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いいご身分だな、俺にくれよ  作者: nama
第十二章 王立学院二年生前編 十六歳~十七歳

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309 十六歳 ブランダー伯爵家、その力の根源

 翌朝。

 朝食を食べている最中に、アイザックはジュディスの顔を見ていた。


(顔は悪くないんだよな、顔は)


 ジュディスの顔は、クールな美女系統。

 愁いを帯びた瞳と青白い素肌が特徴的だ。

 髪の毛で顔を隠したりしなくても、堂々と顔をさらけ出せるレベルだと思えた。

 問題は、彼女が顔を隠していたのは自分に自信がなかったというわけではない。


 ――占いという能力があったため、家族を含めて周囲の者達が能力にばかり注目してしまった。

 ――そのせいで「占いの力があれば、自分は必要ないんだ」と思ったジュディスは、心を閉ざして自分の顔も隠すようになったのだ。


 というのが、アイザックがランカスター伯爵に話した事である。

 話した内容から大きく間違ってはいないと思うものの、実際どういう理由なのかはジュディスに聞かなければわからない。

 彼女は、この世界のハイレベルな基準でも美女の部類だろう。

 前世の感覚で言えば「隠すのがもったいない」と思う程度には美しいとは思う。

『この世界の果てまでを君に』というゲームのコンセプトが「男が好きそうなキャラから婚約者を奪う」なので「実は美少女でした」という展開が好きな人向けの設定なのだろう。

 ティファニーのように、文学少女や眼鏡っ子好き向けよりもわかりにくいが悪くはない。


 ティファニーといえば、昨晩はジュディスと一緒のベッドで寝たらしい。

 ブリジットと一緒にジュディスを挟み込むように寝て、ジュディスを安心させていたそうだ。


(なんて羨ましい……)


 ――ティファニーとブリジットというバンズに挟まれた、ジュディスという肉厚タップリのパティ。


 十年前なら「僕も挟んで」と言って混ざれたかもしれない。

 だが、皆は今年で十七歳になる。

 そんな大胆な事を考える事はできても、口に出して言えないお年頃だ。

 大人になるという事の辛さを、アイザックは嫌というほど思い知る。


 アイザックがジュディスを見ていると、彼女が視線に気付いた。

 顔を赤く染めてうつむく。


「アイザック、どうしたの?」


 ジュディスの隣に座っていたティファニーが、アイザックの視線に気付いて理由を尋ねる。

 これにはアイザックが慌てた。

「一緒に寝たいと思っていた」などとは絶対に言えない。

 みんなにムッツリスケベだと思われてしまうからだ。


「いや……。今までどうやって食事をしていたんだろうなって……」


 苦し紛れに放ったアイザックの言葉のせいで、食堂の空気が変わる。

「そういえばどうやって食べていたんだ?」という疑問が湧いて出たからだ。


「……普通に?」


 ジュディスは首をかしげながら答えるが、その普通がわからなかった。

 アイザックはファーティル王国への援軍の時に、ランカスター伯爵家の屋敷で一泊した事がある。

 しかし、その時は髪を手でのけたりしていなかった。

 食事中にそんな動きをすれば、目立つので覚えているはずだ。

 今はカチューシャで髪を後ろに流しているが、垂らしていた前髪は腰くらいまでの長さがあったので、髪の毛の下から料理を口に運ぶという事もできない。

 髪の毛を汚さず、どうやって食べていたのかが不思議だった。

 出任せで言葉にしたとはいえ、アイザックの疑問はジュディス以外の者達に同じ思いを抱かせた。

 だが、直接聞くのは失礼なので気が引ける。


「そういえば、ティファニーは学校をどうするの? 休むの?」


 ブリジットが話題を逸らす。

 さすがに彼女でも、この話題に触れられなかったようだ。


「一応制服は持ってきたけど、一日や二日は休んでも大丈夫だから、休もうかなって思ってるところ」


 ティファニーもブリジットの話題に乗った。

 興味よりも、どうやって食べているのか知るのが怖かったのかもしれない。


 ちなみにアイザックは、ホラー繋がりで「二口女のように、後頭部に大きな口があったりするんじゃないか?」と思っていた。

 だが、そんな事をおくびにも出さず、ティファニーに声をかける。


「いや、ティファニーは学校に行ってほしい。マイケルが出席しているか、どんな様子かとかを調べてきてほしいんだ。ルーカスに伝えてくれれば、噂とかを集めてきてくれると思うしさ」


