352 十七歳 初めて計画を打ち明ける
ダミアンの事は心配ないと伝えると、ルシアは安心した様子を見せた。
あっさりと信じたのは、ルーカスも確認していた事が大きい。
アイザックだけだと、母を心配させまいとして本当の事を隠す可能性があったからだ。
一安心とわかると、ダミアンの話はしなくなった。
話すなら、どうしても「ニコルに負けた」という話題に触れなければならないからである。
ルシアのためにも、これ以上触れない方がいいという判断から、誰も触れなかったのだった。
先ほどのルシアの反応を見ていた者や、ルシアとキャサリンの交友関係を知っている者もいる。
そのため、周囲でダミアンの事が話される事はなかった。
しかし、模擬戦が終わって校庭から離れる時に、ダミアンの事を話している者達の声が聞こえてきた。
そのほとんどが――
「フレッドの親友なのに、女に負けるとは情けない」
「相手に見惚れていたのではないか?」
「美しさに気を取られていたが、動きは悪くなかったな」
――というものだった。
今後、ダミアンは厳しい立場になるかもしれない。
そう思うと、またルシアの顔が曇る。
「一度や二度の失敗は誰にでもあるものです。来年の模擬戦で、みんなに変わったところを見せれば評価は変わりますよ」
「だといいのだけれど……。来年までは馬鹿にされたりしそうね。いじめられるような事がないように、気を付けてあげてくれる?」
「ええ、いいですよ。助けられる範囲なら。それと、本人のプライドを傷つけない範囲でですけど」
「それでいいわ。ありがとう」
アイザックがフォローしてくれるというので、その言葉を信じてルシアはダミアンの心配をするのをやめた。
これからの事は、実際になってみないとわからない。
ここで必要以上の心配をしても、空気を悪くするだけだからだ。
「私達はティファニーのところにも行ってみようと考えているのですが、そちらはどうされます?」
ランドルフがウィルメンテ侯爵に声をかける。
このあとも一緒に行動するかどうかという質問だった。
「いや、私達はフレッドのところへ向かう。よく頑張ったと一言褒めてやらんとな。あとは親しい者の子弟にも声をかけていく。週末の件は、帰ったら使者を出しておこう」
ウィルメンテ侯爵は、さり気なく同行する事を避けた。
ティファニーのもとへ行くという事は、家庭科部に行くという事だ。
そこには、アマンダがいる。
彼にとって、どう話を振ればいいのかわからない相手の一人だった。
そのため、フレッド達を理由にしたのである。
「わかりました。フレッドくんにもよろしく伝えておいてください。それでは、また」
「ではな」
ウィルメンテ侯爵にとって、ティファニーはまったく関係のない相手だ。
自分の息子を優先したいという気持ちもわかるので、ランドルフも「一緒に行こう」とは誘わなかった。
また学院内で出会うだろうと思い、お互いに軽く別れの言葉をかけるだけに留めた。
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結局、ウィルメンテ侯爵一家と再び会う事はなかった。
それぞれ付き合いのある家の子息などのところへ行くなど、すれ違う事がなかったからだ。
ティファニーやアマンダの刺繍を見に行った時に二人と出会い「これからどうしよう」や、ジャネットを見かけて「ダミアンは、これからどういう行動をするんだろう?」と思った事以外は、アイザックも文化祭を楽しめていた。
今年は「演奏しろ」という無茶振りもなかったので、終始リサやケンドラと一緒に行動できた事が大きい。
文化祭の間は予定に追われず、ゆっくりと過ごせた時間となった。
だが、問題はまだまだ残っている。
アイザックは、その日の内に問題の一つを片付ける事にした。
――祖父母との話し合い。
これは気になって仕方なかった問題だ。
プライドを傷つけられたというだけで、アイザックの行動を認めたとは思えない。
他にも理由があるのなら、信頼できる相談役になってくれるかもしれない。
ウィルメンテ侯爵と話す前に、モーガンを味方に付けておけば大いに有利な状況を作れるはずだ。
夕食後、アイザックは二人と話す機会を作った。
そして、本題を切り出す。
