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いいご身分だな、俺にくれよ  作者: nama
第十二章 王立学院二年生前編 十六歳~十七歳

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300 十六歳 ニコルの疑惑

 アイザックも、いきなりニコルに話しかけたりするような真似はしなかった。

 まずは様子を見つつ、時期が来るのを待っていた。

 人前で話しかけて、ニコルに気があるような噂をされても困る。

 なので、人がいなくなるタイミングを待っていた。


 とはいえ、これはニコルだけの問題ではない。

 アイザックの周囲にも常に誰かがいるので、お互いに人がいなくなる状況を作るのが難しかったせいだ。

 ジュディスとの約束は守ってやりたいし、ニコルがどんな話を男にするのかが気になる。

 だが、今はまだ接触できない。

 代わりにアイザックは、マイケルから事情を聞く事にした。

 勉強会が終わったあと、彼に話しかける。


「やぁ、マイケル。最近どう?」


 彼なら勉強会で顔見知りだと周囲に知られているし、男なので二人になる状況でも気楽に話しかけられた。


「本物の天使がこの世界に舞い降りていた……。その事に、今更ながら気付いたって事かな。僕って本当に馬鹿だよ」


 マイケルは、満足そうな笑顔を見せていた。

 彼の言う「本物の天使」とはニコルの事だろう。


(俺の見るニコルと何が違うんだろう……)


