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いいご身分だな。俺にくれよ。 作者:nama

第三章 継承権争い -決着編- 六歳~九歳

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 クロードとブリジットは、一ヵ月ほどしてから戻って来た。

「あー。実家もいいけど、やっぱりこっちの暮らしも捨てがたいわ」

 ケーキを頬張りながら、満足そうな顔をしてブリジットが言った。
 侯爵家で客人扱いされれば、それはもうご満悦だろう。
”ゲーム機が無い””ラーメン食いたい”などの些細な不満を除けば、日本で暮らしていたアイザックだって今の生活に不満はないくらいだ。

「でも、なんであんたはそんな顔してるのよ。せっかく、美少女が戻って来たっていうのに」
自称(・・)美少女が帰って来たからかな……。普通の人で良かったんだけど」

 これは顔ではなく、性格という意味でだ。
 しかし、ブリジットには通じなかった。

「ははーん、さては照れてるのね」
「そんなわけがないでしょう」
「……なんだか冷たくない?」
「今まで僕は忙しかったのでね」

 アイザックが少しやさぐれているのは、リフレッシュ休暇を満喫していたブリジットとは違い、休む暇がなかったからだ。
 面会や商談、家族とのコミュニケーション。
 さらに勉強や剣などの練習で時間を目一杯使っていた。
 勉強時間などを減らしても良かったのだが、将来の事を考えればやれるだけやっておいた方が良い。
 この一ヵ月の間、自分の時間を作る暇などなかった。
 そして、これからも予定はビッシリ詰まっている。

「クロードさん、カカオの木はどうなりました?」
「爺様が中心となって植えていたな。特に問題は無さそうだったぞ」
「それは良かった」

 ティリーヒルは鉱山都市。
 鉄鉱石を製鉄してインゴットにし、テーラーで売りさばいて食料を買って帰る。
 それが主な食料の入手方法だった。
 畑などもあったが、自給自足できるほどではない。
 農夫の代わりに鉱夫がメインの街だからだ。

 そのため、周辺の土地には手付かずの平地も多い。
 おそらく、今交流のあるエルフの村の全員に開拓させても余るくらいにはあるだろう。
 将来的には牧場などをさせるのもいいかもしれない。

 エルフに植林をさせる事で、ティリーヒルを任せているオルグレン男爵から苦情は言われなかった。
 これは、ティリーヒルを含めてすべての土地がウェルロッド侯爵家の物だからだ。
 街を任されている代官は、いわば雇われ店長のようなもの。
 よほどの問題でもない限り、本社の意向に意見する事はできないのだ。
 例え、代々その街を任されていてもだ。

「給与に関しては不満とか無かった?」

 植林活動は一日あたり1万リード。
 その後、野生動物が種を掘り返さないかを一日に数回見回るのが6,000リード。
 これはエルフにだけ日給を優遇し”それがエルフに対する当たり前の扱いだ”と増長する事を危惧して、低めの日給にした。
 だが、これでも人間の平民に対する扱いよりはずっと良い。

「出稼ぎの給与と比べて低いという意見はあった。だが、仕事内容を考えれば仕方ないと受け入れていたな。見回りは老人や子供でもできるから、持ち回り制でやっていく事になった」

 クロードは「もう少し雇う数を増やしてくれ」と言いたかったが、それを口にする事は無かった。
 木が育つまで、カカオの植林関係は無収入となる。
 それに、仕事内容自体は非常に楽なものなので、少人数で済む。
”人手が足りない”というわけでもないので、多くの者を雇って欲しいとはなかなか言いだし辛かった。

「収獲は大変そうだから、年寄りと子供だけじゃなくて、若い人も含めて募集をかけるつもりだよ。まだ先だけどね。将来的にもっと人間とエルフの友好が進んだら、農地の貸し出しとかもありかなと考えてるんだ」

 土地の広さの割りに人間が少ないので、農地を広げ続けられないのだ。
 ウェルロッド領内にも手付かずの土地が多い。
 そういった土地をエルフに貸し出し、農業や牧畜業を営んでもらう。
 そうすれば税収も多少は増えるし、エルフの印象も良くなるだろう。

「将来の事を語りだすと切りがないな」
「仕方ないよ。今まで人間とエルフで話す事が無かったんだからさ。少しずつ片付けていかないと」
「そうだな」

 アロイスたちが村に戻って、周囲の村にも話を進めていく。
 そうする事で、新たな意見も出てくるだろう。
 腰を据えて語り会おうとすれば、いくらでも課題点が見つかる。
 その中から急を要する物から解決していくしかない。
 行き当たりばったりな対処方法かもしれないが、前もって問題を予想して解決するには交流の途絶えた時間が長すぎた。
 一から関係を構築する以上、手探りやっていかねばならない。

「そういえば、チョコレートってもうないの?」

 紅茶を飲んでいたブリジットが空気を読まない発言をする。
 しかし、その言葉にクロードも反応していた。
 やはり、彼も気になっていたのだろう。
 長い耳がピクリと大きく動いた。