「お爺様やお婆様を無条件で信じたいと思っています。ですが、事が事ですので、もう少し賛同した理由を教えていただきたいのです。プライドを傷つけられたというだけで、僕がパメラを狙ってもいいなどと言ったわけではないのでしょう?」
アイザックは、祖父母を味方だと思える確証が欲しかった。
そのためには、この質問の答えを聞いておきたい。
これを聞いておけば、絶大な信頼を置けるようになる。
しかし、答えの内容によっては、身内とはいえ警戒をしなくてはならない。
あの時の発言は演技で、王家のために自分を騙して近付こうとしている可能性だってあるのだから。
問われたモーガンは、フフッと笑う。
真剣なアイザックとは対照的な態度だった。
どこか喜んでいる節すらある。
「なるほど。頭ではわかってはいるものの、ちゃんと本人の口から言葉として聞いておきたいというわけか。いいだろう」
――アイザックは「身内だから」といって無条件で信用したりしない。
だからこそ、嬉しかったのだ。
アイザックは身内に甘いところがある。
メリンダとネイサンの一件のあとの態度を恨んで、やさぐれていてもおかしくない状況だった。
だが、アイザックは不良になったりしなかった。
それどころか、家族を許そうとしていた。
これからやろうとする事は、甘さを見せれば失敗する。
家族も警戒する姿が、頼もしく見えた。
「きっかけはジェイソンだ。あやつはお前を亡き者にしようとした。それも二度もだ。なぜかわからぬが、お前を敵視している。今はまだいい。私が助けてやれる。だが私が死に、ランドルフの代になったらどうだ?」
「どうだ?」と聞かれれば「不安です」と答えたいところだった。
祖父と父とでは、明らかな実力差を感じるからだ。
「ランドルフは戦場では頼りになるらしいが、政争では頼りにならんだろう。領地を持ち、領地に比例した軍を持つ、ウェルロッド侯爵家の当主という裏付けがあってこそ発言力が増すというもの。だが、ランドルフでは、その発言力を活かしきれんだろう。これは教育をしっかりしていなかった私の責任だ」
モーガンは、ランドルフがジュードに利用される事を恐れて、ランドルフと距離を取っていた。
その事を悔やんでいるという表情を見せる。
「お前ならエンフィールド公爵の肩書きだけで対応できるかもしれん。しかし、王家の権威の前では公爵家の肩書きも相手ではない。最近のジェイソンはおかしな様子を見せるものの、以前はお前に次ぐ未来有望な若者だった。能力があり、それを活かす環境もある。そんなジェイソンが王位に就いた時、ウェルロッド侯爵家はどうなってしまうのか? お前諸共叩き潰されはしないか? どうしても、そんな事を考えてしまうのだ。ならば、やられる前にやるしかないだろう」
モーガンの言葉は、アイザックにもわかりやすいものだった。
――家の存続を優先する。
貴族の根本的な考えである。
そこにエリアスへの不満が重なり、実行に移すハードルが下がっていたのだ。
特にウェルロッド侯爵家は、リード王国の建国という最も困難な時期を支えた名家である。
「共に国造りを頑張った仲間」であるはずなのに、一方的に潰されるかもしれないというのは許せないのだろう。
ジェイソンの嫉妬による行動の影響が、とんでもないところにまで波及していた。
「ウィンザー侯やウィルメンテ侯はともかく、ウォリック侯は王家に不満を持っているから味方にできる。ランカスター伯は味方になってくれるだろう。ウリッジ伯やブリストル伯も味方にできるかもしれん。他にも、お前を恐れて中立を表明してくれる者達もいるだろう。賭けに出るにしても、悪い確率ではないと考えたのだ。もっとも、反旗を翻す大義名分がなければ厳しいだろうがな」
さすがに無条件では厳しいとモーガンも感じているようだ。
不満を持つウェルロッド侯爵家やウォリック侯爵家はともかくとして、その傘下の貴族を動かすには大義名分が必要だ。
彼らに離反されては戦うどころではない。
「勝てば恩賞にありつける」という利益以外の理由が必要だった。
その名分については、アイザックに抜かりはない。
「なるほど、お爺様のお気持ちはよくわかりました。僕としては、とても心強い味方ができて嬉しい限りです。では、僕の計画をお話しましょう。大義名分についても得られる予定です」
「ほう」
――アイザックの計画。
それは純粋に好奇心を掻き立てるものだった。
