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いいご身分だな。俺にくれよ。 作者:nama

第三章 継承権争い -決着編- 六歳~九歳

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「ジュースを凍らせただけなのに、比べ物にならないくらい冷たくて美味しい」
「そうだね」

 リサがぶどうジュースを凍らせたアイスに感動している。
 八月の暑さの中で食べるアイスは格別だった。
 実際は、そのまま凍らせると水っぽくなるので、少し煮詰めて砂糖で味を調整したアイスだったのだが、アイザックはわざわざ言うまでもないと思って同意するだけにとどめた。

「こんなの食べられるんなら、王都に行きたくなくなっちゃう」

 リサももう十三歳。
 再来年の春には王立学院に通学するために、王都へ引っ越す事になる。
 そうなると、アイスともお別れになってしまう。

「大丈夫だよ。王都にもお店を作るからさ」

 元々、エルフをウェルロッド侯爵家だけで独占するなと言われている。
 言われるがままにするつもりはなかったが、王都にエルフ経営の店を作り、不満を緩和するつもりだった。
 将来的には侯爵家や伯爵家の各領都に出店する予定だ。
 だが、リサは「そうじゃない」と首を振る。

「お金がね……。そんなにしょっちゅう食べられる金額じゃないわ」

 一杯1,000リード。
 まともな金銭感覚を持つリサには、子供が気軽に食べられる物ではないと理解していた。

「じゃあ、リサお姉ちゃんには食べ放題にするよう伝えておくよ」
「ダメよ、そんなの。あんたにタカるために仲良くしてるわけじゃないんだから。それだったら、お店の仕事を紹介とかしてくれた方がいいわよ」

 アイザックの気遣いは余計なお世話だったらしい。
 彼女も貴族ではあるが”自分だけの特権”というものに興味が無いようだ。
 逆にリサの機嫌を損ねてしまった。
 貴族ではあるが”特権”という言葉とは縁の無い地方の男爵家の娘だけあって、特別扱いされるのを嫌がった。
 これは五年後の事を考えてだ。

 あと五年もすれば「アイザック」ではなく「アイザック様」と呼ばなくてはならなくなる。
 学生の間は良くても、卒業後は一人の貴族としてアイザックに接しなくてはいけなくなるからだ。
 特別な扱いに慣れてしまえば、大人になった時が辛い。
 その事を理解しているリサは、アイザックの好意に甘えなかった。
 アデラの教育はちゃんとされている。
 ただ、彼女の教育がアイザック相手には有効ではなかっただけだ。

「それじゃあ、王都の屋敷で学業に影響のない短時間の仕事は?」
「お屋敷の仕事は良いわね。将来のためにも良い経験になりそうだし、王都に行った時はお願いしようかしら」

 リサの結婚相手がどんな人になるのかわからない。
 相手は王都で働く宮廷貴族かもしれないのだ。
 そうなると、貴族として他人に恥ずかしくない暮らしをできるように、共働きになるかもしれない。
 ウェルロッド侯爵家の屋敷であらかじめ働いていれば、大人になった時に正式に採用されやすくなるはず。
 それに、こちらは”特権”ではなく”コネ”で済む範囲だ。
 この提案はリサも受け入れやすかった。

「でも、再来年には王都に行っちゃって、卒業後には結婚して居なくなっちゃうんだよね……」

 感慨深気にアイザックは呟く。

”乳兄弟で姉代わりとして傍に居たリサが居なくなる”

 そう思うだけでも寂しい。
 五年後には誰もが口説き始める美人になっているだろう。
 誰かの物になるのは悔しいが、この世界で五歳差は大きい。
”自分が大きくなるまで独身でいてくれ”とは言えなかった。

