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いいご身分だな。俺にくれよ。 作者:nama

第三章 継承権争い -決着編- 六歳~九歳

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 3月25日。
 この日はマチアスのお別れパレードが行われる。

 12月25日の協定記念日と同じ25日に行うという事が、リード王国国王エリアスには重要だった。
 建国の時代に生きていたエルフとの仲を民衆に見せる事で”今代の王は立派な方だ”と思わせるためだ。
 マチアスがリード王国に残るのなら別だが、村に帰る事を強く希望した。
 そのため、帰る前にもう一度だけとパレードを行う事になった。

 全てはエリアスが見栄を張るため。
 国王の権限は絶大だと言っても、その権力を自在に振るう機会など滅多にない。
 賢王と呼ばれていても、特筆するような実績は無かった。
 せいぜいが、外国との戦争を避けて穏健路線を取ったくらいだろう。
 目に見える実績と言う点では、エルフとの交流を再開させたアイザックやモーガンの方が上だ。
 だからこそ、あえてマチアスを”建国時代の英雄”にまで持ち上げ、屋根の無い馬車で隣合って座っている。

 ――英雄の隣に座る自分も素晴らしい人間だと錯覚させるために。

 哀れな人間だと嘲笑う事は簡単だ。
 だが、自分に自信を持っている人間が、世の中にどれだけいるだろうか。
 エリアスも王太子として生まれ、順当に国王にまでなったとはいえ人間だ。
 こうしてパレードを行うのは、自分に自信を持つための儀式とも言える。
 民衆を騙すだけではなく、自分自身も騙さないといけなかった。
 それくらいしないと、国王という権力の座には耐えられないのかもしれない。
 アイザックが聞けば「じゃあ、俺がもらってやるよ」と言っていただろう。

 パレードの列は官公庁のある区画を抜け、さらに街の外まで大通りを真っ直ぐ進んでいく。
 街門付近まで進んだところで事件は起きた。

「陛下! 何卒、何卒話をお聞きください!」

 パレードのために大通りを封鎖していた兵士の隙間を抜けて、一人の男が王の乗る馬車の前に走り出る。
 その男は王の警護に就いていた騎士の手によってすぐに取り押さえられた。

「陛下、陛下!」
「ええい、黙れ!」

 騎士は殴る事で黙らせようとする。
 それを見て、マチアスがエリアスに話かける。

「直訴というのは、今でも禁止されておるのですかな?」
「もちろん。正規の手続きを踏まず、自分の要求を訴え出る事は禁じられております」

 王に直訴するという事は、平民の上に立つ貴族の面子を酷く傷つける。
「お前と話しても無駄だから、王に直接言うわ」と言っているのに等しい行為だからだ。
 それに、王としても平民の訴えを一々聞いていたら、答えを出さずに話を聞くだけでも何もできなくなってしまう。
 訴えたい事があれば、役所で正規の手続きを踏んで書類を提出しろと法で定められている。
 もっとも、その場合役人のほぼすべてが貴族か貴族に関係する者ばかりなので、貴族に不都合な内容の書類は”適切ではない”と途中で処分されてしまう。

「それならば、よほどの覚悟で訴えようとしたのでしょうな。それほど伝えたい事があるのでしょう」
「……確かに。その者をこちらに連れて来い」

 マチアスの言葉に思うところがあったのだろう。
 エリアスは、引きずられてどこかへ連れて行かれようとしている男を連れて来るように命じた。

「陛下、危険です。おやめください」
「暗殺者ならば、すでに弓矢で狙い撃たれたりしているはずだ。それにお前達がおる。心配はしておらん」

 護衛の騎士も「お前達がいるから安心している」と言われては反論できない。
 これ以上「危険だ」と言えば、自分達が腕に自信がないと思われる。
 それは王を守るために選抜された近衛騎士として不名誉な事だ。
 命じられるがままに従い、非常時には命を捨てて王を守ろうと固く決意する。

