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いいご身分だな、俺にくれよ  作者: nama
第二十章 大陸統一編 二十三歳~
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707 二十六歳 婚約者候補との顔合わせ

 子供達の親睦会に集められたのは五歳以上の子供達。

 リード王家からはザック、クリス、クレア、メアリー、レオンの五人が出席していた。

 その五人の婚約者候補も、とりあえず五人用意されていた。


・コロッサス王国の王女、ディース・コロッサス。

・同国ベッドフォード侯爵家の長女、シンディー・ベッドフォード。

・トライアンフ国王イライアスの従兄弟エクセルシオール侯爵の娘、ジリアン・エクセルシオール。

・ロックウェル公爵の孫、スティーブ・ロックウェル。

・キンブル侯爵の曾孫、ディラン・キンブル。


 やはり王族である以上「好きになった子と結婚していいよ」とはいかない。

 だから隣国の有力者を中心に選んでいた。

 しかし、それは女子のみ。

 男子の候補は国内の有力者から選んでいた。


 ――それはアイザックの悪あがきである。


 ザック達は結婚したとしても、嫁に貰って基本的に国内に留まる事になるだろう。 

 だが、クレア達は違う。

 女の子は嫁入りする事になるだろう。

 その場合、遠くへ行ってしまう事になる。

 それでは簡単に会えなくなってしまう。

 だから最後の足掻きとして、国内の貴族から候補を選んだのだ!


 キンブル侯爵にはグリッドレイ地方を任せるつもりなので、ディランと結婚した娘は遠く離れてしまう。

 しかし、その問題解消のためにもレールの敷設を急がせるつもりだった。

 ピストとドワーフのおかげで、小型の自動車もどきの開発は完了している。

 蒸気機関の大型化と効率化を進めていけば、そう遠くないうちに蒸気機関車も実用レベルになるかもしれない。

 機関車が動かせるようになれば、グリッドレイ地方との実質的な距離を縮める事ができる。

 最悪の事態を考えれば、娘が大きくなるまでにこの問題もどうにかしたいところだった。


 この子供達の親睦会には、それぞれの母親も同席していた。

 だが子供とは離れたテーブルで集まっている。

 自由な交流をさせるためだ。

 ちなみに父親がいないのは、高確率でアイザックが首を突っ込んで台無しにすると思われていたからである。


 肝心の子供達はというと、動きが鈍かった。

 一応は事前に婚約者になるかもしれない相手だと聞かされていたせいだ。

 結婚というものがよくわからずとも、特別な相手になるというのはなんとなくわかる。

 そのため普通の友達とは違って、お互いに様子を見ていた。

 そんな時、痺れを切らしたスティーブが動く。


「僕はロックウェル公爵家アルヴィスの息子スティーブです。僕はクレア殿下と婚約するために来ました」


 彼は母親似の明るい赤紫色の髪を持つクレアに、あまりにも直球な自己紹介をする。

 この発言には大人達も驚いた。

 だが馬鹿にしたりはしない。

 子供らしいストレートな物言いだと微笑ましく見守っていた。


「いきなり婚約すると言われても……、困ります」


 クレアは困り顔を見せる。

 スティーブも、どうしようか困った表情を見せていた。

 大人達は「あちゃー、直球過ぎたか」と思いながら様子を見る。


「でも、私と婚約したいと言ってくれて嬉しかったです」


 ――困った顔をしていたクレアの表情は一変し、はにかみ笑いを見せた。


 スティーブが彼女の笑顔を見て挙動不審になる。


(なるほど、落として上げるか……。あの子、あの年で油断ならないわね)