「今はないよ。カカオの種確保が遅れたからね。今年からはちゃんと売ってもらえるように依頼しているから、ある程度は確保できると思う」

 果肉の部分は食べられていたが、種は苦いから捨てられていた。
 今年からは種もある程度確保できる予定なので、家で消費する分くらいは十分に確保できるはずだ。

「そうかー、残念。まぁ、無ければ無いでいいけれどね」

 ブリジットはチョコレートに興味はあるけど、無ければ無いで我慢できる程度のようだ。
 対して、クロードは表情を変えてはいないが、あからさまに目から力が抜け落ちていた。
 好物がないと知り、放心しているようだった。

「ティリーヒルの植林が上手くいけばいいけど、こればっかりは土地に合うかどうかもあるし。上手くいく事を祈るばかりだね」

 アイザックは他人事のような口調で言った。
 彼にとってチョコレートは懐かしい味だが、なくてはならないものではない。
 高級菓子としてチョコレートを売り出すための素材でしかないのだ。


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 クロード達が戻って来た事で、エルフの出稼ぎも始まる。
 今度は以前のように短期ではなく、長期の出稼ぎとなる予定だ。
「遠出してもいい」という者達は、ウェルロッドから王都へ向かっての街道整備を行い、そこから他の侯爵家の領都への街道整備を行う。
「不安だから、あまり遠出をしたくない」という者は、ウェルロッド領内の街道整備を行ってもらう。

 今、アイザックはその順番をランドルフ達と話し合っている。

「北東のテーラー、南のアルスター。これらの街道は整備されたので、次は西のブリストル伯爵領へ向かう道を整備してはどうでしょうか?」

 意見を述べているのは、ランドルフの筆頭秘書官となったフランシスだ。
 ベンジャミンがモーガンに連れて行かれたので、筆頭に繰り上がった。
 それだけに張り切っている。

「他領に続く主要な街道を先に整備しようという事か。良いと思う」

 ランドルフも納得する。
 これはアイザックの意見を聞くまでもない。
 王都行きの道が整備される事が決まっている以上、優先的に整備される場所はここしかない。
 問題は、その次だ。

「今回は人間社会の見学を兼ねて短期の出稼ぎを望んでいるエルフも多い。もう一ヵ所くらいは彼らに整備してもらえる。他のどこを整備してもらうか。意見のある者はいるか?」

 ランドルフは周囲を見回す。
 アイザックは「最初はみんなに発言させてあげるように」と念押しされているので発言を控えている。
 部下に手柄を立てさせるのも、上に立つ者の務めだ。
 上司が手柄を独り占めするのはよろしくない。

「農村部への街道を整備してもらってはどうでしょうか? 食料を運ぶのが楽になれば、輸送コストも削減されて物価に良い影響を及ぼすかもしれません」
「まずは治水工事を行ってもらう方がいいと思います。街道整備は有効ですが、命の危険はありません。堤防の決壊が起これば、働く平民が減り、作物もダメになってしまいます」
「それならば、土砂崩れの起きそうな山肌の補強も頼んだ方がいいでしょう。土砂崩れも大きな災害といえます」
「老朽化した建物の補強工事を頼むべきです。一から立て直せば時間と金がかかります。今ある建物を補強してもらうだけならば、安上がりに済みます」

 出席者が自分をアピールしようと発言していく。
 自分の存在をアピールするだけではなく、ちゃんと領の利益になる事を言っている。
 問題があるとすれば、どの意見を採用するかだ。
 さすがに複数の意見を同時に採用するほど、エルフの人数には余裕がない。

 ランドルフはチラリとアイザックを見る。
 だが、それは一瞬の事。
 アイザックに意見を求めず、自分で答えを出した。

「まずは治水工事を頼もうと思う。労力を費やせば街道整備はできる。山肌の補強や、建物に関してもだ。だが、治水工事はその中でもかかる労力が段違いだ。他の事も重要な事だとはわかっている。しかし、いつ、どんな事が起きてまたエルフと断交状態になるかわからない以上、魔法で難しい工事を先に済ませてもらおうと思う。何か意見のある者はいるか?」

 またランドルフは周囲を見回す。
 だが、特に意見は出て来なかった。
”人間には難しく、時間のかかる工事を先にやってもらおう”と言われれば”確かにそうだ”と納得してしまう。
 アイザックも視線を向けられた時に、笑みを浮かべたまま、うなずくだけだった。
 父の下した決断に満足しているからだ。

 いつ起きるかわからない災害に備えるので、治水工事のような防災関係の効果はわかりにくい。
 まだ領主代理になったばかりのランドルフならば、結果を求めて日常で使う効果のわかりやすい街道整備を選んでもおかしくなかった。
 だが、彼は”名声”よりも”労力”という観点から治水工事を選んだ。
”名”よりも”実”を選んだ父にアイザックは満足していた。

 ランドルフは息子に簡単に追い抜かれないよう日々成長している。
 その姿を見て、アイザックも”親父に負けないような良い国王になってやる”と考えていた。
 二人は親子というだけではなく、お互いに良い刺激を与えあう存在となっていた。
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