今まで聞いた事もないような、壮大な計画のはずだ。
モーガンとマーガレットの鼓動が高鳴り始める。
「計画の中心人物は、ニコル・ネトルホールズ女男爵です」
「なにっ!?」
ニコルの名を聞いた時、二人は顔を見合わせる。
あまりにも予想外な人物の名前だったからだ。
まだ「ウィンザー侯です」と言われた方がしっくりきた。
「彼女にジェイソンとパメラ両名の間に割って入っていただきます。そして、ジェイソンをたぶらかし、パメラとの婚約を解消させるように動かす」
「まて、さすがにそんな事はせんだろう。相手はウィンザー侯の孫娘だぞ」
モーガンは常識的な事を言う事しかできなかった。
普通に考えれば、パメラとの婚約を解消などできない。
王家と貴族派の関係を深めるための政略結婚という面も大きいのだ。
そんな事をすれば、ウィンザー侯爵家を敵に回すようなもの。
いくらニコルが美しくても、ジェイソンがパメラと別れるような事をするとは思えなかった。
「最近のジェイソンを見ても、そう言えますか?」
「それは……」
そう、モーガンの考えは普通ならばというものである。
今のジェイソンは、アイザック以上に常軌を逸している。
リード王国の功臣であるアイザックを、隙あらば亡き者にしようとしているのだ。
パメラと別れるくらいはやりかねない。
「ジェイソンは、ニコルにかなりご執心のようです。ニコルを僕に取られないか心配しているようですね。だから、無茶な命令を出してでも、僕を彼女から引き離そうとしている。このままなら、彼女への誠意として王太子妃に迎えるくらいはするでしょう。もちろん、正室として」
「名君と呼ばれた者でも、女で身を崩すというのは歴史上多々ある事だ。なるほど、ジェイソンから別れを切り出させれば、パメラを引き取っても王家から文句は言われない。反旗を翻す必要すらないという事か……。上手くいけばだが」
――パメラが欲しいのなら、反乱の協力をしてやる。
その言葉を言うのに、モーガンもかなりの覚悟をしていた。
なのに、アイザックは血を流さない方法でパメラを手に入れる方法を考えていた。
賭けに出ずとも、パメラを手に入れられるのだ。
ニコルがどこまでやれるのかわからないものの、上手くいけば最良の方法だろう。
「いえ、恐らく内戦になるでしょう」
「なるのか!」
だが、アイザックはあっさりと戦いになると答えた。
ウェルロッド侯爵家を潰す可能性を減らした安全な方法を取ると思っていたので、モーガンは驚いてしまう。
「ジェイソンではなく、ニコルの責任でね。彼女は欲深い女です。ジェイソン、フレッド、チャールズ、マイケル、ダミアン、そして僕の六人。自分で言うのも恥ずかしいのですが、同年代で容姿に優れている男をすべて手元に置いておきたいと彼女は考えています。僕がパメラさんと結婚するとなれば、きっと不満に感じるでしょう。ジェイソンになにを吹き込むかわかりません。ジェイソンがパメラさんとの別れを切り出したところで、ウィンザー侯を誘って王家を打倒するべきです。でなければ、いつまでもウェルロッド侯爵家に危険が付きまとう事になるでしょう」
自分がシックスメンズだという確信はないものの、今までのニコルの態度から、彼女のターゲットに選ばれている事は確実だ。
それにロレッタやアマンダの態度から、この世界基準でも顔はいいはずである。
自信を持ってターゲットだと言い切れた。
「やられる前にやる。それ自体は変わりないという事か……。確かにやるなら、ウィンザー侯の恨みが薄れる前がいい」
モーガンは一定の理解を示した。
そこまでニコルに頼っていいものか不安だったが、アイザックが頼れる相手だと思っているのなら、実際頼れるのだろうと考える事にした。
あの美しさは傾国の美女と言っても過言ではない。
彼女のような少女と出会わなければ、ジェイソンは今まで通りの好青年だったはずだ。
(いや、ジェイソンだけではない。アイザックもだ)
モーガンは、そのように考えてしまう。
ニコルと出会わなければ、彼女を利用してパメラを手に入れようなどとは思わなかっただろう。
アイザックは、ニコルの美しさに目は眩んでいないようだが、彼女自身の価値に目が眩んでしまっている。
歴史の流れを変える者は、アイザック以外にもいたのだと、モーガンは思い知らされた。