 確かにニコルにも多少は心を揺さぶられるものを感じる。

 だが、それはパメラに感じるものよりも弱い。

 もしかするとニコルと接触した時に、この感情を強めていく何かをされるのかもしれない。

 魔法がある世界なので「無意識のうちに、相手を魅了する魔法を発動している」という可能性だってゼロではない。

 ジュディスも的中率が高い占いをできるのだ。

 方向性が違うものの、生まれ持った何かがあるのだろうと思われる。

 しかし、それでもアイザックは納得できないものを感じていた。


「確かに馬鹿だね」

「君は手厳しいね。フフフッ」


 アイザックは、ジュディスを見限ったであろうマイケルの考えが理解できなかった。


 ――和風ホラーを彷彿とさせる容姿をしているのにもかかわらず、その体型は洋風そのもの。

 ――豊満な体付きをしていながら、態度は控えめというアンバランスさ。

 ――言葉が少なく存在感が薄いと思いきや、性格とは裏腹にド派手な主張をするボディー。

 ――美女でスタイルの良い女性ばかりの世界においても、並ぶ者のいないバストの持ち主。


 ジュディスは、本来ならばアイザックの好みにストライクである。

 彼女が婚約者だったら、アイザックはニコルに興味なんて一ミリたりとも持たないと断言できるくらいだ。

 性格はよく知らないので、そちらによほどの問題があったのなら別だが、それでもニコルよりかはいいはずだ。

 マイケルがニコルのどこを気に入ったのか、考えれば考えるほど不思議に思える。

 だからこそ、ハッキリとマイケルに「馬鹿だ」と言う事ができた。


 だが、彼には効いていない。

 いつものと変わらぬ含み笑いで、アイザックの罵倒を受け流していた。

「ニコルに気付いていなかったなんて馬鹿だな」と言われたものだと思って、その言葉を素直に受け入れていただけだ。

 ジュディスを捨てようとしている事に言われているとは思っていない。

 ニコルの存在は、すでに彼にとってそれだけ大きなものとなってしまっていた。


「ニコルさんの存在を知っていたなら、もっと早く教えてくれてもよかったんじゃないかな?」

「いやいや、チャールズの事で有名だったろう」

「そういえばそうだったね。遠目で見た事しかなかったから、ただの可愛い子だとしか思わなかったよ」

「いったい、何を言われたんだい? そこまで入れ込むなんて……」


 アイザックは気になったところに踏み込んだ。

 ニコルのやり口がわかれば、それを上手く利用できるかもしれない。

 さり気なく会話の流れで、ニコルがどうやって落としているのかを知ろうとしていた。

 マイケルは遠い目をする。


「彼女は本物の恋というものを教えてくれたんだ」

「本物の恋?」

「そうさ。今まで僕はジュディスが最高の女性だと思っていた。でも、それが間違いだと気付いたんだ」

「どういう事だ?」


 彼はいつもの含み笑いをしてから、アイザックの質問に答える。


「婚約者だから。自分が将来結婚する相手だから最高の相手だと思い込もうとしていただけだと、ニコルさんに出会って気付いたんだ。婚約者の顔が髪に隠れて見えない。話しかけても、まともな返事が返ってこない。返ってきたとしても、耳を澄まさないと何を話しているのかわからない。笑ったとしても不気味な含み笑い。ニコルさんと出会ってから、どうしてもジュディスの悪いところが目に付いてしまってね」


(含み笑いはお前もだろう……)


 そうツッコミたいが、マイケルの気持ちもわからなくはない。

 婚約者とコミュニケーションを取りたいと思うのは普通の事だ。

 その辺りの事は、ジュディスの大きな欠点だ。

 マイケルが他の女の子に目が向いてしまうのは仕方ないと思えるところでもある。

 しかし、アイザックには気になるところがあった。


「それなら、ニコルさんじゃなくてもいいんじゃないの? 他にも可愛い子がいるしさ」


 ――アイザックの素朴な疑問。


 だが、それはアイザックだからこそ浮かぶ疑問でもある。

 アイザックならではの事情があるから、そう思うだけだ。

 この世界に生まれ、育ってきた者は違う。


「彼女の言葉の一言一言が心に染み渡るんだ。彼女のように美しさと優しさを持ち合わせている人なんてどこにもいないよ」


 そう、ニコルはこの世界における絶世の美女。

 アイザックとは価値観が違う。

 ニコルに優しい言葉をかけられて、無下に扱える者などいない。


(まったく理解できねぇ……)


 ――アイザック以外は。


「そうかな? ジュディスさんも魅力的だと思うけど」

「フフフッ、アイザックは優しいね。僕を気にしなくてもいいんだよ。本当に素晴らしい人を見つけたんだ。ジュディスは……」


 さすがに決定的な言葉をアイザックに言うのは気が引けるらしい。

 マイケルは、それ以上何も言わなかった。

 だが、アイザックには十分に伝わっていた。


(こいつの場合はジュディスの方にも欠点はあったから仕方ないのかもしれないけど……。前はあんなにジュディスの事が好きそうだったのに、こんなに変わってしまうものなのか)


