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いいご身分だな、俺にくれよ  作者: nama
第十五章 王立学院三年生後編 十八歳

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412 十八歳 マチアスの申し出

 ブリジットの将来を心配しているという他にも、アイザックには彼女を拒む理由があった。


 ――今まで空白だったパメラとの時間を埋めたい。


 リサともイチャつきたいので、三人、四人と婚約者を増やしていくわけにはいかない。

 確かに数年後に結婚してもいいという申し出はありがたいが、できれば避けたいところだ。

 アイザックと結婚するよりも、遠くの村でもエルフの男から結婚相手を探す方がいいだろう。

 ブリジットのためにも断ってあげたかったが、その方法が思い浮かばない。

 考える時間が欲しいところだった。


 ――そこに救いの神が現れる。


「食事の用意ができました。話し合いに一息入れてはいかがでしょうか?」


 レオナールとメラニーだった。

 彼らが話し合いに参加していなかったのは、料理の準備をしていたからだったのだ。

 クロードが作った流れを、彼の両親がぶった切った形となる。

 エルフ達は「なんてタイミングの悪い時にきたんだ」とがっかりし、アイザックは胸を撫で下ろした。


「いかがですか?」


 今回の話し合いでは「子供だから」と呼ばれなかったケンドラも一緒にきていた。

 これにはアイザックもニッコリと笑顔を見せる。


「せっかく用意してくださったんですし、いただきましょうか」


 アイザックが、この流れに乗らないはずがない。

 いい機会だと思い、食事の誘いに乗った。


「それもいいかもしれませんな」


 エドモンドも一度途切れた話を無理に継続しても効果がないと思ったようだ。

 彼が賛同した事で、食事へという流れになった。

 エルフ側の出席者は「なんだか押し切れそうだったのに」と落胆の表情を見せていた。

 しかし、ブリジットは諦めていなかった。

 食堂に着くと、ケンドラに「一緒に食べよう」と話しかけて隣に座らせる。


(そんな……、ケンドラを人質に取るなんて!)


 アイザックは瞬間的にそのように考えたが、すぐに考え直した。

 ケンドラが喜んでいるからだ。


(そういえば去年までは、ブリジットがリサと一緒にケンドラのお姉さんみたいな立場をしてくれていたんだっけ)


 アイザックが入学して以来、領地に帰った時のケンドラは兄不在という状況だった。

 友達もいるとはいえ、六歳前後の子供が兄と離れ離れになって寂しい思いをさせていたという事は容易に想像できる。

 その寂しさを埋めてくれていた一人がブリジットだった。

 感謝するべきであって、嫉妬するべきではない相手だ。

 両親も彼女なら安心と思い、ケンドラをブリジットのもとへ送り出していた。

 アイザックも両親に倣い、快く見送った。


 テーブルに着くと、食事が配膳される。

 レオナール達が作っていたという事もあり、予想通りの和食だった。

 焼き魚に小松菜の和え物、人参と大根の味噌汁。

 他にはキャベツの酢の物と、たくあんが並べられた。


 アイザックとしては、テンションの上がるラインナップだ。

 しかし、他の者達は違う。

 特にマチアスが露骨なまでに嫌そうな顔をしていた。

 モーガン達は表情に出さなかったが、今までの言動から喜んではいないと思われる。


 レオナール達も、それをわかっているはずだ。

 なのに、あえて和食を出してきた。

 その目的は不明ではあるが、アイザックをターゲットにしたものに違いない。

 迂闊な発言はしないようにと気を引き締める。

 しかし、アイザックの鼻孔を懐かしい香りがくすぐる。


「今回はかつお出汁の味噌汁ですね?」

「ええ、その通りです。よくわかりましたね」


 レオナールは何気ない返事をしただけだが、アイザックは心臓が口から飛び出しそうなほど驚いた。


(今まで食べた事がないのに、食べた事があると思われるのはマズイ!)


