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いいご身分だな、俺にくれよ  作者: nama
第二十章 大陸統一編 二十三歳~
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702 二十六歳 作戦の看破

「次にくるライトノベル大賞」の投票は12月5日まで!

作品ナンバーは『11』ですので、ページ下部のリンクなどから投票よろしくお願いいたします!

 刻々とブリジットとの結婚式が近づいてくる。

 そんな時、アイザックに朗報が入った。


 ――パメラとロレッタが懐妊したのだ!


 妻達がなかなか妊娠しなかっただけに、アイザックは「疲れて命中率が下がったのかな?」と不安になっていたが、そうではなかったようだ。

 これで安心してブリジットの相手をできる。

 それだけではない。


 ――誰がアイザックの一番なのか。


 これまで「一人しか生んでいないから愛されていない」と思われていたパメラが妊娠したのだ。

 寵愛一位の座を争っていた二人が同時期に妊娠した事で、少しだけ後宮に平和が訪れる。

 アイザックも「子供を作れ」というパメラからのプレッシャーからも解放された。

 ジュディスが双子を無事に産んだ事も含めて良い事尽くめである。

 物事が上手く進む良い流れが来ていると思ったアイザックは、家族を集めて重大な発表をする事にした。


「実は……。来年の春に私は戦場へ向かう事になる」

「えー、パパいっちゃうの?」

「いかないで」


 まだ幼い子供達が嫌がる。

 アイザックも「じゃあやーめた」と言いたい気持ちがこみ上げてくるが、これだけは耐えねばならない事だった。


「アーク王国というお隣の国が困っているからね。それに戦争を止めないと、リード王国も戦争に巻き込まれるかもしれない。そうなったらご飯を食べられなくなったりするかもしれないんだ。だからみんなのためにも戦いにいかないといけない」

「……長くなるの?」

「戦争はいつ終わるかわからないからね……」


 ティファニーが心配そうな表情を浮かべながら尋ねる。

 アイザックは力なくうなずいた。


「フッ」


 しおらしくしているアイザックを見て、なぜかパメラが鼻で笑う。


「ああ道理で……。やけにあっさりと認めたと思ったら……」


 彼女は静かに怒っていた。

 母の態度を見て、ザックはそっと視線を逸らす。

 基本的には(・・・・・)優しいパメラだったが、怒る時は怒鳴り散らす事なく静かに怒る。

 そして、今の彼女がかなり怒っているという事を子供ながら察していたからだ。

 それはアイザックも同じ。

 パメラの態度から、企み(・・)がバレたのではないかと不安になる。


「あれからまもなく三年。そろそろザックの婚約者を決めるかと思っていたら……。戦争を口実に逃げようというのですか?」


(バレたか! 前世の昌美ならば気づかなかったのに!)


 アイザックは心臓を掴まれたかのような心が締め付けられる気分になる。

 そう、あの時からアーク王国を攻めると決めていた。

「戦場に行けば子供の婚約者を探す暇なんてないよね」と逃げる口実になると思っていたからだ。

 だから渋々とはいえ、期限付きの条件を呑んだのだ。

 その作戦をパメラに看破されてしまった。

 彼女も王太子妃候補として選ばれるだけのスペックを持っているせいで気付かれたのだろう。

 今だけは愚かであってほしかった。


「そうなんですか?」

「実際のところどうなんです?」

「ちゃんと……、説明して……」

「言われてみれば……」

「怪しいと思っていたのよね」


 パメラのせいで、他の妻達もアイザックを責めるような視線を向けてくる。

 王太子であるザックの婚約者が決まらないという事は、他の子達も婚約者を決められないという事だ。

 これは子供達にとって死活問題である。

 みんな今でもアイザックの事を愛しているが、子供ができた以上は妻や恋人ではなく、母としてやらねばならない事を理解している。

 誰もがアイザックに厳しい視線を向ける。

 母達の姿を見て、子供達が怯え始める。


「どうなのですか?」


 パメラが追撃する。

 アイザックは視線を床に逸らす。

 

「そ、そんな事……、あるわけないじゃないですか……」


 ――アイザックの語るに落ちた態度。


 それは彼女達に確信を与えた。


「陛下! 戦争はウォリック元帥にお任せすればよろしいのでは!」

「そうです。陛下は父を信用していないの?」


 パメラとアマンダの連携攻撃。

 これにはアイザックも言葉が詰まる。


 ――信用していると言えば、戦場へ出向けない。

 ――信用しないないと言えば、なぜ信用していない人物を元帥にしたのかと責められる。


 当然、ここで沈黙するのは一番まずい。

 両方の意味で悪い意味で取られてしまうからだ。


「も、もちろん信用している」


 だから最悪の状況ではあるが、一番マシな答えを選ぶしか道はなかった。


「では陛下は戦場へ行く事なく王都に残る。それでよろしいですね?」

「ああ、そうなるな……」


 ――これで逃げ場はなくなった。


 アイザックも覚悟を決めねばならない。


「そもそも、ブリジットさんと結婚して半年もしないうちに戦場に行くなんて酷いと思います」


 リサですらアイザックを責める。

 それだけの悪手だったのだ。

 パメラにさえ見抜かれねばなんとかなっただろう。

 しかし、見抜かれてしまってはどうしようもない。

 プランBを用意していなかったアイザックが悪いのだ。

 母達の態度を見て、子供達も「パパがどこにもいかない」と喜ぶ雰囲気ではないと察して大人しく様子を見守っていた。


「……それもそうだね。ほら、みんなと話し合ったおかげで戦場に行くのが良くないっていうのがわかったよね? 直前になって言い出すんじゃなくて、相談してみてよかったよ」


