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いいご身分だな、俺にくれよ  作者: nama
第十七章 王位簒奪編 十八歳~十九歳
552/806

535 十九歳 論功行賞と即位パーティー

 アイザックの所信表明が終わると、続けて論功行賞が行なわれた。

 王として、初めての仕事である。


 ――フィッツジェラルド前元帥の息子、ルパート。

 ――ウォーレン・クーパー伯爵。

 ――ブライアン・ウェリントン子爵。


 アイザックは彼らに領地を与える。

 これは前もって話し合いで決めていた事であり、その内容が漏れ聞こえていたので不満の声は出なかった。

 また、ブランダー伯爵を討ち取った功績により、ウェリントン子爵は伯爵となった。


「現在、旧ブランダー伯爵領は、中央から派遣された官僚が代官を務めている。そのまま登用するもよし、知り合いから紹介してもらうもよし。新たな代官は自由に選ぶといい。ただ友人を代官にした場合、その友人との間に上下関係が生まれるので、その点は熟慮したほうがいいだろう」


 その際、アイザックは一言付け加えた。

 アイザック自身、友人達を家臣として扱うようになる。

 それも歴然とした立場の違いができてしまった。

 これからの付き合いを考えれば「友達だからそばに置く」という事の意味を考えてほしかったからである。


 もっとも、それはアイザックに言われるまでもなく、彼らもわかっていた。

 貴族社会で長く生きていれば、友人としての交流がある相手とはいえ、利害による上下関係があるという事は自然と理解できるものだ。

 皆はただの再確認として聞き入れていた。


 次に、主だった戦果を挙げた者達の番である。

 今度は、キンブル将軍が呼ばれる。

 彼の功績に関しては、典礼官が読み上げてくれる。

 おかげでアイザックは、暗記をせずに済んだ分だけ楽ができた。


「これらの功により、キンブル伯爵を元帥に任じる」


 アイザックは、キンブル元帥に元帥杖を授ける。

 キンブル元帥は、うやうやしく受け取った。

 先代のウォリック侯爵以来、十数年振りに実戦派の元帥の誕生である。

 フィッツジェラルド前元帥の事を個人的には嫌っておらずとも、軍政家が軍のトップに立っていた事には不満を持っている者も少なからずいた。

 武官達からは、一際大きな拍手が贈られた。


 次はウリッジ伯爵である。

 彼はブランダー伯爵軍の動きを食い止め、戦線の崩壊を防いだ。

 金銭の他に、アイザックは朱塗りの槍を褒美として与える。

 それは、かつてマット達に与えたものと同じだった。

 同様に、ポールやフェリクス、第一騎士団長であったラムゼイ男爵など、戦場での槍働きを評価された者達にも与えられる。

 そして、異例とも言える褒美も用意されていた。


「ロックウェル王国と協議の結果、ザカライア・ダッジ、フェリクス・フォードの両名に一代限りの伯爵位を与える事となった。これにより、彼らをなんと呼べばいいのか迷う事もなくなるだろう」


 謁見の間の至る所で、小さな笑い声が起きる。

 二人とも、武官であれば知らぬ者のいない家の出身である。

「ダッジ殿」「フェリクス殿」と呼ぶ事に慣れぬ者は多かった。

 それがアイザックも同じだったのだとわかったからだ。

 これからは「ダッジ伯」「フォード伯」と、わかりやすい呼び方ができる。


 彼らに対する嫉妬はなかった。

 伯爵位の貴族年金を少し羨ましがる者はいたが、それくらいである。

 それは一代限り(・・・・)と明言されているからだ。


 今回の内戦でそれなりの働きを見せたとはいえ、彼らはあくまでも客人。

 心がロックウェル王国に残っているであろう事は想像に難くない。

 将軍など要職の席を奪われる事にはならないだろうと思っていたからこそ、素直に祝福する事ができた。

 彼らにも盛大な拍手が贈られる。


 あとは反ジェイソンで結束した貴族達への褒美である。

 褒賞の額は軍の規模に合わせた。

 その他、アイザックにエリアスの危機を知らせた近衛騎士には男爵位を与えるなど、金銭以外の褒美も与える。

 目立つ働きでなくとも、重要な働きをした者には報いねばならない。


 一人一人呼び出し、その功績を称えるのはかなりの労力を必要とした。

 だが面倒だからと、まとめて褒めるような真似はできない。


 ――どこの誰が、どのような働きをしたか。


 それを皆の前で表彰し、アイザックもわかっていると見せるところまでが褒美なのだ。

 疲れるからと、おざなりにするわけにはいかなかった。

 時間はかかったが、妊娠中のパメラも最後までやり遂げてくれた。


 論功行賞が終わると、次はパーティーである。

 一度解散となり、アイザックは控室へと戻る。

 そこでアイザックは気付かれぬように小さく息を吐く。

 最初に口を開いたのはリサだった。


「あそこに立っているという事実だけでも倒れてしまいそうでした。パメラは大丈夫でしたか?」

「ええ、大丈夫です。ただ人前に立つなら、もう少しお腹が大きくなる前のほうがよかったかなと思っていたくらいです」

「そんな事を考える余裕があったんですね。さすがは侯爵令嬢といったところでしょうか」

「出産直前になれば、リサ一人で出席していただく事になります。覚悟しておいてくださいね」

「……そこまでは考えていませんでした」


 彼女らも緊張の糸が切れたのだろう。

 軽い雑談を始める。

 彼女達同様、アイザックも緊張から解放されていた。


(そう、今やらないといけない事の大半は終わった。あとはパーティーを乗り切るだけだ)