 味わってならともかく、今回は香りで言い当てていた。

 香りなどという不確かなものは「本で読んだ」などでは言い逃れができない。

 地味に嫌な質問をしてくるなと考えてしまう。

 返答に困ったアイザックだが、小松菜の和え物に目を付ける。


「これですよ。土佐和えか土佐漬けか、そんな名前だったと思いますけど……。これに使われているのはかつお節ですよね? 海のものなのに、よく手に入りましたね」

「ここ数年、エルフ向けにファラガット共和国から入るようになったんですよ。味噌汁の出汁には昆布も使われていますよ。エンフィールド公が作られたスライサーのおかげで、削るのも楽でした」

「そうなんですか。一度売っているところを見てみたいですね」


 上手く誤魔化せたようだ。

 窮地を脱すると、かつお節の方に意識が向く。


(今までは売れないからと輸出していなかったけど、エルフ相手にファラガット共和国の商人が売りに来るようになっているのか。領地も栄えてくれていればいいんだけど)


 ――たかがかつお節。


 だが、そこから読み取れる情報もある。

 今まで売り込んでこなかったものまで持ち込まれるようになっているのだ。

 それは商人の動きが活発になっているという事。

 多くの商人が行き交い、ウェルロッド侯爵領で金を落としていってくれているという事である。

 街道整備も通行税が増えればと始めた事なので、エルフによる経済効果はかなりのものになっているだろう。

 友好的な関係は続けていきたいところだった。


「ではいただこうか」


 配膳が終わると、モーガンがそう言った。

 すると、アイザックはまず味噌汁に手を付ける。

 味噌汁をすすると、かつおと昆布の味が口内に広がった。

 懐かしさのあまり一気に飲み干しそうになるが、妹の前ではみっともないので我慢する。


「フフフッ、気に入っていただけたようですね」


 アイザックが美味しそうに味噌汁を飲むのを見て、レオナールが満足そうに微笑む。


「ええ、とても美味しいですよ」

「そう言っていただけるのは、エンフィールド公くらいですので嬉しいですね」


 彼の言葉に噓偽りはない。

 それはアイザックにもわかった。

 これは言葉から感じ取ったというわけではなく、周囲を見れば一目瞭然だったからだ。

 モーガン達は表情に出さないように食べているが、特別美味しいと感じてはいなさそうだ。


 だが、それを咎める者はエルフにはいない。

 マチアス達の方が渋々食べているという姿を隠していなかったからだ。

 エルフ達の方が「ここでこの料理を食べるのか……」という思いを態度で表していた。

 ケンドラなど子供ながらに「せっかくエルフのおじさんが作ってくれたから美味しくない」と言ってはいけないとわかっているのだろう。

 健気にも大人達のように本心を隠して食べていた。


「エンフィールド公」


 レオナールが真剣な表情でアイザックを見てきた。

 アイザックに緊張が走る。


「なんでしょうか?」

「エルフの料理が口に合われるのです。エルフの娘もきっと相性がいいですよ」

「なっ!?」


 もし口の中に何かが入っていたら噴き出していただろう。

 レオナールの言葉には、それだけのインパクトがあった。

 今は少しニヤけているので、心の(・・)ではなく体の(・・)と言いたいのだと思われる。

 以前は話した時間が短かったのでわからなかったが、こういう話題を平然と振ってくる人物だったのかと衝撃を受けた。

 相手はエルフで、友好的な関係を築いておきたい。

 しかし、これだけは言っておかねばならなかった。


「レオナールさん。ブリジットさんの背中を押してあげたいんでしょうが、食事中にそういうネタを絡めるのは最低ですよ。もう少し空気を読んでください。今、僕の中で『あなたはやはりマチアスさんの息子なんだな』と確信しました」

「どういう意味だ?」


 マチアスが不機嫌そうに、アイザックの発言に眉を顰めた。

 だが、ここにはケンドラもいる。

 いくらブリジットを応援するためとはいえ、今の発言は見過ごせるものではなかった。

 報復として、レオナールが嫌がりそうな評価を彼に与える。


「ぐぅっ……、確かに人として道を踏み外した言動だったかもしれません。申し訳ございません。エンフィールド公が美味しそうに飲んでくださっていたのでつい……。反省しますので、その評価をお考え直していただければ助かります」

