挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
いいご身分だな。俺にくれよ。 作者:nama

第二章 継承権争い -準備編- 五歳~六歳

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

40/106

39

 一ヵ月後の入札で、ブラーク商会は30億リードという高額で鉄鉱石を落札した。
 他の商会が20億リード前後だったので、大きく差を放した入札額となる。
 かつてレイドカラー商会が取った方法と同じく、金に糸目を付けぬやり方だ。
 レイドカラー商会と違うのは、このやり方で息切れしない体力がブラーク商会にはあるという事だった。

 この結果に、多くの者がブラーク商会の執念を垣間見た。
 あと一回で最多落札回数が確定していたグレイ商会などは、落札結果を知ると絶望のあまり頭を抱えて机に突っ伏していたくらいだ。

 ――このままブラーク商会が落札し続けて最多落札者となる。

 それが入札会場にいた者達共通の思いだった。

 ただ一人、アイザックを除いては。


 ----------


「お父様、質問があるのですがよろしいでしょうか?」

 午後のティータイムを楽しんでいる時に、アイザックは隣に座るランドルフに話しかけた。
 明日にはティリーヒルの北にあるテーラーという街から街道整備を始める。
 その式典に出席するついでに、アイザックと共にティリーヒルに来ていた。

「答えられる事ならね」

 ランドルフには”我が子の質問に答えない”という選択肢はない。

(ただ、もう少し大きくなって異性に興味を持つようになったら答え辛いなぁ……)

 と考えるように、なんでもというわけではない。
 早熟なアイザックなので、性の目覚めも早いのではないかと気が気ではなかった。

「エルフの代表として、ウェルロッドに滞在するのがクロードさんという人選には納得できました」

 アイザックの視線は向かいに座るクロードに向かう。

 年齢は320歳。
 エルフは、およそ人間の十倍程度の寿命を持つらしいので、人間換算で大体三十歳前後の男性。
 しかも、長老であるマチアスの孫だ。
 マチアスとのやり取りを見る限り、人間とエルフがお互いの常識をすり合わせるための話し合いで、ハッキリと意見が言える性格。
 さらには、妻に先立たれて独身の子無し。
 単身赴任しても問題がないというウェルロッド家で迎える大使として、最適な人選であった
 彼には何の不満もない。

「ですが……、なぜブリジットさんまで許可したんですか!?」

 アイザックはクロードの隣に座るブリジットを指差した。

「ちょっと、何よ! やっぱり、私に不満があるんじゃない!」

 ブリジットはアイザックに女して受け入れられなかったという経緯がある。
 個人的な感情で自分が非難されているように受け取ってしまった。

 彼女は140歳。
 年齢を聞いた時に、うっかりアイザックは「ババアじゃん」と呟いてしまい「失礼な事を言うのはこの口か」と両頬を同時に引っ張られてしまった。

 彼女は自分が受け入れられなかった事がきっかけとなり、アイザックの事が気になり始めて大使に志願した――



 ――というフラグが立ったわけではない。

”戦争を知らない世代同士での交流こそ大事”

 という、もっともらしい屁理屈をこねて大使枠に売り込んで来たが、その理由は自分のためだ。
 そんな彼女の事を、アイザックは心配して反対していた。

「確かに今回は不満があります。人間は僕達のように友好的な者ばかりではないんですよ。若い女性が人間社会に入り込み、交流再開早々に父親のわからない子を孕まされて涙ながらの帰国という事にでもなったら、友好どころではないんですよ!」

 アイザックはブリジットの無防備さにイラ立っていた。
 二人の妻を持つランドルフですら、時々チラリとブリジットを盗み見る程度には魅力的な女性だ。
 万が一、欲情した何者かによって襲われでもしたら大事になる。
”やはり交流を持ち掛けたのは、そういう目的だったのか!”と、また国交断絶状態になりかねない。
 自分一人ではなく、人間とエルフ全体の問題に発展する可能性を考えないブリジットの行動をアイザックは良く思っていなかった。

「……あれっ?」

 良い事を言ったと思っていたアイザックだったが、皆が驚いたような視線で見つめているのに気付いた。
 ランドルフなど、驚くを通り越してオロオロとしている。
 その姿を見かねて、クロードがアイザックに尋ねる。

「どこでそんな事を知ったんだ? 子供が言う事じゃないだろ」
「えっ、いや……。本でそういう事を書いてたんで……」

(ヤバイ、言い過ぎたか)