「なるほど、よくわかったわ。あなたがネトルホールズ女男爵に興味を示さなかった理由が。彼女の事を駒として利用しようとしていたからなのね。情が移らぬよう、あえて距離を置いていたというわけね。あんなに可愛らしい子を避けていた理由が、そういうわけだったら納得できるわ」
マーガレットは、ニコルがジェイソンを釣る餌だと知り、アイザックの態度に合点がいく。
地味な女の子が好みというのではなく、あえて距離を置いていた。
でなければ、ニコルを避ける理由がない。
醤油や味噌もエルフと仲良くするために我慢して食べていたので、目的達成のためには強い心で自分を律する事ができるのだろう。
しかし、彼女が納得できたのはそれだけだった。
大きな疑問点が残っている。
「では、アマンダさんはどうするの? ウォリック侯爵家を味方につけるためにたぶらかしていたの? あとで問題になるわよ」
ティファニーは、パメラと時期が被ったせいで誤解を招いただけだ。
ロレッタやジュディスは、助けてやったので一方的に好意を寄せられているだけ。
だが、アマンダは違う。
彼女への行動の一つ一つが、自分に興味を惹かせようとしているもののようにしか思えなかった。
「パメラの事がずっと好きだった」では、彼女は納得できないだろう。
王家を倒したとしても、ウォリック侯爵家との第二戦が始まってしまう可能性がある。
そこのところは、ちゃんと聞いておかねばならない。
問われたアイザックは、視線を泳がせる。
その態度が、二人を不安にさせた。
「アマンダさんは……、想定外の事態なのです。彼女に花束を渡したのは、本当に手土産程度の意味でしかなかったのです。普通、婚約者なら花束くらい渡していると思うでしょう? 僕が初めて渡す事になると考えもしませんでした。僕とアマンダさんが婚約者としてふさわしいと噂されている事を知らなかったので、そんな誤解を招くなど完全に想定外でした。ウォリック侯爵家を味方につけるのなら、資金援助をするだけでいい。アマンダさんと婚約して、利用するだけ利用しようなどとまったく考えていませんでした。お爺様がウォリック侯からの婚約の申し出を断ったと聞いて、安心していたくらいなんですよ」
「…………」
アイザックの返事を聞いて、二人とも黙りこくってしまう。
いっその事「アマンダの恋心を利用している」と言われた方が事態は簡単だったかもしれない。
「花束はきっかけに過ぎなかったのかもしれません。ですが、たかが花束でしょう? そこまで思い入れを持つなんて思わないじゃないですか」
「たかが花束? お前は花を自分の手で育てて、大事にしているではないか。大切なものだから贈り物にしていたのではないのか?」
モーガンが口を挟む。
アイザックは愚痴をこぼせる相手が見つかったという事もあり、そのまま本音を漏らしてしまう。
「あれは侯爵家の嫡男が手ずから育てた花という付加価値を持たせるためです。それに傘下の貴族と接触するのに、金銭や芸術品ではなく、自分の育てた花を贈るのであれば警戒されないでしょう? 子供が自分の手で育てた花を贈られるのです。普通の大人なら返礼の手紙などを送りますので、そこから関係を築いていくきっかけになる。そう思ったから花を育てていたのです。……まぁ、最近は本当に趣味のようになってきましたけど」
アイザックの答えを聞き、モーガンは口を開けてポカーンとする。
アマンダに惚れられたのがアイザックにとって想定外の事なら、この事がモーガンにとって想定外の事だったからだ。
「まさか……、大使達に花を贈っていたのは……」
「お爺様の事をよろしく頼むという意味もありましたが、縁を繋ぐためのものですね。一番厄介なのは、内戦中に周辺国が参戦してくる事です。各国の軍を抑えるためには有力者を買収しておく必要があります。ですが、他国の者が有力者に露骨な接触をすると警戒されてしまう。そこで大使の家族へ花やお菓子を贈り、僕からの使者なら『いつもの花やお菓子か』と油断させるためのものでした」
「そこまで準備していたとは……」
傘下の貴族に贈るというのならわかる。
当時はネイサンがおり、自分の勢力を確保しなければいけなかったからだ。
だが、そこから先。
他国への根回しにも利用していたなど、モーガンは考えもしなかった。
今までは「祖父思いの優しい子だな」と思っていただけなので、裏の計画を知って驚かされるばかりだった。