「おい、レオナール。お前まで何を言う」


 心底悔やむレオナールを、マチアスが咎める。

 しかし、アイザックと同じように抗議はスルーされた。

 他のエルフ達も「今のはレオナールが悪い」というので庇ったりはしなかった。

 むしろ、ウェルロッド侯爵家の側が「えっ、これ庇わなくていいの?」と困惑させられていた。

 だが、アイザックは内心で助かったと思っていた。

 ちょうどいい話題になったからだ。


「脈絡もなく、いきなり言われると困りますからね。例えば、今回のように人前で宣言されても困ります。普通に話してくれれば妥協点もあったかもしれませんが、今回はどう言われても受け入れるつもりはありませんよ」

「なにっ」


 マチアスが驚いて、マーガレットを見る。

 しかし、彼女は素知らぬ顔で茶をすすっていた。

 彼女は何かをやれと言ったわけではない。

 自分で考えて動いたマチアス達の責任だから、反応するはずがなかった。


「友好のためと聞こえはいいでしょう。確かに僕は事あるごとにエルフやドワーフとの友好を掲げていました。ですが、あのような形での押し付けはよろしくない。あそこまで言われて断れば、僕が悪者になりますし、断られたブリジットさんが恥をかく事になる。そういう逃げ道を塞ぐ卑怯なやり口は好ましいものだとは思いません」


 この事を言うと、エルフの行為を「愚かだった」と言ったも同然である。

 いくらか気分を損ねる危険性を孕んだ言葉だった。

 だが、それでも覚悟を決めて言わねばならない。

 ブリジットと婚約するという事は、それだけ危うい行為でもあったからだ。


 この場にいたほとんどの者達が――


「お前が言うのか!?」


 ――と思っていた。


 時には卑怯な手口を使うのもいとわないアイザックが言う事ではないからだ。

 しかし、使っているからといって、使われて気分がいいというものではないという事はわかっている。

 誰も「お前も使っているからかまわないだろう」などとは言わなかった。


「それに今回の形でブリジットさんを受け入れたらどうなると思います? 僕と婚約させるためにロレッタ殿下を留学させた。そこまでやっているのだから両国の友好のために婚約してほしいと言われたりするかもしれません。ウォリック侯やランカスター伯も同様です。彼らも『娘が愛しているから』と言って、アマンダさん達を僕と婚約させようとするでしょう。では、どこまで受け入れて、どこで待ったをかけますか?」