 つい子供らしからぬ発言をしてしまった。
 いくらなんでも”孕まされて”というのは言い過ぎたかもしれないと反省する。

「話をしていると、アイザックが高い知能を持っている事はわかる。しかし、だからといって何でもかんでも学ばせればいいというものでもないだろう」

 クロードの矛先はランドルフに向かう。
 アイザックはまだ幼いので、学ぶべき知識を選別するのは大人の役割だ。
 覚えるからといって、何でもかんでも教えればいいというものではない。
 この場における最年長者として、クロードはランドルフを咎める。

「確かにその通りです。本を読むのが好きな子なので、自由に読ませていたのですが……。ある程度読む物を制限するべきだったかもしれません」

 ランドルフは額の汗をハンカチで拭う。
 クロードの言う事はもっともだ。
 父親として、教育に関してはアイザックの自主性に任せていた事は否めない。
 こうして正面切って批判されても、言い返せない後ろめたさがあった。

「ちょ、ちょっと待って。僕がどんな本を読んでいたかはともかく、若い女性エルフが人間社会に入り込む危険性を考えてよ」

 アイザックは話を戻そうとした。
 何か気まずい雰囲気が出来つつあったが、そのために話を逸らそうとしたのではない。
 街道整備も女性エルフの希望者がいたが、身の安全のために初期メンバーから外れてもらっていた。
 ここでブリジットの駐在大使としての就任を認めるのはどこか間違っている気がする。
 しかし、ランドルフはそのような事を気にしていないようだ。

「大丈夫だ。ちゃんと女性の護衛を普段から付けるし、エルフだからいざという時は魔法で身を守れる。それに、女性目線の意見を聞けるというのは大きい。大勢を同時に守るのは難しいかもしれないが、一人くらいならば守り通せるさ」

”ブリジットだけなら、女性の護衛を交代で付ける余裕がある。だから、大丈夫だろう”

 というのがランドルフの考えのようであった。
 ウェルロッド家の屋敷に滞在するのであれば、けしからん考えを持つ者も近づきにくいという事もある。
 安全面に関しては心配していないようだ。

「わ、私だって一人で猪くらいは狩れるんだからね! 運ぶのは魔法を使わないと無理だけど。自分の身くらい守れるわよ」

”孕まされる”という言葉に頬を赤くしながらも、ブリジットは自分の身が守れるとアピールした。
 彼女がここまで積極的に人間社会に行きたがっているのには理由がある。

 ――食事だ。

 まだ若い彼女は味の濃い物が食べたかった。
 ティリーヒルで食べた人間の食事は塩気も効いており、満足のいくものだった。
 マチアスが食パンの上にベーコンエッグをのせて「うん、これこれ。やっぱり、パン食最高!」と満足そうに食べていたのにも同意するくらい、人間の食べ物を気に入っていた。
 別にエルフが昆虫食がメインで嫌気が差したというわけではない。
 開けた場所で田んぼを耕したりして、米や野菜中心の食生活をしている。
 小麦を中心とした食生活が珍しいだけだ。

 もし、アイザックがエルフの食生活を聞けば「米が食べたい!」と言いだしただろう。
 しかし、最初のイナゴの串焼きなどのインパクトが強すぎて、食生活に関して聞こうとしなかった。
 そのせいで米という前世において身近だった物から遠ざかってしまっていた。

「でもまぁ、私の魅力に負ける人も出るかもしれないと心配するのも仕方ないかもしれないわね」

 ブリジットは両手を頭の後ろに回し、セクシーポーズを取ってアイザックにウィンクする。
 だが、そのポーズで強調されるべき部分が強調されていない。

「チェンジで」

 冷酷な言葉を言い放つ。
 アイザックの好みは巨乳美人だ。
 前世では恋人がいなかったという事もあり、可愛いだけの女の子は二次元で見慣れている。
 だから、三次元の膨らみが現実の女性に対する評価の判断基準となってしまっていた。 
 美形ばかりのこの世界において、モブ顔の女性でも前世基準では100点満点中75点はあるというのも、顔で女性を判断しない理由となっていた。

「よし、その喧嘩買った!」

 ブリジットは椅子から立ち上がり、アイザックの頬をつねろうとする。
 それをアイザックは伸ばされる手を振り払い、自分の頬を守る。

「ちょっと、友好の大使が暴力振るって良いの?」
「悪い子にはお仕置きしないとダメだからよ」
「そもそも、子供相手にセクシーさをアピールしようとするって何を考えてるんですか」

 二人の激しい攻防戦を見ながら、ランドルフは笑った。
 リサやティファニーとは、こんな風にじゃれ合った姿を見た事が無い。
 大人しく話をしたり、遊んだりしているだけだった。
 確かに友好の大使としては不安を覚えないわけでもないが、本来の役割はクロードが果たしてくれるだろう。
 身分や立場を気にする事無く、こうして馬鹿を言い合える相手が一人くらいいても良い。
 そう思うと、アイザックにとっては意外と悪く無い人選のように、ランドルフには思えた。