 アイザックが卒業する十八歳まで独身で居てもらえば、リサは二十三歳。
 この世界では、特別な理由が無い限り二十歳を過ぎれば「行き遅れ」と後ろ指を指されるほど結婚が早い。
 手放したくないからと、リサが誰かと結婚するのを邪魔すれば、彼女が辛い思いをするだけだ。
 黙って見送るという選択肢しかアイザックには無かった。

「別に私が結婚しても会えるじゃない。今生の別れじゃないんだから」

 リサは”何を言っているんだ?”とでも言いたそうだ。
 死に別れたわけでもない以上、いつでも会える。
 だが、アイザックは「そうではない」と言った。 

「僕だったら奥さんが、自分の知らないところで若い男と会ってるっていうのは……。浮気をされていないにしても、あんまり気分が良くないかな」
「もう、何言っているのよ」

 リサはアイザックの言葉を笑う。

「そんな事は、あと十年経って私が浮気してもいいって思えるくらい恰好良くなってから言いなさいよ。私の結婚相手が”さすがにアイザックとは浮気しないだろう”って思うようなダサい大人になってるかもしれないのに」

 前世ではまったくモテなかっただけに、アイザックはその言葉を聞き流せなかった。
 とっさに反論する。

「お父様とお母様を見ている限り大丈夫だよ。大きくなったら見返してあげるよ」
「頭が良い事だけが魅力の大人になってないか、楽しみにしてるわ」
「…………」
「…………」
「フフフ」
「アハハ」

 二人は軽く睨み合った後、笑い合う。
 くだらない言い争いだ。
 だが、穏やかなやり取りだった。

 この頃には、アイザックは原作の流れに乗るかどうかの答えを出していた。
 だからこそ心に余裕を持ち、リサとの他愛のない話を楽しむ事ができている。


 ----------


 リサが帰った後、アイザックは自室に戻る。
 そして、将来の計画書を取り出した。
 ようやく計画書の隠し場所を考え出す事ができたからだ。

”祖父や祖母から送られて来た手紙を保管する箱の底”

 ここならば、わざわざ中身を確認する者もいないだろう。
 スパイのような者がいたとしても、最新の情報を得るために新しい手紙を読むだけだろうから、底の方にある古い手紙までは読まないはずだ。
 それに、固有名詞は全く関係の無い物を使っているので、見られても”小説のネタ帖かな?”くらいにしか思われないと考えていた。
 アイザックは計画書を取り出す。

(今はまだ書き始めたばっかりだから、これからは覚えているイベントを書き残して忘れないようにしないと)

 とはいえ、そこまで真剣に攻略サイトを見ていたわけではない。
 しかも八年に見たので、段々と忘れかけている。
 書き残せる物は、そう多くならないだろう。

(計画の骨子は変わらずそのまま……、っと)

 基本的にニコルがジェイソンを奪い取り、パメラとの婚約を破棄させる方向で考えている。
 これを既定路線としなければ、少なくとも今のアイザックに下剋上を成功させる道筋が見えなかった。
 最悪の場合、ニコルの尻を叩いてでもジェイソンを攻略させるつもりだ。

(原作に多少は干渉してもしょうがないよな。ニコルとジェイソンさえくっつけてしまえば、多分どうにかなる)

 ウォリック侯爵家も困っているとはいえ、アマンダを安売りしたりしないはずだ。
 味方に付ける糸口としてアマンダが存在する以上、ウォリック侯爵家はなんとか味方にできるような気がする。

 ――ニコルとジェイソン。

 この二人がくっついてくれれば、なんとかなる。
 いや、なんとかするつもりだった。

 原作に干渉する覚悟が決まったのは、メリンダとネイサンの事が大きい。
 いくら原作に出ないキャラだったとはいえ、彼らはウィルメンテ侯爵家に非常に近い。
 大義名分を用意しての強制排除とはいえ、ウェルロッド侯爵家とウィルメンテ侯爵家の関係は悪化するだろう。
 それが周囲にどの程度影響を与えるのかがわからない。
 原作通りに進めようにも、自分の行動が影響を与える範囲がわからない以上は”原作から逸脱するという覚悟を持って行動をするべきだ”と、アイザックは覚悟を決めた。