 以前会っていたおかげか、ジュディスはブリジットとも普通に接する事ができている。

 ティファニー抜きでも、今日は大丈夫そうだ。

 そこでティファニーには、ジュディスのそばにいてもらうよりも、学校の情報収集をしてもらう事にした。


「アイザックも、あとから登校するんじゃないの?」

「するよ。でも、陛下との会合だからね。時間がどうなるかわからない。行けたら行くって感じになるだろうしね」

「わかった。それじゃあ、ルーカスくんかカイくんに放課後、屋敷に寄るように伝えておくね」

「そうしてくれると助かるよ」

「……ありがとう」


 二人のやり取りを聞いて、ジュディスが申し訳なさそうにしながら礼を言う。

 そんな彼女に二人は「気にするな」と答える。

 家族が王都にいれば、ランカスター伯爵にするところだが今はいない。

 二人とも身近に身内がいない心細さはわかっている。

 できる範囲で手伝おうという気になっていた。

 そんな感情が伝わり、ジュディスがより一層申し訳なさそうにしていた。



 ----------



 アイザックは会合が早く終わった時に備え、制服を着てモーガンと共に王宮へ向かう。

 学生は制服が礼服代わりにもなるからだ。

 王宮では、応接室に通された。

 朝は大臣がエリアスに報告をしたり、指示を受けるやりとりがされている。

 それが終わるまで、アイザックは待つしかなかった。

 とはいえ、朝の会議が終わるまでアイザックを放置したりはしない。

 クーパー伯爵が自分の秘書官をアイザックのもとに送り込んできていた。

 この時期に秘書官を送るという行為は、当然ただの世間話をさせるためではない。

 助けを求める使者でもあった。


「実はこのような事態になっておりまして……。中立派をまとめ上げるのが困難になっております」


 秘書官は怯えるように、体を縮こまらせながらアイザックに現状を説明する。

 その内容は、アイザックが知らなかった事だった。


 ――今の中立派は、ブランダー伯爵派が多数派を占める。


 これはファーティル王国へ援軍を送った事が原因だった。

 領地持ちの貴族は自領から兵士を徴集できるが、領地を持たない多くの貴族は俸給から少数の騎士しか武力を持たない。

 そこで二十年ぶりの戦争という事もあり、領地を持たぬ貴族達は戦功に対する褒美を期待して、私財をはたいて兵士を集めた。

 しかし、ここで問題が起きる。


 ――戦場に着く事なく、戦争が終わってしまった。


 これでは褒美を期待するどころではない。

 雇った兵士達が、金を生む鳥から金食い虫に変わった瞬間である。

 気合を入れて兵士を集めた者ほど赤字になった。


 一応、エリアスからの褒美はあった。

 しかし、それはドワーフ製の珍しい品々である。

 それでは兵士の給料を支払えない。

 王から下賜された品物なので、貰って早々売っぱらって現金化するのもためらわれる。

 戦後、誰もが金に困る事になった。

 そこで、彼らは羽振りの良いブランダー伯爵に頼る事にした。


 ブランダー伯爵領は鉱山の開発が軌道に乗り、ドワーフのおかげで掘れば掘るだけ売れるという好景気に沸いていた。

 彼なら金を貸してくれるだろうと思い、借金を申し入れる者が続出する。

 ウェルロッド侯爵家も交易量が増えたので通行税などの収入が増えていたが、戦場で多くの被害を出していた。

 死亡した兵士の家族に手当を支払わねばならない。

 そのため、金銭的な余裕がないと思われたため、ブランダー伯爵家を訪ねる者ばかりだった。


「ブランダー伯は、金に困った者達に低金利で貸し出しました。エンフィールド公が商人に働きかけて寄付金を集めさせましたが、それまでに金を借りた者の数が非常に多かったのです。それは中立派のみならず、王党派や貴族派の者達にも及びます」