 ----------


 翌日、エルフ三十人を含む一行はティリーヒルの北にあるテーラーを訪れた。
 この街から街道整備が始められる。
 本来ならば、王都から初めて広くエルフとの友好の始まりを周知させる方が良かった。
 だが、エルフを王都に近づける事への不安。
 いきなりエルフ達の領域から遠い地へ連れて行く事によるエルフ達の不安。
 その両方の点から、テーラーから始めようという事になった。

 この街は領都ウェルロッドと北のランカスター伯爵領を繋ぐ領境の街であり、ランカスター伯爵領から東の隣国ファーティル王国へ向かう商人達が通る商業都市でもある。
 テーラーとティリーヒルの間の街道から始めようという話もあったが、それはアイザックが止めさせた。
 この二都市間の街道を整備されては、入札に使える手が一つ減る。
 今はまだ整備されては困るのだ。
”商人が多く通るので、街道整備の効果が広く知られる”という理由でウェルロッド=テーラー間の街道を最初に行おうと主張し、それが受け入れられた形となった。

 この決定に驚いたのはテーラーを任されているグレーブス子爵だ。
”エルフとの交流なんて、王都や領都付近の話”として、自分には関係の無い話だと思い込んでいた。
 それが、人間とエルフの交流再開の証として、街道整備始まりの街となる。
 何もしていないのに、突如として新しい歴史の一歩目に加わるという栄誉を賜る事になった。
 驚くのも当然である。
 今も街の入口に急遽設置された朝礼代のような物の上で、ランドルフの隣に立ち”信じられない”といった顔でキョロキョロと周囲を見回している。

 ランドルフは演説中だ。
 今、この時代を生きている人間にはエルフに対する免疫がない。
 だが、それは”エルフは凄い魔法を使えるらしい”という程度の知識しかない平民にはプラスにもなる。
 最初に強いインパクトと同時に良い印象を与え、今後の付き合いをやりやすくしようと頑張っていた。

「人とエルフ、長く交流が断絶していた。しかし、それも今日終わりを迎える。これからは異なる種族が手を取り合い、共に歩んでいく時代となる。諸君らは歴史の転換点の目撃者となるのだ! アロイス殿、お願いします!」

 演説が終わり、ランドルフはアロイスに魔法を頼む。
 彼はエルフの代表者として、最初の道作りを任されていた。
 栄誉ある仕事は責任ある立場に任せようという考えだった。

 街の入口付近から100mほどを衛兵が人払いしている。
 歩いている人に影響を与えてはいけないので、万が一を考えての措置だ。
 そこを魔法で平坦な道を作ってもらう事になっていた。
 街道を封鎖されているので周囲は混雑しているが、それはそれで良い。
 エルフの魔法が有効だという目撃者が増えるだけだ。

「お任せを。この第一歩がエルフと人間の友好の証となる事を願わん。オン・カカカビ・サンマ・エイ・ソワカ」

 アロイスが魔法を唱えると、地面がまるで綺麗に切られた断面のように平坦になっていく。
 しかも、雨が降った時に備えて蓋つきの側溝のオマケ付きだ。

 エルフの魔法を見た人々の反応はしばしの無言。
 そして、呼吸数回分の時間を置いてから、申し合わせたわけでもないのに同時に喝采を送る。
 貴族、兵士、平民。
 身分関係無く、その場にいた者達が目にしたものの感動を表した。

「街道の整備がこんなに早く終わるなんて……」

 グレーブス子爵が一人呟く。
 平民に労役を課して道を直させても、ここまで綺麗にはならない。
 まるで職人が整えたかのように道が綺麗になっている。
 道として使い、踏み荒らすのが申し訳なく思えてしまう。

「ええ、これがアイザックの考えた事なんですよ。さぁ、行きましょう」

 ランドルフはアイザックの手を取り、魔法で整備された道のところまで歩む。
 その隣にはグレーブス子爵とオルグレン男爵。
 そして、アロイス達エルフがいた。
 最初にこの道を歩くためだ。

「街道整備事業が、友好の架け橋とならん事を願います」

 ランドルフの言葉に合わせて皆が一歩目を整備された道に踏み出す。
 くだらない式典だという人もいるかもしれない。
 だが、くだらなくとも、こうして内外に知らしめる事が必要な時もある。

 ――学の無い平民には見せて教える必要がある時だ。

 そのための儀式のようなもの。
 少なくとも、今日ここで見学した者達でよくわからない者が居たとしても”なんだかエルフ達も良い雰囲気だった”と話してくれるだろう。

 アイザックが歩むこの一歩は小さな一歩。
 しかし、覇道の終着点へと続く大事な一歩となる。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