 アイザックは「決定事項の伝達」ではなく「あくまでも相談のつもりだった」という流れに変えようとしていた。


「……そうでしたか。それならそうと早く言ってくださればよかったのに」


 パメラも威圧するのをやめ、優しい笑みを見せる。


「では候補は決まっているのですよね?」


 だがそれは表面だけだった。

 最終的な結論が出るまで、彼女は追及の手を緩めたりなどしなかった。


「も、もちろんだとも。何人かに候補は絞ってある」

「よかったわね、ザック。お父様がちゃんと婚約者を選んでくださっているそうですよ」

「は、はい……。嬉しいです」


 話を振られたザックは戸惑っていたが、とりあえず返事をする。

 パメラはザックを巻き込んだ。

 これで婚約者を決めなければ、アイザックが子供をがっかりさせる事になる。

 彼女は子供の笑顔を盾にしてアイザックを動かそうとしていた。

 これは子供に甘いアイザックにはできない事であり、とても効果的な方法だった。


「それならメアリーの相手も?」

「レオンの候補も考えておられるのですよね?」

「考えているとも」


 苦し紛れの言葉ではあるが「婚約者をどうしよう」と考えているだけは考えている。

 だが、それだけである。

 相手を考えているだけで実行に移そうとは考えていなかった。

 とはいえ「なにもしていなかった」とは答えられる雰囲気ではないため、その場しのぎの嘘を吐く。


「陛下が婚約者に子供を取られないか心配して、婚約者探しを放棄するような卑怯者でなくてよかったわ」

「本当だね。ボクは陛下の事を信じてたけど」


 ロレッタとアマンダが、さらに牽制をしてくる。

 これで「婚約者を決められない」となったら、アイザックは卑怯者扱いをされる事になる。

 ジワジワと崖っぷちへ追い詰められていく。

 この時、リサとティファニーは長い付き合いという事もあり「さすがに大丈夫。……大丈夫だよね?」と信じていいのかどうか迷っていた。

 アイザックの子供に対する態度が信じられなかったからだ。


「相手がいるか……、私が占う……」

「それは良い考えね!」


 ジュディスの発言で、アイザック以外の大人達は色めき立つ。

 彼女の占いならば、子供達が将来結婚しているかもわかる。

 占いの結果次第でアイザックが約束を守っているかも確認できるいい方法だった。


「でもさ、なんでもかんでも占いに頼るのは……」

「なにか問題でも?」


 妻達にジッと見つめられると、後ろめたいところのあるアイザックはなにも言えなくなってしまう。

 その姿を見て「パパよりもママのほうが強そう」と、噂では怖いはずの父が母に気圧されている姿を見て、子供達はそう思い始めていた。



 ----------



「――っていう事があってさ、適当な相手をリストアップしておいてよ」


 翌日、アイザックはノーマンに子供の婚約者としてふさわしそうな相手のリストアップを頼んだ。

 計画が崩壊した以上、婚約者を探すフリはしないといけない。

 そのアリバイ作りに、やっている姿勢だけは見せようとしていた。

 すると、ノーマンが紙の束を取り出す。


「近隣諸国の王族や高位貴族の子息のリストはできております」

「おっ、用意がいいね」

「いつかは必要になるものだと思っておりましたので」


 そのいつか(・・・)がかなり遅くなってしまったが、リストは無駄にならなかったようだ。

 ノーマンは自分の事を特別優れているとは思っていないため、こういう地味な仕事を頑張っていた。

 その甲斐があったようだ。


「一応今年のものではありますが、リストを作ってから時間が経っているので相手が決まっている可能性もあります。めぼしい候補が見つかれば大使館に確認したほうがよろしいかと」

「そうしよう。ありがとう、助かったよ」

「それが役目ですので」


 アイザックがリストに目を通すと、見覚えのある名前も書かれていた。

 だが、なによりも一度は子供と面談してみたい。

 性格の悪い子と婚約させて結婚生活を苦労させたくないので、そこはしっかり選ぶつもりだった。

 候補者の名前を見ていると、執務室の扉が激しく叩かれる。


「いったい誰だ?」


 ノーマン達が眉をひそめる。

 国王を相手に、こんな無礼な振る舞いは許されるものではない。

 許されるとすれば、ザック達くらいだろう。


「緊急報告です!」


 だが、それは違った。

 急ぎの伝令らしい。

 それにしても慌てすぎだ。


「どうぞ」


 アイザックが入室を許可すると、伝令の騎士が慌てて入ってくる。


「アーク王国で戦争が始まりました!」

「それは知っている」

「内戦ではありません! アルビオン帝国がアーク王国への侵攻を始めた模様です!」

「な、なんだってー!」


 この報告にはアイザック達も慌てる。

 アルビオン帝国の予想外の行動は、情勢を大きく動かそうとしていた。

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― 新着の感想 ―
妹妻には勝てないよね、考えてこと全部バレバレ
さすがにアイザックにとっても想定外だったアルビオン帝国の侵攻。しかしながら帝国サイドからすればアーク王国との同盟は、すり寄って来たのを受け入れたものの、一方的に迷惑をかけられるばかりで、まるでメリット…
将軍が戦争で活躍しすぎて民衆人気が上がると、それを面白く思わない上層部や権力者から嫌われる傾向にある。 かつてドラゴン討伐に駆り出されたアイザックみたいに、王子や王が英雄を殺そうとしたり、軍を取り上げ…
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