「困った時に良い条件で金を貸してくれたなら、恩義を感じるよね」


 秘書官の話は、アイザックも納得のできる内容だった。

 商人と話して自主的に(・・・・)寄付をさせたが、それは少し遅かったらしい。

 それもそうだろう。

 いつまでも誰に借りようかと迷っていれば、金庫の金がなくなってしまっているかもしれない。

 すぐに借金をしようと動く者が多かった。

 その頼みに応じて、金を貸してくれたブランダー伯爵に恩を感じるなという方が無茶というもの。

 ブランダー伯爵の影響力が強くなるのも当然だろう。

 これはアイザックが幼い頃に考えていた力の一つ。

 財力(・・)という力をブランダー伯爵家が持った事による影響だ。


「閣下は今回の件を利用する事を考えられました。そこで、エンフィールド公にお願いがございます」


(だろうなぁ……)


 親切だけで中立派の内情をベラベラと教えてくれるはずがない。

 これは生徒を集めた勉強会では触れられなかった事。

 借金を恥ずかしい事だと思い、誰も家の事情を打ち明けなかったのだ。

 そんな情報を隠す事なく教えてくれたのだから、相応の見返りを求めてくる事は想像ができた。


「リード王国には、リード王国の法がございます。教会の異端審問は、リード王国内に別の法があるという事。この機会に異端審問を廃止させる事ができれば、非常にありがたい事だと申しておりました」

「異端審問の廃止か……」


 それはアイザックも望むところである。


 ――次に狙われそうなのがニコルだからだ。


 彼女は次々に婚約者持ちの男をたぶらかしている。

 婚約者を持たない男子生徒も、彼女に見惚れている者が多い。

 ニコルに男の目を独占され、恋人が見つからない女子に恨みを買っているはずだ。

 純粋な魅力によるものだが、いつ誰に「あの女は男をたぶらかす魔女だ」と訴え出られるかわかったものではない。

 廃止とまでいかなくとも、有名無実な存在にしておきたいところだった。

 今回のジュディスの一件で「そうだ、ニコルを魔女だと告発しよう」などと考える馬鹿が出てきては困る。

 先に手を打っておくのは、アイザックとしても望むところである。


「クーパー伯は話がわかるお方です。中立派筆頭として、これからも頑張っていただきたいので、応援させていただきますよ」

「ありがとうございます」


 アイザックは、この申し出を快諾した。

 もしかすると、法務大臣として長年頭を悩ませていた問題なのかもしれない。

 だが、それ以上にこの問題を解決する事により、権威を高めたいという考えを見透かす事ができたからだ。


 教会は信仰心だけではない。

 医学の知識を集めて病院としての役割を果たす事で、医療従事者として貴族や平民を問わずに支持を集めている。

 そんな教会の権利を侵そうというのだ。

 普通の手段で異端審問などの権利を無くそうとすれば、激しい反対にあってしまう。

 だからこそ、教会に穏便な形で異端審問の廃止を突きつける事ができれば、法務大臣としての実績として残る。

 派閥の筆頭としての面子も保たれるという事だ。


 クーパー伯爵は、あまり派閥の筆頭として活動していない。

 地道な働きを評価されて法務大臣になった男であり、消去法で代表者に選ばれていただけ。

 だが、地道に積み重ねてきた男だからこそ、ブランダー伯爵に代表の座を譲りたくないのかもしれない。

 ブランダー伯爵が得た財力は運の要素が大きい。

「金に余裕ができたから権力も」などという流れで譲るのが許せないのだろう。


 アイザックとしても、クーパー伯爵が筆頭のままでいてくれた方が都合がいい。

 常識人だからこそ、行動も予測しやすい。

 それに、今回の一件で敵に回りそうなブランダー伯爵家には、マイケルを守る程度の力を残しておいてやればいいと考えている。

 彼の協力を喜んでさせてもらうつもりだった。


「それとですね……」


 秘書官はまだ何か言いたい事があるようだ。

 しかし、言いにくそうにしている。

 アイザックは、彼が何を言おうとしているのか黙って様子を見る。


「ブランダー伯爵家の騎士の事情聴取が滞っています。理由は拷問などができないためです」

「証言の信憑性が失われるからか」

「その通りです。先ほどの話も絡むのですが、ブランダー伯爵家の影響力は無視できません。陛下も動向を気にしておられますので、拷問でブランダー伯爵家に罪有りという証言を引き出しても、どこまで厳しい処分を下せるかどうか」