 ティファニーもチャールズに嫌われるようなところがあったのかもしれない。

 自分が知らないだけで、婚約者としてずっと一緒にいたら気付くような欠点。

 アイザックは友人や家族として一緒にいたから、ティファニーの異性としての欠点に気付かず、チャールズだけが気付いていた。

 いくらなんでも学校の成績だけで嫌うはずがない。

 そうとでも考えなければ、ニコルが美しく見えていようが、婚約者を捨てようとまでは思わないだろう。


「マイケル、君はそこまでニコルさんの事を想っているんだね……」

「ああ。……あっ、まさかアイザックもニコルさんの事を!?」

「いや、それはないね」


 マイケルが「こんな身近なところに強敵がいた」と気付いたような表情をするが、アイザックは至って冷静にそれを否定する。

 むしろ、ちょっと嫌そうな顔すらしていた。

 それ見てマイケルが安心する。


「なら、僕の事を応援してくれるかい?」

「ランカスター伯爵家との繋がりもあるし、ジュディスさんを不幸にする事は応援できない。まだ間に合うから考え直せ」


 アイザックは家同士の縁を主張した。

 縁に触れる事で、マイケルも家同士の政略結婚だと思い出してくれる事を期待してだ。


「こんなに心を揺さぶられたのは、今までの人生で初めての事なんだ。アイザックも、本物の恋をすればわかるよ」


 だが、彼はそれが理解できなかったらしい。

 自分の行動を止められず、そのまま突き進もうとしている。

 殴ってでも正気に戻してやりたいが、

 チャールズという例がある。

 殴っても効果はない。

 むしろ、逆にニコルへの恋を燃え上がらせてしまうかもしれない。

 ここは何もせず、黙って見過ごすのが無難だとアイザックは考えた。


「そうかい。なら、これ以上は言わない。けど、よく考えて行動するといい。恋愛感情だけで動いても、周囲が迷惑するだけだからね」

「ああ、大丈夫さ。僕は上手くやる」


 マイケルは、いつも通りの含み笑いをする。

 彼を心配するのが馬鹿馬鹿しくなったので、アイザックは話を切り上げた。


 ――アイザックの目的はニコルの手段を知る事。


 それを知る事ができそうにないので、彼にこだわる理由はない。

 すでに止めたのだ。

 救いの手を振り払われたら、もう助けようがない。

 彼がチャールズと同じように、転落の人生を歩もうが知った事ではなかった。 



 ----------



 ニコルと二人で話す機会は、意外と早く訪れた。

 勉強会のあと、レイモンド達に片付けなどを任せてアイザックはトイレに行った。

 すると、アイザックがトイレから出たところで、女子トイレからニコルが出てきて、廊下で出会ってしまったからだ。

 さすがに取り巻きの男子生徒も、トイレにまでは付いてこなかったらしい。

 ちょうど周囲に人影はない。

 アイザックは、いい機会だと思って彼女を誘う事にした。


「ニコルさん、ちょっと二人で話ができるかな?」

「いいよ。教室だとみんながいるもんね。でも、アイザックくんから話しかけてくるなんて珍しいよね」


 ニコルはニコニコと笑っている。


(まったく、こっちの気も知らないで……)


 アイザックは地雷原を歩いているような気分だった。

 一歩踏み出せば、致命傷を受けてしまう。

 ニコルと二人っきりで話すという事は、その危険が常にあるという事だ。

 だが、いつかは話さないといけないとは思っていた。

 その点、ジュディスの依頼はいいきっかけだった。

 自分の目的を達成する事ができ、ジュディスに恩を売る事ができる。

 一石二鳥といったところだ。


 まず、アイザックは近くの空いている教室にニコルを誘う。

 二人っきりでいるところを見られるのはマズイが、それよりも話の邪魔をされたくない。

 廊下で話していると、誰かに見つかって話すどころではなくなる。

 本当ならお菓子屋にでも誘って、個室で話せばいいのだろう。

 しかし、あそこはパメラと会うために用意した場所。

 ニコルを連れていって、思い出を汚されたくはなかった。


「ニコルさん。最近、マイケルと親しくなっているようですね」

「なになに? 妬いてるの?」


 ニコルの笑みがニヤニヤとしたものに変わったかのようにアイザックは感じていた。

「そんなわけあるか!」と言いたいところだが、それでは話が終わってしまう。

 聞かなかった事にして話を進める。


「マイケルにも婚約者がいるんですよ。なぜ婚約者のいる男とばかり親しくなるんですか?」

「別に狙ってやってるわけじゃないよ。私の事を好きになってくれる人に、たまたまそういう人がいたっていうだけだよ」


 以前にも彼女から聞いた事があるようなセリフ。

 それをもう一度聞く事となった。


(……もしかして、その言葉通りなのか?)


 アイザックは、ついそう思ってしまう。

 彼女はゴメンズだけではなく、モブらしき男子生徒にも人気がある。

 ゴメンズ以外にも婚約者持ちの生徒はいるだろう。

「婚約者を捨ててまでニコルと結婚したい」と思うのがゴメンズだけで、目立っているだけなのかもしれない。

 その場合、ニコルに責任があるとすれば「モテ過ぎる」という事になるのだろうか。

「美しさは罪」という言葉をどこかで聞いた事があるが、アイザックの好みではないので素直に認めたくはなかった。


「私もアイザックくんに聞きたかった事があるんだ」


 アイザックが反応に困って黙っていると、ニコルの方から質問してきた。


「今のアイザックくんを見ている限り、お兄さんを殺すような人には見えないんだよね。英雄とか言われているけど、自分の手で直接殺したりする人になんて見えない。もしかして、お兄さんを殺す前になにかあった? 例えば『なにがなんでも跡継ぎの座を守りたい』と思っちゃうような女の子と出会ったとか?」