 今、頑張れているのは自分や家族のためだからである。

 だが、これを乗り越えたあと、どうなるかわからない。

 きっと、また泣き崩れてしまいそうな予感がしていた。



 ----------



 パーティー会場では、各国からの参加者の相手が主なものとなっていた。

 特に同盟国の国王であるヘクターと王女のロレッタは、丁重な扱いとなっていた。


「即位後すぐの演説とは思えぬほど立派なものでしたわ」

「ありがとうございます。子供の頃からの考えの延長線上にある内容なので、正しいものかはわかりませんが」

「アイザック陛下のお考えですもの。きっと上手くいくはずです」


 ロレッタは、アイザックを無条件で褒めたたえる。


「やはりアイザック陛下には、ロレッタを娶っていただきたい。我が国だけではなく、周辺国も含めて、多くの者が幸せになれるでしょう」

「まだリード王国を治めてもいません。他国までの面倒を見る自信はありませんよ。たびたびロックウェル王国からの侵略を受けているファーティル王国を、見事に治められておられるヘクター陛下には敵いません」

「それは過剰な謙遜というものだ。ドラゴン相手に交渉で戦う人間など聞いた事もないのだからな」


 ヘクターもアイザックを褒める。

 だが、当の本人は「こうやっておだてられて、調子に乗ったらダメだ。いつか失敗する」と、自分自身を戒めていた。

 上手くいっていると油断して、ニコルの事に気付いてやれなかったからだ。

 自分を過剰に高く評価してはいけないと、アイザックは何度も自分に言い聞かせる。


「ロレッタを娶っていただけるのであれば、我が国を譲るという以外にも良い話をお聞かせできるのだがな」

「私はパメラを愛しております。できるのならば……。いえ、彼女との間にできた子を世継ぎにすると決めています。良い話に乗って、無用な混乱を引き起こすような事は避けたいと考えておりますので……」

「むぅ、それは残念だ。しかし、返答期限はまだ先。状況が変わるのを待つとしよう」


 ヘクターも今すぐにと言わず、一度引いた。

 彼の「良い話」というのが気にならなかったわけではない。

 今のアイザックには以前ほど冒険心はなく、守りの考えになっていた。

 これも妹を殺した事による影響だった。


「それはどうですかな。こちらにはブリジットがおりますぞ」


 マチアスがブリジットを連れて、会話に割って入ってきた。

 即座にクロードがマチアスの頭を叩き、祖父に代わって非礼を詫びる。


「わたくしもエン……、アイザック陛下の妃に立候補しておりますのよ」


 着飾ったブリジットは、女のロレッタから見ても呼吸を忘れてしまうほどの美しさだった。

 他国からの使者で「あわよくば娘を娶ってもらおう」と考えていた者達も「彼女には勝てない」と思うほど視線がブリジットに釘付けになる。

 ただ一人、アイザックだけはボリューム感のない胸元に冷ややかな視線を向けていた。


「ブリジットさん、私の妻になっていただけませんか?」


 近くにいたベッドフォード侯爵の口から、自然と心の中で思った言葉が出てしまう。

 だが、ブリジットは喜んだりせず、ただ侮蔑の視線を彼に向ける。


「確か、ドラゴンが現れた時にもがぁ」

「国際問題ぃ!」


 ――漏らした人よね?


 その言葉は、クロードが手で口を塞いで止めた。


「いや、あれはアイザック陛下が水をこぼされただけです」


 ベッドフォード侯爵は、すでに噂が流れている事に焦る。

 すぐさま否定するが、それは噂を知らなかった者達にも「ドラゴンを前にして股間を濡らしていたのか」という考えを抱かせる事となる。


 以前ならば、アイザックも笑うか、止めに入っていただろう。

 しかし、今はそんな気分にはなれなかった。

 作り笑いを浮かべ、心ここにあらずといった様子で、アイザックの即位を祝うという重要なパーティーを適当に流していた。



 ----------



 その日の夜。

 王となって王宮で初めて過ごす夜は、パメラと二人だった。

 誰もいなくなったところで、ベッドに腰掛けながらパメラが尋ねる。


「ニコルに操られていたかもしれないという事以外にも、落ち込む理由があるのではありませんか?」


 彼女の質問は、まさに正鵠を射るものだった。

 アイザックとしても話したい。

 だが、話せないものだった。

 しかし、アイザックには「誰かに話して楽になりたい」という考えもあった。


(パメラになら……、いいか)


 彼女も奇矯な言動を憂慮されたために、家族に行動を制限されていた過去がある。

 そんな彼女にならば、おかしな話をしても大丈夫だろうという考えが浮かぶ。


「もしかしたら、頭がおかしくなったと思われるような話をするけど、落ち着いて聞いてほしい。実は――」

最後のほうはゆっくり書きたいので、次回は一週間後くらいになります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いよいよ大詰め!ラスト2話!2話!? [気になる点] アイザックはどこまで打ち明ける気なのかな? 前世の記憶があって、ニコルはその前世で妹だったかも知れない は、まぁ確定にしても、 前世は…
[気になる点] 次回やラスト終わり方が気になります [一言] ラスト後の後日談や番外編など期待しております
[良い点] あたおかにはあたおかが寄ってくるという定説 [一言] 感動のエンディングですな!
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