「ではやはりロックウェル王国侵攻計画は、内通者からの情報があったから読めていたという事か」
しかし、それがわかれば納得できるところもある。
先の戦争で勝てたのは、アイザックの協力者が教えてくれていたからだ。
かつて考えた答えが正しかったとわかり、少しスッキリとした。
「いえ、内通者などいませんでした」
「なにっ!?」
だが、すぐさま否定されてしまう。
「確かに贈り物を贈る範囲を、大使の親族などにも広げていったところでした。ですが、国家の命運を左右するような計画を教えてくれる協力者などは作れていません。その段階まで進んでいなかったのです。僕が自分で考えたと言っても信じてもらえないと思ったので、協力者の存在を匂わせていただけです。その点、お爺様があの時協力者の存在を主張してくださったので助かりましたね」
「そちらの方がありえんのだが……。確かに信じられんな」
――内通者なしでフォード元帥の計画を見破った。
そんな化け物染みた事をしておきながら、アマンダの恋心はわからなかったという。
あまりのチグハグさに、モーガンの頭は理解が追いつかなかった。
それはマーガレットも同じ事。
アイザックを理解するために、一つずつ確認していくべきだと考える。
「では、今は内通者がいるの?」
「いえ、いません。ですが、他国を足止めするために内通者を作る必要もないかと思っています。ノイアイゼンから持ち帰った記念品を周辺国に贈るつもりなので、それであちらが今は僕と敵対するべきではないと思って様子見してくれるでしょうから」
アイザックが持ち帰った物の中には、リード王国の同盟国に贈る物も含まれていた。
――ドラゴンを交渉によって大人しくさせた記念品。
それだけで、周辺国を威圧する事ができる。
魔剣や魔槍といったドラゴンに通用する武器を失った時代。
交渉でドラゴンを大人しくさせる事ができる者の存在は大きい。
ノイアイゼンもアイザックの味方をすると思ってくれるはずだ。
あくまでも記念品という形で知らせる事で、プライドを傷つけられたと感じさせずに中立の立場を保たせる効果を狙っている。
「アイザックに脅迫された。意地でも戦ってやる」と、モーガンのように憤られても厄介だからだ。
「大義名分を作る事ができれば、おそらく中立でいてくれるでしょう」
「だが、エリアスがいる。ジェイソンがパメラとの婚約を解消する事を許さないだろう。それはどうする?」
「それは大丈夫です。ニコルを利用して、取り返しのつかない場所と方法で別れを告げさせますので」
ニコルの事は彼女頼りだが、祖父母に協力してもらうために自分の手駒のように伝えておく。
完全ではなくとも、ある程度はコントロールしているように思わせておかねば不安がられるだろうからだ。
アイザックにとって、エリアスは厄介な存在だった。
しかし、心配はしていない。
王太子のジェイソンが周辺国に戦争を仕掛ける事ができるだろうか?
それは無理だ。
エリアスがいる以上、王太子であろうとも戦争を仕掛けるような事はできない。
という事は、ニコルがジェイソンとのエンドを迎えた時点で、ジェイソンがエリアスを害する可能性が高い。
それ抜きでも、卒業式の最後に婚約の解消と処刑を命じる場面を見て、ウィンザー侯爵がパメラを王太子妃として送り込む事を認めるわけがない。
上手く煽れば、エリアスをどうにかしなくとも、卒業式でジェイソンとニコルを破滅に追い込める可能性だってある。
卒業式までニコルをおだてておけば、パメラを手に入れる方法は何種類かは用意できるだろう。
国王ではあるものの、エリアスの存在は危惧するべきものではなかった。
「本当にあなたは凄い子ね。……ねぇ、ネイサンが初めて王都に行って、帰ってきた時の事だけど――」
「あぁ、実はあれも――」
本当はもっと王家に反旗を翻す時の話をするべきだったのかもしれない。
だが、アイザックが本当の事を打ち明けるようになったのだ。
マーガレットは、前々から気になっていた事を尋ねる。
モーガンも同様に疑問だった事をアイザックに尋ね始めるようになった。
――祖父母と孫。
表向きは良好な関係だったものの、本音では長年の隔たりがあった。
しかし、この機会に本音を打ち明け合い、両者の間にあった隔たりを縮め始めた。