 王の前に引っ立てられた男の身なりは、みすぼらしいの一言である。
 王都にすむ貧民と比べても、最下層に位置する者だろう。
 せめて綺麗にしようと水で洗ったのだろうが、半端に綺麗になったせいで服に空いた穴や擦り切れた布地が目立つ。
 服に染み付いた汚れも、よけいに汚らしい印象を与える。

 おそらく、これから処罰が下される。
 王がどんな事を言うのか、聞き漏らすまいと周囲にいた群衆は静まり返った。

「直訴を行うという事は、それなりの理由があっての事だろうな? 話せ」

 エリアスの言葉は周囲にいた平民たちにとって、予想外の事だった。
 直訴は問答無用で殺されてもおかしくない。

 ――王が平民の声に耳を傾けようとしている。

 かなりの大事件だ。
 一言も聞き漏らすまいと耳を傾けるだけではなく、目を皿のようにしてこの現場を見逃すまいとしていた。
 平民にとって、この出来事だけでも一ヵ月は良い話しのネタになる。
 目撃者となれたのは幸運と言って良いだろう。
 その幸運を逃すまいとしていた。

「陛下、私はウォリック侯爵領で鉱夫として働くジムと申します」

 殴られて腫れあがった頬が痛々しい。
 そのせいで話し辛そうだが、この機会を逃すまいと必死の形相で語り始めた。
 周囲にも聞こえるように、大きな声だ。

「ウォリック侯爵領の税金が非常に重いのをご存じでしょうか? その税率はおよそ八割。我々平民は生きるので精一杯。いえ、もう生きる事すら厳しくなっております!」
「そんなに税金を取られたら、生きていられない!」
「酷過ぎるわ!」
「人の皮を被った悪魔だ!」

 通りの脇で見物している民衆の中から驚きの声が上がる。
 静まっていたので、エリアスのもとにまでその声は届いた。

「まだ幼い娘を生かすために、妻は自分の分の食事を分け与えて餓死しました」
「可哀想……」
「最低限生きるための食事すらできないのか……」
「あまりにも酷過ぎる……」

 ジムと名乗った男の話す事に、周囲の者達も反応する。
 エリアスは神妙な面持ちでジムの話を聞きながら、周囲の反応にも耳を傾ける。

「陛下、私は贅沢がしたいというわけではありません。我々平民は、ただ生きていたいだけなのです。ウォリック侯爵領の税率を下げさせてください。娘がこれからも生きていけるようにしてください。そのためならば、この命を捧げます。何卒……、何卒お願い申し上げます!」

 今度は民衆の反応は無かった。
 皆がエリアスの一挙手一投足に注目している。
”移住すればいいじゃないか?”と思う者はいない。
 領民は領主の財産だ。
 平民は旅をする事は許されても、勝手に移住する事までは決して許されない。

 どのような判断を下すのか、皆が視線が集まっている。
 その事をエリアスは感じ取っていた。
 エリアスは馬車から降りる。

「陛下!」
「よいのだ」

 取り押さえられたままのジムの前まで歩み寄るエリアスを止めようとする。
 だが、国王に抱き着いて止めたりはできない。
 歩みを止める事ができず、ただ道を開くしかなかった。

「離してやれ」
「いや、しかし……」
「離してやれ」
「ハッ」

 今度はジムを抑えていた騎士に抑えつけている手を放せと命じる。
 周囲の騎士達は剣に手をかけ、いつでもジムを切り殺せるように構えた。
 王に危害を加える素振りが見えた時点で、すぐに切り捨てるつもりだ。
 こればかりは、王に命じられようとも止める事はない。
 彼らにとって、エリアスの命よりも優先するものなどないのだから。

