎士見習いだった奴が、今度は男爵になるそうだ。戦場にはチャンスが埋まっている。今度は俺達が掘り出す番だ」
「おおぉ……、それは凄いですね」
「よし、俺達でアルビオン帝国軍の奴らを掘ってやりましょう!」
一時的に気分が落ち込んでいた彼らも、今は意欲に満ちてやる気を見せるようになった。
軍曹は「部下のやる気を引き出せた」と満足気に部下を見ており、周囲の者達は「そんな話を大きな声で話さなくても……」という目で見ていた。
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