「その場合、見返りを用意して証言をさせてもダメだという事だね」


 ブランダー伯爵家の騎士から証言を引き出すにしても、方法が限られてしまう。

 無理やり証言させても、ブランダー伯爵家に恩のある家の反感を買う。

 それは、評判を気にするエリアスの望まないところだ。

 拷問せず、買収もせず、本人の意思による自主的な証言を引き出さなければならない。


「陛下から『何があったかを話すように』と命じていただければ、彼らも大人しく話すのでしょうが……」


 だが、それはできないというのはわかりきった事だ。

 そんな事をすれば、クーパー伯爵に法務大臣としての能力がないと証明するようなもの。

 存在感を取り戻すどころか、今ある影響力も失いかねない。


 ――穏便かつ甘すぎない方法で証言を引き出さなければならない。


 しかも「何もできませんでした」という結果は最悪だ。

 ブランダー伯爵家を追及できずに終われば、ランカスター伯爵家の恨みを買い、ひいてはランカスター伯爵家と仲の良いウェルロッド侯爵家まで敵に回す。

 アイザックとしてはそれでいいのだが、クーパー伯爵としては絶対に避けたいところだろう。

 だから、アイザックに恥を忍んで協力を頼んできたのだ。


「クーパー伯の心中お察しします。僕にこうして話を持ち込むのも、大変悩まれた事でしょう。やはり、時間の問題でしょうか?」

「はい。時間さえあれば、閣下も独力で解決できたと思います」


 ランカスター伯爵やブランダー伯爵のもとに使者を送り、二人が王都に来るまでおよそ一ヶ月。

 騎士達は一ヶ月だけ口をつぐんでおけば、ブランダー伯爵が助けてくれると思っているはずだ。

 期間がわからないならともかく、およそ一ヶ月という期間がわかっている。

 今後の事が不安になって自白をしたりする事もない。

 ブランダー伯爵が来るまでは耐えるだろう。


 時間を区切られなければ、クーパー伯爵単独でも対処できる。

 しかし、今回の問題はランカスター伯爵家にとって早期解決を望むもの。

 悠長に待ってはいられない。

 時間の制限がある中で、自主的に証言を引き出さなければならないのだ。

 アイザックの知恵を求めるのもやむなしといったところだった。


「んー……」


 だが、そんな事を聞かれてもアイザックだって困る。


 ――拷問も買収もなし。


 それでは取れる手段がない。

 しかし、アイザックは一つ思いついた。


「脅迫は?」


 拷問は傷が残る。

 買収も物や役職などで証拠が残る。

 なら、言葉ならどうだろうとアイザックは考えた。


「……証拠が残るような形ではなく、実際に実行されないのであれば許容範囲に収まるかと思われます。ですが、私の立場では断言はできません。おそらく許容されるかもしれない、という見解までです」

「そうか」


(脅迫がギリギリセーフなら、取れる手段はあるか)


 ――話せと力尽くで脅迫するのではなく、ビビらせて自分から話したいと思わせる方法。


「それならやれるかもしれないね。準備を整えてくれたなら、会合のあとで試してみるよ」

「ありがとうございます!」


 アイザックは紙に指示を書き始める。


(これでクーパー伯にも恩を売れる。味方は多い方がいいもんな)