 これはすでにフレッドとアマンダの婚約破棄という影響を与えてしまったからこそ、決められた事だった。
 原作の流れから離れていなければ、なんとかそのままの流れを維持しようとしていただろう。
 そして、ネイサンを排除した時に起きる影響に驚いていたはずだ。
 アマンダの婚約破棄という外部の事件によって、その事に気付けただけでも収獲だ。
 彼女の犠牲は無駄ではなかった。

(よけいな制約から解き放たれたと思えば気楽なものだ。けど、やり過ぎもダメだから気を付けないとな)

 自由に行動できるからといって、本当に自由に行動していいわけではない。
 今回は国王であるエリアスを使ってウォリック侯爵家に嫌がらせをした。
 という事は、王家にも何らかの形で影響を与えている可能性もある。
 やり過ぎて、ニコルがジェイソンを攻略するイベントフラグをへし折ったりしては自分が困る。
 行動できる範囲が少し広がっただけだと、自分を戒めておかねばいけない。

(とりあえず、ムカついたからって王家を利用して嫌がらせするのはやめておこう)

 王家を意味する隠語の部分に×を付けて”使用禁止”と書き込む。
 ウォリック侯爵家を犠牲にする前に理解するべきだったが、王家を使うと事が大きくなり過ぎる。
 曲がりなりにも国家の頂点に立つ者なのだ。

”アメリカがくしゃみをすると日本が風邪をひく”

 という言葉があるように、影響力の大きい者の行動は周囲に大きな影響を与える。
”王家を使った嫌がらせをしない、させない”の精神を忘れてはいけない。
 そう自分に言い聞かせた。

(これに関しては、ドナルドが生きていたら”本当に申し訳ない”と謝りたいくらいだ。……生きている相手に謝れば誰が仕組んだかバレるから、生きてたら謝らないけどさ)

 あくまでも感情の問題。
 ただ”やり過ぎた”という思いがある。

 チョコレート菓子店は金にはなるが、アイザックにとってやる事の無い王都での暇潰しに過ぎない。
 エルフに植林の仕事を与え、クロード達に食べさせる分があれば店自体にこだわるつもりは無かった。
 原料の禁輸を盾に脅し取られそうになったのが、腹が立つというだけだ。
 本当に意趣返しという以上の意味を持たない嫌がらせが、予想以上に大きな悪影響をウォリック侯爵家与えてしまった。
 その事を申し訳ないと思う気持ちくらいは、アイザックにもあった。

(まぁ、ウォリック侯爵家について考えるのはもういいや。他の女の子の事を考えよう)

 アイザックの思考は次へ移る。

 ティファニーの実家に関しては、ウェルロッド侯爵家傘下の貴族なので協力を頼む事は容易だ。
 ニコルに婚約者を奪われれば助けるし、慰めてやる。
 従姉妹という事もあり、特別難しい問題は無い。
 前世でやっていた恋愛ゲームでいえば、ゲームに慣れるために用意された幼馴染で攻略しやすいキャラだ。
 実際に彼女を助けるのは容易だろう。
 だから、次のキャラの事を考え始める。

(影響力という点では、ランカスター伯爵家のジュディスだな。領地の位置的にも味方にしたい)

 ランカスター伯爵領はリード王家東部、ウェルロッド侯爵家とウィンザー侯爵家の間にある。
 敵に回せば”背後に敵がいる”という危険な状態になってしまう。
 王家と安心して戦うには、味方にしておきたいところだ。
 もちろん、アイザックが味方にしたいと思うのはそれだけではない。

 ジュディスは長い髪で顔が隠れているが、かなりの美女だ。
 しかも、占い好きの地味なオカルト系キャラとは思えない自己主張の激しい体をしている。
 主に胸の付近が。
 パメラがいるとはいえ、できればお近づきになりたい相手の一人でもあった。