 そんな彼らの心配とは裏腹に、エリアスが自らジムの手を取った。
 騎士達は”危険な事をなされるな”と悲痛な面持ちで見守っていた。

「私はダメな王だ」

 悲し気にエリアスは言う。

「陛下、そのような事は――」
「いや、ダメな王なのだ。守るべき民を守れなかった。すまない」

 頭こそ下げなかったが、王が平民――それも最下層に位置する者――に謝罪する。
 その事は、この現場に居合わせた者達に大きな衝撃を与えた。

「すでに亡くなった奥方を生き返らせられない。だが、娘の命まで失うわせるような事はしたくない。私にも息子がいる。親として子を飢えさせるなど、考えるだけでも耐えがたい事だ。ウォリック候には、私から税を下げるように命じよう」
「陛下……」

 ――願いが届いた。

 自分の仕事を果たせた事で、ジムは大粒の涙を流しながら号泣した。

「エリアス陛下、万歳!」

 話を聞いていた民衆の中から、エリアスを称える声が上がり始める。

「賢王陛下、万歳!」
「リード王国、万歳!」

 その声は周囲に伝播し、皆が口々にエリアスを褒め称えた。
 自分を称える声に照れ臭そうにしながら、エリアスは手を振って答える。

「陛下、この者はどう致しますか?」

 馬車に戻ろうとしたところで、騎士がジムの処遇について訪ねた。
 このような空気の中”じゃあ、お前は直訴したから処刑な”とは言い辛い。
 王の判断を仰ぐ事で”空気の読めない奴”というレッテルを貼られる事から逃れようとしたのだ。

「路銀を与えて逃してやれ。親がいなければ、娘は遠からず野垂れ死ぬ。それでは意味が無かろう」
「ハッ」

 その命令は喝采によって民衆には聞こえなかったが、騎士がジムに金をやり”さっさと帰れ”という仕草をした事で、エリアスが何を命じたのかが伝わった。
 大きな拍手が起こる。
 王を称える声も、喉を痛めるのではないかと思うほど大きくなる。

「甘すぎると思わなくもないが、見事な決断だった。祖先の方々も陛下を誇りに思っているだろう」

 馬車に戻ったエリアスに、マチアスが褒める。

「いえ、こうして大事になる前に解決しておくべき事でした。まだまだ未熟で恥ずかしい限りです」

 だが、口で言っている事とは違い、エリアスも褒められてまんざらではなさそうだった。
 かつてリード王国を建国した偉大なる初代を知っている人物に褒められたのだ。
 嬉しくないはずがない。

 そんなエリアスの様子を見て、マチアスは笑みを浮かべる。
 これは微笑ましいと思っての笑みではない。
 安堵の笑みだ。
 直訴がある(・・・・・)と前もって教えてもらっていなければ、エリアスに「なんだ、あの茶番は?」と言っていたかもしれない。

(ちょっと面倒だが、あの坊主に薬を多めに作ってプレゼントしてやるかな)

 マチアスが考えている”あの坊主”とは、アイザックの事だ。
 昨日の内に”パレードの最中にちょっとした催し物(・・・)がある”と、こっそり教えてもらっていた。
 王都に来てから致命的な事はしていないが、マチアスは小さな事をやらかしていた。
 その事をマチアスは、本人なりに気にしていたのだ。
 前もって教えて貰っていたお陰で、パレードの最中に大失態をやらかすという醜態を晒さずに済んだ。
”本当に家族の命が係っているかのような迫真の演技だった”と評価する心の余裕すらあった。

(まったく……。このような事をせずとも、良い国だというのは街の空気から感じ取れるというのに……)

 パレードの最中に行われる演技(・・)は、マチアスのために行われるとアイザックから聞かされていた。

『戦争に強い王ならば「〇〇に勝った」など、自分の功を誇れます。けど、平時の王は功績を誇る事が難しい。だから”民を思う良い王ですよ”とマチアスさんにわかってもらえるように、パレードの最中にちょっとしたイベントが起こります。そのイベントを妨げないようにして、終わったら陛下を褒めてあげてください。そうすれば、全て上手くいきますからね。それと、僕が教えたっていうのは絶対秘密にしてくださいよ。本当はサプライズイベントだったんですから』