 難題ではあるが、上手くやれば見返りは大きい。

 ダメだったとしても、現職の法務大臣でも無理だった事だ。

 自分の評価を損なうという事もないはずだ。

 チャレンジするだけでもやってみようと、アイザックは思っていた。


 問題があるとすれば、証言の内容次第でマイケルが廃嫡や退学という結果になるかもしれないところだ。

 騎士がビビり過ぎて、必要以上にマイケルを悪し様に言うかもしれない。

 そこは言い過ぎないようにフォローしてやらないといけない。


(まったく、ゴメンズはいいご身分だよな。なんで俺が尻拭いをしてやらないといけないんだ)


 チャールズの時も同じだった。

 ティファニーの気持ちを口実にして、退学になったりしないよう助けてやった。

 自分勝手に婚約者を捨てる男の尻拭いをする事に、アイザックは虚しさを感じる。

 だが、それもジェイソンが攻略されるまでの我慢だ。


「用意だけしておいてください。たぶん、上手くいくでしょう」

「はっ。……これだけですか?」

「そう、それだけ」


 秘書官は不思議そうな顔をする。

 難しい問題を解決する方法が、意外とあっさりとしたものだったからだ。

 アイザックの噂を知っているだけに、もっと手の込んだ方法を見られると彼は思っていた。

 しかし、ガッカリはしていない。

 小道具などに頼ったりしない分だけ、アイザックの弁舌が振るわれるという事だ。

 その現場を見る事ができるだけでも十分な収穫だ。


「かしこまりました。会合の間に準備を済ませておきます」

「頼むよ。上手くいったら面白いんだけどね」


 すぐに尋問方法が頭に浮かんだのは、アイザックが前世で読んだ漫画に描かれていた方法だからだ。

 だが、実際に使った事がないので、どういう効果を示すかわからない。

 ちょっとした実験のような感覚で気楽に試すつもりだった。


「閣下。話が決まってから口を挟むのも申し訳ないのですが、安請け合いをし過ぎではないでしょうか?」


 ここでノーマンが口を挟んできた。

 聞いているだけでも心配になるような難問だ。

 アイザックが無理をしていないのか心配になったのだ。

 そんな彼に、アイザックは微笑みを返す。


「大丈夫だよ。教会の方は、ジュディスさんの一件を使えば穏便に説得できるだろう。それに、カーマイン商会の一件で宰相閣下の許可があったとはいえ、クーパー伯の頭越しに解決してしまったからね。これで借りを返すつもりだ」


 カーマイン商会の一件では、法に触れないからと強硬手段を取った。

 しかし、それは法務大臣のクーパー伯爵の顔を少なからず潰しただろう。

 ちょっとだけでも恨みに思われているかもしれないので、借りを返す事で恨みを忘れてもらおうとしていた。


「ブランダー伯爵家の騎士の尋問については考えがある。こっちは一つ貸しだね。法務大臣に貸しを作っておくと、いつか役に立つ事があるよ」

「公爵になられた閣下には縁のない事だと思われますが……」


 アイザックが罪に問われるのは、王族に対する罪のみ。

 法務大臣は、今のアイザックに一番縁のない存在だった。

 その事は、アイザックもよくわかっている。

 だが、マイケルを守るために手伝うとも言えない。

 表向きは貸しを作っておく方がいいという形で説得するしかなかった。


「僕は大丈夫さ。でも、僕の命令以外。例えば、私生活で誰かが問題を起こした時に手助けをしてくれるかもしれないだろ? 人の繋がりは自分に得があるかどうかじゃないさ」

「その通りです。失礼致しました」


 ノーマンは大人しく引き下がった。

 注意はした。

 アイザックに解決する見通しがあるのなら、これ以上の口出しはできない。


「ノーマンが離婚する時に、有利な判決を出してくれる裁判官を派遣してもらったりできるかもしれないしね」

「閣下! 我が家は家庭円満です。必要ありません」


 アイザックの冗談を、ノーマンが本気で否定する。

 本気で否定する彼を見て、アイザックが含み笑いをした。

 会合前のリラックスにはちょうどいい。


 そして、難問を突き付けられながらも余裕の笑みを見せるアイザックを、クーパー伯爵の秘書官は頼もしそうに見ていた。

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― 新着の感想 ―
火消し人アイザック。 東へ西へと奔走する様子はただの苦労人のよう。
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