 これは難しい問題だった。

 特にウォリック侯爵の扱いには頭を悩ませる事になるだろう。

 彼が「我が家の娘はエンフィールド公が大好きです! 両家の友好のために、娘と婚約してください」とパーティー会場で叫んでいるところが容易に想像できる。

 今後のためにも、悪しき前例を作るわけにはいかなかった。


「際限なく妻を増やすような真似はしたくありません。そんな事になったら、リサにとっても、妻になる人達にとってもいい事はないでしょう。今回は諦めてください」


 アイザックとしても苦渋の決断だった。

 エルフの提案を拒否して心証を損ねるのは避けたいところだったが、今回のやり方はいくらなんでも汚い。

 大人しく受け入れるわけにはいかなかった。


「わかりました。今回は諦めましょう」


 強い反発があると思ったが、エドモンドがあっさりと受け入れた。

 これには言ったアイザックも拍子抜けである。


「何を言ってる。お前も良い案だと言っていたではないか」


 マチアスがエドモンドを責める。


「良い案かもしれない(・・・・・・)と言っただけですよ。この一件はマチアス殿が一人で暴走しただけの事。大使である私は補足していただけという事はご理解願いたい」


 しかし、エドモンドは平然として答えた。

 彼の言いたい事は、皆もよくわかった。


 ――損切りしてきた。


 ブリジットとの婚約は大使として公式に要求したものではない。

 あくまでもマチアス一人の責任とし、彼が先走っただけだという事に収めて被害を最小限にしようとしていた。


「なるほど。マチアス様のような大物の発言を止めるのは難しい。だから止められず、やむなく補足をするに留めた。というわけですな」

「ええ、その通りです。とりあえず、今はそれでいいでしょう」


 モーガンの言葉を、エドモンドは肯定した。

 二人は外務大臣と大使である。

 そんな二人の間で「酔っ払いの老人が暴走しただけ」と決めてしまえば、公式にはそれが事実となる。

 ブリジットとの婚約を公式に断ってしまえば、今後はもう二度と話題に出す事ができなくなってしまう。


 ――今のところは、マチアス一人に責任を被せる形で幕を引く。


 今回のところは諦める。

 だが、可能性だけは残す。

 それがエドモンドが選んだ、未来に期待を残せる方法だった。


 当然、ブリジットは良い顔をしない。

 彼女にはまだ一言、二言必要そうだったので、アイザックが話しかける。


「結婚自体は数年後とかでもいいんですよね? だったら、婚約するかどうかの話も数年先でいいじゃないですか。僕とリサの間に生まれた子供を見て、僕の妻じゃなくて、子供達のお姉さんでいたいと思うかもしれない。それまでに誰かいい人が見つかるかもしれません。焦る必要はありませんよ」


 ケンドラが世話になっているので、アイザックはブリジットにだけ甘くなった。

 絶対に拒否ではなく、数年後に考えようと伝える。

 この問題は、数年後の自分が解決してくれると信じて。


「かもしれないけど……」


 ブリジットは、うーんと唸りながら考え込む。

 せっかく、アイザックに婚約話を持ち掛けてもらえたのに、それを諦めねばならないのは難しい。

 しかし、結婚生活がどんなものかを見てから決められるというのは大きな利点のような気もする。

 このまま駄々をこねていても話は進みそうにないので、今は引く事にした。


「わかったわ。でも、私の事をちゃんと女の子として見てよね」

「それに関しては、善処できるようにしっかりと検討しておくと約束するよ。絶対だ」


 アイザックは真剣な表情でうなずいて返した。


 これでこの話は終わりかと思われたが――


「待て待て。アイザック、お前はエルフの力がほしくないのか? ブリジットと婚約すれば、ワシが力を貸そう。年老いたとはいえ、まだまだ魔力はある。戦場に出れば、百人程度なら倒せるだろう。何なら友人も誘ってもいい。これからの事を考えれば、悪い話ではないだろう?」


 ――終わりにはできない者もいた。


 マチアスは責任を一人でおっ被せられると思い、アイザックに協力を申し出た。

 しかし、それは禁じ手とも言える内容である。

 アイザックは苦笑を浮かべながら首を振る。


「確かに頼もしい申し出ですが、エルフの力を借りるのはインフラ整備や治療行為に対してのみ。戦争で力を借りる気はありません。そんな事をすれば、また世界各国がエルフを雇い入れて戦場で人を殺す道具扱いされてしまいますよ。お気持ちだけで結構です」


 本当は「ありがとうございます!」と言いたいところだったが、表向きはそんな事はできない。

 エルフを戦場に引き込もうとはしていたが、それは戦場で攻撃されて反撃もやむを得ないという状況を作っての話である。

 婚約をエサに戦場へ連れて行くなど、マチアスがどう言おうが他のエルフを敵に回しかねない。

 アイザックとしては、わざわざ敵を増やすような真似はできなかった。


「爺様、エンフィールド公にその気がないんだ。諦めろ」

「クロード! お前はワシの孫だろう? そこは応援してくれてもいいのではないか?」

「ダメだ、ダメだ。しかも戦争に力を貸すなんてとんでもない。昔とは違うんだぞ」

「いや、本当に悪い話ではないんだ」


 必死に説得しようとするマチアスだが、残念ながらクロードは乗らなかった。

 祖父が人身御供にされるのは思うところがあったが、過去の行動から暴走してもおかしくないと思われる人物なだけに、これ以上の適任もいないという思いもあった。

 やり方が悪かった以上、その方法を提案した人物が責任を取るのも当然である。

 一人納得できていないマチアス以外、皆の意識は「次回にかけよう」という方向に傾いていた。

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― 新着の感想 ―
ブリジット、何のかんのと本気なんだなあ。 エルフの美女の本気を胸に秘めた『おっぱいの大きさ』と、いう理由で断り続けるアイザック。(;゜д゜)
なんかここまで来たら、パメラにそんなに執着する価値ある?となってきましたね。魂を揺さぶるほどの愛なのでアイザックのキャラとしては間違いないけど、一読者としてちっとも共感できない、できるほどキャラがたっ…
[一言] ふと思ったんだが、 ブリジットさん。主人公の息子と結婚したら?
2021/11/10 03:35 退会済み
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