 何が上手くいくかまでは言っていなかったが、マチアスが見る限り演技が上手くいってエリアスはなかなか上機嫌だ。
 きっと、上手くいくとはこの事を言っていたのだろうと納得する。

「過去には国全体に重税を課す酷い王もいた。今の民は良き王に恵まれている」
「いやいや、そのような事はありませんよ」

 ダメ押しの言葉に、エリアスは笑みを隠せなくなる。
 今まで王として特に目立つ事は無かった。
 良い王である事をマチアスや民衆に広くアピールできたので、どうしてもニヤついてしまう。

 そのせいで”なぜまともな教育を受けていない貧民が丁寧な言葉を使えたのか”と考える事を完全に忘れてしまっていた。


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「ウォリック侯が亡くなった。明日、葬儀が行われるので今日は早めに寝るように」

 夜遅くまで続くはずのマチアスお別れパーティー。
 だが、まだ日が昇っている間に大人達が屋敷に戻り、アイザックとネイサンに衝撃の事実を伝えた。

「えっ、まだお元気そうでしたが……」
「パーティで少し問題があってな」

 ネイサンの驚きの声に、モーガンが説明を始める。
 パーティが始まり、開始早々にエリアスが「ウォリック侯爵領の税金を五割にまで下げさせる」と宣言した。

 ――税率五割。

 五公五民は王家の直轄地を含め、多くの領地で取られている税率だった。
 だから、それだけあれば十分だろうと考えて、ドナルドにも自制を促すつもりだった。

 だが、ドナルドが受け入れられるはずがなかった。
 ウォリック侯爵領の事情も知らず、ただ「税を下げろ」と言われて納得できるはずがない。
 しかも、王党派で一、二を争う代表者だ。
 まさか、自分が支持する国王自ら、後ろから刺すような真似をするとは思いもしていなかった。
 理路整然と反論するのではなく、感情が爆発し、つい棘のある言い方をしてしまった。

 そうなると、エリアスも反論を受け入れられなくなる。
 人前で慇懃無礼な物言いをされて見過ごしては王の威厳を損なう事になる。
 それに”自分は正しい事を言っている”と信じ込んでいる。
「不当に税を取って民を苦しめるな」と言い返した。

 二人はヒートアップし、感情論のぶつかり合いになり始めた頃にそれは起こった。
 突然、ドナルドが糸が切れた操り人形のように倒れ込んでしまったのだ。
 周囲にいた者達が駆けつけ、医務室に連れて行ったが治る気配がない。
 慌ててマチアスに治療を頼んだが、その時にはすでに手遅れだった。

「怪我は治せても、さすがに死人を生き返らせる事はできない。最初の段階で治療に動けたら良かったのだが、こちらも動揺していてな……」

 そう語ったのはマチアス本人だ。
 彼は”エリアスを褒め過ぎたせいだ。失敗した”と、褒め過ぎた事を後悔している。
 自分にもドナルドが倒れた一因があると思って、助けてやれなかった事を悔やんでいた。

「憤死……、というやつでしょうか?」
「かもしれんな」

 アイザックの言葉にモーガンは同意する。

(三国志とかでよくある死に方だな) 

 かつて漫画で読んだ内容を思い出す。
 ドナルドが死んだのは、おそらく怒りのあまりに重度の脳卒中にでもなったのが原因だ。
 すぐにマチアスの魔法で治療すれば助かったかもしれないが、医務室に運んだ時間の分手遅れになってしまったのだと思われる。

 さすがにこれは完全に予想外だ。
 アイザックは困惑する。

「税金を下げてやれ」
「それは無理」

 というやり取りをさせて、不愉快な思いをさせてやろうという意趣返しとしか考えてなかったからだ。
 ドナルドを殺してやろうとは、まったく考えていなかった。

(やばい、やばいぞ。侯爵家当主のあいつが死んだら、後々の展開に響くんじゃないか?)