 リサは「ちゃんとフォローしてあげられてよかった」と安堵するだけだったが、誰よりもパメラがクレアの行動を高く評価していた。

 ただ「嬉しいです」と答えるだけでは、その言葉にありがたみがない。

 一度困ったフリをしてから喜ぶ事で、マイナスからプラスへ大きく上振れさせる。

 それによって同じ言葉でも印象を大きく変えるテクニックだ。

 パメラは前世で実践する機会がなかったが、そういう手法がある事だけは知っていた。


「まずはお兄様から自己紹介されては?」

「そうだね」


 クレアが、ザックに話を振る。

 この場の最上位者が彼だからだ。

 妹に言われて、ザックが動き出す。


「初めまして。リード国王アイザックの息子、王太子のザックです」


 ザックはクリスに視線を送る。


「第二王子のクリスです」

「第一王女、クレアです」

「第二王女のメアリーです」

「第三王子のレオンです」


 彼らは順番に挨拶をしていく。

 アイザックの子供だという事は言うまでもない。

 ザックが名乗ると、クリス以降は省いていた。

 もちろん、彼らが誰かと個別に会う時は、アイザックの息子だと名乗っている。


 彼らの挨拶を聞いて、婚約者候補の母親達は改めてアイザックがハイペースで子供を作った事を実感した。

 七歳のザックから五歳のレオンまで、三年の間に五人も子供が生まれている。

 さらに同席しているパメラとロレッタも妊娠中なのだ。

 側室を持つ王は多いが、ここまで子供が多い王は極めて稀だ。

「なにもかもが人並以上なのだな」と、アイザックは思われてしまう。


「先ほど名乗った通り、ロックウェル公爵家アルヴィスの息子スティーブです」


 スティーブが名乗り直すと、クレアがはにかみながら笑顔を向ける。

 するとスティーブは、気恥ずかしさを感じて視線を逸らしてしまう。


「キンブル侯爵家パーシヴァルの息子ディランです」


 ディランはスティーブが名乗ったので、次は男の子である自分の番だと思って名乗った。

 普段は元気の良い子なのだが、今回は特別な集まりだと言われて緊張して固まっていた。


「コロッサス王国王太子ステファンの娘ディースです」


 女の子の中では自分が最高位だろうと思い、今度はディースが自己紹介をする。

 彼女は王女だけあって、落ち着いていた。


「トライアンフ王国から来ました。エクセルシオール侯爵家トラヴィスの娘、ジリアン・エクセルシオール……です!」


 ジリアンはシンディーとどちらが先に名乗るか迷ったが、一応は王族の傍系に連なる自分が先に挨拶するべきだろうと思って行動した。

 彼女は「誰が自分の婚約者になるんだろう」と、落ち着きなくザック達を見ていた。


「ベッドフォード侯爵家テリーの長女、シンディー・ベッドフォード。陛下に父がお世話になっております」


 シンディーは子供らしからぬ落ち着きを見せていた。

 だがその心中は「お父様の事は話題にしないで!」と、父が粗相をしたかもしれないという話を出されないかが不安でいっぱいだった。


「皆さん、遠いところからお越しくださりありがとうございました。まだ婚約すると決まったわけではないので、今日は気楽にお話しましょう」


 一通り挨拶が終わると、今度はザックが場をリードしようと動く。

 しかし、特別な相手を選ぶという事で、誰もがお互いを意識していた。


 この時、アイザックが望んでいた方向とは違い、本来の方向にみんなの意識が向いていた。

 アイザックは「ウチの子供達同士で婚約者が決まるわけではない」と、一つの可能性を考えてニヤついていたのだ。


 ――婚約者候補同士でカップルができあがるかもしれないという可能性だ。


 だが、子供だからといって愚かではない。

「王族が婚約者候補だ」と言われれば、自然と子供達の意識は特定の相手に向けられる。

 スティーブが良い例だ。

 彼はクレアの特徴を教えられており、彼女と仲良くなるようにアルヴィスに教え込まれていた。

 だからクレアに直球でぶつかっていったのだ。


 もしこれが十年後であれば、他の女の子にも気を取られていたかもしれない。

 まだ異性を強く意識しない年齢なので、アイザックの願いは始まる前から失敗していた。


「このお菓子はお父様が作ったんだよ」

「果物にチョコレートをかけるのも?」

「それはクロードおじ様です」

「アイスクリームもおいしいです」


 子供達はぎこちないながらも、お菓子を食べながら会話を進める。

 外が寒い中、暖かい部屋でアイスクリームのような冷たいものを食べるという珍しい贅沢も満喫している。


「そういえば、先ほど庭園で陛下とお会いしました。花を大事にされている優しそうなお方でしたね」

「パパ――お父様は優しい人だよ!」


 ディースの言葉に反応したのはメアリーだった。

 ついいつもの呼び方が出てしまったが、彼女はすぐにお父様と訂正する。


「お父様は私達に絵本を読み聞かせてくれたりするんだよ!」


 メアリーは、アイザックが読み聞かせてくれた絵本の内容を嬉しそうに語る。


 ――氷山にぶつかり沈没していく豪華客船での愛憎劇を書いた『大パニック』。

 ――戦場から帰郷した元兵士が地元の衛兵から弾圧され、身を守るために戦う『乱暴』。


 母親達は「それって子供に読み聞かせる内容なのだろうか?」と疑問を持ったが、子供達は興味深そうにしていた。


「そんな絵本、聞いた事ありませんわ」

「それは陛下が子供達のために書いた物だからです」


 ジリアンの疑問に、アマンダが答えた。

 内容はともかく、彼女はアイザックが子供達のために絵本まで書いているという事を誇らしく教える。

 すると、子供達が目を輝かせる。


「アイザック陛下は凄い人だって聞いていたけど絵本まで書けるんだ!」


「政治や軍事以外の分野でも凄い」と曽祖父からアイザックの話を聞いていたディランだったが、子供には「絵本まで書ける」というほうが凄さをわかりやすかったようだ。


「あとで読ませてあげるね」


 メアリーも誇らしそうにしていた。


「そういえば陛下は――」


 一度アイザックの話が出ると、次々と彼の話題になる。

 本来ならばお互いの事を語るべきなのだが、いきなり婚約者候補と話し合えと言われても話題に困る。

 共通の話題として、アイザックの話がちょうどよかったのだ。

 母親達は「話題が逸れたな」と思ったものの、今日一日で相手を決めるわけではない。

 仲良くなるきっかけとして必要な事だと見守っていた。

 ただし、少しだけ彼女達が思っていたのとは違った反応も起きる。


 ――ザック、クリス、レオン、スティーブ、ディラン。


 彼らが「あれ? アイザック陛下の話ばかりだぞ? 僕の事は?」と、女性陣に興味を持たれなかった事にモヤモヤとしたものを覚えていたからだ。

 それがどういうものかまだ言語化はできなかった。

 だが自分の特別な相手になるかもしれない異性が、他の男の話題に夢中になっている事に対して嫉妬のような感情が芽生え始めていた。

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― 新着の感想 ―
競争率低そうだとアルヴィスがクレアにロックオンしてたことが後の話でわかりますが 嫁取りで一番熾烈を極めるのは後に生まれるエリザベス公主なんでしょうね ザックの嫁入り合戦と違って二位三位が無いですから …
アイザックの子供たちの中でも、特にクレアは将来切れ者になりそうな雰囲気を漂わせてますね。 ベッドフォード侯爵家の娘のシンディー、父親が諸外国の要人が集まった場で粗相してしまったとか、そりゃ恥ずかし過…
ディース達がアイザックとの結婚を望むようになるんですよねw で、アイザックにロリコン疑惑が浮上する、と。
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