(ランカスター伯爵は爺ちゃんと仲が良いし、助けるのは当然だよな。うん)

 前世では一夫一妻制の国で育ったせいで、側室を持つという事に抵抗があるアイザックは、別の理由を付ける事でジュディスを迎え入れる事を正当化しようとした。

(それよりも、ダミアンの婚約者のジャネットだ。助けるつもりではあるけれど……)

 ジャネット・ウェリントン。
 ウェリントン子爵家の娘で、ダミアンの婚約者だ。
 高身長の姉御肌タイプの女の子である。

 ダミアンの母であるキャサリンがルシアの友達なので、ジャネットはダミアン共々扱いに困る。
 転生当初はダミアンの事などどうでも良かった。
 今でも一度会っただけなのでどうでも良いと思っているが、酷い扱いをすれば母を悲しませてしまうだろう。
 大きな力を持たない子爵家だから、ジャネットを見捨てるという選択肢もある。

 ――だが、ジャネットはアマンダの幼馴染だった。

 アイザックとティファニーのようなものだ。
 いや、同い年で同性の友達と考えれば、もっと深い仲かもしれない。
 彼女を見捨てるより、助けた方がアマンダに良い印象を与えられるだろう。
 ウォリック侯爵家の協力を取り付けられる希望が見えた今、少しでもアマンダの印象を良くしておきたい。
 そうなると、ジャネットは助けるべきだ。
 だが、その場合はダミアンと敵対する可能性が高い。

(これが”鶏肋”ってやつか……)

 鶏肋とは”大して役に立たないが、捨てるには惜しいもの”を意味する。

 ジャネットを助ける事は、アマンダを味方に付けるのに多少は役に立つ。
 しかし同時に、ルシアとキャサリンの中を引き裂く恐れもある。
 小さなメリットがあるが、小さなデメリットもある。
 労力を考えると、デメリットが勝つような気がしないでもない。
 だが、だからといってジャネットを見捨てるのはもったいない気がする。

(時期を見て、何らかの処置を取るって事にしておこう)

 アイザックは問題を先送りにした。
 だが、これは逃げただけではない。
 彼女に関しては優先度が低い。
 ネイサンを排除した影響がどの程度広がるかを確認してからでも十分だと判断したからだ。

(とりあえず、攻略キャラに関してはこんなもんか)

 今回考えた事を紙にまとめ、そのを読み直して再確認する。
 そして、アイザックは一つの事実に気が付いた。

(何も進んでいない!)

 それもそのはず、今回考えた事は現状を考えて確認しただけ。
 何か素晴らしい計画を思いついたというわけではなかったからだ。

(なんだよ、この”最初は強く当たって、あとは流れで”みたいな無計画さは……。これってむしろ”俺が入学前に原作の流れを変える事ができるのか?”って、自分の能力に不安を抱くんだが……)

 考えている間は何か考え付いたかのように思っていた。
 しかし、紙に書かれた内容を読むと計画がまったく進んでいない。
 形に残して再確認すると、能力の無さをハッキリと理解させられてしまう。
 現実とは残酷なものだ。

(い、いや、大丈夫だ。俺も再来年には十歳になる。他の子供達と交流する事で、良い刺激を受けて何か思いつくかもしれない)

 ネイサンが居なくなれば、同年代の子供との交流も増える。
 人間の子供よりも、エルフという異種族の方が交流を持つ時間が圧倒的に長いという状況も変わるはずだ。
 そうなれば、インスピレーションを刺激されて良い考えが浮かぶかもしれない。
”とりあえず、一月までは問題を先送りにしよう”とアイザックは決めた。

 だが、この時にアイザックは考えるべきだったのだ。

 ――メリンダとネイサンを排除した時に与える影響の範囲を。
24日、25日は見栄を張るためにお休みです。
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