 アイザックは、今になって自分のやった事を恐れ始める。
 ウォリック侯爵領の弱点っぽく思えたところを突いただけだ。
 まさか、あそこまで大胆かつ単純なやり方が、このような結果を導くとは思わなかった。
 本当にちょっとだけ、嫌がらせになればいいと思っていただけだ。

”ウォリック侯爵って重税を課して民をいじめているんだって”

 というような”陰口を叩かれてしまえ”と思っただけ。
 誰があんな茶番に乗って、エリアスが本当に税金を下げろと命じると思うだろうか。

(観衆に混ぜたサクラが効きすぎたのか? ……この事は誰にも話さないでおこう)

 この事がバレれば王家とウォリック侯爵家だけではない。
 さすがに侯爵家当主の死因に関係があるとわかれば、友好的な関係にあるウィンザー侯爵家ですら、アイザックを叩き潰そうとするだろう。
 原因はエリアスだが、国王なので非難し辛い。
 他に関係者がいるとわかれば、そちらに集中砲火を浴びせるはずだ。
 ほんのちょっとの火遊びから、家を丸ごと燃やしてしまった子供のように、アイザックは肝を冷やしていた。

 デニスをハメた時や、今進めているネイサン達の排除とは違い、用意周到に準備をして覚悟を決めて行ったわけではない。
 覚悟していないのに、予想外に大きな結果が出てしまったのでビビリまくっていた。 

「派閥の違いはあるとはいえ、相手は侯爵家当主。皆で葬儀に出る。寝過ごさないよう、今日は早めに寝ておくように。マチアス様、あなたは悪くありません。お気を落とさないように」

 そう言い残して、モーガンはランドルフを伴ってまた出かけた。
 ルシア達残った者は酒が入っている。
 酔いを少しでも醒まそうとして、使用人達に水を頼む。
 マチアスはクロードが付き添い、慰めていた。

「アイザック様、明日着て行く服を試された方がよろしいかと」

 ノーマンがアイザックに声をかける。

「そうだね」

 アイザックはノーマンを連れて自室へ向かう。
 後からでもいいので、使用人に着替えを手伝うように伝えるのも忘れない。
 廊下を歩きながら、アイザックは思い出した事を話す。

「そういえば、この間の約束って僕とウォリック侯との約束であって、ウェルロッド侯爵家とウォリック侯爵家の約束じゃない。相手が死んだ場合は反故って事でいいんだよね?」
「はい、そう考えてよろしいかと。もしかして、アイザック様が何か……」

 ノーマンはアイザックの関与を疑う。
 ドナルドが死ぬには、あまりにも時期が良過ぎたからだ。

「ないよ、まったくない! だって、僕はこの屋敷を出ていないじゃないか。人と話す時はノーマンもいたじゃないか」
「そうでしたね。申し訳ございません」

 ノーマンは一瞬でもアイザックを疑った事を恥じる。
 今まで会った外部の人物といえば、お菓子屋に素材を納入するワイト商会と店で働いている菓子職人くらいだ。
 自身も同席していたので、怪しい指示を出していればわかったはず。
 それに、彼らにこんな大きな事ができるはずがない。
 アイザックが関わっていない事は明白だった。

「それよりもさ、去年の喪服って着れると思う?」

 この話を続けるのはマズイと思ったアイザックは、話を葬式に戻した。

「どうでしょう? 背も伸びておられるので、少々きついかと思います。簡単にお直しできる程度ならいいのですが……。まだ子供なので、礼服でも許されると思いますよ」
「そうかー。そうだよね。作ってから一年経ってるし」

 ニコルの祖父であるテレンスの時は”そろそろ危ない”とわかってから喪服を急いで作らせた。
 今回のように急な葬式の時は、針子を急がせても一晩では作り上げられないだろう。

「それにしても、今回は凄い大事件ですね……。こんなのは初めて経験します……」
「本当……、大事件になっちゃったね……」

 感慨深げに語る二人だったが、その意味合いは大きく異なっていた。
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