 上目遣いで聞いてくるニコルの言葉に、アイザックは息が止まるような思いをした。


(こいつ、なんでそこまで……)


 パメラの事が好きなのはバレていたが、さすがにそこまで気付かれるとは考えすらしなかった。


(馬鹿っぽいからって侮り過ぎたか)


 まだジェイソンやチャールズといった頭の良い者にバレたのなら理解できる。

 だが、よりにもよって能天気なニコルにバレるとは思いもしなかった。

 主人公補正なのかもしれない。


 あまりの衝撃にアイザックは、すぐに返事をする事ができなかった。

 その反応は仕方ないとはいえ、大きな過ちだった。

 アイザックの反応が「その通りです」と答えているようなものだったからだ。

 パメラへの強い思いに気付かれたとアイザックは焦るが、ニコルは不自然なほど晴れやかな笑みを浮かべていた。


「でもまぁそうだよね。家族を殺すなんて普通考えないもん。人生を変えるような出会いでもないと、そこまでやらないよね。アイザックくん、そこまで悪い人に見えないし。基本的にエルフとかドワーフと仲直りしようと頑張ってたくらいだもんね」


 ニコルは何度もうなずいて一人で納得している。


(なんだ? 何にうなずいている? 俺をどう脅すか思いついたりしたのか?)


 ――ネイサンを殺した理由が「パメラをいつか手に入れるため」である。


 その事をバラされれば致命的だ。

 世の中は広い。

 パメラが好きだという事も繋ぎ合わせて、いつかジェイソンを亡き者にしようとしている事にまでたどり着く者もいるかもしれない。

 アイザックは、窮地に立たされて喉の渇きを覚え始めた。

 今すぐにでもこの場を逃げ出したい。


「なーんだ、やっぱりそうだったんだ。ずっと不思議だったんだよねぇ」


 一方、ニコルは気楽そのもの。

 胸のつかえが取れたかのような晴れ晴れとした笑顔をしながら、アイザックの肩をポンポンと叩く。


(なんて奴なんだ……)


 人の弱みを握ったばかりのこの状況で笑っているなど正気の沙汰ではない。

 アイザックは、その神経の図太さがニコルの恐ろしさでもあるのだと知る。


「私、アイザックくんの事をもっと知りたいなぁ。こんなところじゃなくて、もっとゆっくり話せるところで話さない?」

「……今はまだその時じゃない。誘っておいて悪いけど、友達も待っているし、今日はここまでにしておこう」


(そう、今はまだ話す時じゃない。パメラに関する事を言い訳できるように準備してからじゃないとニコルの相手は厳しい)


 ニコルが踏み込んできたので、アイザックは逃げに徹する。

 これ以上、秘密に気付かれたら逃げようがない。


(やっぱり、気軽に話をしてみようと思ったらダメな相手だったんだ……)

 

 ジュディスの頼みだったとはいえ、アイザックはニコルに接触しようと思った事を後悔していた。

 彼女と会えば会うほど、自分の状況が悪化していくような気がする。

 今のアイザックには、晴れやかな笑顔のニコルの笑みが、さらなる弱点を握って圧倒的強者となった余裕の笑みのように見えていた。


 ――ニコルは見た目とは裏腹に、底知れぬ知性を持っている。


 これからはその事を肝に銘じておかねばならない。

 短い会話だったが、アイザックは嫌というほどその事を思い知らされてしまった。

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― 新着の感想 ―
多分腹を割って話せば分かり合えそうな気はするんだけどなあ。 気のせいかなあ。
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