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いいご身分だな。俺にくれよ。 作者:nama

第一章 幼少期編 前世~五歳

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 アイザックの誕生日は十月十日。

(季節のイベントがゲームと同じなら、仕込んだのは年末年始のパーティーがある頃。パーティーで酒を飲んで、そのまま流れでベッドへ。っていう流れが想像できるのが辛いなぁ……)

 アイザックがこんな事を考えているのは、彼の四歳の誕生日だからだ。
 出席者は祖父母と両親、アデラとリサといった身近な人物だけ。
 どうやら、大勢呼んだ盛大な誕生日パーティーは十歳までは行われないらしい。

 一番の理由として、子供はいつ死ぬかわからないというのがある。
 子供はまだ免疫が弱く、病気で簡単に死ぬ。
 大人と違って骨も柔らかいので、何かの拍子に骨折するし、当たり所が悪ければ死に至る場合もある。
 なので、ある程度育つ十歳になるまでは、誕生日パーティーは身内だけで開くのが通例となっている。

(その割に、他のパーティーは普通に開くのがおかしいんだよなぁ……) 

 それぞれの季節に、傘下の貴族を呼んでパーティーを開く。
 そこでは普通に出席し、挨拶をしたりもする。
 もしかすると、誕生日パーティーに関しては、昔からの慣例として決まっているだけなのかもしれない。
 きっと、これも貴族の風習というやつだろう。

「アイザック、誕生日おめでとう」

 当主のモーガンが最初に祝いの言葉を掛けると、他の者達もアイザックを祝う。
 その中に、メリンダとネイサンの姿は無い。
 彼女らはルシアに敵意を持ちすぎている。

 わざわざ、ルシア用とメリンダ用で別の別館が用意されているくらいだ。
 同じ敷地内とはいえ、あまり顔を会わさないように気を使われている。
 ルシアとメリンダの家格が近ければ良かったのだが、子爵家と侯爵家。
 大きく離れているせいでメリンダが”ランドルフにふさわしいのは私だ”と、ルシアを目の敵にしていた。

 こんな状況になったのは、全てランドルフが悪い。
 外国の王族に嫁ぐ予定だったメリンダは、相手に婚約を破棄されて非常に不安定な立場になっていた。
 ウィルメンテ侯爵に冗談混じりで”引き取ってくれないか”と言われたランドルフが”良いですよ”と、うっかり返事をしてしまった。
 メリンダの境遇を可哀想だと思っていたせいで、口が滑ってしまったのだ。

 公の場での発言だったので簡単に取り消す事もできず、そのまま妻として迎える事となる。
 とんでもない失敗をしてしまったが、ランドルフはルシアを愛していた。
 なので、彼女との間に生まれて来た息子に継承権を優先するなど、いくつかの条件を付けての結婚となった。

 それはそれでメリンダは気に入らなかったらしい。
 ランドルフとルシアの邪魔をして、先に自分が妊娠できるように動いたようだ。
 だから、先に結婚していたルシアではなく、メリンダが先にネイサンを生むという事態になっていた。

(ドロドロの愛憎劇とか、そういうのはドラマだけで良いんだけどな)

 その話を聞いた時はウンザリした。
 だが、略奪愛をテーマにしたゲームと同じ世界観なら、これくらいの話はあってもおかしくない。
 だから”嫌な女で良かった”とだけ考えるようにしていた。
 仲の良い家族なら、ネイサンを排除するのに躊躇っただろう。
 嫌な相手だからこそ、純粋に排除する事だけを考えられる。

「ありがとうございます」

 アイザックはみんなにお礼を返す。
 そして、両親にも。

「お父様、お母様。生んでくださって感謝しています」

(本当にありがとう。楽しそうな世界に生んでくれて)

 無邪気な笑顔を見せるアイザックに、両親や祖父母だけではなく、使用人達も優しい笑みを浮かべる。
 生意気なクソガキであれば、使用人達はこんな反応をしない。
 周囲に気を使う子供らしからぬアイザックだからこそ、使用人達まで良い反応を返してくれるのだ。

「おい、プレゼントを持って来てくれ」

 ランドルフが使用人に命じると、30cm四方の箱を運んで来る。

「アイザックは何も欲しがらないから、結構迷ったのよ」

 ルシアが少し困ったような顔をして言った。
 子供だったら”お菓子が欲しい”や”おもちゃが欲しい”とグズってもおかしくない。
 なのに、アイザックは書斎の本を読んでいれば満足そうだった。
 親からすれば、息子の趣味嗜好がわからないのは非常に困る。
 プレゼントを送ろうにも、何を送れば良いのかわからないからだ。

 そこで今回、モーガンの提案によりある物が選ばれた。
 子供なら喜ぶであろう物。
 喜んで家族揃って誕生日プレゼントを選ぶ事になった。
 それはアイザックの目の前に置かれた箱の中で、ガサゴソと音を立てている。

「開けてもいいですか?」
「もちろん」

 生まれ変わったアイザックにとって、初めての誕生日プレゼントだ。
 そもそも、何かを望めば普段から欲しい物を買い与えられる侯爵家に生まれている。
 大貴族に生まれた以上、誕生日プレゼントを待ち遠しく待たなくても良い。
 だから、今までは誕生日プレゼントを貰った事は無かった。
 祝いの言葉だけだ。
 アイザックは生まれて初めての誕生日プレゼントをドキドキしながら開ける。

「犬だ!」

 中にはクリーム色の毛を生やした子犬がいた。
 箱の中にいたせいか、少し眠たそうな目をしている。
 アイザックは持ち上げようとするが、子犬といえどもまだ持ち上げられなかった。
 幼い体が憎らしい。

(前世では犬なんて飼えなかったんだよなぁ。やっぱり大きい家だから余裕があるよな)

 地方公務員だった父は一軒家をローンで買った。
 しかし、ペットを飼うほど家の広さと経済的に余裕がなかった。

 だが、今世では違う。
 家は広いし、経済的に余裕がある。
 それだけではなく、ペットの世話をしてくれる使用人までいる。
 ペットを可愛がるには最高の環境だった。

「なんていう名前なんですか?」
「ゴールデンレトリバーのパトリックよ。まだ子犬だから、名前を変えても大丈夫らしいわ」

 マーガレットの言葉を聞き、アイザックは少し悩んだ。

「いえ。犬だからといって、コロコロと名前を変えるような事はしたくありません。なっ、パトリック」

 まるでぬいぐるみのようなパトリックに手を伸ばした。
 甘噛みをしてこないので、噛み癖などは矯正されているようだ。
 パトリックはアイザックの手の匂いを嗅いだり、舐めたりしている。

「くすぐったいよ」

 アイザックは笑いながら、指を舐めるパトリックを見つめる。
 そのアイザックを、家族は笑顔で見つめていた。

「庭に面した部屋をペット部屋として用意している。そこで一緒に遊ぶと良い」
「はい、お父様。ありがとうございます!」

 アイザックはパトリックを抱いて遊びに行こうとする。
 だが、持ち上げられなかった。
 テンションが上がって、持てないという事を忘れていたのだ。

「リサお姉ちゃん、持って」

 仕方が無いので、リサに声を掛けた。
 彼女も犬に興味深々。
 喜んで抱き上げる。

「アイザック、はい」

 リサがパトリックを抱き上げる。
 そして、アイザックがよく見えるように目の前に差し出してくれた。
 アップになった子犬や子猫特有の愛嬌可愛らしさに、アイザックは頬を緩ませる。

「ありがとうございました。大切にします。お姉ちゃん行こっ」

 そう言い残し、アイザックは部屋を出て行った。

「ペットを与えるというのは、間違いではなかったようだな」
「そうですね」

 モーガンの言葉に、ランドルフも同意する。
 あんな風に喜ぶアイザックは初めてだ。
 普段通りであればプレゼントを脇に置いて、そのまま話をしていたところだ。
 プレゼントを受け取って、無邪気に遊びに行く。
 年相応の姿を見て、一同はどこかホッとした思いをしていた。


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「パトリック、僕はもう疲れたよ……」

 アイザックは地べたに座りながら、弱音を吐いた。
 その周囲で、パトリックが”まだ遊ぼう”とうろついている。
 今までパトリックとロープでの引っ張りっこしたり、部屋の中を追いかけっこしたりと遊んでいたのだが、パトリックの体力に付いて行けなかった。
 その事を、アイザックは反省していた。

(本ばっかり読むんじゃなく、体も動かした方が良いな)

 友達が女の子ばかりだったのもよろしくない。
 ついつい、お話しやお人形遊びなど、体を動かさない遊びになってしまうからだ。
 パトリックが来てくれたおかげで、体を鍛える必要に気が付けた。
 それだけでも、十分に価値があったといえる。

「ちょっと花壇に行ってくるから、パトリックと遊んでてくれる?」
「もちろん、喜んで」

 リサにパトリックを任せると、アイザックは花壇へと向かう。



 庭の隅に作られた花壇。
 ここはアイザックがランドルフにねだって作ってもらった。
 そして、花の種はお小遣いで買い揃えた。
 別に花に興味があったわけではない。
 この花を使って、少しずつ周囲の者達に取り入っていくためだ。

 自分の味方になるように説得するには、まず相手と会わなくてはならない。
 しかしながら、理由もなく面会していると、何か画策していると気付かれる。
 アイザックは自分が育てた花をプレゼントするという名目で近づき、堂々と相手と話をするつもりだった。
 子供の浅知恵かもしれない。
 それでも、何もしないよりはマシだと思っていた。

「坊ちゃま。今日も雑草摘みをご自分でやられるのですか?」

 アイザックの姿を確認した庭師のカールが声を掛けて来る。
 子供の体ではできなかった花壇作りは彼に任せていたが、雑草詰みや水やりは自分自身の手で行っていた。

「うん。自分でできる事を色々やってみたいんだ」

 これは嘘だ。
 本当はカールに全部任せてしまいたかった。
 だが、庭師が最初から育てた花。
 それは”ただの花”だ。
”アイザックが自分の手で育てた花”だからこそ価値がある。
 サボりたいという自分の本心を騙しながら、気長にやるしかない。

「ところで、これいつ頃に咲くの?」
「大体四月頃ですね。半年ほどかかります」
「そうなんだ」

(思ったより長いけど、まぁ良いか)

 まだ四歳になったばかり。
 今はまだ焦るような時ではない。
 それに、季節に合わせた花を順次植えて行く予定だ。
 これからは自分の花壇に花が咲き続けるようになる。

「早く咲くといいなぁ」

(少しずつ、地盤固めに動き始められるし)

「そうですね。ですが、成長していく姿を見守るのも楽しいものですよ」

 王侯貴族が花の世話をするのは珍しくない。
 ウェルロッド家にも、数代前の当主が作り上げたバラ園がある。
 子供の頃からというのは珍しいが、草花を育てようとするのは悪い事ではない。
 気長に物事を待つ我慢強さも鍛えられるからだ。

 花が咲くのを楽しみにしていたのはアイザックだけではない。
 カールも楽しみにしている一人だ。
 だが、彼の場合は花だけを楽しみにしているのではない。
 花が咲いた時――手間暇を掛けた苦労が実った時――に、アイザックがどんな反応をするのか。
 そちらも楽しみにしていた。
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